グローバル経営の極北

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みんな大好きコンサルティング各社の業績を整理してみた

Twitterでもコンサル関連の話題は拡散しやすく、みな興味を持っていることがわかる。そこで、コンサルティング各社(IBM, Accenture, Deloitte, PwC, McKinsey, BCG, Bain & Company)の業績を整理してみた。

まず各社の売上(2014年度)について。*1 *2 IBM, Accetunreがやはり大きく150億ドル(1兆5000億円, $=¥100換算)を超えている。次に続くのが会計系でDeloitte, PwCのコンサル部門はほぼ同じ100億ドル強。戦略コンサル各社はマッキンゼーが83億ドルと飛び抜けている。

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次に売上成長率(対前年比%、USドルベース)。IBMを除く全社が増収。特にDeloitte, PwC, BCGは10%を超える大きな伸び。Accenture, McKinsey, Bainも堅調に成長している。IBMはひとり負けとなっており、全社業績の不振にコンサルティングも引きずられている形。

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続いて、公開企業IBM, Accentureの直近4四半期の業績を見てみる。

まずはIBM。売上高は42億ドルから成長できていない。

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売上成長率(対前年比、現地通貨ベース)でみると全ての四半期で前年比マイナスとなっており、コンサル業界が好調で推移する中で厳しい状況に追い込まれている。

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IBMはコンサル事業以外のソフトウェア、ハードウェアも売上成長できておらず、直近一年で株価も大きく下がっている。

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次にAccenture。直近4四半期は絶好調。まず売上高は38億ドルから44億ドルまで成長し、四半期売上でIBM(42億ドル)を超えた。

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売上成長率(対前年比、現地通貨ベース)で見ると、全四半期で10%以上の成長率と素晴らしい業績。米だけでなく、ヨーロッパ、アジアなど全地域で成長が加速しており健全な状況。

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この好業績を受けて株価も直近一年で堅調に推移している。

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最後に戦略コンサルのネタを。2014年度の一人当たりの年間売上高(年間売上高/(直接)従業員数、従業員数は間接比率5%と推定して計算)を、比較してみた。やはりMcKinseyが一番高く514千ドル($=¥100で5140万円)、BCG、Bainと下がっていくのは事業規模や競争力ときれいに相関していて面白い。

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また、この一人当たり売上高をBillable稼働率70%でざっくり計算すると1時間あたりのBillable Rate(売値)は、以下のようになる。McKinseyで353ドルとこんなもんかなという数字。戦略コンサル業界の価格はあまり知らないので、業界の方教えて下さい。

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*1:IBM, Accenture, Deloitte, PwCは各社IRサイトを参照。戦略コンサル各社はForbesを参照。Mck: http://www.forbes.com/companies/mckinsey-company/ 

BCG: http://www.forbes.com/companies/boston-consulting-group/ 

Bain: http://www.forbes.com/companies/bain-and-company/

*2:「コンサル事業」とした各社のセグメントは以下のとおり。

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グローバル企業はなぜ「従業員重視」に舵をきっているのか?

日本でも、外資系といえばリストラ、と多くの人が思っているように、欧米グローバル企業は年次評価のレーティング(通称パフォーマンスレビュー)を行い、下位10-20%をリストラの対象とする会社が多かった。しかしこの人事評価の仕組みに最近変化が起きている。

例えば、この記事は「パフォーマンスレビュー」をやめて新しい人事評価制度を構築した大手米企業6社(GE, Cargill, Eli Lilly, Adobe, Accenture, Google)の取り組みを紹介している。例えばGEは、ジャック・ウェルチの「下位10%の人材に時間を使うのは生産的ではない」という発言が有名だったが、10年前にその制度は廃止し、現在はマネージャーによるコーチングに比重を置いた人事評価制度に移行している。アドビはやはり一年に一回のパフォーマンスレビューでの評価を廃止し、"Check-In"と呼ばれる仕組みを導入。マネージャーが頻繁に従業員とコミュニケーションを取りフィードバックを返すことを奨励している。

では、なぜグローバル企業はこうした変化を進めているのか?一つには、相対評価とそれに基づく過剰なリストラが、従業員間が協力しあうことのモチベーションを失わせ、それが組織の生産性を落とすことに気づいてきたことがある。

欧米企業の人事評価は相対評価のため、組織の10-20%には必ず低評価をつけなければならない。これには問題があって、たとえその組織全体が非常に高いパフォーマンスを出していても、必ず低評価(=リストラ対象)を一定数つけなければならない。よって、従業員には、組織内で協調しあうよりも、個人として成果を出す方向にインセンティブづけがなされてしまう。これに対し「別に組織で協力しあう必要なんてないんじゃないの?できるやつはできるし、ダメなやつはダメでしょ」という考えもあるが、こうした「スーパースター」信仰が必ずしも組織全体の生産性を高めない、という研究が最近進んでいる。

例えば、2012年にHarvard Business Reviewに投稿された論文"The New Science of Building Great Teams"は、組織の生産性は、組織内および外部との緊密なコミュニケーションによって決まり、特定のハイパフォーマーに依存するものでない、ということを示して話題になった(この論文は12年のマッキンゼーアワードを受賞。非常に面白い論文なので詳細は別記事で紹介したい)。

こうした研究や実際の経験から、最初にあげたように、多くの欧米企業でフィードバックの頻度を高め、従業員のスキルやモチベーション向上、従業員間の協業の推進を狙った新しい人事の仕組みが構築されてきている。また、この文脈ではEQが重視されており、私の所属企業でもマネージャーの資質として最も重要なものの一つとしてEQをあげて、その向上を促している。またGoogleを代表とするハイテク企業はどこも「従業員重視」を掲げており、この潮流はグローバル企業では当たり前のものになっていくと思われる。

