グローバル経営の極北

グローバル経営を考える「素材」を提供します

休職していた時のこと

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僕が体調を崩して休職していた時のこと、毎日朝食を食べて妻を送り出した後、10時くらいに近所の市民センターのジムに通っていた。築30年以上の古びた建物で、エレベーターはごとんという音を立ててゆっくりと上昇していく。ジムは3階にあり、一回300円。

市営ということもあり、設備はどれも古かった。最低限の機能だけがついたランニングマシンが3台並んでいて、いちばん右側の機械にはたいてい「故障中」と書かれたわら半紙が貼られていた。

印象的だったのは受付の男性。おそらく20代後半で身体はがっちりしているけれど、顔色は悪く陰気な印象を他人に与えるタイプ。彼に券売機で買ったチケットを渡すと、顔色ひとつ変えずに「2時間です」とだけいつもぼそっとつぶやいた。

休職中の平日はほぼ毎日このジムに通っていたのだけれど、この受付の男性の対応は全く変わらなかった。こちらのことを覚えていない、というか、そもそも関心がない様子だった。

でも、僕にとってはこういう素っ気なさ、というか無関心がありがたかった。30歳を越えた男が平日の午前から街を歩くというのは、自意識過剰ではあるのだけれど、どうしても人の目が気になった。

でも、このジムの男性は、そんなことはどうでもいい感じだった。いつも無表情で感情の変化が読み取れない。毎日チケットを受け取り「2時間です」とだけ呟く。そこに意味を感じさせない、ただ淡々としたやり取りで済むことがありがたかったし、だから毎日欠かさず通うことができたし、余計なことを考えずに身体を動かせたことはとても良かった。

ジムの真ん中には大きなマットが引いてあり、大型のテレビが一台置いてあった。僕がランニングマシンで走り、筋トレも一通り終えて、そのマットでストレッチしていると、テレビではいつもワイドショーが流れていた。

その時間に市営のジムにいるのは、ほとんどが老人で、僕の横でぼんやりとした顔をしながら同じテレビを見つめ、骨が浮き上がった腕や足をゆっくりと伸ばしたり曲げたりしている。

老人たちの虚空を見つめるような表情を横目に感じつつ、僕はいつもイヤホンで音楽を聴きながら身体を動かしていた。決して大きくないジムスペースだったが、大きめに作られた窓から入ってくる光を頬に感じる。

そして、その頃の僕はいつも、なぜここにたどり着いたのだろうと、過去に自分の取った行動やその結果起きたことを反芻しながら考えていた。それは「後悔」というものとも少し違っていて、仕事や私生活で自分が「下した」意思決定の連鎖が自分をどうやってここまで連れてきたんだろうと、しつこく考え続けていた。

それぞれの場面では、自分なりによく考えて決断したこともあれば、場の雰囲気に流されてなんとなく決めてしまったこともある。でも、不思議なのは、そのいろいろな形でなされた意思決定の連なりの結果として、いま自分がここに辿り着いている、というのがピンとこなかったことだった。

まるで「平行世界」に迷い込んでしまったかのように、自分がその場面にいることの根拠みたいものが揺らいでいた。

いま振り返れば、きっといろいろな感情を「閉じ込めよう」としていたのだろうと思う。休職に至るまでに、辛いことも多かった。抑えのようのない怒りと、それを許さない状況。いくら悲しくてもそれをうまく表現できないもどかしさ。

それらをうまく消化する技術も気力もなかったので、そこは「とりあえず」蓋をして、過去起きてしまった「こと」に対して、執拗に、けれど意味付けせずに反芻していたのだろう。

ジムに通い始めて数週間が経った頃、いつものように一通りのトレーニングとストレッチを終えて出口に向かおうとすると、あの受付の男性がにんまりと笑っていた。無機質なジムの空間に、いつも感情をどこかに置いてきたような顔をしたあの男が。その笑顔は僕の記憶に鮮明に焼き付けられていて、その頃のどこかに「迷い込んでしまった」ような感情とセットで時々思い出すことがある。

 

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2017年読んだ本「番外編」

おかげさまで「2017年に読んだ本ベスト20冊はこれだ!」は、多くの人に読んで頂き嬉しいです。

ベスト20には入れませんでしたが、積ん読中だったり、入り切らなかったもので面白かった本も紹介してみます。

 

統計学が最強の学問である[数学編]

統計学が最強の学問である[数学編]――データ分析と機械学習のための新しい教科書

統計学が最強の学問である[数学編]――データ分析と機械学習のための新しい教科書

 

ベストセラーとなった「統計学が最強の学問である」シリーズの最新刊で、テーマは「データ分析と機械学習のための数学」。まだ読み始めたばかりだが、三角関数、行列、微分・積分などをどう学び、データ分析と機械学習に応用していくか、が分かりやすく整理されており有益そう。

 

データ・ドリブン・マーケティング

データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標

データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標

 

「アマゾン社員の教科書」は強力なキャッチコピーで、データをもとにしたマーケティングを実施する上で重要な指標を15にまとめて解説しており有益。

 

人材覚醒経済

人材覚醒経済

人材覚醒経済

 

 経済学者による、日本企業の「無限定正社員システム」が時代の変化についていけておらず、「ジョブ型」への転換が生産性拡大などの鍵になると論じた面白い本。

 

サーチ・インサイド・ユアセルフ

サーチ・インサイド・ユアセルフ ― 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法

サーチ・インサイド・ユアセルフ ― 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法

  • 作者: チャディー・メン・タン,一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2016/05/17
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログを見る
 

Googleで「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」という、マインドフルネスにもとづくEQカリキュラムをリードしている著者による本で、非常に実践的なので勉強になる。

 

ウェルビーイングの設計論

ウェルビーイングの設計論-人がよりよく生きるための情報技術

ウェルビーイングの設計論-人がよりよく生きるための情報技術

  • 作者: ラファエル A.カルヴォ& ドリアン・ピーターズ,渡邊淳司,ドミニク・チェン,木村千里,北川智利,河邉隆寛,横坂拓巳,藤野正寛,村田藍子
  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2017/01/24
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (1件) を見る
 

「ポジティブ・コンピューティング」という、テクノロジーを人間の活力や幸福にどう繋げていくか、という試みを包括的に整理した本。マインドフルネスはじめ、フロー、認知行動療法、レジリエンスといった最近話題のキーワードを掴むのに良い。

 

昔話と日本人の心

昔話と現代〈〈物語と日本人の心〉コレクションV〉 (岩波現代文庫)

昔話と現代〈〈物語と日本人の心〉コレクションV〉 (岩波現代文庫)

 

ユング派の心理療法家で「箱庭療法」でも有名な河合隼雄による、日本の「昔話」から日本人の精神構造を読み解こうとする試みの本。「物語」はいまの自分の大きなテーマなので、少しずつ読んでます。

 

サブスクリプション・マーケティング

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

 

IaaS, SaaSなどソフトウェアでは当たり前になりつつあるサブスクリプションモデルが、単なる昔からある「月額課金」というのでなく、「顧客の時代」に対応したモデルであることを、分かりやすくまとめていて有益。

 

戦争中の暮らしの記録

戦争中の暮しの記録―保存版

戦争中の暮しの記録―保存版

 

「暮らしの手帖」編集部による戦時中の庶民の生活や声を、まさにありのままにおさめた記録で、東京大空襲時に両親を失った子供による手記に溢れる痛切な思いなど、戦争とはなんなのか、を改めて真剣に考えさせてくれる素晴らしい本。

 

挑戦者たちに学ぶデジタルマーケティング

挑戦者たちに学ぶデジタルマーケティング

挑戦者たちに学ぶデジタルマーケティング

 

様々な業界や商品、サービスのデジタルマーケティングの事例を分かりやすく整理した読んでいて楽しい本。宇宙兄弟やサイボウズ式、福岡市動物園、帝京大学ラグビー部、など幅広いです。おすすめ。

 

奈良美智の世界

ユリイカ 2017年8月臨時増刊号 総特集◎奈良美智の世界

ユリイカ 2017年8月臨時増刊号 総特集◎奈良美智の世界

 

もう奈良美智は本当に大好きなんですが、これは彼のルーツを辿れるインタビューがたくさん載っていて良かったです。そのコアの精神が「ロック」なんですよね。

 

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2017年に読んだ本ベスト20冊はこれだ!

いよいよ2017年も終わりに近づいてきました。今年「読んだ」本で面白かったものを20冊一気に紹介したいと思います。どれも面白いので順位はなく、また今年の出版でないものも含んでいますのでご注意を。

経営・組織論、起業/事業開発、データ分析やPython、脳科学、物語・神話論、などいまの自分の関心がこうしてまとめてみるとよく表れているなと思います。

皆さんの年末年始の読書の参考になれば嬉しいです!

