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「職務経歴書長すぎ」日本人の文章の問題点

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職務経歴書に「メッセージ」や「構造」がない

私は仕事柄よく履歴書や職務経歴書を見るのだけれど、そこに「メッセージ」が込められていないものが多くて勿体無いなといつも思う。例えると、商品名しか書いてない広告を読まされているような感じになることが多い。

労働市場では自分は「商品」なので、的確な言葉や描写で自分の経験やスキルを示して、どうやったら「買ってもらえるか」を考えるのが大切かなと。

まあ「誇大広告」という言葉もあるように、職務経歴書をいくら「お化粧」しても自分のスキルが上がるわけではないけれど、まずは文書から自分を「魅力的に見せる」というのは、転職活動においては非常に重要。

そして、より本質的な課題としては、職務経歴書の文章に「構造」がないことがある。実はこれがメッセージの弱さにも繋がっている。この点はすごく強調したい部分。

残念ながら日本では、文書は標準的なフォーマットに則って論理的かつ簡潔に記述すべし、というのを習う機会が大学などでもなかなかない。ゆえに、職務経歴書の場合でも、5ページ以上になる冗長なものも多い。基本は、最大2ページで両面印刷で1枚というのがあるべき姿なのだけれど。。

ライティングを「学ぶ」ことの重要性

やはり、大学できちんとライティングの基礎をみっちりと学べないのは、日本の職業人の弱点になっていると思う。構造的かつ論理的な文章を書ける人が少ないし、そもそも変な表現を使う人も多い。仕事ができる人でも、なんだか摩訶不思議な論理展開と文体を持った文章を書いてきて困ってしまうことも多々ある。

また、就活のエントリーシートの内容にも疑問を感じることが多い。エッセイを課すこと自体は悪くないと思うけれど、エッセイというのは、構造が決まっていないし、その文体を含めて非常に高度な文章力が求められるので、就活における自由記述的な文章で果たしてどうやってそれを評価するのだろうかと思ったりする。

そして、これは日本のビジネス界では、文書作成とは標準的な「お作法」に則ってなされるべき、と認識されてないことを示唆していると言える(これは実は業務の標準化を好まない日本のビジネス界、という課題とも直結していると思う)。

例えば、私がアメリカの大学で学んだことでいまも役立っているのは、このライティングの「作法」を叩き込まれたこと。アメリカの大学の授業では、重要な論点についてエッセイ(小論)を宿題として課されることが多いけれど、この文章は必ずアカデミック・ライティングの構造に準拠していることが求められた。

アカデミック・ライティングとは何か、については、この記事などはわかりやすい。

以下の図が示すように、Introdution - Body - Conclusionが基本の構造で、この構造に則った文章を書くことはアメリカの大学のエッセイでは必須。これ以外は認めない、というところが重要で、これは業務の標準化にも繋がる重要な考え方。

Introdcutionでこの文章で何について論じるのかを明確にし、BodyではIntroductionで呈示した論点を、複数の観点から論理的に説明していく。そして、ConclusionでBodyで論じたことを踏まえて、論点に対しての自分の回答をまとめる。

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 そして、これを踏まえて、職務経歴書であれば、このビズリーチの記事はうまくポイントをまとめている。

Intorductionにあたる「職務要約」や「スキル」で自分の経験や強みをまず要約して伝える。そしてBodyにあたる「職務経歴」の部分で、なぜ自分がそのスキルを持っていると言えるかを、過去の経験をポイントを踏まえて記述することで説得力を持たせていく

そして、結論(Conclusion)として、採用側が職務経歴書を読み終わった後に「なぜこの人を採用すべきか」が文書から理解されるように構造化されていることが重要になってくる。

また、実際に自分でこうした「構造」を意識した文章を書いて練習すると同時に、構造化された優れた文章を読み込むことは良い訓練になると思う。

その一例としては、この「クルーグマン教授の経済入門」を挙げたい。ノーベル経済学賞を受賞し、日本の「リフレ派」にも大きな影響を与えた、アメリカの経済学者のクルーグマンが、アメリカ経済を題材に、生産性や貿易、日本経済、欧州統合など幅広いテーマについて論じた本。

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

 

ある論点について、分かりやすい論理構造と簡潔な記述でその背景や課題、解決の方向性を提示する文章を書く、というビジネスで求められるスキルを、具体的に楽しく学ぶことができるので、ぜひ一読してほしい。

 また、山形浩生氏の訳者あとがきは、ここで読めるのでぜひ。クルーグマンの過去の業績も分かりやすくまとめられているので、一度読んでおくと理解が深まるかと思う。

P. Krugman "The Age of Diminished Expectations" Translator's Note

 

楽しみながら仕事を「やり抜く」コツとは?

  「やり抜く力」を読んでいるけれどやはり面白い

やり抜く力

やり抜く力

 

「人は自分の興味に合った仕事をしているほうが 、仕事に対する満足度がはるかに高い」

「人は自分のやっている仕事を面白いと感じているときのほうが 、業績が高くなる」

マネジメントの仕事をしていていつもぶつかるのは、この「動機づけ」の部分。「この仕事やってて面白い!」という状態にメンバーを持っていけるかが大事なのはわかっているけれど、これは本当に難しい。ほとんどの人は、仕事で「自己実現」したいわけでなくて、ほどほどに稼ぎつつ暮らしていきたいな、というのが普通なのだし。

だから、仕事を「楽しめる」というのは案外難しくて、特に毎日やっている仕事からその「面白さ」を引き出すというのもひとつのスキルと言える。

例えば、私の仕事なら、毎週の稼働率のデータをじっくり眺めてるとコンサルの「生態」が浮かび上がってきてむちゃくちゃおもしろいんだけど、その面白みを共有できる人はとても少ない。

就活でも「好きなものを探そう」というけど、探さなくちゃいけないようなものは「好きなもの」じゃないですよね。好きなものってのは、人になに言われるまでなく、既にやり始めてるわけで。ただ、それを職業に結びつけるまでにはかなりの試行錯誤や覚悟もいるから、そこですよね、論点は。

「やりぬく力」でも、関連する研究を以下のように整理している。

「おとなになったらなにをしたいかなど 、子どものころには早すぎてわからない」
「興味は内省によって発見するものではなく 、外の世界と交流するなかで生まれる」
「興味を持てることが見つかったら 、こんどはさらに長い時間をかけて 、自分で積極的に掘り下げて行かなければならない」

これは非常に面白くて、なにかを「好きである」というのは大事なのだけれど、より大切のはその興味・関心を外の世界に位置づけること、そしてそれを掘り下げること、だということ。

仕事でいえば、どんな仕事でも面白いところはあるので、そこに気づいて自分で工夫して改善して、成果が出てくると、そのループが楽しくてもっともっとはまっていく。ここが分岐点と思う。逆に、この「自ら」はまっていく感覚や経験がない人を変えていくのはとても難易度が高い。

上海から帰国して、マラソンでサブ4を目標に集中して練習したことがあったのだけど、あれは確かに非常に学びが多かった。練習本を読み漁り、毎日の練習にフィードバックしながらタイムをあげていく。最終的に3時間半までタイムを伸ばせてのだけれど、なによりどう「やりきる」のかという点を学べたのが大きかった。

このマラソンの時もそうなんだけど、仕事でも、ポイントは、毎日努力しているんだけど成果が思ったよりはあがらない時に、どこまで我慢できるかなんですよね。そこで我慢すれば後で大きな飛躍が訪れる可能性は高いんだけど、こらえきれない人は多い。

