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【ネタバレ注意】「かくかくしかじか」が解毒する「自分さがし」という宿痾

(ネタバレ含むのでこれから作品読みたい方は気をつけて下さいね)

「東京タラレバ娘」を読んだらとても面白かったので、その勢いで「かくかくしかじか」も読んだ。これは素直に名作と思う。一番印象に残ったのは、アキコが「先生がいないと私達みんなダメなんだよ。みんなただのクズなんだよ」と泣きながら語るところ。

「自分探し」というのは、いまを生きる人の宿痾のようなもので、みな多かれ少なかれ人生において「自分らしさ」というやつを追求しようとしてしまう。でも残念ながらこの追求はどこにも行き着かない。なぜなら、「自己」というのは、それ自体で存在するものでなく、他者との関係性によって規定され、浮かび上がってくるものだから。

アキコのセリフが泣けるのは、彼女がこのことに改めて気づき、素直な気持ちを吐露しているから。漫画が描きたい、なんとか売れたい、こう願って先生のことを忘れて東京で仕事にのめり込む作者。でも、彼女は先生の死に触れて、自分の存在が先生との関係を通じて構築されていることに気づく。師匠である先生が最後まで言い続けた「描け」という激を通じてこそ、漫画家としての彼女の存在が立ち上がるのだということを。

「実存は本質に先立つ」のではなくて、我々の主体は関係性(システム)によって規定されているのだと構造主義は主張し、サルトル(実存主義)の息の根を止めた。けれど、我々の社会では、いまだに自分探しによって「ほんとうの自分」にいつか辿り着くのだ、という神話が流通している。その先は袋小路でしかないのに。

「かくかくしかじか」は、竹刀を振り回し、怒鳴り続けながら、自己の存在を常に相対化し続けてくれた先生によって「自分」が存在しているんだ、ということを描き切り、こちらをみごとに解毒してくれる。清々しい名作だと思う。

 

かくかくしかじか コミック 全5巻完結セット (愛蔵版コミックス)

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「新卒以下のコンサル」がマネージャーになって思ったこと

日系メーカーから外資コンサルに転職した僕は簡単に言うと使えないコンサルで、そもそもPMの言っていることが分からなかったし、作った資料は「てにをは」から直されるし、お客さんからは怒鳴られるしと本当に悲惨な状況だった。で、そのままコンサルをお役御免になり間接部門に飛ばされた。異動は年の後半だったので、年次評価はコンサル時代のマネージャーが実施することに。付けられた評価は下から2番めの最低レベルで、それはリストラ候補となることを意味する。今思えば仕方ないと振り返れるけど、その時は悔しくて、少し突っかかって説明を求めた。そのマネージャーは普段は温厚だけれど、秘めたるプライドが高い人だったので、こちらの反論に不快感を露わにして言った。

「正直言いますけどね、あなたなんて新卒以下のスキルでしたよ」

この言葉は本当に悔しくて、その後も折にふれて思い出した。その悔しさがあったから異動先でどんなに嫌なことがあっても、歯をくいしばって、結果がでるまでやり続けられたと思う。何年かして、異動先での成果が認められてマネージャーに昇格し、部下を持つことになった。その時改めて思い出したのは、このマネージャーの言葉。この時の彼の言葉と振る舞いは反面教師となって、ああいうことだけは止めようと思った。

だから、メンバーには組織の向かう方向をきちんと示して、頻繁にコミュニケーションを取って、褒めるべき時は褒めて、叱るべき時はきちんと叱って、お互いの信頼関係を深めていくことを何より重視した。今思えば、少し肩に力が入りすぎていたし、全てがうまくいったわけではないけど、何人かのメンバーは見違えるようになった。

「メンバーのモチベーションが高く、目標にコミットしていて、相互のコミュニケーションが深く取れている時に、組織は高いパフォーマンスを出すことができる。」

組織運営の秘訣は煎じ詰めればこういうことになる。そして、これを実現するにはマネージャーが不可欠。でも、多くのマネージャーはメンバーに向かい合い切れない。やたら部下にキレて権力を盾にメンバーをコントロールする人、逆にメンバーを恐れて都合の悪いことが言えずなめられている人。マネージャーというのは本当に難しい。でも、僕が心がけているのは、メンバーとは絶対中途半端な気持ちで関わらないということ。褒めるときも、怒るときも、相手のことを思って真剣にコミュニケーションする。「外資系」的ではないかもしれないけれど、理由もくれずにただ僕を罵倒したマネージャーのことを思い出して、やっぱり自分はこのやり方でいこうといつも思う。