グローバル経営の極北

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英語力をどうやって鍛えるか? 私が普段やっていることを公開!

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 私が普段どうやって英語の勉強をしているか聞かれることがよくあるので、まとめてみました。

私のバックグラウンドとしては、大学時代に1年間アメリカの大学に交換留学、新卒で入ったメーカーで海外営業、外資IT企業の経営管理部門で外国人役員や本社メンバーとやり取り、という経歴なので、英語はずっと仕事で使ってきました。ただ、英語力は筋肉などと同じで普段から鍛錬していないとすぐなまるので、色々と試行錯誤しています。

リスニング

まず、リスニングは毎朝の通勤時にポッドキャストを聴いています。やはり定番のものが良くできていて、まずはBBC Worldです。

さすがBBCという感じで、世界中の政治・経済・文化についてのニュースがコンパクトに30分程度でまとまっていて、英語だけでなく、世界で起きていることを理解する上でもとてもよいです。キャスターは英国人で典型的なブリティッシュアクセントを学べますし、しかも、世界中の人のインタビューが出てくるので、様々なアクセントに触れることができるのも良い点です。

次にGordon DealのThe Morning。

これは、昔はWall Street Journalの名前を冠したポッドキャストだったんですが、数年前にWSJは止めてしまい、名物キャスターだったGordon DealのThe Morningというタイトルで継続しています。こちらは主にアメリカのニュースが多く、政治や経済中心でこちらも幅広いニュースが聴けます。とにかくGordn Dealの声がよくて、聴いてると朝からなんか元気になってきます。

この2つを聴いておくと、英米両方の発音やアクセントに耳を慣らしておくことができますし、BBCであれば、欧州、アジア、アフリカなど英語のネイティブ以外の人のインタビューやレポートが聴けるのがすごく良いです。ビジネスでは、英語ネイティブ以外の人と英語でやり取りすることが多いですからね。

リーディング

続いてリーディングです。

まずは、朝にFinancial Timesを流し読みします。Finanicial Timesは文章がきれいに構造化されており、選ばれる単語や表現も変に凝っていないので、シンプルで論理的な文章が好まれるビジネス英語の力を維持する上でよいです。朝はそれほど時間ないので、朝食を食べながらタイトルを流していき、特に経営カテゴリーのところで面白そうな記事を1つか2つは最後まできっちり読みます。

あとは、ツイッターを活用しています。

ツイッターのリストに、マッキンゼーやボストンコンサルティンググループなどの戦略コンサル、Harvard Business Review、MITやペンシルベニア大学などの米有名MBA、IBMやSalesforceなどのハイテク企業、SaaSやVCに関わっている米ハイテクの専門家、などを入れてます。

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これらが入ったリストのタイムラインを流して、面白そうなものをツイッターなどで紹介コメント付きでシェアするのは、英語力アップの役にも立ちます。

記事を全部読む時間はないので「さっと流し読みしてポイントを掴む」という仕事におけるリーディングの肝となる訓練ができるところがよいです。最近このシェアをよくやってるので、普段の仕事でも効果が出ているような気がしています。

リスニングやリーディングなどの「インプット」は、基礎トレみたいなもので、スピーキングやライティングといった「アウトプット」の質や流暢さに明らかに影響します。その点では、普段から基礎トレや筋トレしをしていないとパフォーマンスが落ちるスポーツにすごく似てます。

スピーキング

スピーキングですが、発音については、スマホの音声認識で発音の正しさを判定してくれアプリでよいものがあるので、空いた時間を使って練習しています。

最近見つけたものだと「ELSA Speak」がとても良いです。

ELSA Speak - Practice Speaking English

ELSA Speak - Practice Speaking English

  • Elsa Corp
  • Education
  • Free

 このブログの記事がその良さをうまく説明しているので読んでみてください。

あと昔からの定番アプリの「Real英会話」や、中学生レベルの基礎単語の発音を学び直せる「発音博士」も良いです。

Real英会話

Real英会話

  • LT Box Co., Ltd.
  • 教育
  • ¥480
発音博士

発音博士

  • KOTO CO., LTD.
  • 教育
  • 無料

発音は自分ではなかなか身につけにくいので、こうしたアプリがあるのはすごくありがたいです。いまの若い人が羨ましい、、

ちなみに発音についてはブログ記事にもまとめています。

次に、スピーキング力自体の向上ですが、これはもう実際にしゃべる機会を作るしかないんですが、私は海外との電話会議の準備として、スマホのボイスメモにレビューで話す内容を録音して、それで表現や発音を確認したりしています。これは結構良いです。自分のヘタさに愕然することが多いですが、それが現実というものです、、

あと、私の経営管理の仕事だと、米企業の決算発表の投資家向けコールは最高の教材ですね。発表から質疑応答まで全部録音されていて、スクリプトつきの会社もあるんで、よく使われる表現学べるのがすごく良いです。実際自分でしゃべってみて、それを録音しておくと勉強になります。

その意味で、IBMの決算発表はとても良い教材です。プレスリリース、プレゼン資料、音声、スクリプトと全部あります。説明も典型的な米企業のスタイルで、説明のロジックや語り口などグローバル標準がどういうものか学べます。 なので、英語の勉強というだけでなく、グローバル企業がどういう経営をしているのか、という観点からも非常に学びが多いと思います。この点については、別の記事でまとめたいと考えています。

ちなみに投資家の質疑応答も全部録音されているんですが、業績が悪い時の緊迫したやり取りはこちらも緊張してくるぐらいのプロ同士の真剣勝負で、その雰囲気を味わってみてください。

IBM Investor relations - IBM 2Q 2017 Earnings Announcement

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また、グーグルの親会社のアルファベットも決算関連の資料さすがにわかりやすくまとまってます。CFOのルース・ポラット(元モルガンスタンレーCFO)は英語が綺麗だし、説明も切れ味鋭くて勉強になります。頭むちゃくちゃいいんですよね。

Alphabet Investor Relations - Investor Relations - Alphabet

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ライティング

ライティングはなかなか「勉強」ってしにくくて、メール書いて、パワーポイントでプロジェクト計画、データ分析、ビジネスレビューなどなどの資料を作って、という感じで仕事で使うことでスキルを維持している感じです。

ただ、一度Acadamic Writingはきちんと学びたいなと考えており、例えば、Universtiy of California IrvineのAcademic WritingのコースがCourseraで提供されているので、こういうのも時間を見つけてきっちり受講したいなと思っています。

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以上結構長くなってしまいましたが参考になれば嬉しいです!こういう情報が欲しいというのがありましたら、お気軽にツイッターなどでお問い合わせくださいませ。

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日本の大企業「30代の位置づけ中途半端」問題について

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30代をどう過ごすべきか?