つまり、「やり抜く」体験があると強いのは、成果が出てない時に「焦らない」ことかなと思う。ゴールまでのイメージができているので、まだ中間点でしょ、と動じない。で、試行錯誤しながら粘り強く改善を続けていって、なんとしてでも成果に「たどり着く」。このゴールを手繰り寄せるイメージが重要かと思う。

 他にも面白い論点がありそうなので、読み進めたらまた紹介します。

偉い人と「うまくやる」ための3つのコツ

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私は参謀的な仕事をしてるので、よく「えらい人」と話をします。そこでのコツは「相手の目をみる」「相づちを打つ」「相手の言ったことを適語でまとめる」です。

えらい人は基本的に孤独です。そして話を聞いてほしいタイプです。プライドも高いです。だってえらいんですもの。

だから、まずは全身で聞いていますよ感を出します。でも、ただ聞いてるだけだとバカと思われますから、適語で相手の話を要約する。「そうっ!」って身を乗り出してきたら勝ちです。

と言われてもあまりピンとこない人も多いかと思います。ということで、私がどんな風にやっているかを、最近の役員Tさんとの会話から紹介してみましょう(Tさんの部下のYさんについての会話です)。

ーーーーーーーーーー 

役員Tさん「Yくんはさー、なんだろう全部自分でやろうとしちゃうよね」

私「人に振れない、ですよね」

役員Tさん「そう!だからさあ、この前のあの問題もバタバタしたでしょ」

私「うまく移譲できてない、かなと」

役員Tさん「そうそう!でね、彼は優秀だからさ、うまくこなせるんだけどさあ。彼にはもっと考えてほしいことあるわけじゃない」

私「戦略、とかですね」

役員Tさん「そうそうそう!やっぱ中長期的な戦略を考えてほしいんだよね、彼にはさ」

私「わかりました、彼と話をしておきますよ。戦略の方向性を詰めておきます

 ーーーーーーーーー

どうでしょうか。

私がたいしたことを言っていないのは、すぐわかると思いますが、この場合はそれでいいんです。なぜかというと、ここでのポイントは「話を聞いてほしい」だからです。

別に意見を求めてるわけでなくて、ちょっとYさんに対して持ってる不満や要望を聞いてほしいんですね。

だから、私の方は、相手の言ってることを一語で集約して、そのことで「気持ちわかりますよ、よく聞いてますよ」というメッセージを伝えるわけです。

さらに、適語で要約されることで、相手も「俺いいこといってるな」と気持ちよくなってきます。人は他者の視点を通じてこそ、自分をより良く知ることができる、というのは奥深い真理です。

その上で、最後のところで、Yさんと直接話をして解決策考えますよ、と続いたのが、さらに効果的です。「こいつは話がはやい!」ってなるわけです。

これは、えらい人に限ったことではないですが、相手が自分の話をきちんと聞いてくれているというのは、すごく嬉しいものです。

というのも、多くの人は実際のところ人の話を聞いてません。上司から言われたことの80%は「今日のランチどうしようかな♡」と考えた側から忘れます。

よって、仕事においてとても大事なのは「相手の気持ちに寄り添うこと」です。当たり前に聞こえますが、それを実践する人はとっても少ないです。だから、相手の目を見て、きちんと相づちを打って、適語で要約してあげれば、 相手は嬉しくなってきちゃうわけです。

ちょっとしたコツなんですが、人の心理の綾みたいなところにきちんと意識を向けるのはとても大事です。全くモテなかった大学生の頃の自分に教えてあげたいですね。それではまた。

英語を学ぶには「決算資料」が最強であるワケ

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この記事(「英語力をどうやって鍛えるか? 私が普段やっていることを公開!」)はありがたいことに反響が大きく、たくさんの方に読んでいただきました。ありがとうございます。そこで紹介した、グローバル企業の決算は英語の勉強にも最適、という点について、IBMを例にしながら説明してきたいと思います。ポイントは以下の3つです。

  • 構造をつかもう
  • 表現を学ぼう
  • 真似をしよう

なお、決算資料はInvestor Relations(IR)のページに置いてあります。よってGoogleで「IBM IR」など検索をかければすぐ出てきます。

IRのページは非常に充実していますが、今回は四半期決算の資料を見ていきます。直近の決算であるIBMの2017 Q2(第2四半期)を使います。

では、早速見ていきましょう。

構造をつかもう

ある程度基礎ができたあと、実際に仕事で英語を使っていく上で重要なのは、実は「構造」の理解です。

 【プレスリリース】

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 【プレゼン資料 P1】

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両者とも、資料の「冒頭」に箇条書きで決算のポイントが簡潔に述べられています。EPS(1株あたり利益)、売上、戦略事業およびクラウド事業実績、Free Cash Flow、EPSガイダンスといった投資家はじめとしたステークホルダーがまず一番知りたい情報が最初にまとめられているわけです。

アメリカのビジネス界はこうしたスタイルを好みます。英語はあくまで「言葉」ですので、本質は相手にどういったメッセージをどうやって届けるか、です。その点で、相手が知りたい情報を簡潔に最初に伝える、というのは英語でのコミュニケーションで常に意識すべき「構造」です。

例えば、米企業の場合は、普段のプレゼン資料でも、冒頭にExecutive Summaryとして箇条書きでその資料全体の「要約」を簡潔にまとめ、その資料のスコープとメッセージを明確にすることが好まれます。

これにより資料の受け手は、いまから説明される資料が、いま起きている課題にどうやって答えようとしているのか、という一番重要な点を最初に理解できるわけです。これにより、その後の説明への理解や関心が深まりますし、適切な議論も生み出されます。こうした「トーン・セッティング」は非常に重要です。

なお、「構造」に関して言うと、Academic Writingの考え方は参考になります。以下のページはとても参考になるので読んでみてください。

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表現を学ぼう

次に重要なのは、ビジネスにおける英語表現の特徴を掴むことです。ビジネス文書の場合は、日本語でもそうですが、回りくどい言い回しや華美な表現は必要ありません。また使われる単語もシンプルです。

そして、重要なのは適切に数字を入れることです。これにより変に凝った文章に頼ることなく、ビジネスで必要となる情報を相手に明確に伝えることができます。

これらを頭に入れて、IBMの決算発表の原稿を見てみましょう。

Overview

Thanks Patricia. In the second quarter, we delivered $19.3 billion of revenue, operating pre-tax income of over $3 billion, operating earnings per share of $2.97, and free cash flow of over two-and-a-half billion dollars.

「構造をつかもう」で触れたように、決算発表でも、まず「一番相手が知りたいこと」を簡潔に伝えています。しかもその表現がとてもシンプルなことに気づくと思います。We delivered の後に、先ほど触れたように、ステークホルダーにとってもっとも関心の高い、売上、税引き前利益、EPS、フリーキャッシュフローについて数字とセットで表現しているだけです。

ビジネスの現場では、これくらいのシンプルさで、重要なポイントを数字とともに明示する、というのが大切です。これにより「ノイズ」なく必要な情報について議論をすぐはじめることができるわけです。

The quarter played out as we expected, with continued solid growth in our strategic imperatives, which now really reflects organic growth. We wrapped on the acquisitive content, and we’re at the stage where we can start to get some efficiency as a result of bringing them into IBM, while we build on the new content.

