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ネガティブな人こそ組織に必要かもしれないわけ

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 今日はエンゲージメントに関するHBRの記事をご紹介。

従業員のエンゲージメントの強さがパフォーマンスを高める、というのは、アメリカの経営まわりでは最近よく見かける考え方。それに対しこの記事は、確かにエンゲージメントは重要だけど、そんなに単純な話でもないよ、ということを論じている。

例えば、Googleの研究は、オープンで安心できる文化、明確なゴール、強い目的意識が存在すること、の3つがチームがうまく機能する要因であることを明らかにした。

他にも、リーダーの判断や意思決定が、エンゲージメントよりも、チームや組織のパフォーマンスに影響していることを示した心理学の研究も紹介されている。時に「暴君」となるスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスがきわめて強い組織を作り上げていることがよい実例と言える。

こうした見解を踏まえつつ、この記事ではエンゲージメントを高めようとする時に注意すべき4つの点を上げている。

現状を守ろうとしてしまう

 メンバーが自信を持っていて、強く動機付けされている「エンゲージメント」の高い組織は、実は新しいやり方に抵抗を示す傾向を持つ。例えば、この研究は、自分に自信のある人ほど現状に甘んじてしまい、逆に現状にストレスや不満を感じている人ほど、新しいブレークスルーを生みやすい、ということを明らかにしている。記事中では、Nokia, Kodak, Yahooを例としてあげているけれど、確かにビジネスにおいても、強い技術やビジネスモデルで、強固な基盤を築いた企業が、産業の変化についていけなく衰退していくのは、「イノベーションのジレンマ」でも論じられている通り。

従業員が燃え尽きてしまう

エンゲージメントの高い組織では、従業員は仕事に深く入り込んでいる。しかし、この研究が示すように、過度に仕事にのめり込むことが、家族との関係や健康を壊してしまう。組織への忠誠心が高く、仕事をきちんとこなすことへのモラルも高い日本ではよく見られる光景。短期的には業績向上に役立つケースも多いけれど、長期的には組織を疲弊させ、結果として業績悪化に繋がる場合も多い。

前向きな人ばかり集めてしまう

これは面白いポイント。組織がエンゲージメントを意識し過ぎると、仕事に前向き、性格がポジティブ、コミュニケーションが得意、といったタイプの人ばかりを重用しがちになる。例えばこの研究では、ホテルのフロントやレストランの従業員が、自分の仕事が好きで誇りを持っている人ほど高い顧客満足度を得る傾向があることを示している。確かに企業はそういうタイプの人をできるだけ増やしたいと思っているだろう。

一方で、上記したように、現状に不満を抱えている人ほどブレークスルーを生み出す、というケースもあり、組織全体でエンゲージメント向上に適した明るく外交的で、自分の仕事が好きな人ばかりを集めればいいとは言えない。役割に応じて従業員の多様性を担保することが重要になってくる。

ネガティブの価値を軽視してしまう

 これも3つ目のポイントに関連した面白い点。この研究は、ネガティブなムードにある人のほうが、ポジティブなムードの人より、粘り強く作業し続けることを明らかにしている。また、適度にストレスを与えられた人のほうが、目的達成のために、集中して仕事する傾向になる結果として成果をあげられる、ということも別の研究が示している。これは確かに経験からも頷けるところがあって、必ずしも人当たりは良くないし、よくネガティブなことを言うけれど、仕事ではそういう性格が、高い作業品質の確保、納期の厳守、組織への適度な緊張感の植え付け、などに繋がって実績をあげている人はよく見る。

以上4点とも現場の経験からも頷けるところがあって、組織を運営する上での頭の整理にはなかなか有益と思う。こういった「心理学」の要素を組織の仕組みづくりに具体的にどう反映していくか、というのは今後ますます焦点があたってくるだろう。

 

産業・組織心理学エッセンシャルズ

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