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全訳版!オランダの銀行INGの「アジャイル」な組織変革がスゴすぎます

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オランダの金融機関INGが取り組んできたアジャイル型組織への変革について、LINE@登録者限定で全訳版を提供していましたが、とても参考になるのでここに公開!

 

なお、LINEでは今後も「限定記事」を提供していくので、ぜひ登録くださいませ!

https://line.me/R/ti/p/%40cca4743k


マッキンゼー: 「アジリティ」をどう定義しますか?

ING: アジリティとはまず「柔軟性」、そして新しい方向に向かってすばやく適応できる組織の力がポイントです。前例踏襲や官僚的な部分を避けて、みんなの力を引き出そうとするわけです。

また、能力が高くバランスの取れたプロフェッショナルを「育成する」という側面も重要です。「アジャイル」であること、は単にIT部門やその他いろいろな部門を「変える」というのに留まりません。大切なのは、End to Endで一貫した原理を持つ、マーケティング、プロダクト、そして営業の専門家、UXのデザイナー、データアナリスト、そしてITエンジニアといった多様な分野の人たちからなるチーム - Squadと我々は呼んでいます - を作ること、そしてそのチームが、顧客のニーズを解決することに注力し、共通の成功の定義のもとに力を合わせるのが大切です。

このモデルはハイテク企業のやり方を参照していて、それを我々のビジネスに合うように設計したんです。

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マッキンゼー: 変革において最も重要な要素はなんでしたか?

ING: 振り返ってみると4つの大きな「柱」がありました。1つ目はアジャイルな働き方です。IT部門と事業サイドは同じオフィスにいて、Squadに属しながら顧客に提供するものを試行錯誤を繰り返しながら作り上げていきます。彼等がやっていることに介入してきてコラボレーションを妨げるようなマネージャーがいないのがポイントです。

2つ目は新しい役割とガバナンスモデルをうまく機能させるために、適切な構造を持った分かりやすい組織にすることです。たくさんの部門、ステアリング・コミッティー、プロジェクト・マネージャー、そしてディレクターがいるようでは、組織はサイロ化しますし、それが「アジリティ」を失わせます。

3つ目はDevOpsをきちんと活用することで、これは非常に重要な点です。とにかく新しいソフトウェアを「頻繁に」リリースできるようにしたかったんです。昔のように一年に5, 6回だけ「大規模リリース」するのでなく、2週間に1回リリースするような感じです。プロダクト開発とITオペレーションの統合によって、画期的な新サービスを作れましたし、そのおかげでオランダ第2位のモバイル銀行になれたと思っています。

最後は新しい人材モデルです。以前の組織では、マネージャーの肩書や給与は、彼等が責任を持つプロジェクトのサイズやメンバーの数で決まっていました。アジャイル型の業績管理モデルでは、そういった「プロジェクト」は存在しません。なので、組織の持つ「知見」を活用できているかが重要になります。異なるレイヤーの知識や専門性をうまく「組み合わせる」ことができているか、というのが変革の大きなポイントでした。

マッキンゼー: 変革のスコープはどんなものでしたか。どこから始めて、どれくらい時間がかかったのでしょうか。

ING: 最初はINGグループ本社の3,500人のスタッフを対象に考えました。マーケティング、プロダクト・マネジメント、チャネル・マネジメント、そしてIT開発といった部門から始めたんです。これは、まずは会社の「核」となるところからはじめて、その成功事例を他の組織に展開するのがいいと考えていたからです。.

 一方で、HR、ファイナンス、リスク管理といった間接部門、支店、コールセンター、オペレーション、ITインフラといった部門はいったんTribeやSquadといったモデルに移行する対象から外しました。これは、彼等が「アジャイル」でない、ということでなくて、「アジリティ」を別のやり方で取り入れてもらいました。

例えば、オペレーション部門やコールセンターにはザッポスの事例を参考にして、「自律型」組織のモデルを導入しました。以前より大きな責任を持ってもらい、同時にマネジメントによる管理を減らしました。