次に触れているのは「Strategic Imperatives 戦略事業」についてです。ここでも表現はシンプルですね。動詞はplay out, reflect, start, get, bring ~ into, bulid onなど中学生レベルの単語が使われています。また、構文もひねっておらず、事実を頭からどんどんと伝えていきます。

大事なのはここでも構造や文脈です。1段落目で主要な経営数値を述べたあとに「戦略事業」に触れています。これは、IBMが現在メインフレームを中心としたレガシーのビジネスから、コグニティブ(Watson)、クラウド、モバイルといった成長領域への事業構造転換が事業戦略上もっとも重要であるという背景があります。よって投資家の注目が高く、彼等の「知りたい」情報なわけです。

A Cognitive Solutions & Cloud Platform Company

We have been focused on helping our enterprise clients transform their businesses to leverage their data for competitive advantage, and to improve the efficiency and agility of their IT environments. Our strategic imperatives performance has been an indication of our progress in moving to these areas. As you know, our “strategic imperatives” aren’t separate businesses, but signposts that represent the revenue across our business lines that work together to address demand for analytics, cloud, security, mobile and social. Our clients are taking the productivity savings we’re delivering to them in the more traditional areas of IT, and reinvesting those savings to move into these new areas. These are the dynamics you’ve seen in our revenue.

その流れで、Overviewの次のトピックは、A Cognitive Solutions & Cloud Platform Companyになっています。

ここは学びがいのあるところで、先ほど言ったように、IBMが一番力をいれている戦略事業がなぜ重要で、そこにどうアプローチしているかを論理的かつ簡潔に表現しています。

ちょっと訳してみると、以下のようになります。

我々は、お客様企業が、データを競争優位として事業を変革すること、IT環境の効率性と柔軟性をより良いものに改善していくこと、の「お手伝い」をすることにフォーカスしてきました。そして、「戦略事業」がうまく実績を出せているかを見ることで、この方向に我々が正しく向かっているかを測っています。ご存知のように、我々の「戦略事業」は、バラバラな事業群を示すのでなく、アナリティクス、クラウド、セキュリティ、モバイル、ソーシャルにおけるお客様のニーズを、様々な事業にまたがって満たしていることを表現した概念です。お客様は、昔ながらのIT領域では我々により生産性改善をはかり、そこで浮いたお金をこうした新しい領域に再投資しています。こうした動きが我々の売上における「構造」を表しているわけです。

ここでのメッセージは、「戦略事業」とは?、です。それに対して、IBMの強みはなにで、その流れにどう「戦略事業」は位置づけられるか、なぜ顧客のニーズを捉えられるのか、というのを短い文章に論理的な流れをもって、かつコンパクトにまとめています。

英語を「表現する」上で大切なのは、繰り返すように、このように文章レベルでも核となるメッセージと構造を予め整理しておくことです。まずそこを準備した上で、できるだけ平易な単語とシンプルな構文を使って文章を書いていくことで、相手へのメッセージは強くなります。

真似をしよう

最後のポイントは「真似をすること」です。ほとんどの米企業の決算発表では、投資家向けの電話会議を質疑応答まで全て録音が公開されています。

これは最高の教材で、私も時間を見つけては、決算発表の原稿をそのまま自分でしゃべってみる練習をしています。その時に、スマホで録音をしておくと、自分のスピーキングの発音やイントネーションのつけかたのどこに課題があるかもよくわかります。

また、決算発表の部分は主に用意された原稿を読み上げるだけですが、質疑応答の部分は臨場感があるやり取りとなっているので、どんな表現が使われているかを学べますし、またリスニングの勉強にもなります。

さらに、経営陣と機関投資家というビジネスのプロたちが企業業績や戦略についてどういう視点で議論を戦わせるのか、というのをリアルに学べますので、英語だけでなく経営を学ぶ教材としても素晴らしいと思います。

最後に、以下にいくつかのハイテク企業の決算発表へのリンクを紹介しておきます。皆さんも「企業名 IR」でGoogle検索してみてください!

Google

Alphabet Investor Relations - Investor Relations - Alphabet

Amazon

Amazon - Investor Relations - IR Home

Facebook

Facebook - Home

Salesforce

Salesforce - About Us - Investor Information - Home

Intel 

Intel Corporation - Investor Relations

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リストラされる寸前だったときのこと

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少し個人的な話を。

ここで書いたように、2008年の夏ごろの私は、コンサルの仕事でまったく成果が出せずに、長年の持病にも悩まされ、完全に八方塞がりの状況。しかも業績の不振から、会社ではリストラのプログラムが動き始めていました。

そして「使えないコンサル」だった私は、案の定その対象の一人となり、異動先が見つからなければそのまま退職せざるを得ない状況に。

でも、ここまで追い込まれて「負けず嫌い」の火がつきました。自分を売り込むプレゼン資料を徹底的に磨き込んで、社内の知り合いには異動の可能性を聞きまわり、前職のメーカーの事業部門長に久々に会ってもらい状況を聞き、同時にエージェントに会って転職の可能性も探りました。

その努力が実り、社内の間接部門で人を募集しているという話を聞きつけ、面接の機会を得ることができました。改めて「売り込み」資料を磨き直して、面接に向けて準備。転職の面接ばりの真剣さでした。

外資系の文化に慣れた人ならば「そんなのさっさと転職すればいいじゃん」と思うかもしれません。ただ、その頃の私は、本当に悔しかったんですね。

仕事でなんの成果も出せずに、毎日怒鳴られ、そのまま捨てられることに。いや、正しく言うとそういう状況でも、ただ無力な自分が許せなかったんです。とにかく悔しかった。何度も歯ぎしりしながら、一人の時によく泣いていました。

だから、どんな仕事でもいいから、その会社で爪痕を残したかったんだといま振り返ると思います。

尋常じゃない真剣さが実ったのか、幸い面接は好感触でした。ただ、異動の許可を得るためには少し時間がかかりそうなので待ってくれと言われました(外資系は、異動であっても人を増やすのはとても大変です)。

決定を待つ間に私は社内プロジェクトにアサインされました。海外のベスト・プラクティスの資料を翻訳して日本向けに編集する仕事。

もう一人アサインされた人は、長い休職から戻ってきた40代後半のコンサルタント。もともとエンジニアだった人で、朴訥とした、でも頭の良い、とても感じの良いおじさんでした。

私はそのおじさんと、朝から資料を翻訳して、お昼ごはんを社食で一緒に食べて、また翻訳作業に戻って、一日のおわりにお互い進捗を確認して、という日々を淡々と積み重ねていきました。

そして、家に帰って食事を済ませて少し休んだら、夜の10時くらいから毎日同じコースを5キロ走っていました。毎日毎日、かならず。

走っている時にかならず聴いていたのがPerfumeの1stアルバム。繰り返し彼女たちの音楽を聴いて走りながら「あせるな、あせるな」と自分に言い聞かせていました。

その頃の私は(こうして書くと気恥ずかしいですが)長い年月の間、売れないアイドルとして格闘しながら、決して諦めずに成功を掴んだ彼女たちに、自分の現状を投影して共感していたんだと思います。

