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オープンハウスとライフネット生命 ー マーケティングにおける「感情」とは?

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 オープンハウスが喚起する「感情」

先日オープンハウスという都心で戸建て住宅にフォーカスして業績を伸ばしている企業についての記事を読んだ。これが面白かったのでご紹介。 

このインタビューで、荒井社長が語っているこの部分は非常に面白い。

荒井: 買うモノがあるということが大きいです。家は感情で買います。ロジックでは買いません。偉そうなロジック型の営業担当から家は欲しくないでしょう。上から最もらしいこと言われるよりも、下から気持ち良くさせてもらいたいのが人間の本能です。

不動産に関して、究極的に顧客にとって営業マンは関係なく、場所と価格なのです。そこに良い商品を提供すればいい。あとは営業マンが信頼できそうかだけ。(強調引用者)

 私も昨年家を買ったのだけれど、その経験からするとこれはすごく頷ける。まさにポイントは「感情」。

というのも、普通のサラリーマンにとって住宅ローンは金額が大きすぎて、ロジックの積み上げではなかなか決断できない。

なので、結局「家族を喜ばせたい」とか「家を自慢したい」みたいな「感情」が伴わないと最終的な意思決定に至らないからだ。

考えると保険もそういうタイプの商品で、合理的な計算よりも「自分が死んだら家族が心配」や「資産運用とか難しいから任せたい」という感情が全て。

そこに多少強引にでも寄り添う生保レディモデルによる営業が機能したのは、上記のオープンハウス社長の観点からもよく理解できる。

ライフネット生命の苦戦

そこで頭に浮かんだのはライフネット生命。彼等は、生保レディに象徴される既存の保険営業を否定し「合理的」な意思決定をアピールした。

これは新鮮な切り口だったし、私も創業者二人の理念や理想に共鳴し、創業当初のセミナーに足を運んだくらいだった。実際彼等はソーシャルを最大限活用したマーケティングに成功し、一気に加入者を増やし上場まで事業を持っていった。

しかし、今振り返ってみると、そうした初期の加入者は「創業者の理念や格好良さに共鳴する先進的な自分」という「感情」が意思決定の肝だったかなと思う。

私もまさにそういう気持ちだった。ただ、そういうやや入り組んだ「感情」は市場が狭い。結果として、ここ数年は契約数が伸び悩み、株価も上場時の半値以下に低迷している。

オープンハウスに話を戻すと、彼等の営業はほんとうに「しつこい」。

私も一度物件の問い合わせをしたことがあったのだけれど、その後の営業攻勢は徹底していて、夜にも平気で電話かけてくるし、電話はやめてくれといったら毎日ひたすらメールを送ってきた。

ただ、いま振り返ると家を買う時(オープンハウス以外から購入)のポイントは、まさに「場所」と「価格」の掛け算だったし、自分が家を買うんだ、という今思うと不思議な「高揚感」がそこにセットになって購買に至った。

そのことを振り返ると、オープンハウスの営業攻勢は、一見時代遅れな根性主義に見えるけれど、人が物を買うという行為に対して「合理的」といえるのではないか。

こうした観点からは、この田端氏の記事は非常に示唆的なので最後にご紹介。

特に以下に引用する部分はとても頷ける見解だと思う。

マーケティングとは何かっていうことをビジネス的に考えるのもいいけど、僕はマーケティングってもっと下世話なものだと思っていて。欲望を扱うものだと思うんです。

何が言いたいかというと、みなさんはコンビニに行って、『お〜いお茶』か『伊右衛門』か、どちらを買うかを必ず決めている人って少数派じゃないですか、何となく選んで買いますよね。
断言しますけど、今の消費行動の8割くらいは、実は消費者自身がなぜそれを選んだのかがわかっていない。
後づけで自己正当化することはあっても、買う時には無意識に決めているんですよ。その無意識の深層心理にどう訴えかけるかというのも、マーケティング。
だから、自分自身の行動をよく観察したり、自分自身の心の中の汚い部分とかどす黒い部分、せこい部分や嫌な部分を観察することがすごく大事ですね。