日本の大企業での「30代の位置づけ中途半端」問題ってあって、20代はわりと何でも自由にやれるし学びも多いのだけれど、次のステップとしてのマネジメント(課長)になれるのは40代が普通。なので30代の位置づけが曖昧で、その期間に成長機会がなかなかないのが個人のキャリア構築上も課題となる。

現場の実務も「経験」しないと身につかないように、マネジメントの仕事も実際に経験しないと、その難しさや勘所が身につかない。欧米や今ならアジアの大企業でも、20代で現場経験を積んで、30代はマネジメントを経験、そして40代で役員レベル、というのが標準になっているのと比べてギャップが生まれてきている。

では、30代をどうすごせばよいのだろうか。

ひとつは早いうちからマネジメントに関われる業界やスタートアップに移るという選択。ただ、そういった企業は雇用モデルがジョブ型であることが普通で、そこに壁がある。

容易ではないジョブ型への転職

例えば、メンバーシップ型の権化的な日本の大企業からジョブ型への移行というのは難易度が高くて、私の場合は、30歳でメーカーからコンサルに転職し、見事に討ち死にした。中途同期も、事業会社出身者は全員2年以内に転職していった…そもそものスキルはもちろん、仕事自体の捉え方から違うのがポイント。

メーカーからコンサル転職で一番苦労したのは、いま思うと、ビジネスを「モデル」で考える、ということ。コンサルはその「モデル」を設計し、事業側はそのモデルにもとづき「実行」する、というのが基本概念。ここがピンとこなくて、PMからの作業指示の「言語」がピンとこなかった。

例えば、プロジェクトの最初に「WBSを書いといて」と指示されたけれど、どこから手を付けてどうやればいいか全く分からなかった。これは当然で、WBSというのは、プロジェクト全体の「設計書」なんで、モデル思考がないとできない。プロセスマップ、などもそう。ただの作業と捉えるときっかけが掴めない。

コンサルで標準的な、ビジネスの状況を分析して、課題を抽出。それを構造化して、いくつかの解決策を提示して、そこから論理的に導かれるアクションを実行する。というのは、いまやどの本にも「書いてある」んだけれど、これは実際に経験して苦労してみないと身につかない。いまの自分の仕事はその経験ができる場所なのか、というのを考えてるみるのが重要と思う。

日本の大企業で成長するためには

特に大企業出身だと、なにかを一から設計するというよりは、既にできあがったものを「実行者」としてどうやってうまく運営するか、という仕事のやり方が普通になっているので、ここには大きなギャップがある。なので、日本の大企業で経験積むなら、新規事業や子会社がおすすめというのは持論。

例えば、メーカー時代の同期が最近史上最速レベルで部長に昇進し、子会社社長になった。彼は新卒で広島の営業所の医療機器営業を経験し、次にNY駐在で社長の参謀、帰国後は自分で希望出して海外買収子会社の事業の日本展開を担当し、そのままそこの社長になった。これは私が思う日系大企業の理想的なキャリア構築と思う。

当然ながら、メンバーシップ型それ自体に問題があるわけでなく、そこには合理性がある。逆に様々な仕事を経験することが可能なわけで、そのメリットを最大限活用することが必要になってくると思う。

例にあげた同期の場合だと、広島の営業所では代理店経由でなく直接顧客と接点を持ちビジネスの基本を学び、NY駐在では社長の側近として経営やマネジメントを学び、帰国後は海外買収子会社の事業展開に関わることで、海外企業の経営モデルを身につけた。こうした多様な経験を積めることは日本の大企業のメリットで、「30代の位置づけ中途半端」問題へのひとつの解となるだろう。

関連して以下の記事もぜひご一読ください!

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

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競争社会の歩き方 - 自分の「強み」を見つけるには (中公新書 2447)

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仕事とは「不安」との戦い: どうコントロールしたらよいのか?

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仕事をさまたげる「不安」

私自身もそうなのだけれど、いろいろな人の仕事振りを見ていると、仕事が進まない理由は多くが「未知なことへの恐れや不安」であることに気づく。

どこから手をつければいいんだろう、うまく終わらせられるだろうか、怒られたくない、あの人と話したくない、などなど。こういう心理的障害をうまく自分の中でコントロールできるかは仕事の成果を決める要素だったりする。

一方で、不安をうまくさばく、というのは、口で言うのは簡単だけれど実はとても難しい。

「不安」とどうつきあうか?

TEDで有名になり、日本でもその著作が話題となった健康心理学者のケリー・マクゴニガルのこのインタビューは、その点について示唆を与えてくれる。

ここで彼女が述べていて面白いのは、不安というのは「先に存在していて」、「なぜか」というのは後付けである、ということ。つまり、脳というのはそもそも「不安感を持つというのが習性」と彼女は述べる。

しかし、多くの人は自分が「なぜ不安を感じているんだろう、きっと理由があるはずだ」と、不安それ自体に意味付けを行おうとし、結果的にそれが不安を「増幅」してしまう。

彼女はそれを青空に浮かぶ雲で例える。

「不安というのはよく晴れた青空に、ぽっかりと浮かんでいる白い雲のようなものだ」ということです。その雲は、雨雲でも雷雲でもなく、青空をゆっくりと過ぎ去っていくただの白い雲なのです。ところが、その雲ばかりに注意を向けてしまうと、雲ばかりが気になって「この雲はなんだろう?嵐の前触れなのではないか?」と考え始めてしまうのです。

私は以前はまさにここで挙げられたようなタイプで、湧き上がる不安に次から次と解釈や意味付けを行ない、結果的に不安を増殖させてそれが物事を前にすすめる気力を奪う、ということが本当によくあった。

例えば、私の若い頃は、海外出張があるといつも行く前に急に大きな不安が襲ってくることがよくあった。ただ、見知らぬ土地に仕事に行くのだから、そこで「不安」を感じるのは自然なこと。

しかし、私は「こんなに不安ということは、きちんとした商談資料を出張前までに準備できないんではないだろうか」「こんなレベル資料を持っていったら顧客に呆れられてしまう。だからこんなに不安なんだ」など、まさに上に述べたように、不安に次から次と「意味付け」することで、さらに不安を増幅させてしまうことがよくあった。