だから、ポリリズムで一気にメジャーに浮上した2ndアルバムでなく、その下積み時代の息づかいと真剣さが全体に満ち溢れている1stアルバムばかりを聴いていた。

実際のところ、状況は依然として予断を許さなかったし、精神的にも正直なところだいぶ追い込まれていました。

でも、そこで感情の渦に巻き込まれたら終わりということがよくわかっていました。だから、ただ、自分に「あせるな」と言い聞かせて、Perfumeの音楽に励まされながら、毎日走っていたんです。

そして、いま振り返れば、毎日淡々と翻訳作業に打ち込み、家に帰れば走る生活が、自分にとっての「人生のリハビリ」だったんだなと思います。

とても幸運なことに、1ヶ月ほど待たされはしたものの、無事にその間接部門への異動は承認されました。異動後は、久々に仕事に集中することができるようになり、人の縁にも恵まれ、なんとか成果を出すことができて、それがいまに繋がっています。

ただ、いまでも、この時のことは思い出します。先が見えなくて、でも、その不安に押しつぶされたらダメだと、ただ、ひたすらに昼間は英語を日本語に移し替えることに集中し、夜は音楽に耳を傾けながら走っていた時のことを。 あの時の自分の息づかいも。

機械学習からファイナンスまで Courseraの素晴らしい講義に無料でアクセスするコツ

世界中の名門大学の講義がオンラインで学べるCourseraは本当に素晴らしくて、MBAで世界ランク上位のペンシルベニア大学、ノースウェスタン大学などのファイナンスやマーケティング、スタンフォードやジョンズ・ホプキンス大学のデータ・サイエンスの授業がオンラインで気軽に受講できるのは革命的。

しかも全て無料!というのはさすがに厳しかったのか、最近はマネタイズが進んでいて、Specializationという形で複数の講義がまとめられ、月額$40-80くらいを支払えば受け放題というモデルが中心になっていると思っていた。でも、Certificateを取らずに、講義を受けるだけなら依然として「無料」だということに気づいたのでTips的にご紹介。

例えばこのペンシルベニア大学のBusines and Financial Modeling。ファイナンスのモデリングに関する5講義がまとめられている。

ただ、この画面のサイドバーにあるように、月額79ドルで受け放題モデルになっているように見える。

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でも、実はそれぞれの講義は無料で受講できる。以下簡単にご説明。

 

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まずはサイトの検索バーで受けたい講義の"Fundamentals of Quantitative Modeling"を検索。

 

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そうすると講義のトップページに。サイドバーの青い囲み部分の"Enroll"をクリック。

 

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ポップアップの下に小さく青字で"Audit"となっている部分をクリック。

 

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めでたく受講登録完了!

 

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例えば、Week 1をクリックすると、このように全ての講義の動画が見れるし、講義資料のPDFファイルもある!Courseraのアプリをインストールしておけば、スマホでも見れます。

ちなみにこの"Audit"の場合は、以下のように、コース・マテリアルへのアクセスのみで、課題の採点をしてもらったり、Certificateを取得することはできない。

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ただ、実際のところは、ほとんどの人にとって、コースの動画や講義資料へのアクセスができれば十分なので、依然として無償でアクセス可能というのは本当に嬉しい。

ということで、ファイナンスに限らず、ストラテジー、マーケティングからコンピューター・サイエンス、データ・サイエンスまでとにかく充実した講義リストから、気軽に好きなものを学べるわけです!

このページから講義カタログに行けるので、ぜひ眺めてみてください。で、良さそうなSpecializationを見つけたら、上に説明したやり方で無料受講が可能なはずです。

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例えば、名門ジョンズ・ホプキンス大学のデータサイエンスの10講義。

シアトルのワシントン大学の機械学習の4講義。

米MBAトップ校に常にランクインするノースウェスタン大学ケロッグスクールのソーシャルメディアマーケティングの6講義。

www.coursera.org

ヨーロッパのMBAトップランク校のひとつであるIEのMarketing Strategyの5講義。

あと、AIの分野における有名人で、Coursera共同創業者、Google Brain、Baiduのチーフサイエンティストを歴任し、最近はAI分野でのファンドを立ち上げたAndrew Ngのスタンフォード大での機械学習の講義はこちら。

さらに、最近はDeep Learningの講義もはじまっています。

これ以外にも魅力的すぎるコースがたくさんありますので、ぜひアクセスしてみて、良い講義があったら教えて下さいませ!

 【関連書籍】

退屈なことはPythonにやらせよう ―ノンプログラマーにもできる自動化処理プログラミング

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Pythonではじめる機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎

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  • 作者: Andreas C. Muller,Sarah Guido,中田秀基
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  • 発売日: 2017/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ゼロから作るDeep Learning ―Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装

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読書が「目的」になってはダメな理由

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本を読む上でのポイントとは?

育児と仕事で忙しいのに、どうやって時間を見つけて本を読んでいるんですか?と最近たまに聞かれます。

当然ながら時間は限られていますので、隅から隅までは読んでおらず、ざっと読むんですが、普段から自分が知りたいことや仮説を頭の中で整理しておくのがポイントかなと思います。

例えば、先日紹介したこの「巻き込む力」という本を例に挙げます。

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

 

私は最近よく新規事業案を考えているのですが、方法論的には整理されておらず、いつもゼロから作る感じになっています。これは非効率です。

さらに、資料のデザインといった点でも、最新の動向を押さえておらず、自分のスキルがやや古いものになっていることを自覚していました。

これらの課題を自分で明確にしてあったため、その課題を解決してくれそうな本や情報を普段から常に「検索」していたわけです。

で、この本について言えば、ちょうど8月度のKindleセールの対象になっており概説やレビューを読んだところ上記の「課題解決」に繋がりそうであったため、購入に至ったわけです。

さらに、普段から課題の構造や仮説を意識して整理していたので、本を読み始めたらまずはその解決につながる部分にとにかく集中します。

この「巻き込む力」であれば、投資家向けの提案を行う上での、事業案づくりから、ストーリーの着目、デザインのポイントが構造化された形で整理されており、しかも実際に使われた投資家向けのピッチが12社分も入っています。

よって、私が課題と思っていたことへの回答が明確で、その部分に集中してポイントをまず読むことが可能になります。

このような過程を経て見つけた良書には、課題を解決してくれる適切な説明が見つかりますし、本を読む前からと読書中の文脈が繋がっているので記憶にも残りやすいと感じています。

読書は思考の連続性がカギ

つまり、本を読むというのは、実際の文章を読むときのことだけを指すのでなくて、もっと連続した営みであるというのがポイントです。

普段から、ここを知りたいな、と思うところを色々と頭の中で考えていることが大切で、それに最適な本を見つけたら、その本で思考を補完して、また次に進んで思考を深めていく、といったイメージです。

本をあまり読み慣れてない人の話を聞くと、このあたりが意識されていないと感じます。例えば、「なにか良い本ないだろうか?」とひとまず本屋に行って、店頭で目立つところにあるベストセラーの本を買って読む、というようなイメージ。つまり、「本を読むこと」自体が目的化されてしまっているわけです。

でも、そういった読書は文脈に繋がりがないから、読んでも記憶に残りにくいのかなと感じます。「思考の連続性」に欠けているからです。

例えば、これはファッションでも一緒ではないでしょうか。おしゃれな人は、自分の好みを押さえていて、一方で、その時に世間で流行っているものの文脈も知っていて、その一連の流れにお店やネットでの購入が位置づけられていて、いいなと思ったものが見つかった時に購入。それを着て外出する。

私はそういった「文脈」がわからないし、普段からファッションのことについて考えることはほとんどないので、服が足りない時は、とにかく無印良品に行ってみて、店頭でいいなと思ったのを買っています。そこには、文脈や思考の連続性がなく、結果的に垢抜けないファッションになってしまうわけです。

大切なのは、速読のような読書の最中のスキルではなく、普段から自分が知りたいと思うことについて思考し、そこに文脈をつけて、その流れの中に読書を位置づけることなのではないでしょうか。

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英語力をどうやって鍛えるか? 私が普段やっていることを公開!