他にも、営業部門や支店には毎日の「朝会」(stand-ups)などを通じて、「アジリティ」を高めてもらいました。

また、法務、ファイナンス、リスク管理は独立性が重要なため、Spuadの一員とはしませんでした。一方で、Squad側が、こうした部門に客観的なアドバイスなどを求める、という形で連携を図っています。

2014年の後半に戦略とビジョンを描いてから、新しい組織と働き方が本社全体で実装されるまでに、大体8-9ヶ月くらいかかりました。まずはビジョンを描いて、テクノロジー業界のリーダー達からインスピレーションを得るところから始めました。

2ヶ月を使って、オフサイトミーティングを5回実施し、この新しい「神経系」に基づく組織作りを進めました。同時に5-6個のSquadをパイロットとして走らせて、準備から実行、そして全体のデザインまで知見を集めました。結果として、適切な人を選んで配置したり、オフィスを改良したり、うまく「実装」に集中することができました。

マッキンゼー: IT関連部門におけるアジリティは、より広範な組織変革において前提となっていましたか?

ING: 必ずしも「前提」ではなかったですが、助けになったのは間違いないです。INGでは数年前からIT部門においてアジャイルな働き方を推進してきましたが、ビジネス側の部門を巻き込んでいなかったので、今のような「全社的」な動きにはなっていなかったんです。

ITからはじめて、それを徐々にビジネス側に広げていく。このやり方のいいところは、全社展開の前に、IT側のチームがまずそのコンセプトを試しながら開発を進められることですね。

もちろん、ビジネスとIT側で同時にはじめる、つまり一気に全社展開することもできるとは思います。どちらのやり方も可能です。

一方で、やってはいけないのは「いいとこ取り」しようとすることですね。そういう会社はすごく多いんですが…例えば、組織構造やガバナンスのモデルを「温存」したまま、方法論「だけ」アジャイルにしようとする、などのケースです。これをやってしまうと目的が曖昧になるし、そういうやり方にはみなストレスを感じてしまいます。

 マッキンゼー: この変革において、INGが持っていた文化を変えていくことは、どれくらい重要な意味を持ちましたか?

ING: 「文化」は一連の変革において、最も重要な要素とさえ言えると思います。ただ、それは自然とうまくいくわけでない、というのがポイントです。我々も、アジャイルな文化に不可欠な、オーナーシップ、権限付与、顧客の重視といったことを浸透させるために、かなりの時間と労力を費やしてきました。組織としても、個人としても、あらゆるアクションにそういった「文化」が埋め込まれている必要があります。

例えば、重要なイニシアチブの一つに3週間のオンボーディング・プログラムがあります。これもZapposからヒントを得た施策で、全ての中途社員に、新しいCustomer Loyaltyチームのコールセンターで最低1週間、顧客からの電話に直接対応する経験をしてもらっています。

他にも、Googleを参考にして「ピア・ツー・ピア」型の採用モデルを導入しました。例えば、私の配下の14名は「同僚が」選んだんです。私は「拒否権」を持っていて、この人だけは厳しそう、となれば採用を拒否できます。ただ、組織のあらゆる階層でこのアプローチを採用して数千人を採用しましたが、この「拒否権」が使われたと聞いたことは一度もありません。うまく機能しているんですね。面白いのは、性別、性格、そしてスキルといった点で以前より「多様化」が進んだことです。結果として、以前よりバランスの取れた組織になったと思います。

これだけにとどまらず、コミュニケーションやオフィスのデザインにも新しいアプローチを採用しました。オフィスの壁を取り払って、たくさんのオープンスペースを作り、従業員間に「非公式」のやり取りがたくさん発生するように設計したんですよ。そして、「公式」のミーティングは一気に減らし、「非公式」なミーティングが「普通」になるようにしました。そのおかげで、組織の雰囲気は、人々が個室に閉じこもっている旧来の銀行というより、ハイテク企業のオフィスのようになっています。

マッキンゼー:  従来型のIT文化は変革の妨げになりましたか?

