グローバル経営の極北

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グローバル企業の経営変革を「物語」から学ぶ「臨床医」としての経営管理

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 ※この記事はフィクションです。筆者の経験を下地にしていますが、設定、登場人物、数字などは全て実際のものと異なります。

過去noteで連載しよう、と試みつつ一回で挫折した、、「V字回復の経営」風に物語仕立てでグローバル企業の経営変革を描いた話があるのですが、少し修正した上でこちらに載せてみます。

響き渡るCOOの怒号

「この数字はいったい何なんだ。しかも、いま何が起きているのか全くわからないじゃないか。お前達はふざけてるのか?」

Sysmetic社日本法人COOのSteveの怒号が会議室に響きわたる。私が上海から帰国した時、所属部門の業績は低迷しており、経営陣のストレスは高まっていた。

世界各地でCOOを歴任してきたSteveは、2012年の1月に日本に赴任してきたばかり。経営のプロである彼から見て、当時の日本法人の状況はまさに「悲惨」な状況だった。

まず当時の事業環境を概観しよう。

売上(Revenue)は金融危機後の需要急減以降下がり続けていた。2009年に40.2億ドル(約4,023億円)だった売上は、2011年には31.3億ドル(約3,125億円)まで2割以上落ち込んでいた。

売上の減少に伴い、利益水準も大きく影響を受け、税引き前利益(PTI)は、09年の20%から11年には13%まで下がっていた。競合の日本企業に比べると依然として十分に高い水準だったが、本社が期待するのは20%という数字だった。

なにより深刻だったのは契約高(Bookings)の減少だった。2009年に38.2億ドル(約3820億円)だった契約高は2010年に33.2億ドル(約3320億円)と急減。その減速は2011年も継続し12年には29.7億ドル(約2970億円)まで落ち込んでいた。

サービス事業は契約時に売上が計上されず、コンサルティングやシステム開発の作業の進行と共に売上が計上されていく。つまり、契約高は将来の売上の先行指標の意味を持つ。これが下がり続けているということは、新しい契約が十分に増えておらず、過去の契約を食い尽くしはじめているということを意味した。

そして、契約高の減少は実際のところ稼働率の低迷を招いていた。特にBillable稼働率(顧客向けの仕事の稼働率)の低迷が深刻で、ターゲットとする70%に対して、60%前後の実績が続いていた。コンサルタントやエンジニアがアサインできる顧客向けの仕事が見つからないため、仕方なく社内のプロジェクトでお茶を濁す例も多かった。

問題なのは、Sysmetic社員の稼働率が低いにも関わらず、外注先への発注金額は高止まりしていたこと。2011年には11億ドル(1100億円)近くの費用が発生しており、売上に対する比率は35%ときわめて高い水準だった。

背景として、日本特有のシステム開発における多重下請け構造がある。

顧客のプロセスやシステムに精通しているのは外部のパートナー会社で、彼等への発注を減らすことはできなかった。しかし、経営の観点からすれば、社員が低稼働であるにも関わらず、外部発注を減らせなければ、それはそのままキャッシュアウトに繋がり利益を毀損する。実際のところ上記したように、利益率はじりじりと下がっていた。

本当の課題はなんなのか?

こうした状況を一刻も早く脱却することをCOOのSteve、そしてCFOのBradは厳しく各部門長と管理部門に求めた。

そうした背景もあり、冒頭に触れた、私が帰国してはじめて参加した週次の経営レビューは大荒れだった。毎週の業績資料を、私の同僚で管理部門のマネージャーの佐久間が説明し始めるや否や、Steveはその説明を遮って怒鳴りだした。

Steve「この稼働率はなんだ。ターゲットより5%も低いじゃないか。いったいどのチームの誰が低稼働なんだ?この資料じゃなにもわからないぞ」

佐久間「はい、すいません。流通部門で契約が想定より遅れており、アサインする予定だったコンサルタントが稼働できて・・」

Steveは佐久間の発言を再度遮りさらに興奮して怒鳴り散らす。

Steve「??本当にそれが原因なのか??その契約で何人、何時間分の稼働が落ちてるんだ、それは全体の何%を占めるんだ?本当にそれが全体の数字を悪くしてる原因なのか?」
Steve「しかも、この外注費はなんだ。既にターゲットを大幅に超えてるじゃないか。社員は低稼働、外注し放題、で、この散々な業績だ。お前たちはふざけてるのか」

佐久間「申し訳ありません、、すぐ原因を調べて報告します、、」

あまりの荒れぶりに唖然としたが、一方で上海で多国籍の経営陣と同様のレビューをこなしてきた私は、現状の経営管理に根本的な課題を感じ取っていた。

それは、事業の構造を全体として捉える仕組みが構築できていないこと、だった。事業とは、まるで人間の身体のように、それぞれの要素が密接にからみ合いながら全体のシステムを作りあげている。なので、売上、利益、稼働率などの指標を個別に取り上げて好不調を捉えるだけでは、事業全体がうまくいっているかを判断できない。

Steveが佐久間に対して怒鳴ったのは、彼が流通という一部門の一つのプロジェクトという個別の要素で、全体の不調を語ろうとしたことにある。

Steveが知りたかったのは、まず事業全体の構造はどうなっているのか、その構造にもとづいて設定された各経営指標はどういう状況なのか、そして、そこからどういったアクションが導き出されるのか、という点だった。こうしたステップを踏むことで経営の健全性を精査し、その改善を導く具体的なアクションを取ることができる。

優れた臨床医は、血圧や心拍など個々の数値だけを取り出して患者の病状を判断したりしない。複数の定量的なデータをもとにし、さらに、往診で得た定性的な情報も加味し、総合的に患者の病状を判定する。経営管理も同様で、個々の経営数値だけ取り出して事業の真の課題を発見することはできない。

Steveの収まらない怒りを眺めながら、私は「臨床医」としてこの事業の構造をどうやったら正しく掴み取れるだろうかと考え始めていた。

【経営ポイント】
事業は、人間の身体のように、個々の要素が密接に絡み合いながら全体の構造を形作っている。よって経営を正しい方向に導くには、優れた臨床医のように、定量データと定性情報を組み合わせながら、総合的に事業の状況を捉える必要がある。

 

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