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 私が普段どうやって英語の勉強をしているか聞かれることがよくあるので、まとめてみました。

私のバックグラウンドとしては、大学時代に1年間アメリカの大学に交換留学、新卒で入ったメーカーで海外営業、外資IT企業の経営管理部門で外国人役員や本社メンバーとやり取り、という経歴なので、英語はずっと仕事で使ってきました。ただ、英語力は筋肉などと同じで普段から鍛錬していないとすぐなまるので、色々と試行錯誤しています。

リスニング

まず、リスニングは毎朝の通勤時にポッドキャストを聴いています。やはり定番のものが良くできていて、まずはBBC Worldです。

さすがBBCという感じで、世界中の政治・経済・文化についてのニュースがコンパクトに30分程度でまとまっていて、英語だけでなく、世界で起きていることを理解する上でもとてもよいです。キャスターは英国人で典型的なブリティッシュアクセントを学べますし、しかも、世界中の人のインタビューが出てくるので、様々なアクセントに触れることができるのも良い点です。

次にGordon DealのThe Morning。

これは、昔はWall Street Journalの名前を冠したポッドキャストだったんですが、数年前にWSJは止めてしまい、名物キャスターだったGordon DealのThe Morningというタイトルで継続しています。こちらは主にアメリカのニュースが多く、政治や経済中心でこちらも幅広いニュースが聴けます。とにかくGordn Dealの声がよくて、聴いてると朝からなんか元気になってきます。

この2つを聴いておくと、英米両方の発音やアクセントに耳を慣らしておくことができますし、BBCであれば、欧州、アジア、アフリカなど英語のネイティブ以外の人のインタビューやレポートが聴けるのがすごく良いです。ビジネスでは、英語ネイティブ以外の人と英語でやり取りすることが多いですからね。

リーディング

続いてリーディングです。

まずは、朝にFinancial Timesを流し読みします。Finanicial Timesは文章がきれいに構造化されており、選ばれる単語や表現も変に凝っていないので、シンプルで論理的な文章が好まれるビジネス英語の力を維持する上でよいです。朝はそれほど時間ないので、朝食を食べながらタイトルを流していき、特に経営カテゴリーのところで面白そうな記事を1つか2つは最後まできっちり読みます。

あとは、ツイッターを活用しています。

ツイッターのリストに、マッキンゼーやボストンコンサルティンググループなどの戦略コンサル、Harvard Business Review、MITやペンシルベニア大学などの米有名MBA、IBMやSalesforceなどのハイテク企業、SaaSやVCに関わっている米ハイテクの専門家、などを入れてます。

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これらが入ったリストのタイムラインを流して、面白そうなものをツイッターなどで紹介コメント付きでシェアするのは、英語力アップの役にも立ちます。

記事を全部読む時間はないので「さっと流し読みしてポイントを掴む」という仕事におけるリーディングの肝となる訓練ができるところがよいです。最近このシェアをよくやってるので、普段の仕事でも効果が出ているような気がしています。

リスニングやリーディングなどの「インプット」は、基礎トレみたいなもので、スピーキングやライティングといった「アウトプット」の質や流暢さに明らかに影響します。その点では、普段から基礎トレや筋トレしをしていないとパフォーマンスが落ちるスポーツにすごく似てます。

スピーキング

スピーキングですが、発音については、スマホの音声認識で発音の正しさを判定してくれアプリでよいものがあるので、空いた時間を使って練習しています。

最近見つけたものだと「ELSA Speak」がとても良いです。

ELSA Speak - Practice Speaking English

ELSA Speak - Practice Speaking English

  • Elsa Corp
  • Education
  • Free

 このブログの記事がその良さをうまく説明しているので読んでみてください。

あと昔からの定番アプリの「Real英会話」や、中学生レベルの基礎単語の発音を学び直せる「発音博士」も良いです。

Real英会話

Real英会話

  • LT Box Co., Ltd.
  • 教育
  • ¥480
発音博士

発音博士

  • KOTO CO., LTD.
  • 教育
  • 無料

発音は自分ではなかなか身につけにくいので、こうしたアプリがあるのはすごくありがたいです。いまの若い人が羨ましい、、

ちなみに発音についてはブログ記事にもまとめています。

次に、スピーキング力自体の向上ですが、これはもう実際にしゃべる機会を作るしかないんですが、私は海外との電話会議の準備として、スマホのボイスメモにレビューで話す内容を録音して、それで表現や発音を確認したりしています。これは結構良いです。自分のヘタさに愕然することが多いですが、それが現実というものです、、

あと、私の経営管理の仕事だと、米企業の決算発表の投資家向けコールは最高の教材ですね。発表から質疑応答まで全部録音されていて、スクリプトつきの会社もあるんで、よく使われる表現学べるのがすごく良いです。実際自分でしゃべってみて、それを録音しておくと勉強になります。

その意味で、IBMの決算発表はとても良い教材です。プレスリリース、プレゼン資料、音声、スクリプトと全部あります。説明も典型的な米企業のスタイルで、説明のロジックや語り口などグローバル標準がどういうものか学べます。 なので、英語の勉強というだけでなく、グローバル企業がどういう経営をしているのか、という観点からも非常に学びが多いと思います。この点については、別の記事でまとめたいと考えています。

ちなみに投資家の質疑応答も全部録音されているんですが、業績が悪い時の緊迫したやり取りはこちらも緊張してくるぐらいのプロ同士の真剣勝負で、その雰囲気を味わってみてください。

IBM Investor relations - IBM 2Q 2017 Earnings Announcement

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また、グーグルの親会社のアルファベットも決算関連の資料さすがにわかりやすくまとまってます。CFOのルース・ポラット(元モルガンスタンレーCFO)は英語が綺麗だし、説明も切れ味鋭くて勉強になります。頭むちゃくちゃいいんですよね。

Alphabet Investor Relations - Investor Relations - Alphabet

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ライティング

ライティングはなかなか「勉強」ってしにくくて、メール書いて、パワーポイントでプロジェクト計画、データ分析、ビジネスレビューなどなどの資料を作って、という感じで仕事で使うことでスキルを維持している感じです。

ただ、一度Acadamic Writingはきちんと学びたいなと考えており、例えば、Universtiy of California IrvineのAcademic WritingのコースがCourseraで提供されているので、こういうのも時間を見つけてきっちり受講したいなと思っています。

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以上結構長くなってしまいましたが参考になれば嬉しいです!こういう情報が欲しいというのがありましたら、お気軽にツイッターなどでお問い合わせくださいませ。

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日本の大企業「30代の位置づけ中途半端」問題について

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30代をどう過ごすべきか?