ING: IT部門において一番大きかったのは、エンジニアの文化を「取り戻した」ことですね。今ではエンジニアであること、コードが書けることにみな誇りを持っています。長い間IT部門では、マネージャーとして、コードを誰かに書かせて、それをきちんとマネジメントできることが成功と考えられていました。

けれど、カリフォルニアでのGoogle I/Oに参加してみて、本当に驚いたんです。そこでは若い人たちがテクノロジーについて生き生きと語っていて、Android、Google Mapなどのプロダクトの可能性を熱く議論していました。彼等からは、自分たちのエンジニアリングのスキルや成し遂げたことへの誇りを感じました。

そこで自分たちに問いかけたんです。「なぜINGにこういうエンジニア文化がないだろう?」「なぜオランダや西欧の大企業では、ITがただ使いこなす対象になってしまっていて、Googleのような"熱”がないのか?」と。そこで、みんながまたコードを書き始めるようにチームを盛り上げていきました。私も書き始めたんですよ。

エンジニアとしてのスキルを持ち、プロダクトを「作り上げられる」ことが、INGのキャリアにおける「成功モデル」なんだとメッセージしていきました。

マッキンゼー: 影響を受けた会社についてもう少し聞かせてもらえますか。

ING: INGは、金融サービス業界における「テクノロジー企業」であると、改めて自分たちを再定義しました。そして、トップクラスのテクノロジー企業になるために、何を学ぶべきかと考えたんです。で、それが学べるのは「本当の」ハイテク企業からで、他の銀行からではないなと。

若い優秀な人にどんな会社で働くのが夢ですか、と聞いたら、彼等の回答はいつもFacebook, Google, Netflix, Spotify, Uberといった会社ですよね。面白いのは、こういった企業はすべて業界が異なるし、目的も違うということです。ある会社はメディア企業であり、別の会社は検索エンジン、そして「輸送」に足場を置いた会社もある。

共通しているのは、その働き方だったり、魅力的な従業員文化です。共通の目的を持った小さなチームで働き、アジャイルを「マニフェスト」として顧客と親密な関係を築き、継続してやるべきことを「再定義」し続ける。

例えばSpotifyからは、組織における「サイロ」を越えてどうコラボレーションしていけばよいのか、についてインスピレーションをもらいました。「サイロ」は、既存企業にとっては依然として非常にやっかいな問題ですから。実際にスウェーデンまで行ってSpotifyを何度か訪問して、まず彼等のモデルを理解することに努めました。その結果、最初は「一方向」のやり取りだったのが、今では「双方向」になってきています。Spotifyから採用や報酬モデルなど成長する上でのチャレンジについて相談を貰うんですよ。

マッキンゼー: 従来型の人事制度から移行したときに、組織としてのまとまりをどうやって担保しましたか?

ING: 新しい組織モデルでは"Squad"が鍵になりました。それぞれのSquadは、まず自分たちの活動の目的を書き出すところから始めます。次に、顧客にとっての価値をどう「測る」か、また「毎日の活動」をどうマネジメントするか、を決めます。

SquadはTribeを構成する組織単位で、それをベースに、プロダクト・オーナー同士が同じ方向を向いて、そのチームで活き活きとして働けるように、「スクラム」や「portfolio wall planning」「スタンドアップ」といった手法を取り入れてきました。

もう一つ重要なのはQBR(Quaterly Business Review)で、これはGoogleとNetflixのやっていることを参考にしました。QBRでは、それぞれのTribeが前四半期に達成したこと、そこから学んだことをまとめ、成功と失敗をどちらも振り返り、次の四半期に何を達成したいかを決めるんです。そこでは、他のTribeやSquadとどう連携していくか、というのも重要な点です。

QBRの資料は全てのTribeに対して公開されていて、自由なフィードバックをくれるようにみんなを促しています。こうした透明性が銀行全体で当たり前になるように意識しています。今までに4回のQBRを実施していて、まだまだ改善の余地はありますが、少しずつでも良くしてければと考えています。

改革し始めた頃は、規制当局もアジャイルが過剰な自由やカオスを生むのではといつも心配していました。実際は全くそんなことはなくて、やっていることは全ては「毎日」チェックしているし、会社内の「壁」は取り払われていて、透明性は高いです。

マッキンゼー: レガシーのITシステムを残した既存企業が、INGがやったような「アジャイル変革」をうまくやることができると思いますか?