「不安」を手なづけるスキル

私に限らず、こうした不安の「負の循環」でなかなか仕事に集中できず、結果的に成果が出せない人は想像以上に多い。

難しいのは、こうした心の動きというのは、外からはなかなかうかがい知れないということ。例えば、親身になって部下を指導したいとマネージャーが思っていても、部下が抱えているこの「不安の構造」というのはなかなか紐解くことが難しい。

なので、不安にうまく対処しながら成果を出すために「努力」できる、というのはそれ自体が高度なスキルなのだ。私もこれをうまく身につけるまでかなり苦労した。その経験については一度まとめたいと思っていたので、それはまた別記事で整理したい。

 

スタンフォードのストレスを力に変える教科書 スタンフォード シリーズ

スタンフォードのストレスを力に変える教科書 スタンフォード シリーズ

 

育児と仕事どっちを取る? ジレンマにどう向かい合うか

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育児と仕事に追われる毎日

あらためて強調したいのは、育児と仕事の両立はほんと大変だということ。

私の場合だと、平日は朝は保育園まで娘を送り、夕方6時には会社を飛び出して、奥さんと協力しながら夜ご飯やお風呂、寝かしつけまで慌ただしい。さらに、娘を寝かしつけた後に仕事するけど、頭使う仕事はやはりなかなかしんどくて、結果として仕事は遅れがちになる。

土日も朝からやることはたくさんある。お風呂掃除して、床拭いて、子供と遊んで、夜ご飯作って、お風呂入って寝かしつけて。朝から晩までなかなか気の休まる時はないし、仕事できる時間もほとんどない。

あと数年もすれば子供の手間もかからなくなるだろうけど、我慢、というのもそれはそれで結構疲れるものだ。さすがに40歳にもなると忍耐力はついているけれど、これが20代であれば精神的にうまく捌けなかっただろうなと思う。

幸か不幸か、私はいまはキャリア的に攻める時期でないからいいけれど、もし勝負所だったら仕事と育児のどちらに集中するかの悩みは深かっただろう。

どっちを取るかのジレンマ

ネット含めたメディア上では極端な見解ばかり取り上げられるけれど、仕事と育児のジレンマに苛まれながら、現実的な解を模索してる普通の人の話がもう少し共有されればとは思う。あと、そのジレンマは「結果的に」女性の方が多く抱え込んでることも。

私は別に単純な女性擁護派ではないけれど、自分が仕事と育児の両方を抱え込んでみると「ああこれは素直に言って大変だし、何よりどちらを頑張るかのジレンマに苛まれて精神的に辛い」というのが本音なので、そういう状況に置かれた人への共感がある。

仕事で成果出すには、精神的な壁をどう乗り越えていくか、っていうところが非常に重要な要素になる。強く動機付けされ、襲ってくるストレスをうまく捌けるなら努力をし続けられるし、それが成果に繋がることは多い。

なので、仕事&育児で大変なのは、育児の「マネジメント」で徐々に精神的に削られていくこと。その疲弊が、仕事への動機付けを弱めていき、結果的に仕事のパフォーマンスにも影響してくる。

前職は部下や同僚にお母さんがとても多かったのだけれど、まさにそういう感じだった。今ならその感覚はすごくよくわかる。

超長寿時代に備えて

一方で、育児をきっかけに会社勤めを辞めて、自分の関心に沿ったスモールビジネスを始める女性がいるけれど、これはポジティブな側面と言えると思う。

私は、会社勤めは嫌いじゃないので辞めたりはしないけれど、自分の関心に沿った活動を仕事と並行してするのがいいかなと思い始めている。「ライフ・シフト」での議論のように、人生が非常に長くなっていることへの準備は必要になってくるのは間違いないからだ。

政府もじわじわと本腰あげはじめているし、企業もさすがに対応せざるを得なくなってるけれど、副業やNPO的活動、もしくは趣味など、複線的な活動モデルが理に適ってる時代が日本でも遂にきたんだなと肌感覚として思う。既に成長セクターの企業以外は大きな売上成長は見込めない時代にはいっており、その点からもこうした流れは合理的と言える。

育児と仕事の両立、というのは、そういった時代の変化も含めて、なかなか奥深い論点を含んでいるなと思う次第。

 

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

  • 作者: リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/10/21
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ビジネスプランを作る上でとても参考になる3冊

最近新しい事業案を色々と考えてるんですが、参考になる良い本がたくさんあるので3冊ご紹介。

巻き込む力

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

 

これは非常に面白くて、資金調達で必要となる事業計画の立案からピッチの作成、投資家へのプレゼン、資金調達でのポイントなどをとてもわかりやすく説明した本。

特に役に立つのは、資金調達に成功した15社のピッチがそのまま載っているところ。

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例えばこれは出会い系アプリのHinge社のピッチ。課題から解決策、競合・市場、そして製品までが分かりやすいデザインで事業の魅力を訴求していることがよくわかる。

なお、同社はこのピッチを使い、合計310万ドルを28名の出資者から集めることに成功している。

また、ピッチのポイントとして「ストーリー」と「デザイン」に焦点が当たっているところも興味深い。

投資家の判断のポイントとして、いかに魅力的なストーリーを持った事業を、説得力のある優れたデザインで伝えるか、が重要ということだ。

優れたストーリーは私たちの内側にある真実を語ります。だからこそストーリーは効果的なのです。

起業家精神とはある意味、再現性のある解決策によって問題が解決されるストーリーをつくり、語ることです。

ピッチ資料を縫い合わせる糸がストーリーなのです。

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

 

ライフネット生命のビジネスプランについて、どうやって作ったかというストーリーから、細部の分析や資料までそのまま載っており、この本もとても参考になる。

岩瀬氏がハーバードMBAで学んだことのエッセンスをまるっと、起業への熱量と一緒に注ぎ込んだ感じの事業案で、132億円を集めたことも頷ける内容。

個人的には特にペルソナについての部分が学びが多かった。ユーザーインタビューをきちんと行い、想定されるユーザー像を細かく性格付けして絞りこんでいく。

創業当初のライフネットは、まさにこのペルソナ通りのユーザーに熱く支持された感じがあり、それは事業案としての完成度の高さゆえだったんだなと思う。

ビジネス・クリエーション!

ビジネス・クリエーション!

ビジネス・クリエーション!