日本の大企業での「30代の位置づけ中途半端」問題ってあって、20代はわりと何でも自由にやれるし学びも多いのだけれど、次のステップとしてのマネジメント(課長)になれるのは40代が普通。なので30代の位置づけが曖昧で、その期間に成長機会がなかなかないのが個人のキャリア構築上も課題となる。

現場の実務も「経験」しないと身につかないように、マネジメントの仕事も実際に経験しないと、その難しさや勘所が身につかない。欧米や今ならアジアの大企業でも、20代で現場経験を積んで、30代はマネジメントを経験、そして40代で役員レベル、というのが標準になっているのと比べてギャップが生まれてきている。

では、30代をどうすごせばよいのだろうか。

ひとつは早いうちからマネジメントに関われる業界やスタートアップに移るという選択。ただ、そういった企業は雇用モデルがジョブ型であることが普通で、そこに壁がある。

容易ではないジョブ型への転職

例えば、メンバーシップ型の権化的な日本の大企業からジョブ型への移行というのは難易度が高くて、私の場合は、30歳でメーカーからコンサルに転職し、見事に討ち死にした。中途同期も、事業会社出身者は全員2年以内に転職していった…そもそものスキルはもちろん、仕事自体の捉え方から違うのがポイント。

メーカーからコンサル転職で一番苦労したのは、いま思うと、ビジネスを「モデル」で考える、ということ。コンサルはその「モデル」を設計し、事業側はそのモデルにもとづき「実行」する、というのが基本概念。ここがピンとこなくて、PMからの作業指示の「言語」がピンとこなかった。

例えば、プロジェクトの最初に「WBSを書いといて」と指示されたけれど、どこから手を付けてどうやればいいか全く分からなかった。これは当然で、WBSというのは、プロジェクト全体の「設計書」なんで、モデル思考がないとできない。プロセスマップ、などもそう。ただの作業と捉えるときっかけが掴めない。

コンサルで標準的な、ビジネスの状況を分析して、課題を抽出。それを構造化して、いくつかの解決策を提示して、そこから論理的に導かれるアクションを実行する。というのは、いまやどの本にも「書いてある」んだけれど、これは実際に経験して苦労してみないと身につかない。いまの自分の仕事はその経験ができる場所なのか、というのを考えてるみるのが重要と思う。

日本の大企業で成長するためには

特に大企業出身だと、なにかを一から設計するというよりは、既にできあがったものを「実行者」としてどうやってうまく運営するか、という仕事のやり方が普通になっているので、ここには大きなギャップがある。なので、日本の大企業で経験積むなら、新規事業や子会社がおすすめというのは持論。

例えば、メーカー時代の同期が最近史上最速レベルで部長に昇進し、子会社社長になった。彼は新卒で広島の営業所の医療機器営業を経験し、次にNY駐在で社長の参謀、帰国後は自分で希望出して海外買収子会社の事業の日本展開を担当し、そのままそこの社長になった。これは私が思う日系大企業の理想的なキャリア構築と思う。

当然ながら、メンバーシップ型それ自体に問題があるわけでなく、そこには合理性がある。逆に様々な仕事を経験することが可能なわけで、そのメリットを最大限活用することが必要になってくると思う。

例にあげた同期の場合だと、広島の営業所では代理店経由でなく直接顧客と接点を持ちビジネスの基本を学び、NY駐在では社長の側近として経営やマネジメントを学び、帰国後は海外買収子会社の事業展開に関わることで、海外企業の経営モデルを身につけた。こうした多様な経験を積めることは日本の大企業のメリットで、「30代の位置づけ中途半端」問題へのひとつの解となるだろう。

関連して以下の記事もぜひご一読ください!

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

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競争社会の歩き方 - 自分の「強み」を見つけるには (中公新書 2447)

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仕事とは「不安」との戦い: どうコントロールしたらよいのか?

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仕事をさまたげる「不安」

私自身もそうなのだけれど、いろいろな人の仕事振りを見ていると、仕事が進まない理由は多くが「未知なことへの恐れや不安」であることに気づく。

どこから手をつければいいんだろう、うまく終わらせられるだろうか、怒られたくない、あの人と話したくない、などなど。こういう心理的障害をうまく自分の中でコントロールできるかは仕事の成果を決める要素だったりする。

一方で、不安をうまくさばく、というのは、口で言うのは簡単だけれど実はとても難しい。

「不安」とどうつきあうか?

TEDで有名になり、日本でもその著作が話題となった健康心理学者のケリー・マクゴニガルのこのインタビューは、その点について示唆を与えてくれる。

ここで彼女が述べていて面白いのは、不安というのは「先に存在していて」、「なぜか」というのは後付けである、ということ。つまり、脳というのはそもそも「不安感を持つというのが習性」と彼女は述べる。

しかし、多くの人は自分が「なぜ不安を感じているんだろう、きっと理由があるはずだ」と、不安それ自体に意味付けを行おうとし、結果的にそれが不安を「増幅」してしまう。

彼女はそれを青空に浮かぶ雲で例える。

「不安というのはよく晴れた青空に、ぽっかりと浮かんでいる白い雲のようなものだ」ということです。その雲は、雨雲でも雷雲でもなく、青空をゆっくりと過ぎ去っていくただの白い雲なのです。ところが、その雲ばかりに注意を向けてしまうと、雲ばかりが気になって「この雲はなんだろう?嵐の前触れなのではないか?」と考え始めてしまうのです。

私は以前はまさにここで挙げられたようなタイプで、湧き上がる不安に次から次と解釈や意味付けを行ない、結果的に不安を増殖させてそれが物事を前にすすめる気力を奪う、ということが本当によくあった。

例えば、私の若い頃は、海外出張があるといつも行く前に急に大きな不安が襲ってくることがよくあった。ただ、見知らぬ土地に仕事に行くのだから、そこで「不安」を感じるのは自然なこと。

しかし、私は「こんなに不安ということは、きちんとした商談資料を出張前までに準備できないんではないだろうか」「こんなレベル資料を持っていったら顧客に呆れられてしまう。だからこんなに不安なんだ」など、まさに上に述べたように、不安に次から次と「意味付け」することで、さらに不安を増幅させてしまうことがよくあった。

「不安」を手なづけるスキル

私に限らず、こうした不安の「負の循環」でなかなか仕事に集中できず、結果的に成果が出せない人は想像以上に多い。

難しいのは、こうした心の動きというのは、外からはなかなかうかがい知れないということ。例えば、親身になって部下を指導したいとマネージャーが思っていても、部下が抱えているこの「不安の構造」というのはなかなか紐解くことが難しい。

なので、不安にうまく対処しながら成果を出すために「努力」できる、というのはそれ自体が高度なスキルなのだ。私もこれをうまく身につけるまでかなり苦労した。その経験については一度まとめたいと思っていたので、それはまた別記事で整理したい。

 

スタンフォードのストレスを力に変える教科書 スタンフォード シリーズ

スタンフォードのストレスを力に変える教科書 スタンフォード シリーズ

 

育児と仕事どっちを取る? ジレンマにどう向かい合うか

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育児と仕事に追われる毎日

あらためて強調したいのは、育児と仕事の両立はほんと大変だということ。

私の場合だと、平日は朝は保育園まで娘を送り、夕方6時には会社を飛び出して、奥さんと協力しながら夜ご飯やお風呂、寝かしつけまで慌ただしい。さらに、娘を寝かしつけた後に仕事するけど、頭使う仕事はやはりなかなかしんどくて、結果として仕事は遅れがちになる。