Airbnb Story 

Airbnb Story

Airbnb Story

 

 会社を立ち上げる時の興奮と不安の両方を、丁寧な取材で見事に描き出している元気の出てくる本。事業が成長していく過程で不可避の、社会や制度との軋轢に、創業者達が「創業の理念」をもとにどう向かい合ったのかも描かれているのがさらに良い。また、「中間層のための居場所を作る」というメッセージが米社会の「分断」と合わせると非常に示唆深い。

 

起業の科学 

起業の科学  スタートアップサイエンス

起業の科学 スタートアップサイエンス

 

 複数の起業経験を持ち現在VCに在籍する著者が、起業に求められるプロセスを分かりやすく整理した良書。顧客の課題にフォーカスし、アイディアを磨きながらプロダクトを作り、事業プランに落とし込むまでを、ペルソナ、リーンキャンパス、ジャベリンボード、MVPなお馴染みの手法を使いながら説明しているので、非常に実践的。

 

リーダーの現場力

やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力

やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力

 

ミスターミニット社長の迫氏の「現場主導」の経営変革を、自らの熱い「思い」と精緻に積み重ねた「論理」を組み合わせながら、どうやって成功に導いたかをリアルに描いた本。ベンチャー企業の「マザーハウス」からファンド経由で同社に飛び込み、社長に抜擢されてから「リーダーとはなにか」という本質を模索しながら格闘していく様がとても熱く勉強になる。

 

会社を立て直す仕事(2016年初版)

会社を立て直す仕事-不振企業を蘇らせるターンアラウンド- (B&Tブックス)

会社を立て直す仕事-不振企業を蘇らせるターンアラウンド- (B&Tブックス)

 

マッキンゼーのパートナー後アスキー、カネボウをCEOとして経営変革を成功させた著者の「ターンアラウンド」の手法を2社の変革事例を踏まえて方法論化した本。「自律的な課題解決ガバナンスの確立」がターンアラウンドの要諦で、それに向けてどうやって体系的に変革を実行していくかを学べる良書で、私も日々の仕事でよく参照している。

 

データ分析の力

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

 

シカゴ大経済学部の教員による今年とても話題になった本。因果関係、というのはビジネスで重要視されつつ、実は「雑な」形で使われることが多い。それに対して、因果関係分析に使われる手法について、分かりやすく具体例と最新の研究成果をもとに説明されており勉強になる。ウーバーとシカゴ大の経済学者が協同して、需給に合わせた最適な価格設定モデルを検討した事例などは非常に興味深く、ビジネスの実務家もこうしたデータ分析の専門家と連携していくノウハウが必要な時代になってきていると言える。

 

退屈なことはPythonにやらせよう

退屈なことはPythonにやらせよう ―ノンプログラマーにもできる自動化処理プログラミング

退屈なことはPythonにやらせよう ―ノンプログラマーにもできる自動化処理プログラミング

 

 Python覚えたい!と思うけれど、プログラマーでないとなかなかきっかけが掴めない。この本は、Pythonを覚えてエクセルなど普段の作業を「自動化」しよう!という素敵なテーマで、ノン・プログラマーが普段の業務でどうやってPythonを使えるかを学びながら、その基礎を身につけることができるとてもありがたい本。私もこれで少しずつ学んでいます。

 

アルゴリズム思考術

アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール (早川書房)

アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール (早川書房)

 

これも非常に面白い本。コンピューター・サイエンスの視点を日常生活に導入し、「アルゴリズム」で最適な解を導き出せるとして、最適停止、探索と活用、ソート理論、スケジューリング理論、ゲーム理論などなど様々な道具立てを紹介しながら、部屋探しからオフィスの整理、最適な時間の使い方まで具体的な活用例を説明していく。最近は行動経済学で人間の「非合理」な行動についての説明がなされることが「ブーム」になっているが、「アルゴリズム」視点から人間の認知のモデルについて示唆を与えてくれるという意味でも興味深い。

 

脳の意識 機械の意識

脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦 (中公新書)

脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦 (中公新書)

 

脳神経科学者の著者が、「意識」とは何か、という課題に脳神経科学の学説史を丁寧に追いかけ、それぞれの実験のポイントや意義まで踏み込みながら、どうやって「意識」に迫ってきているかを説明した本。正直細かい実験のロジックをきちんと理解するのが困難な部分はあるし、「意識の自然則」に「情報の統合理論」をもとに迫る本書の肝の部分もなかなか難しい。。ただ、「意識」の研究を概観するにはもってこいだし、まさにこれこそ「新書」の役割と思う。

 

騎士団長殺し

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

やはりこの2冊は外せません。 私にとって村上春樹は「文体」の作家で、この長編はより徹底的にその部分に拘った作品。なので、1Q84で見せたようなストーリーが「ドライブ」していく感覚は少なく、第1部は正直「退屈」に思える部分があったのは事実。ただ、その「助走」があったからこそ、第2部の後半の「描写」は圧倒的で、お馴染みの「壁抜け」からの帰還、という部分も過去と違う迫力を持っており、何度か読み返したいと思わせる出来だった。

 

みみずくは黄昏に飛び立つ

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―

 

これは本当に素晴らしい本。川上未映子による村上春樹のインタビュー集なのだけれど、入念に準備された上で投げかけられる質問が見事で、村上春樹もそれに真摯に応えている。村上春樹を世界作家たらしてめているのはその「神話性」にあるけれど、それを「地下二階」の比喩をもとに改めて対話している点が非常に興味深い。また、文体の重要性、フェミニズム、完成までの改稿、といったテーマも、川上未映子が作家であるが故に深いところまで語られているし、何度も読み返したくなる深い内容。

 

ブッダのことば(1958年初版)

ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)

ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)

 

育児と仕事に毎日追われると本音はやはり疲れますよね、みなさん!私もそうでした。ということで、通勤途中にこれを読みながら、ささくれだった心を静めることを習慣にしていました。

「自分を苦しめず、また他人を害しない言葉のみを語れ。これこそ実に善く説かれたことばなのである」

「聖者の説きたもうた心理を喜んでいる人々は、ことばでも、こころでも、行いでも、最上である。かれらは平安と柔和と瞑想とのうちに安立し、学識と智慧との真髄に達したのである」

 

ザ・ラストマン(2015年初版)

ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」 (角川書店単行本)

ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」 (角川書店単行本)

 

瀕死の日立を大胆に変革した川村氏の「仕事論」をまとめた本。日本の大企業は特に社内のステークホルダー関係が複雑に絡み合っており、その変革は「抵抗勢力」との激しい闘いになる。「自分の後ろに誰もいない」と考え、「自ら」決めて実行する。言うのは簡単だけれど、日立という超大企業の経営変革でこれをやり遂げた人の言葉なので、そこから強い信念と透徹した思考、そして何より「凄み」を感じて震える。

 

やり抜く力(2016年初版)

やり抜く力

やり抜く力

 

「仕事の質を決めるのは最後まで諦めずにやりきれるか」 という、仕事で経験を積んできた人なら誰もが頷くポイントを、研究成果をもとにきちんと論じていて、さらに実践的なヒントや事例も多く紹介されて参考になる本。興味や熱意を持って仕事することが成果を出す近道、とは最近あちこちで言われることだけれど、それを体系的にわかりやすく整理しているので、一度読んでおくと良いかと思う。

 

スクラム(2015年初版)

スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術

スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術

 

ソフトウェア開発では最近常識になりつつある「スクラム」の手法。この本はその手法について、なぜウォーターフォール型の「最初に」計画を立ててプロジェクトを進める手法がうまくいかない時があるかを説得力ある形で示した上で、スクラムの手法を分かりやすくその本質も含めて紹介しており勉強になる。システム開発に留まらず、広くホワイトカラーの働き方に示唆がある。また、「スクラム」が、トヨタ生産方式の考え方に多くのヒントを得ているというのも面白いところ。

 

生涯投資家

生涯投資家 (文春e-book)

生涯投資家 (文春e-book)

 

「村上ファンド」の村上氏があの渦中で何を考え、何を狙っていたのかを自ら語った本。正直やや「ブレーキ」を利かせながら語っているなと思うところもあるけれど、日本のビジネス界に「コーポレート・ガバナンス」を持ち込むことこそが日本を良くする、という強い信念を持って活動していことが強く伝わってくる本。日本の経営について考える上で一読しておくことをおすすめ。

 

ヒルビリー・エナジー

ヒルビリー・エレジー?アメリカの繁栄から取り残された白人たち?

ヒルビリー・エレジー?アメリカの繁栄から取り残された白人たち?

 

製造業の衰退により荒廃したアメリカの中西部「ラストベルト」出身の著者が、そこで実際に何が起きているか、を自らの人生を語りながら描き出していくメモワール。暴力が日常となった生活、麻薬から抜けられない母との思い出を執拗に描きながら、イェール大ロースクールに進学しエリート層の仲間入りしながら、この「原体験」の意味を問いかけ続けざるを得ないその筆致に惹きつけられる。アメリカの「分断」を個人の体験から浮かび上がらせ、全米でベストセラーとなっており、トランプの当選をはじめとして今アメリカで起きていることの本質を理解する上で助けとなる。

 

物語の法則(2013年初版)

物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術

物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術

  • 作者: クリストファー・ボグラー,デイビッド・マッケナ,府川由美恵
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2013/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「個人の時代」においては、ビジネスでも「物語」が重要である、というのは最近非常によく語られていること。ハリウッドの創作のプロが、その手法を「方法論」としてまとめたこの本はとても学びがある。「ヒーローズ・ジャーニー」のモデルは仕事だけでなく、キャリアを考える上でも示唆がある。経営においても、優れたリーダーは、日常から非日常への旅路、そこでの試練、大きなチャレンジを乗り越えての勝利、日常への帰還、といった「物語」をうまく「演出」することが巧みであり、物語論を参照することはビジネスでも価値があると言える。

 

新しいメディアの教科書

新しいメディアの教科書 (Kindle Single)

新しいメディアの教科書 (Kindle Single)

 

