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ベネッセ原田社長の退任から透ける「現場の抵抗」問題解決の難しさ

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business.nikkeibp.co.jp

ベネッセの原田社長が退任を発表した。この日経ビジネスの記事では、彼が就任当時に漏らしたこんなコメントに触れている。

ベネッセの社員は教材作りなどで優秀だが、学級委員タイプでマーケティングや財務などの経営の基本ができていない

原田氏の経営手法が実際どうだったかは別にして、この「経営の基本が共有されてない」というのは、日本企業が抱える課題と言える。日本企業の経営では、その企業「独自」の経営手法が賞賛される傾向にあり、結果として欧米(最近ではアジアでも)で標準化されつつある経営の基本的な手法に精通した人材が少ない。

さらに、こうしたグローバルで標準的な経営モデルに移行しようと望んでも、企業(事業)の成熟期に入ってから経営の仕組みや人材のスキルセットを変えるのは難易度が高い。特に、日本企業で一般的な終身雇用モデルだと、その変革はさらに難しくなる。

そこで、多くの企業は外部のコンサル登用や中途採用でその課題に対応しようとしているのだが、「民主型」の日本の経営モデルだと、現場からの強烈な突き上げ、というさらに困難な課題があり、それを解けずに経営陣が変革を諦めていく場合が多い。

経営モデル移行の困難

ベネッセの課題もまさにそこにあるように見える。「進研ゼミ」をはじめとした教育事業は、安定した事業基盤となって会社を支えてきたし、そこでの成功で得たキャッシュを介護事業などに投入する形でベネッセは事業拡大してきた。現在の業績不振は個人情報流出に起因する面も大きいとはいえ、より本質的には、少子化やリクルートのスタディサプリのようなデジタル化による変化に、既存の成功モデルが以前ほど通じなくなっていることが大きいだろう。

圧倒的な成功モデルを持ち、しかもそれを担う人材が長期間変わっていないと、ベネッセが直面しているように、市場の変化に対応した経営モデルに移行していくのはとても難しい。日経ビジネスの記事からは、この課題をうまく解くことができなかったことへの原田氏の苛立ちがとてもよく伝わってくる。

「お神輿型」マネジメントの課題

日本企業の経営モデルは「お神輿型」だというのはよく言われる。これはお神輿の上に乗った経営陣を、「現場」のミドル層が「担ぐ」形で経営が行われる様子を指している。

この例えが面白いのは、経営陣がお神輿の上に乗っている、ということは、それを支えるミドル層が経営陣を神輿から「落とす」ことも可能だということ。つまり、経営陣の生殺与奪をミドル層が握っていることになり、実際のところ日本の経営では経営陣の意思決定を「現場」のミドルが押しつぶしたり、抵抗勢力としてその実現を阻むケースがとても多い。

三枝匡「V字回復の経営」が名著である理由の一つは、「抵抗勢力」をどう抑えながら改革を進めるか、という日本の経営環境で一番難易度が高く、重要な課題を正面から取り上げているから。彼の本からは、「現場」の抵抗、という経営における困難がリアルに伝わってくるし、それをどうやって解くべきかの回答を、具体的なストーリーを通じて学ぶことができる。

大切なのは、欧米型経営のコンセプトをそのまま日本企業の経営に導入しようとすることでなく、日本型経営の歴史や企業ごとの特性を十分に踏まえた上で、経営のリアルな「現場」でどうやって競争力のある経営モデルを導入、実行していくかにある。その困難に正面から向きあう経営陣や管理職が増えないと、今後もベネッセが直面しているような課題を解くことは難しいだろう。

V字回復の経営 2年で会社を変えられますか 企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

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経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

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戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

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比較制度分析序説 経済システムの進化と多元性 (講談社学術文庫)

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