グローバル経営の極北

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アメリカの法人税は日本より高い、はずなのに、、、

グローバル企業による「租税回避」が問題になっている。直近ではGoogleが2005年以降の税金滞納分1億3千万ポンドを追加納税することで英税務当局と合意した。少し前になるがスターバックスも同様の批判にさらされ、「自主的に」2000万ポンドを納税している。多国籍企業では、例えば欧州では、アイルランドの低い法人税率を利用したスキームを構築して実際の納税額を抑える(例えばアクセンチュアの登記上の本社はダブリンにある)というのは常套手段となってきたが、これに対してEUを中心に批判が高まり、上記の事例のように多国籍企業も対応せざるを得ない状況になってきている。

一方で、日本企業でこうした「節税」スキームを構築している企業は少ない印象がある。そのため日本企業からは日本の高い法人税率に対する不平があがり、法人税率引き下げが検討されている。

では、実際日本の法人税は高いのだろうか。その辺を改めて概観してみたい。

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出典: 財務省「国・地方合わせた法人税比較」

上の表は財務省が作成した法人税の国際比較。実効税率、つまり国・地方の税率を足し合わせたものを比較しており、日本はアメリカと並び40%近い税率だった。しかし、段階的に引き下げが行われており、平成27年度の改正では32%程度まで下がってきている。

一方で、戦略的に法人税を下げて投資を呼び込んでいるイギリスやシンガポールはそれぞれ20%, 17%と低い。このグラフにはないが、ダブリンのあるアイルランドは12.5%ときわめて低く、グローバル企業が租税回避のために統括子会社をダブリンに作っているのもむべなるかなというところ。

日本が法人税を引き下げてきているものの、やはり国際水準から見ても高い法人税率なのは事実。これは多くの人の実感とあう。一方で、アメリカが世界最高レベルの税率であることは意外なところ。そこで、法定の実効税率と実際企業が支払っている実効税率についてのデータを調べたところ、いいものを見つけた。

以下はPwCが2006年から2009年にかけて「フォーブス・グローバル2000」に含まれる上場企業を対象にした調査。日本の法定実効税率が39.54%に対し実際の税負担率も38.8%とわずか0.74%としか低くないのに対し、アメリカは法定実効税率39.1%に対し実際の税負担率は27.7%と11.4%も乖離がある。

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出典:坂本恒夫 日本企業の実効税率についての一考察  http://www.b.kobe-u.ac.jp/~keieizaimu/uploads/files/zenkokutaikai/38/21.pdf?wapr=548e3aff

では、アメリカの個別企業で見てみるとどうだろうか。上に引用したのと同じ小論から引くと、以下のようになる。

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出典:同上

これを見ると明らかなように、Google, Apple, MicrosoftというIT企業を代表する企業の実際の税負担率は、法定実効税率より10%以上低い。「うち、海外差」とあるのは、海外子会社の法定税率の差を示しており、これらの企業が海外子会社を低い法人税率の国に設立し、その子会社を利用した節税スキームを構築していることが伺える。

一方で、日本企業はどうだろうか。

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出典:同上

こちらは逆に法定実効税率と実際に支払った税負担率は大きく変わらない企業が多い。唯一、日本電算とHOYAは米企業と同様に実際の税率との差が大きく、これも海外子会社との法定税率の差を活用していることが伺える。

以上、世界の法人税の状況と、グローバル企業が海外子会社との税率の差を活用した節税スキームを構築しているのを見てきた。では、今後この問題はどうなっていくであろうか。欧州をはじめとして、グローバル企業に対する「租税回避」への締め付けは今後はもっと厳しくなっていくだろう。一方で、スターバックスの例のように節税自体が「違法」なわけではなく、どう規制していくかというのは難しい問題。

ただ、欧米においても「格差」の解消は大きな議論の的になっており、「分配」という観点から見ても、大きな利益を生み出しているグローバル企業が、「租税回避」スキームによって著しく低い税負担率で済ませることは、今後さらに難しくなるだろうと思う。