BuzzFeedなど勃興するアメリカの「デジタル・メディア」の戦略や施策について分かりやすく整理している良書。BuzzFeedが自社の分析ツールに大きく投資をしており、SNSを通じた情報流通を定量的に捉えた上で、様々タイプの記事を「ポートフォリオ」として戦略的に生成している、というのは非常に興味深い事例だった。SNSをはじめとして我々の日常にこうしたメディアは欠かせなくなっており、その最前線の動きを知ることができるこの本は価値がある。

 

世界神話学入門

世界神話学入門 (講談社現代新書)

世界神話学入門 (講談社現代新書)

 

そして最後の1冊。これはまだ読み始めたばかりだけれど、非常に面白いので紹介。世界の神話は「ゴンドワナ型神話」と「ユーラシア型神話」の2つのグループに分けられ、それぞれの神話型の伝播が、DNA分析によってホモ・サピエンスの大陸移動の軌跡と合致している、とする「世界神話学」を説明し、各地の神話を紹介しながらその類似性や特徴を論じていく魅力的な本。物語、神話といった要素には個人的に強い関心を持っており、年末年始にゆっくりと読みたい本。

 

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朝5時起きで弁当作る「ワーママ神話」からいかに逃れるか

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あの頃は辛かった。。

娘も2歳4ヶ月。すっかりおしゃべりできるようになって、毎日とても楽しい。子供と言葉でコミュニケーションすることが、こんなに楽しいものとは思わなかった。

1歳のころは毎週のように熱を出して会社休んで病院連れていったり、道の真ん中でいきなり癇癪を起こして泣き出す娘をオロオロとしながらあやしたり、毎日6時に帰宅して育児と家事を奥さんとなんとか片付けて、皿洗いが終わった後に床でそのまま夜中まで寝てしまったことも数えきれないほどあって、毎日ヘトヘトになっていた。

この頃は本当に疲れ切っていて、毎日重い体を引きずりながら会社にいって、寝不足と疲労で仕事にも集中できず、生産性は著しく低かった。イライラしてコミュニケーションが雑になり、それが問題を引き起こしたこともあった。娘が産まれる前は、常に高い質とスピードで仕事を進めることを心がけて、主導権を常に握ることで成果を出していたので、その落差に我ながら愕然とすることもあった。

で、思ったのは、仕事と育児の両立無理ゲーすぎ、ということ。これが嘘偽りない本音だった。でも、世の中にはスゴい人がいる。スゴすぎる人が。。

「ワーママ神話」を越えて

それが、AERAなどにインタビューを受けるようなワーママ。彼女たちは「外資系役員で、ワンオペで、子供寝たら夜中まで仕事して、朝は5時に起きて弁当作って、大変ですけど充実してるし何より子供の笑顔に癒されます」みたいな、言葉は悪いが「パラノイア」気味の人だったりする。

で、このことをツイートしたら、いいね4000を越えるなど大きな反響があった。

多くの人から貰ったのは「こういうワーママを目指さなければいけないとプレッシャー感じてました」とか「育児と仕事の両立を完璧にやらなくてはと頑張りすぎて体壊しました」といったコメント。

そうなんですよね。他人は他人、なのについそういう「極端な」ケースに目が行ってしまって、自分のペースを乱したり、過剰に頑張りすぎてしまう。私も同じようなプレッシャーを知らず知らずのうちに感じていた。

育児に限らずなんでもそうだけれど、他人のことは参考程度にして、とにかく自分なりにやれることをやる、高望みしない、というのがとても重要と改めて思う。特に、育児&仕事の生活を乗り切る上では特に重要な指針だなあとしみじみと。

あと「スーパーワーママ」も実際は、実母や夫の手厚いサポートあるからできてるよ、というのもリプライで頂いた。まさにそうで、家庭内のことは他人からは結局窺い知れないし、メディアにでるのはその上澄みの、しかも分かりやすく刺激の強い部分に過ぎない。

「個人として」どうしたいのかを自分に問いかける

このことで思い出したのは、よく言う「プロは環境のせいにしない」っていうやつ。育児を言い訳に仕事の質落とせない、的な雰囲気は、特に日本の職場だと色濃い。でも、育児中、特に子供が小さい時は仕事の質は明らかに落ちるので、少なくとも「自分には」カッコつけず「あっこりゃだめだ、諦めよ」って素直になるのが大事かなと考えを切り替えている。そうやって「いい意味で」言い訳しないと潰れるというのが身にしみて分かったので。

結局のところ、なんでも自分が当事者として経験しないとほんとのところは分からないので、育児と仕事の両立は大変だけど学びはすごいある。会社に「依存する」のでなくて、会社を「活用する」とはどういうことか。個人としてどう生きれば幸福そうか、など、リアルな経験から本質的な部分を考えられるので。

結局のところ、頭だけで「育児と仕事の両立」なんて考えていてもどこにも行けなくて、状況に放り込まれて必死になってはじめてその意味するところが分かってくるのだなと改めて思う。

日本(と言い切ってしまうけれど)はどうしても「組織」を「個人」に優先させてしまいがちなところがある。私もその傾向は強い。それがこの国の治安や秩序を保ってる側面もあるので、一概に否定すべきものではないけれど、やはりそろそろそこから少しずつでも「個人としてどうしたいのか」をまず考える方向にずらしていかないとなのかなと思う。

そしてそれは、例えばネットの有名人が主張する「日本人こうすべき」といった教条的なべき論でなくて、我々一人一人が、自分自身の心に問いかけて「自分はこういう道を歩んでいきたいんだ」と自分の言葉を見つけていくことから始まるのではないだろうか。育児と仕事で充実と疲労を行ったり来たりしながら、私自身自分に日々問いかけている。

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「スゴい」CEOの3つの特徴とは?-マッキンゼーによる600名超のCEO調査より

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マッキンゼー・クォータリーの今年の人気記事で第二位になっていたこの記事。2004年から2014年の期間に在任した、S&P500企業のCEO600名超をマッキンゼーが調査し、傑出した業績を挙げた「スゴい」CEOの特徴を3つにまとめている。

なお、この調査では「スゴい」CEOを、在任期間中に株主へのリターンを+500%以上に高めたCEO、と定義している。

外部からの登用

1つ目の特徴は「外部登用」。以下のグラフが示すように、「スゴい」CEOのうち45%は「社外からの登用」だった。それ以外のCEOグループでは22%が外部登用で、78%と大半は「内部昇進」だった。

ここから著者は、外部登用者は、今までの会社の「しきたり」や「慣習」にとらわれない、新しい考え方を組織に持ち込める点でメリットがあるとまとめており、これは頷ける視点。

Exceptional CEOs are twice as likely to have been hired from outside the company.

戦略的なアクション

2つ目の特徴は、戦略的なアクションの重要性。就任後2年以内に「戦略レビュー」を実施した比率は、「スゴい」CEOグループで、調査全体の平均より58%も多かった。

CEOs with exceptional track records are more likely than others to conduct a strategic review early in their tenure.

これは外資系にいると頷けるところがあって、CEOでなくても、私が見てきた優れた事業責任者は、就任後まずできる限り多くの人に会って、数字を徹底的に読み込んで、そこからできあがってくる方向性の素案を社内外の専門家とディスカッションし、最終的に戦略的な方向性が明確な幾つかの指針を出していた。

この論考でも指摘されているが、こうした「戦略レビュー」を実施するには、多くのリソースを割く必要があるし、コスト削減などと比べて即効性があるか確信できない部分もある。

その意味で、まず戦略についてきちんと考えられるところから始められるCEOというのは、それだけの胆力と経験を持っていると言えよう。

組織をいじりすぎない

3つ目の特徴は、「イケてる」CEOは意外にも組織を「いじっていない」ということ。上に挙げたものと同じグラフでわかるように、組織の再デザイン(Organizational Redesign)に手を付けた比率は、全体と比べて48%も低い。

CEOs with exceptional track records are more likely than others to conduct a strategic review early in their tenure.

本論考の著者の仮説としては、「イケてる」CEOの会社は組織をいじるほど低業績に喘いでいなかったこと、次に「イケてる」CEOは外部登用が多く、まず戦略の立案からスタートしているため、その体制が整ってから組織に手を付けていったのでは、という優先順位の点、の2つを挙げている。

これも私の経験からは頷けるところがあって、優れた事業責任者が外部から登用された時は、まず「色眼鏡」無しに様々な人の話を公平に聞いて、その上で判断する傾向がある。その上で、明らかに組織の「癌」となっている人はすぐ外されたりすることもあるけれど、基本的には現有の戦力のポテンシャルを信じて、正しい「方向づけ」をすることで実績をあげようとする人が多い。

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あのザッポスCEOが語る「自律型」組織とは?

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革新的な経営で知られる靴のネット通販ザッポスのCEOトニー・シェイが、自社の「自律型」の組織運営について語っているインタビューがマッキンゼー・クォータリーに載っていて、とても示唆があるので訳してみた。

最近流行りの「ホラクラシー」という、上司や部下という階層構造を無くした、フラットな構造で役割ベースの組織運営が最近良く語られるけれど、この文脈も踏まえつつ、ザッポスの「自律型」組織運営はどういうものなのかが語られていると興味深い。

(以下翻訳中の強調は筆者によるものです)

「自律型」組織とは?

マッキンゼー:「ホラクラシー」はザッポスにとってどんな意味をもっていますか?