ING: 働き方と、どんな技術を使っているか、というのとは関係ないと思いますね。使っている技術や組織のサイズで、アジャイル的な働き方が適用できないとは言えないのではないかと。GoogleとINGの例が示しているのは、その変革に企業のサイズや使っているテクノロジーは関係ない、ということです。「リーダーシップ」と「決断」が鍵なんです。

マッキンゼー: アジャイルな仕事のやり方に「適した」人というのはいますか?

 ING: 「正しい」人を選ぶ、というのはすごく重要ですね。今でもよく覚えているのは2015年の1月に、本社の「全て」の従業員が「Mobility」の対象になる、つまり全員クビになる、とアナウンスした時のことです。全員が新組織のポジションに改めて応募するよう促したんです。その選考プロセスはすごくタフなもので、知識や経験より、文化とマインドセットをすごく重視しました。

2,500名の従業員を選考し、全体の約40%は以前と違うポジションに就くことになりました。この過程で、知識は豊富だけれど、正しいマインドセットを持っていなかった人が会社を去りました。残念なことでしたが、本質をつかむ力があれば、知識はまた身につけることができるんです。

面白いのは、年齢というのがそれほど重要な要素でなかったということです。実際「保守的」と思われていた人が、若い人よりすばやく変化に対応した例はたくさんありました。柔軟性を持っているか、がとにかく重要なんです。

マッキンゼー: 過去15ヶ月の変革のインパクトをどう「定量化」しますか?

ING: 我々の目的は、より素早く市場に対応し、従業員のエンゲージメントを高め、変革を妨げる要素を減らすこと、そして最も重要だったのは「顧客体験」を高めることでした。こういった点についてはうまくやれていると思います。

さらに、ソフトウェアのリリースも、以前のような年に5-6回でなく、2-3週間に1回というペースでできていますし、顧客満足度や従業員のエンゲージメントといったスコアも、数ポイントの改善を示しています。また、国際的に有名なビジネススクールであるINSEADの力を借りて、客観的にその効果を測定するプロジェクトも進めています。

マッキンゼー: アジャイルモデルにリスクはありますか?

ING: 2つあると思っています。1つ目は、「アジリティ」を保って、ソフトウェアの開発に徹底的にフォーカスして、顧客が喜ぶものを出し続けること。この点でうまくやれないと、イノベーションは革新性のない「斬新的」なものになってしまいます。なので、常に「破壊的」なイノベーションが起こせるような体制を作っておくことが大事で、それは一つのチームでは成し遂げられないことです。

2つ目は、アジャイル的な進め方によって、プロダクト・オーナー達は「自分達で」エンドユーザーからフィードバックを得て、プロダクトをリリースごとに改善していけます。これは一方で、Squad同士が、3ヶ月もしくは半年ごとにうまく連携していないと、それぞれが違う方向に勝手に進んでしまうリスクを孕んでいます。これを避けるために、各チームがうまく連携して、会社の戦略上の優先順位を意識して前に進んでいけるよう注意する必要があります。

マッキンゼー: 同じアプローチの変革を狙う企業のリーダー達になにかアドバイスはありますか。

ING: どんな組織であっても「アジャイル」になることは可能です。ただ、それ自体が目的になってはダメで、もっと大きな目標に向けての手段である、という認識は重要です。まず自分に問いかけるべきは「なぜアジャイルなのか?そもそも何を達成したいのか?」ということです。みんなが納得する、分かりやすく説得力のある理由が必要なんです。変革を成功に導くには、全てのリーダーシップが一つになって、組織全体で前に進んでいく必要があるからです。

次に問いかけるべきは「何をあきらめるのか?」です。何かを犠牲にする必要があるし、いまの働き方の根本的な部分を捨てる場面が出てきます。我々の場合だと、組織のヒエラルキー、「公式」のミーティング、過剰なエンジニアリング、細かすぎる計画、多すぎるインプット(アウトプット)、非公式のネットワーク、などです。

重要なのは、業界の常識にとらわれないこと、たくさん失敗してそこから学ぶこと、です。それを続けることで、どんな挑戦にも立ち向かっていける組織になれると思います。

 

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