 

 MITの起業家センターで教えており、自らもスタートアップの立ち上げ経験がある著者による本。

起業で必要となるプロセスを24のステップに分解しそれぞれについて、実体験も踏まえてわかりやすく解説がつけられている。

特にMITは多くの起業家を輩出しているため、その事例が常に参照されるのが説得力を増している。

事業を立ち上げるためには、奇をてらったアクションよりも、必要なステップをきちんと一つずつこなしていくことの方が重要だというのが腹落ちする本。

この本を読むと、モデル化と実践が常に行ったり来たりしながら標準的な知見が蓄えられていくところはアメリカの強さだよなと改めて思う。

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どれも面白い本ですのでぜひ読んでみてください!

育児はこうあるべき、という観念から遠いところで

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「牛乳石鹸」炎上の論点とは?

牛乳石鹸のウェブCMが炎上している。

ただ、この件については、インサイトフォースの山口さんのこの指摘につきると思う。

つまり、マーケティング観点が論点だということ。

ポリコレ観点から表現の「正しさ」を査定する、というのはアメリカではよくある観点だけれど、それが社会を覆いすぎるのもなかなかしんどいものがある。

ただ、お父さん側の大変さも理解しつつ、同時にふと思う。やっぱり育児の大変さってうまく伝わりにくいよなと。

育児と仕事に追われながら

この記事(「育児とはマネジメントである」)で書いたように、育児は決して「単純作業」でなく「マネジメント」が求められるため難易度は高い。

意思決定の連続だし、子供の行動は予測不可能なのでそこに対応していると、メンタルは徐々に削られ疲労はどんどん溜まっていく。

結果として、仕事に割ける物理的時間が少なくなることに加え、その疲労感から仕事の意思決定の質が下がってくる。

この負の連鎖は結構しんどくて、私もそこに慣れるまでかなり時間がかかってしまった。

そして、このしんどさに加えて、仕事と育児をどうバランスさせていくのか、という難題が残る。

仕事でキャリアを築いていくには「ここが集中しどころだ」というポイントが確かにある。

そこで質量とも自分の持てるリソースを徹底的に仕事に投入することで大きな成果を得ることができるし、何よりその没入を通じてその後のキャリアの礎となる経験とスキルを身につけることができる。

一方で、子供の成長を近くで見られるのも人生で一回切り。

子供の成長は思ったよりも速い。娘と毎日毎日長い時間を過ごす中で、夜中に泣き止まない彼女を抱っこして、汗だくになりながら部屋中歩きスクワットでグルグル回っていたこと、はじめてごろんと娘が寝返りうった時のこと、「たーたん」と自分を呼んでくれた時のこと、などその時の必死さや感動も含めてすべて生き生きと思い出すことができるし、これは今後の人生で自分を温めてくれる記憶になるなと思う。

仕事も育児も、ここしかない、というポイントがある。

どちらにも同じくらいの熱量を傾けることは、とても、むずかしい。でも、世の中のお母さん(そしてお父さんも)は、その両立の困難さに毎日くらくらしながら、自分のその時の精一杯を傾けて育児と仕事に向かい合っている。

社会はこうあるべき、という観念から遠いところで。

日本のビジネス界で仕事の標準化が好まれない理由

標準化を好まない理由

日本のビジネス界では標準化が好まれない、というのは興味深い特徴で、大企業からスタートアップまで、自分だけ、もしくは自社だけのやり方を見つけ出そうとする傾向がとても強い。

例えば、業務を標準化してインドや中国などにアウトソースしていくBPO市場を見てみても、日本は米国に比べてGDPに占める割合が非常に小さい。

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出所: HfS Research 「State of the Outsourcing Industry 2013」

なぜだろうか。

もちろん理由はひとつではないけれど、やはり雇用モデルがメンバーシップ型であることは大きい。メンバーシップ型では、仕事の役割や範囲が明確に定義されることは少なく、結果として仕事で「自分なりの」やり方を見つけ出して成果を出すことに価値が置かれやすい。

仕事は自分の「表現」

そして、さらに重要なのは、そうした仕事のやり方における「個性」がアイデンティティの拠り所になっている、という心理的な要素。つまり、仕事それ自体が自分自身の「表現」になっているのだ。よって、日本では自分なりの「創意工夫」を仕事に込めようとしている人は多い。

これは、あらかじめジョブ・ディスクリプションという形で作業内容が定義されている欧米で主流となっているジョブ型では起こりにくい。私もアメリカ企業で長く働いているけれど、そこで重要となるのは、あらかじめ定義された職務内容の範囲でいかに「成果を出すか」が焦点。なので、付加価値が出しにくい定常業務はさっさと標準化してオフショアにアウトソース、というのは日常的な光景になっている。

対して日本の場合は「アイデンティティ」という繊細な部分と紐付いているので、業務の標準化に対する反発は想像以上に大きい。ERPの導入や業務改善のプロジェクトに関わったことのある人ならば、この「現場の反発」は一度は経験していると思う。

そこでは、仕事のやり方を変える、とか、効率化する、という話が簡単には受け入れられずに「自分の存在が脅かされる」という感じで情緒的に反対する人が実務の現場では結構多い。

AI時代にどう適応していくか

ただ、強調したいのは、標準化の推進について、欧米と日本のどちらが良いかとは一概に言い切れるわけではないということ。

日本企業における「自分のやっている仕事が自身のアイデンティティと紐づく」という特性は、仕事での日々の創意工夫につながっており、それは日本企業の「現場の強さ」や「思いがけないイノベーション」を生み出す源泉になっていると言える。

つまり、主に財務的側面から業務を標準化して経営変革すればいっちょあがり、という訳にはいかず、それが経営力を弱めるリスクもあるのが注意すべき点。これはAIの導入やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)に日本企業がどう向かい合うか、というテーマにつながり、今後も日本企業の経営で重要な要素となるだろう。

 

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

 

オープンハウスとライフネット生命 ー マーケティングにおける「感情」とは?

