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海外事業のマネジメントに苦しむ日本企業

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楽天が最新の決算で電子書籍のKoboをはじめとした海外事業の減損を行ったことが話題になっていた。

ネットでは、海外事業の苦戦を「英語公用語」化と結びつけて揶揄する人も多くいたけれど、当然ながらそれは本質的な部分ではない。

僕は楽天の事業領域には明るくないので、その観点からではなく、日本とその他の国(主に欧米)とのマネジメントスタイルのギャップという観点から考察してみたい。

まず、濱口桂一郎氏の「ジョブ型」と「メンバーシップ型」という、欧米と日本の雇用形態の違いをうまく整理した概念を紹介する。

一般的に欧米企業は「ジョブ型」の雇用となっている。ここでは「仕事に人をはりつける」。職務範囲は明確で職能ごとに役割定義がなされる。雇用は「必要な仕事が定義された時」に行われる。

一方で日本企業は「メンバーシップ型」の雇用。ここでは「人に仕事をはりつける」。職務範囲は曖昧で属人的。長期雇用が基本で様々な職能をローテーションすることも多い。

仕事に人がはりつく欧米企業型の場合、経営マネジメントはあくまでその「仕事」が想定通りに進捗し、成果を出しているかに向かう。なので、KPI設定→ダッシュボード作成→定期的な経営レビュー、といった手順で想定どおりの成果が出ているかを検証していく。もしその仕事を担当している「人」が成果を出していなければ、その人を外すかクビにして他の人を探す。ポイントは、このモデルでは焦点があくまで「仕事」に向かうところ。

一方で、日本のマネジメントはこの点が曖昧になる。「人に仕事をはりつける」ので、マネジメントの視線はまずその「人」が「うまくやっているか」に向かう。なので、想定通りの成果が出ていなければ、改善すべきはその「人」のパフォーマンスとなる。ここは上記した欧米企業と大きく異なる点。

こうした考察を踏まえ、楽天の話に戻ろう。社員による企業評価サイトであるGlassdoorの楽天のレビューを見てみると、彼等が抱えるマネジメントの課題が浮き彫りになってくる。

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Poorly managed by Japanese executives that have no understanding of American business or customer behavior. The SOP is to set targets that are unachievable as a way to save money on commission payouts. All the VPs and Directors were promoted based on sucking up rather than verifiable performance. Morale is extremely low and the employee turn over is high.

Loosen the control of the Japan parent company and hire executives with experience in this market.

以上のように総合評価は2.7と低く、レビューのコメントにも厳しいものが並ぶ。レビューの評価やコメントを一般化することは避けるべきだけれど、本社の「日本人」のマネジメントが稚拙、というコメントは他にも多く散見される。あくまで推測になってしまうが、この背景に、上記した「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の違いと、それに起因するマネジメント手法の違いをみることは不自然ではないだろう。

強調したいのは、日本的「メンバーシップ型」の雇用やそれに紐づくマネジメントモデルが劣っているわけでないということ。例えば、日本が依然強い競争力を誇っている素材や部品産業など、長期に渡るR&Dに投資する必要がある産業では、日本型の長期雇用モデルは力を発揮するだろう。

一方で、楽天が足場を置いているインターネット・ハイテク業界のように、産業構造の変化が激しく、必要とされるスキルの変遷も激しい場合は、やはり「ジョブ型」が適切になってくる。今後の成長産業でどう日本企業が足場を築いていくか、という課題は、このマネジメントモデルの違いを考慮することが大切になる。

日本企業のグローバル経営モデルとしては、日本本社と別に海外事業を統括する会社をジュネーブにおいているJTのモデルが参考になると考えており、その点についてはまた改めて別記事で論じたい。

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