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IBMはもはや「ハイテクの巨人」ではない

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IBMの2018年Q1の決算が発表になったが、粗利益率の低下や弱いガイダンスから株価は急落した。その結果を踏まえて、なぜIBMがこうなってしまっているのか、を簡潔に、そして手厳しくまとめた記事を翻訳してみた。特に、株主を優先しすぎたがゆえに投資にお金が回らず、結果的にそれが致命傷になった、というのはアメリカの伝統的大企業に共通の課題で、その点を明確にしているのは興味深いところ。

以下ブログ著者(とくさん)による翻訳

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株主と従業員に対する責任に「挟まれ」て、IBMは、クラウド市場で勝ち抜くために必要だった四半期ごとの10億ドル規模の投資をその初期に行えず、その代償をいま払っている。

私はIBMについては投資家に「警鐘」を鳴らし続けてきたが、他のアナリスト達は、IBMが4月17日に、予測より低い利益率、落胆すべきガイダンスを示したことでその課題に気づき始めたようだ。

IBMが、米国防総省の100億ドル(約1兆円)のクラウド投資の方針を変えさせることができなかったことは、「売り」推奨の大きな理由になる。国防総省の「お気に入り」はアマゾン(AWS)で、その契約はアマゾンの単独受注になりそうだ。

IBMの政府向け事業を統括するSam Gordyは、IBMがこの国防総省案件を取ることはできないし、今後もこのレベルの大型案件を受注することは難しいだろうと考えているようだ。

もはや「ハイテクの巨人」ではない

IBMはよく「ハイテクの巨人」と称されるが、実態はすでに異なる。

直近の決算は売上が191億ドル、純利益は17億ドル、 一株当たり利益は1.81ドルだった。これはマイクロソフトの先期実績の3分の2に過ぎない。マイクロソフトの時価総額は7420億ドルに、IBMの1370億ドルの5倍以上だ。

つまり、シンプルな話として、IBMは国防総省の案件を受注するには財務的余力に欠けている。そしてそれは10年前に「投資」より「株主」を優先したからだ。一方で、Facebook, Amazon, Microsoft, Apple, そしてAlphabetは徹底的に投資に注力した。そして、その結果として、IBMは「過去の」存在になってしまった。

もちろんIBMだけがこうした間違いを犯してしまったわけではない。AT&T, Verizon, HP, Oracleといった企業もクラウドに対しての投資より株主を優先してしまった。Oracleはいま、そこに追いつこうと必死に投資をしているが、それ以外のプレイヤーはすでに諦めムードだ。

「誇大広告」に騙されるな

クラウドのデータセンターに投資する代わりに、IBMはもう何年もプレスリリース「頼り」になってしまっている。そして、CEOのVirginia Romettyもこのやり方を前任者から踏襲している。ブロックチェーン、AI、そしてワトソン。どれも「誇大広告」の側面を持ってしまっている。本質的な問題は、それをキャッシュに変えていく投資余力に欠けていることなのに。

それはムーアの「第二」法則とでも呼べそうだ。「ムーアの法則」では、コンピュータ・チップは時間の経過とともに部品当たりコストが下がっていくとしている。そしてそれは、「生産」にかかる総コストは増大することを示唆している。クラウドはその意味でムーアの「第二」法則的な要素があり、まだ先が不確定な時にクラウドに思い切って投資した企業は、いま隆盛を誇っている。というのも、(国防総省のような)大きな顧客にサービスを提供するには、強固な財務基盤が求められるからだ。

IBMにとっての「底」

よって、PERは低いのでIBMを「押し目買い」すべき、という見解は的を得てない。

IBMは新しいクラウドの世界において戦うには「小さすぎる」のだ。

IBMを分割すべきだ、とは長く言われてきたし、私も昨年12月にそれに同意した。2015年には、私はIBMはRed Hatを買うべきだと主張していたし、CEOであるJim WhitehurstにIBMの変革をリードしてもらうべきだと考えていた。

その時であれば、Red Hatは「安い買い物」だった。Red Hatの時価総額は120億ドル、IBMは1500億ドルだった。いまRed Hatの時価総額は280億ドル、そしてIBMは1340億ドルだ。年を取ってしまった少女は「赤い帽子(Red Hat)」すら買う余裕がないのだ。

(強調訳者)

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