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 オープンハウスが喚起する「感情」

先日オープンハウスという都心で戸建て住宅にフォーカスして業績を伸ばしている企業についての記事を読んだ。これが面白かったのでご紹介。 

このインタビューで、荒井社長が語っているこの部分は非常に面白い。

荒井: 買うモノがあるということが大きいです。家は感情で買います。ロジックでは買いません。偉そうなロジック型の営業担当から家は欲しくないでしょう。上から最もらしいこと言われるよりも、下から気持ち良くさせてもらいたいのが人間の本能です。

不動産に関して、究極的に顧客にとって営業マンは関係なく、場所と価格なのです。そこに良い商品を提供すればいい。あとは営業マンが信頼できそうかだけ。(強調引用者)

 私も昨年家を買ったのだけれど、その経験からするとこれはすごく頷ける。まさにポイントは「感情」。

というのも、普通のサラリーマンにとって住宅ローンは金額が大きすぎて、ロジックの積み上げではなかなか決断できない。

なので、結局「家族を喜ばせたい」とか「家を自慢したい」みたいな「感情」が伴わないと最終的な意思決定に至らないからだ。

考えると保険もそういうタイプの商品で、合理的な計算よりも「自分が死んだら家族が心配」や「資産運用とか難しいから任せたい」という感情が全て。

そこに多少強引にでも寄り添う生保レディモデルによる営業が機能したのは、上記のオープンハウス社長の観点からもよく理解できる。

ライフネット生命の苦戦

そこで頭に浮かんだのはライフネット生命。彼等は、生保レディに象徴される既存の保険営業を否定し「合理的」な意思決定をアピールした。

これは新鮮な切り口だったし、私も創業者二人の理念や理想に共鳴し、創業当初のセミナーに足を運んだくらいだった。実際彼等はソーシャルを最大限活用したマーケティングに成功し、一気に加入者を増やし上場まで事業を持っていった。

しかし、今振り返ってみると、そうした初期の加入者は「創業者の理念や格好良さに共鳴する先進的な自分」という「感情」が意思決定の肝だったかなと思う。

私もまさにそういう気持ちだった。ただ、そういうやや入り組んだ「感情」は市場が狭い。結果として、ここ数年は契約数が伸び悩み、株価も上場時の半値以下に低迷している。

オープンハウスに話を戻すと、彼等の営業はほんとうに「しつこい」。

私も一度物件の問い合わせをしたことがあったのだけれど、その後の営業攻勢は徹底していて、夜にも平気で電話かけてくるし、電話はやめてくれといったら毎日ひたすらメールを送ってきた。

ただ、いま振り返ると家を買う時(オープンハウス以外から購入)のポイントは、まさに「場所」と「価格」の掛け算だったし、自分が家を買うんだ、という今思うと不思議な「高揚感」がそこにセットになって購買に至った。

そのことを振り返ると、オープンハウスの営業攻勢は、一見時代遅れな根性主義に見えるけれど、人が物を買うという行為に対して「合理的」といえるのではないか。

こうした観点からは、この田端氏の記事は非常に示唆的なので最後にご紹介。

特に以下に引用する部分はとても頷ける見解だと思う。

マーケティングとは何かっていうことをビジネス的に考えるのもいいけど、僕はマーケティングってもっと下世話なものだと思っていて。欲望を扱うものだと思うんです。

何が言いたいかというと、みなさんはコンビニに行って、『お〜いお茶』か『伊右衛門』か、どちらを買うかを必ず決めている人って少数派じゃないですか、何となく選んで買いますよね。
断言しますけど、今の消費行動の8割くらいは、実は消費者自身がなぜそれを選んだのかがわかっていない。
後づけで自己正当化することはあっても、買う時には無意識に決めているんですよ。その無意識の深層心理にどう訴えかけるかというのも、マーケティング。
だから、自分自身の行動をよく観察したり、自分自身の心の中の汚い部分とかどす黒い部分、せこい部分や嫌な部分を観察することがすごく大事ですね。

今週のおすすめ本 - なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?など

 Speak Business English Like an American
Speak Business English Like an American (English Edition)

Speak Business English Like an American (English Edition)

 

これはおすすめ。現職は西海岸の企業なこともあり、アメリカ人の同僚の会話にイディオムが含まれることが多く、意味がいまいち掴めない時がある。そういったビジネスの場で使われるイディオムについて、簡単な対話、そこで使われているイディオムの解説、クイズ、とシンプルだけど分かりやすい構成になっていて学びやすい。

 なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?
なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

 

 これは非常におすすめ。しかも今月はKindle 50%オフ!ロンドンの金融街シティの金融関係者200名以上へのインタビューをもとに、そこで働く「普通の」人たちが何を考え、どういう「制度」に規定されているのかを、分かりやすい文体でまとめた本。金融危機関連の本は本格的なものが多く、そこでは業界の「大物」達に焦点が当たるのだけれど、この本では人類学的観点から、そこで実務を担う人たちの「生態」を描き出しているところが非常に面白い。

 外国語学習の科学 - 第二言語習得理論とは何か
外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

 

 語学つながりでこちらも。何かを習得するにはその原理をおさえると早いというのは、マラソンで記録を目指して練習を積んでた時に痛感したんだけど、語学も同様でこの本はオススメ。前半で外国語習得に関する言語学の理論が丁寧かつ分かりやすく紹介されており、後半はそれを踏まえた実践の事例などが挙げられていて参考になる。

スクラム 仕事が4倍速くなる”世界標準”のチーム戦術
スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房)

スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房)

 

「スクラム」の考え方や手法はシステム開発だけでなく応用可能で、そのシンプルさと、生産性を意識した部分が非常に参考になる。トヨタの「カイゼン」に大きく影響受けてるのもなんか嬉しい。タスクを「未着手」「進行中」「完了」の3つで区分してKanban Boardを使いながら進める手法は私も既に実践済みでとても有効。

 経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか
経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

 

 マッキンゼー支社長、カーライル共同代表、早稲田大学MBA教授という経歴の著者によるこの本はまださわりだけしけ読めていないけれど非常によさそう。世界の経営のマクロの動きを概観しつつ、そこに対応できなかった日本企業の課題を整理して未来を展望する内容。

 インターフェースデザインの心理学
インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

  • 作者: Susan Weinschenk,武舎広幸,武舎るみ,阿部和也
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2012/07/14
  • メディア: 大型本
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 「人はパターン認識でものを識別する」など、デザインの上でポイントとなる心理学の知見が分かりやすく整理されていて参考になる本。私はデザイナーではないけれど、社内向けの資料作りにおいても、こうした心理学の要素を理解していると、メッセージがきちんと伝わるので重要と感じている。

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

  • 作者: クレイトン・M・クリステンセン,ジェームズ・アルワース,カレン・ディロン,櫻井祐子
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2012/12/07
  • メディア: 単行本
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 「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバード・ビジネススクール教授のクリステンセンが書いた「人生論」。原書で読みかけのままなのだけれど、最近この本に感銘を受けたという人を見かけるので、改めて読み直したい。人生における「成功」とは何なのか、というのを本質的に自分に問いかけるステージに自分もあるので。

 

コンサルティングのビジネスモデルについて

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コンサルティング・ビジネスとは?