トニー:みんな「ホラクラシーとは何か」「どんなツールを我々が使っているのか」といった「テクニカル」な部分に目が行き過ぎてるかなと思いますね。私達が社員にいつも言ってきたのは、自分が「情熱を燃やせるもの」「得意なもの」そして「会社に価値を提供できるもの」がうまく「交差する」ところを探しながら仕事しようということで、これは実は昔から変わってないんですよ。

 個人的には、「ホラクラシー」という言葉で、以前から私達の文化に組み込まれていたものを改めて再確認している感じです。親切な上司やCEOに依存するのだけは避けないとダメなんです、だってそれが失敗の元凶ですから。従業員自身が組織の中で自由に動き回ることが重要なんです。

私達の組織図はリアルタイムにオンラインで確認できますし、一日に50回は変わります。1500名の社員全員が、他の人がどんな目的を持って、責任を担っているかを誰でも見られるようにしているんです。つまり、「自律型」の組織運営の手法や会議が日常的に組み込まれていて、全てオンラインで完結します。ポリシーの策定ですら、全ての従業員がオンライン上で参加して、組織を「作り上げていく」ことに貢献できるようになっています。なので、「ホラクラシー」というより「自律型組織」といった方が正しいかなと思います。

「都市」は優れた自律型のシステム

マッキンゼー:会社が「自律型組織」で、CEOに依存してはならない、となると、どうやって会社の方向性を位置づけていくのですか?

トニー:植物を育てている「温室」を想像してもらえばいいと思います。それぞれの「植物」が従業員です。普通の会社だと、CEOが一番高くて、強くて、皆がいつかそうなりたいと仰ぎ見る「植物」ですよね。うちの会社だと違うんですよ。ここでの私の役割は温室の「設計者」です。全ての「植物」がきちんと「花咲く」ように、最適なコンディションが保たれるように注意を配るんです。

「都市」もいい例ですね。都市は人間が作り上げた組織のうち「時の試練」に耐えてきたもので、「会社」より古くからあります。そして、再生する力(レジリエント)や適合していく力も持っている。さらに、会社に比べて「階層的」でもない。

どこかで読んだんですが、マンハッタンではどこでも、文字通り3日分の食料が流通しているそうです。中央にその計画を立てる存在はないのに、です。代わりにそこにあるのは、消費者や働いている人が、自律的に「自分が好きなように」食料を消費していて、それが供給する側に「機会」を与えているわけです。なので、もし自然災害があっても、その自律的システムはうまく機能して、橋が倒壊したとしても、マンハッタンでは食糧不足は起こらない。

 都市は時の試練に「耐えてきた」だけでなく、生産性やイノベーションという点でも大きな実績があります。一つ面白い数字があるんです。都市のサイズが2倍になると、住民当たりのイノベーションや生産性は15%増える。一方で、会社の場合は、逆です。大きくなればなるほど、官僚的になって従業員のイノベーション力は落ちていく。

都市の首長は、住民に「これをやりなさい」とか「ここに住みなさい」とか言いません。都市が提供するのはインフラです。水道、電気、下水処理などの。あとは守るべき基本的な法律ですね。で、多くの場合、都市が成長してイノベーションを引き起こすのは、住民や企業などの組織が「自律的に」活動した結果なんです。

ザッポスを支える3つのコア

マッキンゼー:ザッポスの核となる「規範」はなんですか?

トニー:その点について言うと3つの異なる「柱」があり、それがザッポスの基盤となっています。常にそれらがきちんと機能しているかに気を配ってるんです。

1つ目は文化と価値観(Value)です。他の企業も我々の価値観を取り入れるべき、といってるわけではないです。ある研究によると、面白いことに価値観「それ自体」が重要なのでなくて、きちんとそれを定めて、そこにコミットし、組織全体にきちんと紐付けることが重要なんです。つまり、その価値観にもとづいて人を雇ったり、あるいはクビにしたりする。大半の大企業は、「コア・バリュー」や「基本理念」といったものを持っています。でも、それって社員からすると、まるでPRの言葉みたいに聞こえます。会社のウェブサイトとか、受付のロビーとかで見かけるけど、誰もそこに関心を払うことはない。

ザッポスでは、自社の文化を定義づけるものとして、10個の「コア・バリュー」を作っています。これらは「クラウドソーシング」、つまり、社員に我々のコア・バリューは何かと問いかけて作ったんです。そして、1年ほどかけてあれこれ検討して、最終的に10個にまとめました。これが我々の文化を作り上げ、社員の毎日の仕事の「言語」になっています。このコア・バリューは、自然な形で毎日の会話に出てくるので、それは「言語」の一部となり、そうすると我々の「マインドセット」とも繋がってくるんです。こうして、最初の軸である、「価値観」と紐付ける、というのが浸透していきます。

2つ目は「目的」です。我々は、個人でも組織のレベルでも、目的を特に重視しています。そして、ホラクラシー型の組織は、個人と組織が持つ目的を「繋げる」ことがやりやすくなります。我々は「"WOW"という驚きの体験と共に生き、それをお客様に届ける」というミッションを我々が存在する目的の根幹に置いています。そして、これを基本として、個々の役割に落とし込んでいきます。両者がうまく繋がっているんです。従業員はこの「繋がり」を意識しつつ、自分の役割を選びますが、それは常に組織のコアの目的と紐付いています。こうした目的の捉え方は、まだまだそうなってはいませんが、我々のコア・バリューとして常に意識するものにしたいですね。まだ毎日の「言語」になってるとは言えないんですが、もっともっとここを大事にしていきたいんです。

3つ目は私が「マーケットベースのダイナミクス」と呼ぶものです。都市のように、正常に機能するマーケットを持つことはすごく重要で、独占を排除し、社内のチームが互いの「顧客」になります。多数の人が参加できて、素早いフィードバックを回せて、クラウドソーシング型の参加を可能にするインフラのために、社内のツールやシステム、そして「通貨」(注: ゾラーと呼ばれる社内通貨)を構築しています。例えば、株式市場と似た仕組みの「商品仕入れ」を想像してみてください。従業員が、人々が株式市場で投資するように、商品仕入れに「投資」するような仕組みを。

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長くなったが以上見てきたように、トニー・シェイ特有の表現でうまく「自律型」組織のポイントが説明されている。 これを読んで思い出したのがメルカリのバリュー。メルカリの経営陣はいつもこのバリューがお題目でなく、事業の根幹にあることを強調しているけれど、これはザッポスとも共通する。言うは易し行うは難し、の「バリュー」をもとにした経営、だが現代のビジネス環境では改めて考える必要があると思う。

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なぜ「愛と情熱」こそが「知的生産」を駆動するのか?

「愛と情熱」こそが自分を駆動する

ビジネス界隈は、嫌になるくらい知的生産やロジカルシンキング、読書術など「ノウハウ本」に溢れているけれど、ほとんどのものは残念ながら役に立たない。

本当に重要なのは対象への「愛」や「情熱」だよなと思う。

音楽でもファッションでも、「大好きな」趣味だと大量の情報を収集、取捨選択、カテゴライズ、意味づけする、といった知的に高度な作業をみんなできている。つまり、愛や情熱が知的活動も含めて自分を「駆動」しているわけだ。

このことについて、サイモン・シネックのTEDでの講演はとても示唆がある。

彼は講演の中で、マーチン・ルーサー・キングやキング牧師、そしてアップルなど偉大な指導者や組織がなぜ世界を変えられたのか、そこに共通する「原理」を発見したと語る。

それが「ゴールデンサークル」で、以下の非常にシンプルなモデル。

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「普通」の人や 「組織」は、「なにを? WHAT」「どうやって? HOW」やるか、という順番で考えて、実行しようとする。でも「なぜ? WHY」と言われると言葉に詰まる。

優れた人や組織はここが違う、とサイモンは述べる。普通の人と正反対で、まず「なぜ?」からはじめる、と。

このモデルを説明するのに使われたアップルの事例が非常に分かりやすい。

例えばアップルが「普通の」会社だったら、きっとこう言うだろうと彼は述べる。

「私達は素晴らしいコンピューターをつくっています。ファッショナブルなデザイン、操作はシンプルでユーザーフレンドリー。いかがですか?」

ありきたりのセールストークだ。しかし、実際のアップルは違う。彼等はこう言う。

「私達は世界を変えられると信じています。そして常に既成のものと違う考え方をします。世界を変えるために、美しくデザインされ、誰にとっても使いやすいプロダクトを届けられるよう努力しつづけ、このコンピュータを作り上げたのです。いかがですか?」

 つまり、普通の企業とは正反対に、アップルは「なぜ?」からスタートする。それが多くの人の感情を揺さぶり、共感を呼び、それがアップルの製品がこれだけ世界中で成功を収めている原因だと彼は述べる。

そして、彼はこのゴールデンサークルと同じく脳も3層構造になっており、WHYの部分にある「感情」の部分を「まず」揺さぶることが重要だとする。

人々は「なぜ?」に反応する、と私は言いました。つまり私達が、なぜ私達の仕事をするのか、真の意味で理解していないとすれば、一体どうやって選挙で投票を皆から獲得したり、製品を買ってもらったりするのでしょうか? どうやって人を説得することなどできるでしょう? さらに重要なのは、皆さんの信念やビジョンに人々の共感を呼ぶことです。

AI時代に本当に必要なものとは?