土日も朝からやることはたくさんある。お風呂掃除して、床拭いて、子供と遊んで、夜ご飯作って、お風呂入って寝かしつけて。朝から晩までなかなか気の休まる時はないし、仕事できる時間もほとんどない。

あと数年もすれば子供の手間もかからなくなるだろうけど、我慢、というのもそれはそれで結構疲れるものだ。さすがに40歳にもなると忍耐力はついているけれど、これが20代であれば精神的にうまく捌けなかっただろうなと思う。

幸か不幸か、私はいまはキャリア的に攻める時期でないからいいけれど、もし勝負所だったら仕事と育児のどちらに集中するかの悩みは深かっただろう。

どっちを取るかのジレンマ

ネット含めたメディア上では極端な見解ばかり取り上げられるけれど、仕事と育児のジレンマに苛まれながら、現実的な解を模索してる普通の人の話がもう少し共有されればとは思う。あと、そのジレンマは「結果的に」女性の方が多く抱え込んでることも。

私は別に単純な女性擁護派ではないけれど、自分が仕事と育児の両方を抱え込んでみると「ああこれは素直に言って大変だし、何よりどちらを頑張るかのジレンマに苛まれて精神的に辛い」というのが本音なので、そういう状況に置かれた人への共感がある。

仕事で成果出すには、精神的な壁をどう乗り越えていくか、っていうところが非常に重要な要素になる。強く動機付けされ、襲ってくるストレスをうまく捌けるなら努力をし続けられるし、それが成果に繋がることは多い。

なので、仕事&育児で大変なのは、育児の「マネジメント」で徐々に精神的に削られていくこと。その疲弊が、仕事への動機付けを弱めていき、結果的に仕事のパフォーマンスにも影響してくる。

前職は部下や同僚にお母さんがとても多かったのだけれど、まさにそういう感じだった。今ならその感覚はすごくよくわかる。

超長寿時代に備えて

一方で、育児をきっかけに会社勤めを辞めて、自分の関心に沿ったスモールビジネスを始める女性がいるけれど、これはポジティブな側面と言えると思う。

私は、会社勤めは嫌いじゃないので辞めたりはしないけれど、自分の関心に沿った活動を仕事と並行してするのがいいかなと思い始めている。「ライフ・シフト」での議論のように、人生が非常に長くなっていることへの準備は必要になってくるのは間違いないからだ。

政府もじわじわと本腰あげはじめているし、企業もさすがに対応せざるを得なくなってるけれど、副業やNPO的活動、もしくは趣味など、複線的な活動モデルが理に適ってる時代が日本でも遂にきたんだなと肌感覚として思う。既に成長セクターの企業以外は大きな売上成長は見込めない時代にはいっており、その点からもこうした流れは合理的と言える。

育児と仕事の両立、というのは、そういった時代の変化も含めて、なかなか奥深い論点を含んでいるなと思う次第。

 

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

  • 作者: リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

ビジネスプランを作る上でとても参考になる3冊

最近新しい事業案を色々と考えてるんですが、参考になる良い本がたくさんあるので3冊ご紹介。

巻き込む力

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

 

これは非常に面白くて、資金調達で必要となる事業計画の立案からピッチの作成、投資家へのプレゼン、資金調達でのポイントなどをとてもわかりやすく説明した本。

特に役に立つのは、資金調達に成功した15社のピッチがそのまま載っているところ。

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例えばこれは出会い系アプリのHinge社のピッチ。課題から解決策、競合・市場、そして製品までが分かりやすいデザインで事業の魅力を訴求していることがよくわかる。

なお、同社はこのピッチを使い、合計310万ドルを28名の出資者から集めることに成功している。

また、ピッチのポイントとして「ストーリー」と「デザイン」に焦点が当たっているところも興味深い。

投資家の判断のポイントとして、いかに魅力的なストーリーを持った事業を、説得力のある優れたデザインで伝えるか、が重要ということだ。

優れたストーリーは私たちの内側にある真実を語ります。だからこそストーリーは効果的なのです。

起業家精神とはある意味、再現性のある解決策によって問題が解決されるストーリーをつくり、語ることです。

ピッチ資料を縫い合わせる糸がストーリーなのです。

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

 

ライフネット生命のビジネスプランについて、どうやって作ったかというストーリーから、細部の分析や資料までそのまま載っており、この本もとても参考になる。

岩瀬氏がハーバードMBAで学んだことのエッセンスをまるっと、起業への熱量と一緒に注ぎ込んだ感じの事業案で、132億円を集めたことも頷ける内容。

個人的には特にペルソナについての部分が学びが多かった。ユーザーインタビューをきちんと行い、想定されるユーザー像を細かく性格付けして絞りこんでいく。

創業当初のライフネットは、まさにこのペルソナ通りのユーザーに熱く支持された感じがあり、それは事業案としての完成度の高さゆえだったんだなと思う。

ビジネス・クリエーション!

ビジネス・クリエーション!

ビジネス・クリエーション!

 

 MITの起業家センターで教えており、自らもスタートアップの立ち上げ経験がある著者による本。

起業で必要となるプロセスを24のステップに分解しそれぞれについて、実体験も踏まえてわかりやすく解説がつけられている。

特にMITは多くの起業家を輩出しているため、その事例が常に参照されるのが説得力を増している。

事業を立ち上げるためには、奇をてらったアクションよりも、必要なステップをきちんと一つずつこなしていくことの方が重要だというのが腹落ちする本。

この本を読むと、モデル化と実践が常に行ったり来たりしながら標準的な知見が蓄えられていくところはアメリカの強さだよなと改めて思う。

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どれも面白い本ですのでぜひ読んでみてください!

育児はこうあるべき、という観念から遠いところで

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「牛乳石鹸」炎上の論点とは?

牛乳石鹸のウェブCMが炎上している。

ただ、この件については、インサイトフォースの山口さんのこの指摘につきると思う。

つまり、マーケティング観点が論点だということ。

ポリコレ観点から表現の「正しさ」を査定する、というのはアメリカではよくある観点だけれど、それが社会を覆いすぎるのもなかなかしんどいものがある。

ただ、お父さん側の大変さも理解しつつ、同時にふと思う。やっぱり育児の大変さってうまく伝わりにくいよなと。

育児と仕事に追われながら

この記事(「育児とはマネジメントである」)で書いたように、育児は決して「単純作業」でなく「マネジメント」が求められるため難易度は高い。

意思決定の連続だし、子供の行動は予測不可能なのでそこに対応していると、メンタルは徐々に削られ疲労はどんどん溜まっていく。

結果として、仕事に割ける物理的時間が少なくなることに加え、その疲労感から仕事の意思決定の質が下がってくる。

この負の連鎖は結構しんどくて、私もそこに慣れるまでかなり時間がかかってしまった。

そして、このしんどさに加えて、仕事と育児をどうバランスさせていくのか、という難題が残る。

仕事でキャリアを築いていくには「ここが集中しどころだ」というポイントが確かにある。

そこで質量とも自分の持てるリソースを徹底的に仕事に投入することで大きな成果を得ることができるし、何よりその没入を通じてその後のキャリアの礎となる経験とスキルを身につけることができる。

一方で、子供の成長を近くで見られるのも人生で一回切り。

子供の成長は思ったよりも速い。娘と毎日毎日長い時間を過ごす中で、夜中に泣き止まない彼女を抱っこして、汗だくになりながら部屋中歩きスクワットでグルグル回っていたこと、はじめてごろんと娘が寝返りうった時のこと、「たーたん」と自分を呼んでくれた時のこと、などその時の必死さや感動も含めてすべて生き生きと思い出すことができるし、これは今後の人生で自分を温めてくれる記憶になるなと思う。