コンサルティングというビジネスは多く人の関心を惹いていますが、そのビジネスモデルについて語られることはあまり多くありません。そこで、この記事では、コンサルティング・ビジネスのビジネスモデルについて考えていくことにします。

コンサルティング、は幅広い領域を含む概念ですが、ここでは俗に「戦略コンサルティング」や「ITコンサルティング」と呼ばれるような、企業向けの経営・ITに関するコンサルティングに話を限定します。

この領域では、経営やITに関する顧客の「お困りごと」に対して、コンサルタントが知的成果物(報告資料やシステム)を提供することで対価を得ます。
※対価を「成果物」に対して得るか、「時間」に対して得るか、というのは請負(Fixed)か準委任(Time & Material)という契約形態の話に繋がるのですが、ここでは触れません

ビジネスモデル上の最大のポイントは、コンサルティング・ビジネスは、「人(コンサルタント)」自身が「商品」である、ということです。

顧客がお金を払うのは「人」が生み出す成果物や、それを作るためにかかった時間です。また、原価の大半はその「人」自身にかかる費用、つまり給与などの労務費です。

これを、例えば製造業と比べてみると、その特徴がはっきりします。

製造業での「商品」は、主にPCやサーバーのようなハードウェアになります。「商品」を生み出すには、長期間にわたるエンジニアによる開発、工場での生産、市場への流通、商品を販売する営業、アフターケアと複雑なバリューチェーンと投資が必要になります。

それに伴い、原価も材料費、労務費、減価償却などを含む経費、と多くの要素を含みます。また、開発投資や工場に大きな投資が必要となりますので、資金調達などのファイナンスも重要になります。

一方で、コンサルティングのビジネスモデルはシンプルです。コンサルタント自身が、事業戦略やシステムなどのサービスの内容を「開発」し、サービスを顧客の課題や要望にあわせて「生産」し、顧客に対して自ら「販売」していきます。

原価は上記したように大半はコンサルタントやエンジニアの労務費ですし、開発や工場のような大規模な投資は必要としません。

この特徴を捉えることが、コンサルティングのビジネスを経営する上では最も重要です。

一般には「労働集約型」と呼ばれるビジネスで、モデル自体はシンプルなのですが、「人」がビジネスモデルの中核であることの「ゆらぎ」や「制約」をどうコントロールするかがポイントになってきます。

コンサルタントのパフォーマンスには「ゆらぎ」がある

まず、「ゆらぎ」について説明しましょう。例えば、PCであれば同じカテゴリーの商品の仕様は一定で商品ごとに異なる性能を持つことはありえません。しかし、コンサルティング・ビジネスで提供されるサービスは、その性格上常に同じ内容であることはありえません。顧客の要望は多種多様で、タイミングによっても大きく異なってきます。

さらに重要なのは、そのサービスを提供するコンサルタント自身のパフォーマンスも一定でないという点です。

自分が得意とする領域か否か、サービス提供時の肉体的・精神的コンディションの良し悪し、などにサービスの品質は左右されます。全くはじめての領域に急にアサインされたり、寝不足が続いたり、彼女(彼氏)に振られたり、と「人」のパフォーマンスを左右する要素には事欠かないのです。

レバレッジが効きにくいコンサルティング・ビジネス

次に「制約」です。コンサルティングビジネスは提供できる付加価値に上限があって、レバレッジが効きにくい、という点がきわめて重要です。人間が提供できる時間は(実際は無理ですが)最大でも24時間しかありませんし、「人」の生産性が急激にあがることもまたありません。

これに対し、例えば製造業であれば、新しい製造設備の導入によって生産性の急激な上昇を達成することが可能ですし、ソフトウェアビジネスであれば、一度開発をしてしまえば(ほぼ)コストゼロで複製可能となります。

また、コスト側についても、コンサルティングビジネスの原価は上に述べたように大半が労務費となります。これは原価低減できる余地が限られることを意味します。

どういうことかというと、例えば価格競争が厳しくなり原価を下げたいと思っても、コンサルタントの給与や人員削減くらいしか施策がないことを意味します。

しかも、これをやってしまうとコンサルタントの離反を招いたり、モチベーション低減による生産性の減少などに繋がってしまいます。つまり、売上とコスト、どちらについても経営上の選択肢は限られる、つまり「制約」が多くあるわけです。

この「ゆらぎ」と「制約」がコンサルティングビジネスを展開する上でのポイントで、この2点を経営上どうコントロールしていくかが実務上非常に重要になってくるわけです。

マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み

マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み

 

 

ベンチャーキャピタルにも「機械学習」が活用されはじめている

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 マッキンゼー・クオータリーの記事で面白いものがあったのでご紹介。Hone CapitalというシリコンバレーのベンチャーキャピタルのManaging PartnerであるVeronica Wuへのインタビューで、投資判断に「機械学習」のモデルを活用している、という点が非常に面白かった。以下に特に機械学習について話している部分を訳してみたので、ぜひ読んでみてほしい。

経験豊富なプロフェッショナルの知見や直感と機械学習のモデルを「組み合わせる」アプローチが、意思決定の質を高めてくれる、というのはベンチャーキャピタル投資に限らず経営の幅広い領域で今後の主要なアプローチになっていきそうなので、この事例はその点で参考になると思う。

マッキンゼー:機械学習モデルをどう作り上げていったかを教えてもらえますか。また、そこから得られた有益な示唆にはどういったものがありますか

Veronica Wu:過去10年の30,000件以上のディールのデータをCrunchbase, Mattermark, PitchBook Dataといったデータベースから抽出して、機械学習のモデルを作りました。そのデータをもとにシリーズAまで進んだディールを分析して400個の「特徴」を抽出。その上で、シードステージのディールの成功要因を20個選び出しました。

このモデルによって、投資家の過去のコンバージョン率、投資額合計、創業者チームのバックグラウンド、シンジケートのリード投資家の専門領域、といった要素を検討した上で、最適な投資戦略を弾き出してくれます。

例えば、シリーズAまで進むことに成功したスタートアップは、シード・ステージで平均150万ドル調達していたのに対し、失敗したスタートアップは、平均50万ドルしか調達できていませんでした。つまり150万ドルを下回る金額しか調達できなかった場合は、投資家の関心をうまく引き付けられなかった、もしくはアイディアは良くても十分な資金を得られなかった、という仮説が立てられるわけです。

 もう一つは、創業者のバックグラウンドについてです。モデルで分析してみると、創業者が異なる大学出身の方が、同じ大学出身の場合より2倍近く成功率が高かったのです。これは多様な視点が強みになる、という説を裏付けています。

 

マッキンゼー:過去に、あなたのチームは投資しないと決めたにも関わらず、データからは投資の可能性が示唆されており、改めて投資検討をした、といった事例はありますか?