実はこれから本格化するAI時代にいっそう重要になってくるのは、こういう「愛」や「情熱」、そして「物語」だと思っている。

サイモン・シネックのTEDでの講演のように、人を本当に揺さぶり、共感を引き起こすものは、ありきたりの陳腐な「ロジカルシンキング」ではなく、自分の「WHY」からスタートする愛や情熱、そしてそれを人に届けてくれる物語だからだ。

「ロジカル」の部分でAIが圧倒的に人間を凌駕する時代が来ているいま、改めて、ビジネスにおいても真の「付加価値」を生み出すのは自らのエモーショナルな部分であることを認識することが重要なのではと思う。

そして、自分の愛や情熱はどういう時に「駆動」するのか、そのメカニズムに目を向けてみるのが重要になってくる。趣味でも仕事でも、なんだか分からないけれど自分を「引きつける」要素があって、その法則や自分が好きな部分をうまく理解できると、いろいろな仕事も「楽しめる」ようになるのではないだろうか。

そして思い出すのは、何度繰り返し見たかわからない、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大卒業式での素晴らしいスピーチの言葉。改めて自分が「愛する」ものの存在に思いを馳せている。

皆さんも大好きなことを見つけてください。仕事でも恋愛でも同じです。仕事は人生の一大事です。やりがいを感じることができるただ一つの方法は、すばらしい仕事だと心底思えることをやることです。そして偉大なことをやり抜くただ一つの道は、仕事を愛することでしょう。好きなことがまだ見つからないなら、探し続けてください。決して立ち止まってはいけない。本当にやりたいことが見つかった時には、不思議と自分でもすぐに分かるはずです。すばらしい恋愛と同じように、時間がたつごとによくなっていくものです。だから、探し続けてください。絶対に、立ち尽くしてはいけません。

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冷笑的な人はなぜ組織を「壊す」のか?

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ネットでの情報発信を挫けさせるもの

このインタビューでも話したけれど、ツイッターやブログで自分がまさに「毎日やっている仕事」での気づきや考察を書くのは本当におすすめ。書いてみてはじめて自分が何を考えてたり、知っているのか分かるし、そこに読んでくれた人からフィードバックもらえると、さらに嬉しいし記憶にも残る。それは、自分だけの「知のデータベース」と言えるものなっていく。

どんな仕事や職種にも必ず奥深く面白い要素があるし、それを人に届くようにちょっと工夫して「言語化」することで、自分って面白いことやってるかも、という気づきが必ずあるはず。そして、その「面白さ」はどこかで他の人にも届き始める。

一方で、ネットで何かを「発信し続ける」上で一つの壁になるのが、極端に冷笑的、批判的な人たちの存在。

冷笑的、批評的なポジションはネットでもリアルでも「最強」で、そこにいれば傷ついたら笑われたりしないし、しかも「頭がよく」見えたりする。

どんな主張でも、そこに論理的な穴や説明が不十分な部分を見つけることはできるので、冷笑家達は的確にここを突いてくる。「それは特殊な事例に過ぎない」「こんな反例がある」「きちんと論証できていない」と。

もちろん、建設的な批評はきわめて重要だ。それによってある考えやアイディアは強くなっていく。けれど、残念ながら、誰かを「バカにする」こと、「からかう」こと、が本当の動機となっているタイプが存在するのも事実。

コツコツと発信を続けて、ある時うまく拡散されたとしても、こうした冷笑的な人に寄ってたかって批判されてそのまま発信を辞めてしまう人は案外多い。

組織を蝕む「冷笑家」たち

実はこれは組織でも同じで、特に、仕事の能力は高く声が大きい人が冷笑的だと組織に与える負の影響は甚大になる。

大多数のメンバーは、「場の空気」を読みながら自分の立ち位置を決めるので、仕事ができて影響力の大きい人が冷笑的だと、いつのまにか皆がその視点を受け入れていく。

結果としてそういう組織はマネジメントが機能しなくなる。例えば、うまくいっていない組織のチームミーティングに出席すると、かなりのケースでこういう「冷笑家」が会議の空気を支配していて、マネージャーは場をリードできずに何とも言えないムードが漂っている。

私の覚えている印象的な事例もそうだった。その組織のマネージャーは、中途ですぐそのポジションについたので、その領域の専門的な知識や経験は不足していて、また性格も優しかったので、強いリーダーシップで皆を引っ張るタイプではなかった。

そこに「付け込んだ」のが、組織に長くいて自分の知識や経験に自信を持っている「冷笑家」。彼は事あるごとにマネージャーの発言や判断を批判し、ネガティヴな空気を組織に広げ、その「場の空気」を常に「支配」していた。

結果として、多くのメンバーも、マネージャーに対して懐疑的な姿勢を取るようになった。必ずしも全員がこの「冷笑家」を100%支持していたわけではなかったが、「場の空気」の支配は強く、多くの人はそこに流されていく。数多くの論者が指摘しているように、「場の空気」が人々の行動を支配しがちな日本型の組織ではこの傾向はさらに強くなる。

こうなると組織のマネジメントは難しい。そういう冷笑的なタイプが仕事ができなければ、組織から外してしまうという選択肢が出てくるが、多くの場合そういうタイプは経験豊富で仕事の能力も高かったりするので、マネージャーも大胆なアクションを取りにくい。

唯一の解決策は、より上位のマネジメントがその課題を正しく理解して適切な対応を取ること。実際のこのケースでも、最終的には上位のマネジメントが介入し、それを不服としたこの「冷笑家」は自ら会社を去っていた。

 

このケースのように上位マネジメントが決然としたアクションを取れればよいけれど、そこにきちんと踏み込める人は案外少なく、結果として課題が放置されてしまっている組織は多い。この問題の影響は皆が思っているより深刻なので、マネジメントにおいては非常に重要なポイントといつも思っている。

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職場での「雑談」が最強である理由

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雑談が好き

僕は「雑談」がすごく好きなので、近くの席の人とよく話すし、さらにオフィスをふらふらと歩きまわって、色々な部門の人とも話をする。

内容は様々で、いま進めている仕事や事業の状況などについて色々と意見を交わすのはもちろん、趣味の話など仕事に関係ないこともざっくばらんに話す。

例えば、席が隣のチームメンバーとは、事業の状況や課題、そこにどういう施策を打つことができるのか?自分が考えているアイディアをどう思うか?最新の経営手法はどうやって実務に落とし込めるか?などなど普段から考えていること、頭に浮かんだアイディアを自由に話し合っている。

また、部署のメンバーや他部門の人とも、今やっているプロジェクトの内容や困っていることをコンサルの人から聞いたり、他部門の人には新しい施策の背景や内容について話を聞いたりする。

こういう「雑談」は、僕が仕事でうまくやるには不可欠なのだけれど、では「雑談」のなにが良いのだろうか?

雑談でアイディアが浮かぶ!

まずは、雑談によって、自分の考えていることが形になったり、新しいアイディアが浮かんでくるという点。

いつも思うのは、自分が何を考えているか、っていうのは案外自分もよく理解していないということ。頭の中で考えているだけでは、それは明確な形を取っていないので、なかなか「実行」にまで落ちてこない。また、考えているアイディアが本当に良いものなのか、というのもなかなか確信が持てない。

それが自由に「雑談」をすることで、考えが形になってくる。私も誰かに話しながら「あれっ自分はこんなこと考えてたんだ」と思うことがよくある。この感覚は面白くて、まるでジャズのような「即興性」がある。会話それ自体からなにかが「立ち上がってくる」感じ。

さらに、話しながら相手の表情やしぐさを見ることで、自分の言っていることが他人にどう響くのかも知ることができる。これで、自分が考えているアイディアがいけそうか、だめそうかの感覚を掴める。人間は、言語だけでなく、表情やしぐさ、声のトーンなど様々な要素から認知しているので、雑談の「リラックス」したムードが相手のガードを下げて素直な反応が貰えるのがありがたい。

これは私がミーティングを嫌いなのとも繋がる。ミーティングでは多くの人がどこか「よそいき」になる。自由に思ったことを話すよりは、場の「コード」に従った発言になりがちで、なかなか本質的なところを話し合うのが難しい。

雑談でコミュニケーションが深まる!

もう一つの良いところは、コミュニケーションの潤滑油になってくれること。

「雑談」なので、仕事だけでなく、趣味や最近関心のあることについても気軽に話せる。最近フルマラソン走ったんですよ、と私が言えば、相手も興味を持ってくれて、そこからお互いの趣味の話をしてパーソナリティをより深く理解できたりする。

この点に関連し、「職場の人間科学」という本で、バンク・オブ・アメリカの事例で非常に面白いものがある。

職場の人間科学

職場の人間科学

 

 同社のコールセンターで、違う地域にあるセンター間で生産性が異なっていた。この違いを生み出す原因を探るために、バンク・オブ・アメリカは調査を依頼した。

ウェアラブル・デバイスを活用しセンターの従業員間のコミュニケーションを測定した上で分析して分かったのは「集団の凝集性」、つまりその組織にいることに魅力を感じて、動機づけられているか、が鍵であるということ。

さらに面白いのは、その凝集性を高めるのは「昼休みのコミュニケーション」だったということ。

結果は一目瞭然だった。高い凝集性を生み出していたのは、公式な会議でもなければ、デスクでのおしゃべりでもなかった。凝集性を高める交流の大部分は、デスクから遠い離れた場所で、同じチームの従業員の昼休みが重なるほんの短い時間に起こっていた。「職場の人間科学」p141

これは非常に興味深い結果で、コールセンターというと、効率化の徹底によるROIの向上、というのがお題目になりがち。しかしその生産性を高める重要なポイントが「おしゃべり」だったわけだ。

これを踏まえて、このコールセンターは、同じチームの全員が同じタイミングで一日15分間の休憩を取れるように設定する。結果として、3ヶ月後同じチームの凝集性は18%上昇した。

 これに似た事例は多くて、「タバコ部屋」が上下隔てなく話ができて、情報交換やコミュニケーションの貴重な場として機能している、というのも多くの人が知るところ。

また、Google以降にハイテク企業が、居心地のよい「オープンな」オフィスを準備して、従業員間のコミュニケーションを促進することに気を配ることも普通になってきている。

 

以上見てきたように、「雑談」をうまく活用することで、仕事の質があがったり、他のメンバーとうまく物事を進めることができる。無駄な会議に時間を取られるくらいなら、コーヒー持って色々な人と気軽に話をしに行ける組織がやはり強いよなと思っている。

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【組織心理学を学ぶ】リーダーシップを決める要因とはなにか?

