グローバル経営の極北

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経営陣が現場で泥まみれにならずに「日本的経営」なんてできないのでは

僕は小売業には明るくないけれど、このインタビューは経営のあり方について示唆を与えてくれる。

まず、玉塚氏がIBM時代に柳井氏に「説教」されたと語るところ。

【玉塚】君は何をやりたいんだと言われました。僕が本当にやりたかったのはコンサルティングではなく経営。それを見抜かれたんでしょう。柳井さんはこうおっしゃったんです。経営や商売というのは、自分のなけなしの金で場末に店を出して、一生懸命考えることから始まる。誰も来ないとする。どうして誰も来ないんだろうと考える。店が暗いのか、他の店よりも価格が高いのか。試行錯誤して、お客さまに来てもらえるようになったとしても、何も買わずに出ていく人もいる。そのうち自分の手元のキャッシュが減っていき、胃が痛くなる。そういう経験をし続けない限り、MBAを取ろうが、コンサルティングをやろうが、商売人、経営者にはなれない。

そして、震災の時のこんなエピソード。

【玉塚】最初の震度7の地震が起こったのが4月14日でした。ローソン本部からまず200人を派遣しました。土曜日の朝、16日に東京で対策会議を開いていたんですが、テレビ会議では現地のことはわからない。そこで翌日、私も道路が通じていた鹿児島から4時間かけて熊本に入りました。

【弘兼】トップ自らが現地に入った。

【玉塚】被災地の現状、温度感を知ることは大事。トラックを走らせる、航空機で空輸するという指示を出さなければなりませんからね。

【弘兼】熊本は地形的に周囲から物資を運ぶのに渋滞しがちだとか。

【玉塚】今回は東日本大震災のときと違って、製造拠点が壊滅的な被害を受けたわけではありませんでした。周囲には商品があったので、いかに効率的にお店に届けるかが一番のポイントでした。現場の状況を判断してパンを東京から二度空輸しました。

【弘兼】現場でトップが適切な判断ができれば強い。

【玉塚】オーナーの方は泥だらけになって、店を復旧しようとしておられた。そこで感じるものってありますよね。できる限りの加盟店さんを回りました。現場に張り付いている社員も徹夜でした。

これを読んで前にツイートしたことを思い出した。

日本を「代表」するとされる伝統的な大企業がここ20年苦戦している例は多いけれど、経営の仕組みは欧米的にしつつ、終身雇用はじめとした「日本的経営」を温存、みたいなパッチワークでやろうとしているところに問題があるのではないか。本当の意味での「日本的経営」を貫徹するなら、兆円規模の会社になっても、経営陣が現場で汗かいて、真剣にメッセージを伝えて、従業員やその家族のためになることを嘘なく実行する、などが必要になってくるはず。

そういう経営は、この規模の大企業ではできないからとかいって、自分は個室で運転手つきで、欧米的に上がりつつある報酬を貰いながら、反発を恐れて事業撤退もリストラもできなくて、形骸化した終身雇用モデル維持してるなら、そりゃ企業の活力は失われる。従業員はみなそういう経営陣のあり方の嘘や情けなさをよく知っているはずだから。

経営陣で考え抜いた末に日本的経営モデルを守ると決めたなら、経営陣は徹底的に現場で従業員と泥まみれになってお客様のことを考え、社内に向けては従業員が目標に向かって、真剣かつ楽しく働けるような仕組みを毎日必死に考える。こういうことを実行するのでなければ、どうやってもうまくいかないだろうと思う。そこまでやらずに、日本的経営を守る、みたいのはないのではないか。

玉塚氏の経営が実際どういう形で「現場」から受け止められているかはわからないけれど、「日本的経営」という幻想にとらわれずに、改めて「商い」の原点に立ち返ることの重要性を思った。

プロフェッショナルマネジャー  ?58四半期連続増益の男

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