グローバル経営の極北

グローバル経営を考える「素材」を提供します

クラウドがもたらす法人向けビジネスの地殻変動

先日書いたブログ記事で、IBMがコンサルティング領域でひとり負けしていることを取り上げた。IBMは、高付加価値分野はアクセンチュア、デロイト、PwCに、価格勝負なところはタタ、インフォシスなどのインド勢に、両面から攻めこまれ苦戦している状況への解が示せていない。そして、一番深刻なのは、彼等が最も得意とし、最も利益を稼いできたインフラ関連のビジネスをAWSに食われていること。(今思えばIBMのお得意さんだったCIAの契約をAWSに奪われたことが象徴的だった。IBMはなんとCIAを訴えた。。)

ガースナー改革を経てパルミサーノが牽引する形で、ハード、ソフト、サービスの垂直統合でIBMは先駆けた。しかし、AWSに象徴されるクラウドベースのエコシステムが業界を席巻しだすと、垂直統合による自社への囲い込みという成功モデルが一転足かせになる。AWSの好調は言うまでもなく、さらに中立の立場でコンサルできるアクセンチュア、デロイトなどが元気なのもこの理由。

で、実は本稿はここからが本題。クラウドを軸にして起きている、より本質的な大きな変化は、BtoB市場でも「ごまかしのない」顧客志向が求められてきているということ。BtoC市場ではだいぶ前に起きた変化が法人向けビジネスでも起きている。一般的に法人向け市場は、投資決定者、つまり経営陣の意向や都合に左右されることが多いし、商品自体も柔軟性に欠ける場合が多い。クラウドの持つ拡張性や柔軟性がその課題を解決しつつあって、実際にツールを使うユーザーに寄り添ったサービス提供を可能にする仕組みが整ってきている。その代表がAWSだし、Salesforce, Adobe, Workday, TableauといったSaaSベンダーもこのクラウドの特徴を活かして、顧客にフォーカスしたビジネスをうまく展開している。

例えば、なぜAWSのユーザーグループにあそこまでの「熱」があるかというのもこの構造変化で説明できる。実際に運用や活用に関わるユーザーに向けてサービスを届ける。BtoCなら当たり前のこのことがBtoBではないがしろにされてきたわけで、だからこそAWSが常識を超える速度で伸びてきている。

なので、IoTもただのバズワードと捉えていると大事なものを見失う。医療、生産管理はじめ今まで情報がオープン化や構造化されにくかった部分に、クラウドプラットフォームに集められたデータをもとにして、顧客志向を徹底したサービスが入り込んでいくと何が起きるか。今まで見落とされていた「ユーザー」主導が法人向けビジネスをIoTの文脈でも変えていくことが予想される。

ハイテク業界に限らずあらゆる企業は「顧客」が重要と言っている。しかし、企業全体の仕組みを「顧客」の要望に徹底的にフォーカスする形で構築している会社はきわめて少ない。その代表選手であるAmazonが法人向け市場でも変革をリードしており、この流れに乗れない企業は淘汰されていくことになるだろうと思う。