最近のビジネス界では、マインドフルネスやHR Techなど組織・人事領域への関心が非常に強くなってきている。その中でも、リーダーシップ、というのは奥深く、経営にとっても重要なテーマ。今回は組織心理学を参照してリーダーシップ研究を概観してみよう。

なお、以下の議論は全て「産業・組織心理学エッセンシャルズ」の5章を参照している。

産業・組織心理学エッセンシャルズ

産業・組織心理学エッセンシャルズ

 

まとめ

  • リーダーシップ研究はリーダーの「特性」を理解しようとするところからスタート
  • 次に、リーダー自身の「行動」が組織にどう影響を与えるかに着目するアプローチが主流に
  • リーダーの行動をフレームワークで構造的に捉えるPM理論が登場

特性アプローチ

リーダーシップ研究の初期は「優れたリーダーはどんな特性を持っているか」に対するアプローチが主流だった。

ストグディル(1974)は、リーダーは「知能」「素養」「責任感」「参加性」「地位」の点で他のメンバーは優れている、と過去の研究成果を整理した。

しかし、すぐわかるように、軍隊と企業、など組織のタイプによって求められるリーダーシップの特性は異なる。さらに、特性を選び出す基準は厳密なものと言えず、互いに矛盾するものが存在するなど問題点が指摘され、この方向での研究はなかなか発展しなかった。

我々が普段話している「あの人は良いリーダーだよね」というのは、まさにこの特性アプローチで、頭の良い人、最後まで諦めない人、皆をまとめられる人、など様々な特徴が指摘されるけれど、全ての要素を満たす人はいないし、どの要素が一番効くかは組織によっても違うので、特性を積み上げるこのアプローチの限界は理解できる。

行動アプローチ

1950年代以降は、どんな特性の人がリーダーになるか、でなく、リーダーになった人がどのように行動するか、に着目する行動アプローチが主流になった。

これが面白いのは、リーダーという「役割」が組織にどういう影響を及ぼすか、という視点で、リーダーの個人的な特徴から論じるのでなく、構造的な観点から論じることを可能にしてくれる。代表的な研究に触れよう。

■リーダーシップスタイル

 ホワイトとリビット(White & Lippitt, 1960)は大学生のリーダーシップスタイルを「民主型」「専制型」「放任型」の3種類に設定し、その影響を実験した。

結果は以下の通り。

「民主型」:メンバー達は友好的な関係を築き、動機づけも高かった

「専制型」:チームの雰囲気は攻撃的で悪く、リーダーがいなくなると怠慢になった

「放任型」:メンバー達は緊張感にかけ、動機づけや効率性も低かった

この研究のポイントは、リーダーシップの「スタイル」が組織に与える影響を示したこと。つまり、リーダーの「行動」が組織のあり方やパフォーマンスを規定していく、という方向性を示したことが画期的と捉えられた。

これを踏まえて、ではそのリーダーの行動は組織においてどんな「機能」を果たしているのか?という方向に研究は進んでいく。

■リーダー行動の2機能説

 リーダー行動の機能に着目した研究の共通点は、その機能には2つの種類がある、ということだった。

例えばカートライトとザンダーは「目標達成機能」と「集団維持機能」、リカートは「仕事中心的活動」と「従業員中心活動」などのように、リーダー行動は、「課題指向」と「人間関係指向」の側面から整理された。

これは普段接しているリーダーのタイプからも頷けることで、とにかく成果を出すことに拘る人、チームワークを重視しメンバーを盛り上げようとする人、の2つで切り取ることはそれなりに納得感がある。

次に研究で注目されたのは、では、どちらの機能の方が組織のパフォーマンスにとって「重要」なのか、という点。

この点についても多くの研究がなされたが、分かったのはどちらか一方だけではだめそうだということ。この2つの側面がきちんと備わっていることが大事そうだ、ということになり、PM理論という有名なフレームワークが生まれてくる。

■三隅のPM理論

心理学者の 三隅二不二のPM理論は、リーダーの行動をシンプルなフレームワークで整理したところに特徴がある。

課題指向の側面を課題達成(performance)機能(P機能)、人間関係指向の側面を集団維持(maintenance)機能(M機能)と名付けて、その2軸でリーダーシップを整理、以下の図のように4領域に類型化した。

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ここでのポイントは、目標達成と集団維持、という一見相容れないようなタイプを一つのフレームワークで捉え、両者を共に達成するPM型というリーダーシップが存在することを示した点にある。

実際このPM理論に基いて多くの実証研究がなされ、集団の生産性およびメンバーの意欲・満足度はPM型のリーダーシップが発揮された時に一番高くなるとの結果が出ている。

一方で、組織の生産性においては、やはり目標達成を重視するP型がPM型についで高く、メンバーの意欲や満足度は、人間関係を重視するM型がPM型について高くなる。

これらは、現場の経験から考えるとある種「当たり前」とも言えるが、リーダーシップ理論の歴史を踏まえると、「課題達成重視」と「人間関係重視」というリーダーに見られる大きな2つの特徴を、一つのモデルで、「両者が絡み合うダイナミクス」をシンプルに捉えられることは有益と感じる。

さらに、実務での応用のイメージもわきやすい。例えば、成果に強くこだわるタイプのリーダーとのコミュニケーション。まず、このモデルを使い、具体的な成果や強みを話しながらその人がP型の領域に属することを確認する。そこからPM型の象限に向けて「メンバーとの関係をさらにどう深めていくか」という点を、その人の弱みや具体的なアクションのアイディアなどを出し合いながら会話するのは有益に感じる。

良いモデルは、自分の「立ち位置」をシンプルな構造で把握し、さらに改善への「動き」を同じモデルで表現できるもの。その点からこのPM理論のモデルはシンプルながら「使える」ものになっている。

長くなったが、以上の「行動アプローチ」に続き、「コンティンジェンシーアプローチ」という、リーダーが置かれている「状況」に着目しリーダーシップの作動原理を探る理論が非常に面白いので、それは別の記事で紹介したいと思う。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

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なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる

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とくさん (@nori76) on Twitter

【お悩み】入社4年目27歳。工場の人事として学ぶべきことは?

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よく皆さんからツイッターやメールで相談や質問を頂くことがあります。ご本人の同意をいただきましたので、先日頂いたキャリアについての質問と私の回答を書いてみます(なお、私の回答は加筆修正しています)

当方素材メーカーの工場で人事担当を4年間務めています。今後1〜2年後に本社や関係会社、海外での人事担当で能力発揮することが期待されていますが、今の工場にいる段階、または27歳という今の年齢で学んでおくべきことや意識しておいた方が良い視点などはありますでしょうか。

こんにちは。ミクロとマクロの視点両方を常にもち、またその両者を「行き来する」方法を覚えるのが大事かなと思います。

「ミクロ」の視点とは?

まずは「ミクロ」について。工場の人事を担当されているとのことなので、工場の皆さんに向けた人事施策を考えたり、実行していくのが日々の実務かと思います。なので、まずは、いくら小さな仕事でもそこに真剣に取り組むことが大事ですね。

その時に、工場の皆さんの「生の声」に耳を傾けることが特に大切かと。せっかく工場の中で仕事をしているわけですから、直接色々な役職や地位の人と積極的に話をして、そこで語られている内容だけでなく、皆さんの表情や声のトーンだけでなく、そこに潜む心理にまで思いを馳せることもすごく勉強になります。

ひとつひとつの施策を淡々とこなすだけでなく、それが実行された時に、工場の皆さんの仕事や生活にどんな影響があるかを、実際に話を聞きフィードバックを受けながら、その意味について自分の頭で考えること。それこそは、「顧客の声」に耳を傾ける、というマーケティングでいま最も重要とされている考え方で、これは「人事」においても同じと思っています。

「マクロ」の視点とは?

つぎに「マクロ」について。ご存知のように、製造業においての工場は経営の「根幹」です。工場における生産性が商品の競争力、品質、収益性まで全てを左右します。

より広い文脈では、例えば、そもそも工場をどこに置くべきか、という論点があります。ここ30年くらいの世界のグローバル化の流れは、最適なコストおよびサプライチェーンの模索に企業を向かわせ、中国をはじめとした海外に生産拠点を移管していく流れが続いています。

日本企業も例に漏れず、以下のデータが示すように、1980年代には5%を下回るレベルだった海外現地生産比率は、2015年では国内全法人ベースで25.3%, 海外進出企業ベースだと38.9%まで上昇しています。

 第3-1-2-1図 我が国製造業の海外現地生産比率の実績と見通し

Source: http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2012/2012honbun/html/i3120000.html

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http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result/result_46/pdf/h2c46kaku1.pdf

工場の人事部門であっても(だからこそ)、こうした「マクロ」の情勢に気を配り、どういった人事施策がこうした潮流に最適なのかを考えることは、ビジネスのスピードや事業の複雑性が増している現代では非常に重要になってきます。

ミクロとマクロを行き来する

そして、最後にミクロとマクロを「行き来する」こと、について。

上記してきたように、ビジネスにはミクロとマクロの要素、日本で好まれる言い方としては「現場」と「経営」の視点があります。

例えば、コスト競争の激化を踏まえて、生産工場のベトナム移管が経営課題にあがってきたとします。生産工場の海外移管は、いま毎日コミュニケーションしている現場の皆さんの雇用に影響があるかもしれない。けれど、製品の競争力を維持するためには、工場移管を含めた経営レベルの意思決定が求められる。

これが、両者を「往復」すること、の意味で、ビジネスではこうした「現場」と「経営」の視点や利害が必ずしも合致しないことが多々あります。しかし、ビジネスを前に進めるためには、いくら難しくとも誰かが「意思決定」する必要があります。

まだご自身は経営の意思決定をする立場ではないと思いますが、想像すること、考えることは自由です。こうした、難しい課題について、自分が経営者もしくは工場長だったらどうするか、そしてそれは日々接している工場の現場の人たちにとってなにを意味するのか、などを普段から考えておくことはとても有益だと思います。

ぜひがんばってください!!