仕事も育児も、ここしかない、というポイントがある。

どちらにも同じくらいの熱量を傾けることは、とても、むずかしい。でも、世の中のお母さん(そしてお父さんも)は、その両立の困難さに毎日くらくらしながら、自分のその時の精一杯を傾けて育児と仕事に向かい合っている。

社会はこうあるべき、という観念から遠いところで。

日本のビジネス界で仕事の標準化が好まれない理由

標準化を好まない理由

日本のビジネス界では標準化が好まれない、というのは興味深い特徴で、大企業からスタートアップまで、自分だけ、もしくは自社だけのやり方を見つけ出そうとする傾向がとても強い。

例えば、業務を標準化してインドや中国などにアウトソースしていくBPO市場を見てみても、日本は米国に比べてGDPに占める割合が非常に小さい。

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出所: HfS Research 「State of the Outsourcing Industry 2013」

なぜだろうか。

もちろん理由はひとつではないけれど、やはり雇用モデルがメンバーシップ型であることは大きい。メンバーシップ型では、仕事の役割や範囲が明確に定義されることは少なく、結果として仕事で「自分なりの」やり方を見つけ出して成果を出すことに価値が置かれやすい。

仕事は自分の「表現」

そして、さらに重要なのは、そうした仕事のやり方における「個性」がアイデンティティの拠り所になっている、という心理的な要素。つまり、仕事それ自体が自分自身の「表現」になっているのだ。よって、日本では自分なりの「創意工夫」を仕事に込めようとしている人は多い。

これは、あらかじめジョブ・ディスクリプションという形で作業内容が定義されている欧米で主流となっているジョブ型では起こりにくい。私もアメリカ企業で長く働いているけれど、そこで重要となるのは、あらかじめ定義された職務内容の範囲でいかに「成果を出すか」が焦点。なので、付加価値が出しにくい定常業務はさっさと標準化してオフショアにアウトソース、というのは日常的な光景になっている。

対して日本の場合は「アイデンティティ」という繊細な部分と紐付いているので、業務の標準化に対する反発は想像以上に大きい。ERPの導入や業務改善のプロジェクトに関わったことのある人ならば、この「現場の反発」は一度は経験していると思う。

そこでは、仕事のやり方を変える、とか、効率化する、という話が簡単には受け入れられずに「自分の存在が脅かされる」という感じで情緒的に反対する人が実務の現場では結構多い。

AI時代にどう適応していくか

ただ、強調したいのは、標準化の推進について、欧米と日本のどちらが良いかとは一概に言い切れるわけではないということ。

日本企業における「自分のやっている仕事が自身のアイデンティティと紐づく」という特性は、仕事での日々の創意工夫につながっており、それは日本企業の「現場の強さ」や「思いがけないイノベーション」を生み出す源泉になっていると言える。

つまり、主に財務的側面から業務を標準化して経営変革すればいっちょあがり、という訳にはいかず、それが経営力を弱めるリスクもあるのが注意すべき点。これはAIの導入やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)に日本企業がどう向かい合うか、というテーマにつながり、今後も日本企業の経営で重要な要素となるだろう。

 

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

 

オープンハウスとライフネット生命 ー マーケティングにおける「感情」とは?

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 オープンハウスが喚起する「感情」

先日オープンハウスという都心で戸建て住宅にフォーカスして業績を伸ばしている企業についての記事を読んだ。これが面白かったのでご紹介。 

このインタビューで、荒井社長が語っているこの部分は非常に面白い。

荒井: 買うモノがあるということが大きいです。家は感情で買います。ロジックでは買いません。偉そうなロジック型の営業担当から家は欲しくないでしょう。上から最もらしいこと言われるよりも、下から気持ち良くさせてもらいたいのが人間の本能です。

不動産に関して、究極的に顧客にとって営業マンは関係なく、場所と価格なのです。そこに良い商品を提供すればいい。あとは営業マンが信頼できそうかだけ。(強調引用者)

 私も昨年家を買ったのだけれど、その経験からするとこれはすごく頷ける。まさにポイントは「感情」。

というのも、普通のサラリーマンにとって住宅ローンは金額が大きすぎて、ロジックの積み上げではなかなか決断できない。

なので、結局「家族を喜ばせたい」とか「家を自慢したい」みたいな「感情」が伴わないと最終的な意思決定に至らないからだ。

考えると保険もそういうタイプの商品で、合理的な計算よりも「自分が死んだら家族が心配」や「資産運用とか難しいから任せたい」という感情が全て。

そこに多少強引にでも寄り添う生保レディモデルによる営業が機能したのは、上記のオープンハウス社長の観点からもよく理解できる。

ライフネット生命の苦戦

そこで頭に浮かんだのはライフネット生命。彼等は、生保レディに象徴される既存の保険営業を否定し「合理的」な意思決定をアピールした。

これは新鮮な切り口だったし、私も創業者二人の理念や理想に共鳴し、創業当初のセミナーに足を運んだくらいだった。実際彼等はソーシャルを最大限活用したマーケティングに成功し、一気に加入者を増やし上場まで事業を持っていった。

しかし、今振り返ってみると、そうした初期の加入者は「創業者の理念や格好良さに共鳴する先進的な自分」という「感情」が意思決定の肝だったかなと思う。

私もまさにそういう気持ちだった。ただ、そういうやや入り組んだ「感情」は市場が狭い。結果として、ここ数年は契約数が伸び悩み、株価も上場時の半値以下に低迷している。

オープンハウスに話を戻すと、彼等の営業はほんとうに「しつこい」。

私も一度物件の問い合わせをしたことがあったのだけれど、その後の営業攻勢は徹底していて、夜にも平気で電話かけてくるし、電話はやめてくれといったら毎日ひたすらメールを送ってきた。

ただ、いま振り返ると家を買う時(オープンハウス以外から購入)のポイントは、まさに「場所」と「価格」の掛け算だったし、自分が家を買うんだ、という今思うと不思議な「高揚感」がそこにセットになって購買に至った。

そのことを振り返ると、オープンハウスの営業攻勢は、一見時代遅れな根性主義に見えるけれど、人が物を買うという行為に対して「合理的」といえるのではないか。

こうした観点からは、この田端氏の記事は非常に示唆的なので最後にご紹介。

特に以下に引用する部分はとても頷ける見解だと思う。

マーケティングとは何かっていうことをビジネス的に考えるのもいいけど、僕はマーケティングってもっと下世話なものだと思っていて。欲望を扱うものだと思うんです。

何が言いたいかというと、みなさんはコンビニに行って、『お〜いお茶』か『伊右衛門』か、どちらを買うかを必ず決めている人って少数派じゃないですか、何となく選んで買いますよね。
断言しますけど、今の消費行動の8割くらいは、実は消費者自身がなぜそれを選んだのかがわかっていない。
後づけで自己正当化することはあっても、買う時には無意識に決めているんですよ。その無意識の深層心理にどう訴えかけるかというのも、マーケティング。
だから、自分自身の行動をよく観察したり、自分自身の心の中の汚い部分とかどす黒い部分、せこい部分や嫌な部分を観察することがすごく大事ですね。