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「IBMグローバル経営層スタディ」からの示唆~テクノロジーが変える現代の経営(1)

昨年11月に公開されたものだけれど、IBMが定期的に実施している経営者層へのインタビュー調査の2015年版についてのご紹介。2003年から実施されている調査で、過去はCEO Study, CFO Studyなど役割に応じた調査だった。2013年からは全ての経営者層(CEO, CFO, CHRO, CIO, CMO, COO)に対して同時に実施する形になっている。今回の2015年のものは、70カ国以上、21業界にわたる5,247名の経営者を対象に実施された。ここまで大規模な経営層へのインタビュー調査というのは他になかなか存在せず、IBMの幅広い業種と経営レイヤーに対するリーチの深さを示している調査といえる。

全体を見渡すと、「破壊的企業」の脅威、デジタルによる顧客接点の強化、クラウド、アナリティクス、IoTといった新技術による事業変革、経営の意思決定におけるデータ(コグニティブ)の活用、パートナーシップやプラットフォーム構築の重要性、など現代の経営においてキーとなるテーマについて経営者層の回答が整理され、それに対するIBMによる適切な分析、まとめ、提言がなされており、以前の調査に比べても見通しのよいものになっていると感じた。

各テーマについて調査結果をもとに見ていくことにする。まずは、「「破壊的企業」の脅威」について。

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この結果が示すように「他業界」からテクノロジーをレバレッジする形で既存の産業のルールを変更し、既存企業を脅かす「破壊的」存在に対して経営層の警戒感は増している。「ウーバー症候群」という言葉も紹介されているが、まさにUberがタクシー業界の構造を劇的に変えていったように、今やどの産業も、同じ産業内の競合だけを見ていればよい時代は終わり、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」で素描された「破壊的」プレイヤーの存在に注視する必要がある。

「破壊的テクノロジーが、事業の
ファンダメンタルを変える
可能性がある。それがオープンな
形で普及すれば予測できない
影響がでる」
平井 一夫, 社長兼CEO, ソニー株式会社, 日本

 次に「デジタルによる顧客接点の変化」

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アメリカやイギリスでは既にデジタルマーケティング市場はかなりの規模に達しており、デジタルチャネルにおける顧客接点の再設計および強化は着々と進んでいる。特に重要なのはここにもあるように「個客」への対応で、データの蓄積とその活用によるパーソナイラゼーションは、顧客体験の向上とそれに伴うロイヤリティの向上を可能にする。データサイエンスとマーケティングが交接し、そこにデザインやクリエイティブという要素が加わることで、新しいマーケティングの形が生み出されてきており、今後もここは経営における最重要課題の一つと認識されるだろう。

下図はアメリカのデジタルマーケティング支出の実績(14年)と15-19年の成長予測。既に6兆円を越える規模になっており、19年には10兆円以上まで拡大すると予測されている。

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Source:  http://www.statista.com/statistics/275229/us-interactive-marketing-spending-growth-from-2011-to-2016/

この巨大な市場を狙ってソフトウェアベンダーも激しい戦いを繰り広げている。Gartnerから発表された最新のMagic Quadrant for Digital Marketing Hubは以下の通り。Adobe, Oracle, Salesforce, Marketoが「リーダー」として位置づけられている。一方で、どのベンダーも、データベースのOracle, ERPのSAP, CRMのSalesforceのようにカテゴリーの代名詞となるところまで突き抜けてはおらず、その市場規模の大きさを考えると、今後数年は各社つばぜり合いが続くと思われる。

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少し長くなったので、残りは次回としたい。