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「職務経歴書長すぎ」日本人の文章の問題点

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職務経歴書に「メッセージ」や「構造」がない

私は仕事柄よく履歴書や職務経歴書を見るのだけれど、そこに「メッセージ」が込められていないものが多くて勿体無いなといつも思う。例えると、商品名しか書いてない広告を読まされているような感じになることが多い。

労働市場では自分は「商品」なので、的確な言葉や描写で自分の経験やスキルを示して、どうやったら「買ってもらえるか」を考えるのが大切かなと。

まあ「誇大広告」という言葉もあるように、職務経歴書をいくら「お化粧」しても自分のスキルが上がるわけではないけれど、まずは文書から自分を「魅力的に見せる」というのは、転職活動においては非常に重要。

そして、より本質的な課題としては、職務経歴書の文章に「構造」がないことがある。実はこれがメッセージの弱さにも繋がっている。この点はすごく強調したい部分。

残念ながら日本では、文書は標準的なフォーマットに則って論理的かつ簡潔に記述すべし、というのを習う機会が大学などでもなかなかない。ゆえに、職務経歴書の場合でも、5ページ以上になる冗長なものも多い。基本は、最大2ページで両面印刷で1枚というのがあるべき姿なのだけれど。。

ライティングを「学ぶ」ことの重要性

やはり、大学できちんとライティングの基礎をみっちりと学べないのは、日本の職業人の弱点になっていると思う。構造的かつ論理的な文章を書ける人が少ないし、そもそも変な表現を使う人も多い。仕事ができる人でも、なんだか摩訶不思議な論理展開と文体を持った文章を書いてきて困ってしまうことも多々ある。

また、就活のエントリーシートの内容にも疑問を感じることが多い。エッセイを課すこと自体は悪くないと思うけれど、エッセイというのは、構造が決まっていないし、その文体を含めて非常に高度な文章力が求められるので、就活における自由記述的な文章で果たしてどうやってそれを評価するのだろうかと思ったりする。

そして、これは日本のビジネス界では、文書作成とは標準的な「お作法」に則ってなされるべき、と認識されてないことを示唆していると言える(これは実は業務の標準化を好まない日本のビジネス界、という課題とも直結していると思う)。

例えば、私がアメリカの大学で学んだことでいまも役立っているのは、このライティングの「作法」を叩き込まれたこと。アメリカの大学の授業では、重要な論点についてエッセイ(小論)を宿題として課されることが多いけれど、この文章は必ずアカデミック・ライティングの構造に準拠していることが求められた。

アカデミック・ライティングとは何か、については、この記事などはわかりやすい。

以下の図が示すように、Introdution - Body - Conclusionが基本の構造で、この構造に則った文章を書くことはアメリカの大学のエッセイでは必須。これ以外は認めない、というところが重要で、これは業務の標準化にも繋がる重要な考え方。

Introdcutionでこの文章で何について論じるのかを明確にし、BodyではIntroductionで呈示した論点を、複数の観点から論理的に説明していく。そして、ConclusionでBodyで論じたことを踏まえて、論点に対しての自分の回答をまとめる。

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 そして、これを踏まえて、職務経歴書であれば、このビズリーチの記事はうまくポイントをまとめている。

Intorductionにあたる「職務要約」や「スキル」で自分の経験や強みをまず要約して伝える。そしてBodyにあたる「職務経歴」の部分で、なぜ自分がそのスキルを持っていると言えるかを、過去の経験をポイントを踏まえて記述することで説得力を持たせていく

そして、結論(Conclusion)として、採用側が職務経歴書を読み終わった後に「なぜこの人を採用すべきか」が文書から理解されるように構造化されていることが重要になってくる。

また、実際に自分でこうした「構造」を意識した文章を書いて練習すると同時に、構造化された優れた文章を読み込むことは良い訓練になると思う。

その一例としては、この「クルーグマン教授の経済入門」を挙げたい。ノーベル経済学賞を受賞し、日本の「リフレ派」にも大きな影響を与えた、アメリカの経済学者のクルーグマンが、アメリカ経済を題材に、生産性や貿易、日本経済、欧州統合など幅広いテーマについて論じた本。

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

 

ある論点について、分かりやすい論理構造と簡潔な記述でその背景や課題、解決の方向性を提示する文章を書く、というビジネスで求められるスキルを、具体的に楽しく学ぶことができるので、ぜひ一読してほしい。

 また、山形浩生氏の訳者あとがきは、ここで読めるのでぜひ。クルーグマンの過去の業績も分かりやすくまとめられているので、一度読んでおくと理解が深まるかと思う。

P. Krugman "The Age of Diminished Expectations" Translator's Note