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日本のビジネス界で仕事の標準化が好まれない理由

標準化を好まない理由

日本のビジネス界では標準化が好まれない、というのは興味深い特徴で、大企業からスタートアップまで、自分だけ、もしくは自社だけのやり方を見つけ出そうとする傾向がとても強い。

例えば、業務を標準化してインドや中国などにアウトソースしていくBPO市場を見てみても、日本は米国に比べてGDPに占める割合が非常に小さい。

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出所: HfS Research 「State of the Outsourcing Industry 2013」

なぜだろうか。

もちろん理由はひとつではないけれど、やはり雇用モデルがメンバーシップ型であることは大きい。メンバーシップ型では、仕事の役割や範囲が明確に定義されることは少なく、結果として仕事で「自分なりの」やり方を見つけ出して成果を出すことに価値が置かれやすい。

仕事は自分の「表現」

そして、さらに重要なのは、そうした仕事のやり方における「個性」がアイデンティティの拠り所になっている、という心理的な要素。つまり、仕事それ自体が自分自身の「表現」になっているのだ。よって、日本では自分なりの「創意工夫」を仕事に込めようとしている人は多い。

これは、あらかじめジョブ・ディスクリプションという形で作業内容が定義されている欧米で主流となっているジョブ型では起こりにくい。私もアメリカ企業で長く働いているけれど、そこで重要となるのは、あらかじめ定義された職務内容の範囲でいかに「成果を出すか」が焦点。なので、付加価値が出しにくい定常業務はさっさと標準化してオフショアにアウトソース、というのは日常的な光景になっている。

対して日本の場合は「アイデンティティ」という繊細な部分と紐付いているので、業務の標準化に対する反発は想像以上に大きい。ERPの導入や業務改善のプロジェクトに関わったことのある人ならば、この「現場の反発」は一度は経験していると思う。

そこでは、仕事のやり方を変える、とか、効率化する、という話が簡単には受け入れられずに「自分の存在が脅かされる」という感じで情緒的に反対する人が実務の現場では結構多い。

AI時代にどう適応していくか

ただ、強調したいのは、標準化の推進について、欧米と日本のどちらが良いかとは一概に言い切れるわけではないということ。

日本企業における「自分のやっている仕事が自身のアイデンティティと紐づく」という特性は、仕事での日々の創意工夫につながっており、それは日本企業の「現場の強さ」や「思いがけないイノベーション」を生み出す源泉になっていると言える。

つまり、主に財務的側面から業務を標準化して経営変革すればいっちょあがり、という訳にはいかず、それが経営力を弱めるリスクもあるのが注意すべき点。これはAIの導入やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)に日本企業がどう向かい合うか、というテーマにつながり、今後も日本企業の経営で重要な要素となるだろう。

 

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