僕が若かった頃の「弱さ」について

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大学時代の友人のAさんはとても目の大きな女の子だった。黒目がはっきりと濃くて、まるで小動物のようにキョロキョロとその目が動いた。厚めの唇をしていて、よく笑う。表情がころころと変わる。その佇まいからは強い意思を感じさせるけれど、語り口は柔らか。視点にはシニカルさがほのかに香っているところがすごく気が合った。

彼女は文字通り「読書狂」だった。僕も大学時代は狂ったように本を読んでいたので、二人で飽きることなく、よく読んでいる本の話をした。

彼女はアメリカ文学が好きだった。彼女がブコウスキーの「くそったれ!少年時代」を絶賛していると、ひねくれた僕はバロウズの「ジャンキー」について語った。

ジャーナリストの本もよく読んだ。彼女がキャパの「ちょっとピンぼけ」が面白かったというと、僕は近藤紘一の「サイゴンから来た妻と娘」の話をして「あれは名作だよね!」と二人でうなずき合った。そして、その勢いで沢木耕太郎の「テロルの決算」のヒリヒリした感じについて語り合う。

政治や歴史も読む。彼女が、授業でフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」を読んでるというと、僕はカーの「危機の二十年」について語る。

こんな感じで、ジャンルを問わず、二人ともとにかく貪るように本を読んだ。スノッブから遠いところで、メジャーもマイナーも、面白そうと思ったものを片端から読んでいくスタイルは二人に共通していた。

ある日、そんなAさんといつものように話し込んでいた時のこと。

どんな流れだったかは覚えていないけれど、僕は自分の「弱さ」がほんとうに嫌だと彼女に向けて語っていた。

その頃の僕は、今から考えると笑ってしまうほど弱かった。すぐ精神的に折れた。誰かにすこし嫌なことを言われたとき、自分がやっていることが急にバカバカしく感じられたとき、女の子に告白して断られたとき、将来の不安にいてもたってもいられなくなるとき、とにかく頻繁に「弱さ」が顔を出してそれに悩まされていた。

彼女が言う。

「うーんそうだな。とくちゃんはさ、そうやってつい考え込んじゃうんだよね。でもさ、それはさ、とくちゃんの良さでもあると思うよ」

「弱さをそこまで真剣に突き詰められる人も限られてる。そう思う」

「ほら、村上さんがさ、傷つかなくること、について書いていたじゃない」

と彼女がそこで触れたのが、村上春樹のエッセイ「傷つかなくなるについて」だった。そこで、村上春樹はこう書いている。

例えば若いうちは、僕もけっこう頻繁に精神的に傷ついていた。ささやかな挫折で目の前が真っ暗になったり、誰かの一言が胸に刺さって足元の地面が崩れ落ちるような思いをすることもあった。思い返してみると、それなりになかなか大変な日々であった。

この文章を読んでいる若い方の中には、いま同じような辛い思いをなさっておられる方もいらっしゃるかもしれない。こんなことで自分は、これからの人生を乗り越えていけるのだろうかと悩んでおられるかもしれない。でも大丈夫、それほど悩むことはない。歳をとれば、人間というものは一般的に、そんなにずたずたとは傷つかないようになるものなのだ。

「村上朝日堂はいかにして鍛えられたか」P129 (強調引用者)

そして彼は、自分がある日を境に、歳をとった人間が傷つくことはあんまり見栄えの良いものでないなと思い、そこからなるべく傷つかないように訓練したと述べて、こう続ける。

でも僕はそのときにつくづく思った。精神的に傷つきやすいのは、若い人々によく見られるひとつの傾向であるだけではなくて、それは彼らに与えられたひとつの固有の権利でもあるのだと。

同上 P131-2 (強調引用者)

 Aさんは静かに、少し斜め下に目線を落としながら、こう言ってくれた。

「とくちゃんの今はほんとにしんどいとおもうんだよね。でもさ、いつかはさ、それは薄れていくと思う。で、村上さんが言うように、その弱さにさいなまれた日々こそがとくちゃんである、ということが記憶として静かに残るんじゃないかな」

もう20年近く前のことなのに、この時彼女が言ってくれたこと、その表情、声のトーンをいまもよく覚えている。その時のまわりの情景や光の感じも。

この記憶と、村上春樹のエッセイに書かれた言葉たちは、僕のこの後の、あちこちにぶつかり、転び、それでもなんとか歯をくいしばって生き延びてきた人生をどこかで支えてくれたと思う。そして、まさにAさんが言ってくれたように、その「弱さにさいなまれた」日々は、僕の心の奥底に、静かに残っている。

「受験勉強」みたいな読書はやめたほうがいい理由

「受験勉強」的読書の問題とは?

「本を読みたいです!」という人は多い。でも、そういう人を見てて思うのは、学生時代みたいに「頭からきちんと線を引いて読んでいく」というのが読書だと刷り込まれてるなということ。つまり、受験勉強のやり方の延長。

なので、最初から1ページずつ丁寧に読まなくてはという脅迫観念があるし、なんならば書かれてることを暗記していかなくてはと思ってしまう。

つまり、こんな感じ↓の読書になっている

f:id:nori76:20170922154847p:plain

https://resemom.jp/article/2016/01/07/28850.html

それもあってか、なにかを学びたいと思う人の多くは資格を目指す。資格の勉強のための「読書」はまさに受験勉強のそれと同じだから安心するのだと思う。教科書を買って、最初からきちんと読んで、線を引いて暗記していく。一通り終わったら試験で確認する。

私は資格自体は否定しないし、ある専門領域を体系的に短期間で身につけるには、資格の勉強は有効といえる。私もいくつか資格を持っているし。

本のメッセージを「つかまえる」

ただ、「本を読むこと」を、例えば仕事に役立てたいと考える時でも、まずもって大事なのは一冊の本のコアになっているメッセージをきちんと「つかまえる」ことだと思う。

本というのは、あるまとまった長さを伴った文章で、筆者が伝えたいことを、あの手この手でみんなに伝えるメディアのこと。だから(良い本であれば)そこには必ず明確なメッセージがある。それを、読みながら「さっと」つかまえること、がすごく重要。

だから、流し読みだったり、良さそうな部分をいきなり読み始めるのでも全然良い。ポイントはメッセージを読み取るスキル。

そもそものところ、社会人は日中働いているわけで、例えば250ページの本を線を引きながら丁寧に読む時間は残念ながらない。どうせすぐ忘れちゃうし。私も本は読み慣れているけれど、細部はほとんど覚えてない。すぐ忘れてしまう。

それよりも、本の内容を暗記しようとせずに、さーと流しながらでも読んで、そこからワンフレーズで大事なメッセージを「抜き取る」ことに集中する。これはすごく重要なスキルだと思う。

「概念のストック」をもっておく

とはいっても、そのスキルをどう身につけるのか?

これを言語化するのはなかなか難しいけれど、ひとつは、鍵となる「概念のストック」をたくさんもっておくこと。

Airbnb Story

Airbnb Story

 

例えば、Airbnbの起業ストーリーをまとめたこの本。起業にかける思いや、事業がすごい勢いで拡大していき、問題を抱えながらも世の中を変えていく様がカラフルに描かれていて、冒頭からぐいぐいと物語に引き込まれる。

で、私のこの本で印象に残ったメッセージを、ワンフレーズでまとめると「中流層に「場」を提供することの価値」。例えばこんな部分。

彼自信もエアビーアンドビー信仰に取りつかれていると認めている。この会社は中流層の原動力になれる。それに、エアビーアンドビー流のホームシェアが一般に広まった原因は、一連の社会経済的なトレンドが重なったからだ。それは、失われた社会の絆を強めてくれる。それは普通の人に経済的な力を与えてくれる。エアビーアンドビーは人々をひとつにする。「結局、エアビーアンドビーがこれほど成功しているのは、アルゴリズムに少々魔法の粉を振りかけたからじゃない。人と人とが触れ合って、人生を変える経験をさせてくれるプラットフォームを作ったからだ。

5章 アンチとの闘い Airbnb Story

中流層の崩壊、というのは現代のアメリカを語る上で欠かせないテーマ。トランプ現象の背景にはそれがあるし、米企業で経営を担う私としても、アメリカ社会が過度の「金融化」によって、投資家や経営者に富が集中し、中流以下の層にとって厳しい世の中になっていったメカニズムは「肌感覚」としてよく理解できる。

