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P&Gの社長交代からグローバル経営を考える

今日はこのP&G日本法人交代の記事について。

toyokeizai.net

この記事自体は踏み込みが浅くあまり参考にならないけれど、このニュースからはIBMなどと同様に、米の伝統的大企業の苦戦の構造が透けて見える。

1. 既存のコア事業のライフサイクルは先進国では成熟期に入っており、売上高成長が見込めず、一方で値下げ圧力や競合との消耗戦で利益維持が徐々に困難に。

2. 一方、ここ数年売上成長を牽引してきた新興国の経済が軟調。期待していた売上および利益が稼げなくなっている。

3. さらに、大型株なので投資家からのプレッシャーは強く、グローバル規模でのコストダウン、「コア事業への集中」を謳った事業売却、期待されるEPSを達成するための自社株買い、などに注力する必要。

4. しかし、3.の施策は株主向けの対処療法で、数兆円規模の事業成長(特に売上高)をどう達成するか、という本質的な課題への解がなかなか見つからない。

私は消費財業界には詳しくないのだけれど、P&Gが研究開発やマーケティングをシンガポールに移したり、社長を外国人にしてガバナンスを強める、というのは上記の課題に対して米グローバル企業が取る施策の典型なので、むべなるかなという感じ。

ただ、私の経験上、こうした施策は各地域でのビジネス拡大という本質的な部分ではあまり機能しない。特にマーケティングや営業などの顧客接点の部分を海外の統括会社で管轄というのは疑問。ファイナンスやオペレーションをグローバルで標準化してオフショア化する、というのと違い、顧客接点の部分については、現地でそこのビジネスに精通した人(日本人であれ外国人であれ)にきちんと権限持たせないとやはりうまくいかないからだ。

例えばIBMは「中興の祖」である椎名氏以来、日本ローカルでの権限を強くし、本社からの介入を最小限に抑え成功してきた。それを00年代に入り「グローバル標準化モデル」と称して営業などの顧客接点の部分に画一的なモデルを持ち込んだことが顧客の離反を招き、一気にビジネスが縮小した。幸い、外国人でありながら現地での顧客接点の強化の重要性を熟知したイェッター氏が、顧客ニーズに沿った営業強化施策を取ることで、再成長路線にのせることに成功した。今では、世界中で売上が縮小する中、日本のみが売上成長を果たしている。(下記表を参照)

IBM 2015 Q3 Revenue by Geography 

f:id:nori76:20160111230605p:plainSource: 3Q earnings presentation:  http://www.ibm.com/investor/att/pdf/IBM-3Q15-Earnings-Charts.pdf

P&Gが内部でどういった仕組みを構築しているかは分からないが、シンガポールからリモートで日本市場を再構築しようとしているならば、かなり厳しいだろうと思う。各地域にどれくらい権限を持たせて経営すべきか?というのは、グローバル経営において古くて新しい、コアとなる論点なので、P&Gの改革の方向性についてもう少し調べてみようと思う。

ちなみに、最後にP&Gの業績について。直近4四半期の売上と純利益率は以下の通り。売上はドル高の影響もあり、四半期ごとに減少。純利益率はQ1 '16でなんとか盛り返しているが、コストダウンでしのいでいる感じ。

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Source: Yahoo Finance http://finance.yahoo.com/q/is?s=PG&annual

株価はやはり軟調で、ここ1年で90ドルから75ドル近辺まで落ちている。

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