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【組織心理学を学ぶ】リーダーシップを決める要因とはなにか?

最近のビジネス界では、マインドフルネスやHR Techなど組織・人事領域への関心が非常に強くなってきている。その中でも、リーダーシップ、というのは奥深く、経営にとっても重要なテーマ。今回は組織心理学を参照してリーダーシップ研究を概観してみよう。

なお、以下の議論は全て「産業・組織心理学エッセンシャルズ」の5章を参照している。

産業・組織心理学エッセンシャルズ

産業・組織心理学エッセンシャルズ

 

まとめ

  • リーダーシップ研究はリーダーの「特性」を理解しようとするところからスタート
  • 次に、リーダー自身の「行動」が組織にどう影響を与えるかに着目するアプローチが主流に
  • リーダーの行動をフレームワークで構造的に捉えるPM理論が登場

特性アプローチ

リーダーシップ研究の初期は「優れたリーダーはどんな特性を持っているか」に対するアプローチが主流だった。

ストグディル(1974)は、リーダーは「知能」「素養」「責任感」「参加性」「地位」の点で他のメンバーは優れている、と過去の研究成果を整理した。

しかし、すぐわかるように、軍隊と企業、など組織のタイプによって求められるリーダーシップの特性は異なる。さらに、特性を選び出す基準は厳密なものと言えず、互いに矛盾するものが存在するなど問題点が指摘され、この方向での研究はなかなか発展しなかった。

我々が普段話している「あの人は良いリーダーだよね」というのは、まさにこの特性アプローチで、頭の良い人、最後まで諦めない人、皆をまとめられる人、など様々な特徴が指摘されるけれど、全ての要素を満たす人はいないし、どの要素が一番効くかは組織によっても違うので、特性を積み上げるこのアプローチの限界は理解できる。

行動アプローチ

1950年代以降は、どんな特性の人がリーダーになるか、でなく、リーダーになった人がどのように行動するか、に着目する行動アプローチが主流になった。

これが面白いのは、リーダーという「役割」が組織にどういう影響を及ぼすか、という視点で、リーダーの個人的な特徴から論じるのでなく、構造的な観点から論じることを可能にしてくれる。代表的な研究に触れよう。

■リーダーシップスタイル

 ホワイトとリビット(White & Lippitt, 1960)は大学生のリーダーシップスタイルを「民主型」「専制型」「放任型」の3種類に設定し、その影響を実験した。

結果は以下の通り。

「民主型」:メンバー達は友好的な関係を築き、動機づけも高かった

「専制型」:チームの雰囲気は攻撃的で悪く、リーダーがいなくなると怠慢になった

「放任型」:メンバー達は緊張感にかけ、動機づけや効率性も低かった

この研究のポイントは、リーダーシップの「スタイル」が組織に与える影響を示したこと。つまり、リーダーの「行動」が組織のあり方やパフォーマンスを規定していく、という方向性を示したことが画期的と捉えられた。

これを踏まえて、ではそのリーダーの行動は組織においてどんな「機能」を果たしているのか?という方向に研究は進んでいく。

■リーダー行動の2機能説

 リーダー行動の機能に着目した研究の共通点は、その機能には2つの種類がある、ということだった。

例えばカートライトとザンダーは「目標達成機能」と「集団維持機能」、リカートは「仕事中心的活動」と「従業員中心活動」などのように、リーダー行動は、「課題指向」と「人間関係指向」の側面から整理された。

これは普段接しているリーダーのタイプからも頷けることで、とにかく成果を出すことに拘る人、チームワークを重視しメンバーを盛り上げようとする人、の2つで切り取ることはそれなりに納得感がある。

次に研究で注目されたのは、では、どちらの機能の方が組織のパフォーマンスにとって「重要」なのか、という点。

この点についても多くの研究がなされたが、分かったのはどちらか一方だけではだめそうだということ。この2つの側面がきちんと備わっていることが大事そうだ、ということになり、PM理論という有名なフレームワークが生まれてくる。

■三隅のPM理論

心理学者の 三隅二不二のPM理論は、リーダーの行動をシンプルなフレームワークで整理したところに特徴がある。

課題指向の側面を課題達成(performance)機能(P機能)、人間関係指向の側面を集団維持(maintenance)機能(M機能)と名付けて、その2軸でリーダーシップを整理、以下の図のように4領域に類型化した。

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ここでのポイントは、目標達成と集団維持、という一見相容れないようなタイプを一つのフレームワークで捉え、両者を共に達成するPM型というリーダーシップが存在することを示した点にある。

実際このPM理論に基いて多くの実証研究がなされ、集団の生産性およびメンバーの意欲・満足度はPM型のリーダーシップが発揮された時に一番高くなるとの結果が出ている。

一方で、組織の生産性においては、やはり目標達成を重視するP型がPM型についで高く、メンバーの意欲や満足度は、人間関係を重視するM型がPM型について高くなる。

これらは、現場の経験から考えるとある種「当たり前」とも言えるが、リーダーシップ理論の歴史を踏まえると、「課題達成重視」と「人間関係重視」というリーダーに見られる大きな2つの特徴を、一つのモデルで、「両者が絡み合うダイナミクス」をシンプルに捉えられることは有益と感じる。

さらに、実務での応用のイメージもわきやすい。例えば、成果に強くこだわるタイプのリーダーとのコミュニケーション。まず、このモデルを使い、具体的な成果や強みを話しながらその人がP型の領域に属することを確認する。そこからPM型の象限に向けて「メンバーとの関係をさらにどう深めていくか」という点を、その人の弱みや具体的なアクションのアイディアなどを出し合いながら会話するのは有益に感じる。

良いモデルは、自分の「立ち位置」をシンプルな構造で把握し、さらに改善への「動き」を同じモデルで表現できるもの。その点からこのPM理論のモデルはシンプルながら「使える」ものになっている。

長くなったが、以上の「行動アプローチ」に続き、「コンティンジェンシーアプローチ」という、リーダーが置かれている「状況」に着目しリーダーシップの作動原理を探る理論が非常に面白いので、それは別の記事で紹介したいと思う。

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