読書のポイントに戻ると、大事なのは「中流層」という言葉が持つ意味とその文脈を理解していること。それにより、本のメッセージをくっきりと掴むことができるし、記憶にも残りやすい。そして、この「中流層」という言葉を通じて、他の本や議論にも連想が連なっていく。

例えばそれは上に触れたように「トランプ現象」だし、スティグリッツの啓蒙書の「中間層の没落を食い止める処方箋を提供する」というワンフレーズと繋がってくる。そこから、アメリカの今の中間層の抱える苦闘と、そこから希望持って抜け出そうとする姿が浮かんでくる。

これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

 

このように「中流層」という概念の持つ意味とその文脈を理解していると、本を読みながら「はっと」する部分があるし、そこでのメッセージをより広い文脈で捉えて、一連の「ストーリー」の中に位置づけることで記憶にも定着してくる。

ぜひ試してみてほしい。

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ビジネス系オススメ情報まとめ!経営学からスタートアップ指南書まで

定期的にビジネス系の情報でおすすめなものを紹介していきたいと思います。今日は、経営学輪講、スタートアップ指南書、そしてアントレプレナーシップの講義、の紹介です。

赤門マネジメントレビュー経営学輪講

AMR経営学輪講

この前お会いした経営学の博士課程の方に紹介頂いたサイト。東京大学の「赤門マネジメントレビュー」内にあり、大学院の「経営文献購読」の授業をもとに、海外の経営学に関する論文の紹介および批評的な「読み」を行った論文がたくさん紹介されています。

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実際の経営でも使えそうな面白い論点のものが多いですし、どれもPDFで「無償」でダウンロードできます。

経営学は経済学と比べてなかなか全体像がつかみにくいですが、こうして論点ごとに専門家の知見に触れることで、実務への応用についてアイディアも沸いてきます。

さっと眺めて面白そうなものを5つピックアップしてみました。皆さんもぜひ面白そうな論文を読んでみてくださいませ。

なぜイノベーションは拡散しないのか?:専門家組織のもつ境界―経営学輪講 Ferlie, Fitzgerald, Wood, and Hawkins (2005)

 ■官僚制はイノベーションを阻害するのか?―経営学輪講 Thompson (1965)

専門職および専門職集団におけるステータス決定要因―経営学輪講 Abbott (1981)

変革力マップとInnovator's Dilemma: イノベーション研究の系譜―経営学輪講 Abernathy and Clark (1985)

デザインの新奇性は製品の売り上げに貢献するのか?―経営学輪講Talke, Salomo, Wieringa, and Lutz (2009)

SaaS スタートアップ 創業者向けガイド

SaaS スタートアップ 創業者向けガイド - セールスフォース・ドットコム

セールスフォースの創業時からのメンバーを中心にまとめられたSaaS(Software as a Service)のスタートアップを作るための「指南書」です。私は英語版を読んでいたのですが、いまは日本語訳まで提供されておりさらに利便性が増しています。

これは本当にすばらしい内容で、サブスクリプションモデルがなぜ画期的なのか、というビジネスモデルの説明からはじまり、売上10億円企業を作るための必要なステップ、成長のためにどう営業組織を作りあげていくか、などなど実例を踏まえながら具体的に説明されていますし、カスタマーサクセス、というSaaSを特徴づける重要な概念についても触れています。

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個人的には「サブスクリプションモデル」がなぜ経営モデルとして「画期的」なのか、というのをきちんと理解するのは、現代の経営で非常に重要と考えており、その部分の記述には頷くことしきりでした。

アドビの経営変革についての記事でも、この「サブスクリプションモデル」の重要製については触れているので、ぜひ読んでみてください。

一方で、クラウド+サブスクリプションモデルの場合、契約期間内に顧客が製品に満足しているかが契約更新を決めます。なので、販売者側にも、普段から顧客が満足する品質やサービスを提供し続けるインセンティブがあるわけです。

この構造に加えて、クラウドは頻繁な製品アップデートを可能にしますから、顧客の要望にきちんと耳を傾けながら、短期かつ頻繁なアップデートでその要望を叶えていくことが可能になります。

Amazon AWSが圧倒的な成功を収めているのも、基本的にはこの構造によります。クラウド、というとテクノロジーの観点から語られることが多いですが(またそれが重要なのは間違いないのですが)、より本質的には上記のように「顧客価値の向上」にごまかしなく向かい合える、というのが実は一番重要なポイントです。

また、これはアメリカのハイテク業界のいいところなのですが、 この「指南書」のように、成功の秘訣や皆が陥りがちな失敗を、具体的な自らの体験を踏まえ、しかもそれをモデル化してオープンに伝えることが当たり前になっています。

こうした「情報共有」の文化が、シリコンバレーで次々と新しく、画期的で、世界に通用する企業が生まれてくる「エコシステム」を支えているんだなと、改めてこの資料を見て思います。

アントレプレナーシップ

次は、このブログではおなじみCourseraの紹介です。USA TodayのMBAランキング1位のペンシルベニア大学ウォートン・スクールの「アントレプレナーシップ」の授業です。

オススメのメールが送られてきたところで、まだ私も受講していないのですが、どれも面白そうです。

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一つ目は「機会を見つける」です。良いアイディアをいかにビジネスの「機会」に変えていくか、について概説されています。

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二つ目は「スタートアップを立ち上げる」です。「機会」を見つけて、プロトタイプまで作ったら、次はいよいよスタートアップを「立ち上げる」必要があります。組織をどう作るか、その注意点はなにか、というところまで詳しく触れています。

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三つ目は「成長戦略」です。事業を立ち上げて最初にぶつかる壁は、ビジネスをどう「スケールさせるか」です。これについて、売上機会をどう発掘するか、顧客をどう獲得するか、需要をどう予測するか、などノウハウについて具体的に触れています。

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四つ目は「ファイナンスと収益性」です。事業を成功させるには「ファイナンス」の側面は非常に重要です。損益モデルをどう組み上げるか、エンジェル、VC、クラウドファンディング、など投資をどう呼び込むか、などについてノウハウがまとめられています。

これらはSpecializationの形で提供されており、月額79ドルですが、Certificationが必要なくそれぞれのコースを受講するだけならば無料です。そのやり方は以下の記事でまとめているので、参考にしてみてください。

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ポール・オースター「幻影の書」を読む。そこで示される希望とは。

昔はてなダイアリーを書いていたのですが、それを改めて読んでいたらこの書評を見つけました。ポール・オースターの「幻影の書」についての感想。とても気に入っている文章なのでこちらに載せてみます。ぜひご一読くださいませ。

幻影の書 (新潮文庫)

幻影の書 (新潮文庫)

 

ゆっくりと読み進め読了。ストーリー性が高い上(当然ながら)柴田訳は見事な品質を保っていて心地良い読書体験だった。オースターの物語は、まずオースターという全体を制御する人物がいて、一方でその作品内で動きだす登場人物がそれぞれ固有の物語性を持って人生を生きる(そこには喜劇あるいは悲劇がある)、という入れ子の構造が細部まで意識された形で構築されているから安心して読むことができる。柴田氏がオースターは作品内作品、今作でいうとヘクターの映画描写が素晴らしい、と言っているがそういった明示された入れ子構造だけでなく、上記したように物語全体を貫く入れ子構造がオースターの特徴だと思う。

そして、オースターがこの日本にいる僕の心を温めてくれるのは、彼が信じている「物語」というものの力だ。

ヘクターの自伝を7年間書き続けているアルマという女性。彼女はデイヴィッドをヘクターに引き合わせようとする。主人公とアルマはこの不思議な邂逅を経て近づいていく。ヘクターの元にデイヴィッドはたどり着き彼と言葉を交わし親密な関係を築くが、翌日の未明ヘクターは静かに息を引き取る。長旅の疲れからそのことを知らずに眠っているデイヴィッド。アルマは彼のベッドの横で彼が目を覚ますのを待っている。そして彼が目をさました時、彼女は死についてすぐに触れない。まずキスがあり、親密な言葉があり、彼にコーヒーを渡す。

ヘクターについてすぐ話し出さないことによって、彼女は私に、物語の結末部分の中に自分たち二人を溺れさせる気はないことを伝えていたのだ。私たちはもう自分たち二人の物語を始動させたのであり、その物語は彼女にとって、もうひとつの、彼女のこれまでの人生そのもの、私と出会う瞬間に至る全生涯そのものだった物語に劣らず大切だったのだ。

アルマはヘクターの物語を紡ぐ事で、自分の人生を生きてきた。人の物語に仮託することで生起する人生。深く絶対的な孤独を癒す手段としてそれはあっただろう。しかし、ヘクター・マンという男の人生を通じて彼女は別の物語の回路と繋がるきっかけをつかむ。それがデイヴィッドであり、ここに引用したようにアルマはその物語をはっきりとした意志を持って始動させようとする。

では、ここで新たに生み出された物語は自由意志の勝利だろうか。簡単にそうとは言えないことは、オースターは残酷にも物語のラストで示す。アルマは自分の意志で確かに物語を始動させたように見えた。しかし、その物語はどこまでもヘクター・マンを巡るものだった。その桎梏が彼女を縛りつけ、彼女の孤独からの解放は不首尾に終わる。

けれど、アルマの残した痕跡はデイヴィッドの心に残りその物語は引き続き彼の中で生きる。オースターは簡単に希望を示してはいない。ただ物語の持つ力と時としてそれが持つ残酷さ、そしてそこからの回復、という転回を今回もまた見事に描いていると思う。安易な内省に留まらないオースターの示す希望に少し励まされたりする。

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