 Veronica Wu:最近まさにそういったケースがありました。データは70-80%の成功率を示していたのですが、我々のチームが最初に精査した時は、そのビジネスモデルが成功するとは思えませんでした。紙の上では、そのビジネスが利益を生むとは思えなかったし、規制の問題もあった。にも関わらず、モデルは高い可能性を示している。そこで、リード投資家にこのディールについて、そのビジネスモデルを含めてもう少し詳しく聞いてみたんです。

彼が言うには、その創業者達は、規制の問題をクリアする優れた方法を考えついており、顧客獲得コストがほぼゼロで済むユニークなビジネスモデルも準備していました。その結果このディールでは、我々人間の直感や判断と、機械学習のモデルから導き出される人間ではなかなか思いつかない洞察、を組み合わせることができたわけです。データモデルをもっと使いこなすために、学ぶべきことは多い、ただ、そこに全てを任せるわけにはいかない。まさに、人間と「ツール」をどう組み合わせるかが鍵なわけです。

 

マッキンゼー:機械学習モデルを活用してどれくらいのパフォーマンスを出せていますか?

Veronia Wu:約1年ほどやってきましたが、パフォーマンスは、シードステージからシリーズAまで進めたか、という点を重要な指標として見ています。というのも、大半のスタートアップは、シードステージで「死に絶える」か、次のステージでの調達に失敗するわけで、シリーズAまで進めたか、というのはスタートアップの将来の成功を占う上で鍵となる指標なんです。

我々は2015年にシードステージだった企業に「事後分析」を行いました。VCが投資したシードステージの企業では、約16%が15ヶ月のうちにシリーズAまで進みました。一方で、我々の機械学習モデルが推奨したディールだと、約40%が次のラウンドまで進んだ、つまり市場平均に比べ2.5倍のパフォーマンスとなったんです。面白いのは、これは我々のチームが機械学習モデルなしに選んだディールと同じパフォーマンスだったことです。さらに興味深いのは、市場平均の3.5倍というベストのパフォーマンスを出したのは、我々のチームと機械学習モデルを組み合わせたケースだったことです。これによって、ベンチャーキャピタル投資に機械学習を活用することで意思決定の質を高めることができる、という私の確信を深めることができました。

 (訳文中強調は筆者)

 

 

Pythonではじめる機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎

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  • 作者: Andreas C. Muller,Sarah Guido,中田秀基
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
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GoogleやTwitterに学ぶ転職者受け入れのコツ

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昨日のエントリで触れたHBRの記事では、米企業の新規採用者のOnboardingプロセスについての工夫が多く挙げられていて、実務上とても参考になりそうなのでまとめてみたい。 

Google

まずはGoogleの仕組みについて。Googleでは、社員の入社日直前の日曜日に、マネージャーに対してメールで6項目のチェックリストを送っている。

  • 仕事の役割と責任(Role & Reponsibility)についてきちんと会話する
  • メンター役をつける
  • 社内でのネットワーク作りをサポートする
  • 最初の6ヶ月は毎月面談(Check In)を実施する
  • 気兼ねなく話せる環境を作る

 どれもシンプルだけれど重要な点で、昨日紹介した組織心理学の研究の「新規採用者が組織で成果を出すには、マネージャーのサポートを得ながら、能動的に情報を集め、コミュニケーションを積極的に行い、組織に受け入れられていくことが大切」というポイントを網羅的におさえている良いリストだと思う。

 Zappos

ユニークな経営で知られるZapposの仕組みも面白い。新規採用者に対して彼等は5週間の研修を実施し、そこでは会社の文化や理念が徹底的に伝えられる。そして、その研修の最後で、もしZapposに合わないなと感じたら、2,000ドルを「もらって」会社をそこで辞めることができる(ただ、実際にこの制度を使って辞めた人は1%くらいしかいないとのこと)。

企業文化や理念へのフィットをきわめて重要と考えているZapposらしい制度といえる。組織心理学の研究から「動機づけ」がパフォーマンスに影響することはよく知られており、入社時にその企業の核となる理念をきちんと学び、そこに納得した上で働いてもらうというのは、その点からも合理的と思う。

Twitter

最後にTwitterについて。'Yes To Desk'と称して、採用者がオファーを受けて(Yes)から、入社当日に席につく(Desk)までのプロセスをきちんと整えておくことを意識している。

具体的には、入社当日にはE-Mailなどのセットアップは全部済んでおり、席にはTシャツ、ワインが置かれている。そして、その人と関係の深い同僚の隣に席が配置されるよう配慮されている。入社当日の朝はCEOと一緒に朝ごはんを取り、その後オフィスツアーが実施される。

さらに企業文化の理解を深めてもらうために、月1回は'Happy Hour'で経営陣との交流があり、金曜の夜は他の部署がやっているプロジェクトを学ぶ機会も用意されている。

オファーから入社までを「一連のプロセス」と定義して、そこでの活動を通じて新規採用者が組織に馴染んでいくよう「仕掛け」を施しているところが重要かと思う。

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以上3社の仕組みを見てきたが、どこも新しく入社を決めた人が、その最初から企業の文化や理念に触れ、経営陣や社員とコミュニケーションを図り、そのプロセスを通じてその企業に受容されていくプロセスをデザインしているところが肝となっているのが興味深い。特に企業文化や理念の強調、オープンなコミュニケーションの促進、などはハイテクを中心とした今のアメリカ企業の経営のトレンドだなと改めて感じるところ。

中途採用者にすぐ活躍してもらう秘訣とは?

