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保育園問題をコンサル経営の視点から考える

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こんな記事が話題になっていた。

自治体が株式会社の参入を渋る、という構図自体は大きな課題だが、コンサル事業の経営を見ている身からすると、保育事業は民間事業者の参入を促しても構造的に難しい側面を抱えているのではないかと感じている。

保育園の収入モデルは基本的には毎月の固定の保育料が中心となっている。新生児を対象としているため受付可能な人数には限界があり、事業規模を大きくすることは難しい。よって、売上を大きくしていくことは難しく、結果として利益を出すには原価の大半を占める人件費を低く抑えることが主要な選択肢になる。しかし、給与を低く抑えることは、保育士のモチベーション低下や高い離職率に繋がり、それはサービスレベルの低下や人手不足を招いてしまう。

これはサービスビジネスというビジネスモデルが共通に抱える課題と言える。「人」自身がサービスを提供しており、労務費が原価の大半を占めているため、製造業で継続的に行われるような生産性改善や原価低減がなかなか難しい。

どういうことかというと、1点目は、人の生産性は急にあがらない、ということ。製造業のように、新しい設備投資をすることで生産性が一気に高まる、というようなことは起きない。もちろん実務経験や新しいスキル習得で生産性は徐々にあがっていくが、それを経営的にコントロールすることは難易度が高いし、仮に上がったとしてもその上昇の幅はさほど大きくない。

2点目は、給与は下げにくい、ということ。上記したようにサービスビジネスの原価は労務費が多くを占める。がゆえに、原価低減しようにも、従業員の給与くらいしか大きな費用項目がない(コンサル・ITビジネスでは「外注費」が大きな費用となっているがここでは一旦議論から外しておく)。しかし、誰もが分かるように、従業員の給与を下げる、というのは経営的には最後の手段となる。コンサル・ITビジネスでも、事業が不振になると給与削減やリストラを実施するが、それを実施すると従業員のモチベーションは著しく下がり、結果として顧客向けのサービスレベルが下がるという負のスパイラルにはいってしまう。

保育園の話に戻ると、上記のような構造に加えて、保育園は一定規模の「土地」が必要であることがさらに問題を難しくする。市場原理を導入して民間の参入を促しても、例えば東京都内だと地価が高く、場所の確保も難しいという制約があるため歪みが生じてしまう。実際のところ都内では、区民の負担率が低い認可保育園は「園庭付き+ベテランの経験豊富な保育士」という高いレベルのサービスを提供している一方で、月15万円以上かかる認証外保育園は「マンションの一室+経験が浅い保育士」と、区民の負担金額とサービスレベルが逆になっている例が多い。

よってフローレンスの駒崎氏などが指摘するように政府補助の増額というのは有力な選択肢であろうと思う。もっといえば保育の公立化を進めること。一方で、政策的にこれを実現するのは、この低成長の時代にはかなり難しいことはわかっているのだが。。