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 ハーバード・ビジネス・レビューで、新規の採用者をどうやって組織にうまく順応させていくか、というなかなか面白いテーマの記事があったのでご紹介。

hbr.org

 

まず、70の心理学研究をメタアナリシスしたこの論文では、自分がその組織に「受け入れられている」と感じることが、組織での成功で重要な要因であることを示している。それに関連し、インドのソフトウェアエンジニアに対して実施された研究では、組織に「受け入れられている」と感じている社員ほど積極的に情報を求める行動をすることが明らかにされている。さらに、409人の新卒採用者に対して実施された研究では、最初の2年で上司から適切なサポートを受けたかが、その後の役割の理解度、仕事への満足度、さらには給与にまで好影響を与えたことが示されている。

つまり、組織に「受け入れられている」と感じていることが重要で、それは組織側にサポーターがいることで促進される。そしてその役割を期待されるのは、やはりマネージャーということになる。

一方で、マネージャーは非常に忙しく、新しく入社してきた人をきちんとサポートしていくのはなかなか難しいのが現実。

そこで面白いのが、インドのソフトウェアエンジニアに対して実施された心理学の研究。これは、マネージャーから入社後サポートを得られる人とそうでない人がいるのはなぜか、という仮説を調べた。結果として分かったのは、積極的で役割にコミットし、自ら情報を集めたり、広く社内コミュニケーションを深めていこうとする人ほどマネージャーのサポートを得られており、結果として組織への順応が高い、ということ。

これはなかなか興味深い結果で、動機づけが強く自ら情報の取得やコミュニケーションの構築に動く人ほど、結果としてマネージャーの信頼や共感も得やすく、組織にうまく受け入れられていく好循環を生み出す。その循環は心理的な安心感をも生み出し、実績を出していく支えとなる。

組織というのは常に流動的なので、その動的なサイクルに自らを位置づけることは重要だが、全く新しい組織に加入した時はなかなかそのきっかけを掴めずに、うまく実績を出せない人は多い。特に外資系は中途採用が中心となるが、前職では大きな実績を出してきたであろう人が、自らを新組織にうまく順応させられずに、1年も経たずに辞めていってしまうような事例はとても多い。

その観点からも、その組織に深くコミットし「自ら」能動的に動いていくことが、組織にうまく順応していく循環が回り出す鍵になる、というのはなかなか示唆的で、他の領域でも応用できる知見なのではと思う。

人生で「逃げ道」を確保しておくことの大切さ

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とてもためになる記事が多い樋口さんのブログでこんなエントリがあった。

これは全くもって仰る通りで、退路を断った結果失敗する事例の方が実際は多いから、逆に成功者の退路を断った話が英雄譚として「消費」されるのだろうと思う。

しかも、成功者は能力やモチベーションが大抵高いから、それ自体が実は最大の「保険」になってるとも言える。起業で世間で評判になるほど成功した人ならば、仮に一度失敗したとしても、別の領域で成果を出す能力や精神的なタフさを兼ね備えているだろうから。

私の場合は、起業みたいにカッコ良い話ではないけれど、仕事も体調も絶不調で袋小路にはまり込み、さらに奥さんはアメリカに留学してという時に、千葉の実家に戻って体制を立て直したことがある。

それはいま思うと、人生の「岐路」における非常に良い意思決定で、あそこで無理して都内で一人暮らしをしていたら人生は破綻していただろう。

「退路を断って」という話ではないけれど、自分が置かれている状況を冷静かつ客観的に捉えて意思決定することの重要性を改めて感じる。

つまり、私にとって実家はまさにセーフティネットだったと言える。30歳を越えた男性が仕事もしているのに実家に帰る、というのは正直世間的には「情けない」と取られてもおかしくないのだけれど、その時の自分はどん底で、自分が戻れる「場」があることの大切さを痛感していた。

そして、育児真っ只中のいま思う。家族を作り上げていくというのは、子供達、つまり次の世代が困難に直面した時に、いつでも戻れる「場所」を確保しておいてあげることにその本質があるのかもしれないと。

誰かがいつでも戻れる場所を確保しておく、というのは、実は大変なことで、毎日変わらない日常をコツコツと積み上げていく必要がある。変化こそが最上とされる最近だとなかなか評価されにくいことだけれど、「場を維持する」ということにはやはり価値があるんだなあと思う。

かといって、変化を頭ごなしに否定してしまえば、それはそれで場は淀んでいく。変化と維持、この両者をどういう形で組み合わせていくのか、というのは、子供ができると一層リアルな問いかけになってくる。このせめぎ合いからまた新たな場所に出れるのかなとしみじみと思うところ。

日本の組織が専門家をうまく扱えないワケ

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少し前になるが日本から香港の大学に、主に給与を理由として移籍することになった経済学の教員の方が話題になっていた。

その方に限らず、大学の教員の方が低い給与や雑務の多さを嘆くのはソーシャルメディアでよく見かける光景。ここから、専門性の強いはずの大学でも、日本では人事モデルは「メンバーシップ型」で「ジョブ型」でないんだよなと改めて思うところ。

実際のところ、ジョブ型への移行、というのは口で言うのは簡単だけれど、実現には経営モデル自体の変革を伴うので道のりはなかなか険しい。

ジョブ型の場合、給与から投資規模まで、様々な経営リソースの傾斜配分を経営陣が意思決定していく必要がある。よって、基本はできる限り均等にリソースを振り分けることが前提となっているメンバーシップ型とは経営思想がだいぶ違う。このギャップを埋めることが難易度が高い。

例えば、活躍している経済学の教員の方は、経済学は国際競争にさらされているから能力の高い教員の給与も高くすべき、と言っていると思う。しかし、メンバーシップ型の雇用モデルでは機能ごとの価値を平等に見る、つまり文学部も経済学部も同じ価値があるとみなす。それは、日本企業が全ての部門に基本は同じ給与モデルを適用するのと同じで、この経営モデルを採用している限りは、いくらある特定のスキルが市場価値が高くても、そこに他より多くの投資を行うことは困難となる。

ロースクールを日本で作った時に、日本企業の法務部門での採用が進むと期待されていたけど、全く進まずに制度的に失敗に終わったのもこれが一因と言える。メンバーシップ型の日本企業からすると、給与モデルはじめ社内弁護士をどう位置づけるかが難しい。繰り返しになるが、人事制度上差別化できないからだ。

最近だったら、データサイエンティスト、なども同様。日本企業は傾向として専門家を社内に持つのを得意としないけれど、これはメンバーシップ型の人事モデル、という「制度」から来ているが故に、単に市場価値が高く優秀な人材は当然高い給与で雇いましょう、とはいかない。

そして、このメンバーシップ型の人事モデルからの帰結として、ファイナンスは銀行、マーケティングは広告代理店、貿易や与信は商社、情報システムはSIer、など専門的な職能は全て「外部の専門家」に任せる日本企業特有の仕組みが戦後に形成されてきたのかなと思う。

よって、CFO, CMO, CIOなどの存在がなかなか定着せず、CxO職なんて名前だけのお飾りだろ、みたいな話に未だになってしまう状況だけれど、現代の複雑化した経営では、各職能に専門家をきちんと設置することの重要性はさらに増してきている。この課題に、日本のメンバーシップ型組織でどう対応するか、というのは、古くて新しい経営課題だと考えている。