では、これらの潮流に対して日本企業はどう対応しているだろうか?富士通の成果主義の失敗、が話題になったように、日本企業では欧米企業が導入した厳しい年次評価に基づくリストラ込みの人事制度、というのを結局導入しなかった。従業員同士の協業の重視、というのは日本企業の伝統で、それは上記した欧米企業の潮流とは同じなのだが、欧米流の「成果主義」を導入しなかったがゆえに、また、終身雇用が依然前提となっているがゆえに、やや弛緩した形での「従業員重視」になっているのではとの印象がある。この辺りは別途論じてみたい。

 

「データ経営」の前にまずマネーボールを観よう

Huluでマネーボールを見つけたので、改めて視聴。これはデータ経営を考える上でとても良い教材。いまや、猫も杓子も、という感じで「データを経営に活用すべきだ」とみんな大騒ぎしている。ただ、経営にデータを活用する上では、優れたデータ分析家を揃えるだけでは不十分。いくら高度で有益な分析ができたとしても、それが「現場」を納得させ、彼等が自律的に動くように仕掛けなければ成果は出ない。この課題とその解決策の示唆をマネーボールを与えてくれる。

アスレチックスのGMビリーは、エール大卒のピートを雇い入れ、セイバーメトリクスをもとにしたチーム作りに乗り出す。しかし、監督は統計をもとにした、突飛ともいえる選手起用(故障でキャッチャーとして使えなくなった選手を未経験の一塁手にコンバート、など)に激しく反発。自分の意に沿った選手起用を続けチームは不振を極める。

ここでビリーがとったアクションがポイント。彼は「分析家」であるピートに、言いにくいトレードを彼自身から選手に告げさせると共に、チームに常に帯同するよう命じる。この場面は、データ分析それだけで成果を出すことは難しく、分析者の「結果へのコミットメント」と「深いコミュニケーション」が決定的に重要であることを見事に描いている。ピートはビリーの鼓舞に応え結果を出すことに彼自身深くコミットし、選手それぞれに統計的洞察がプレーで持つ意味を丁寧に、直接のコミニュケーションを使って紐解いていく。その結果チームは大躍進を遂げる。

そして、これらは経営の現場にも当てはまる。データサイエンティストが、優れた洞察や示唆を与えても、それだけでは現場は動かない。逆にデータサイエンティストがロジックを振り回すほど現場はそれに懐疑の目を向けたり、感情的に反発してくる。データ経営、というと最新の経営手法に聞こえるけれど、具体的な成果を出すには、コミットメントとコミュニケーションというビジネスのあらゆる場面で必要となる要素が不可欠、ということをマネーボールは分かりやすく教えてくれる。

このこと以外にも、組織をまとめるマネジメント手法、経営における「物語」の重要性、コミュニケーションの「科学」、など最近個人的に関心を寄せている要素が多く含まれている作品。ビッグデータや人工知能、データサイエンティスト、という言葉が一人歩きしている今こそ観る価値があるのでは。

マネーボール (字幕版)

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マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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はじめに~「中から」見たグローバル経営

Twitterで幸い多くのフォローを頂き、自分の経験や考えをもう少しまとまった文章にしてみたくなり、久々にブログをはじめることにしました。テーマはTwitterと同様に、主にグローバル経営とハイテク産業の動向/経営とします。

まずグローバル経営について。最近の日本では、グローバル経営を扱う文章や発言は非常に多いですが、実際の現場で日々奮闘しているものからすると、やや評論家的というか外部の視点だなと感じることが多いです。私は、新卒で日系メーカー、その後米系IT大手のコンサル、経営管理と、日本企業と米企業両方でフロント/バックオフィスを幅広く経験してきてきました。が故に、米グローバル企業の経営モデルの強さとそれを導入する上で日本企業が抱える困難を「中から」語ることができるのでは、と思っています。

次にハイテク産業について。ハイテク産業は、クラウドが産業の事業構造を根本から変えてきており、それをベースにして、アナリティクス、人工知能、デジタルマーケティング、IoTなどハイテクに留まらず、全産業を変革しうる変化が起きています。残念ながら私は技術屋ではないので、これらの動向を技術の面からでなく、主に経営の観点から語ることで、有益な視座を提供できればと思っています。

大きなテーマは以上2つですが、根っからの本好きなこともあり、経営領域はもちろん、文学・思想、歴史、ノンフィクション、サイエンスなどなど幅広い領域で面白かった本を紹介していきます。また、全くの素人談義ですが、ネットでの議論を思想的観点から読み解くことなどもやっていければと思います。

と、まずは取り急ぎブログのご紹介から。もったいぶった形にせずに、Twitterで呟いたことをもう少し深掘りした形でどんどん更新していきたいと思っています。ご購読のほどよろしくお願いいたします! 

 

 

プロフィール

Twitter: とくさん
Mail: globalbiz7619@gmail.com ※ご相談などお気軽にどうぞ
問い合わせ:  お問い合わせフォーム - グローバル経営の極北

  • 1976年千葉県生まれ。
  • 中高は港区の私立男子校。自由でおかしな人がたくさんいる素敵な学校だった。
  • 大学受験に激しく失敗。さすがに落ち込む。
  • 米イリノイ州の大学に交換留学
  • 新卒で日系メーカーに就職。新規事業の海外営業部に配属。中東、アジアを皮切りに欧州、アメリカも担当。
  • 外資系コンサルに転職。使えないコンサルタントとして苦しむ。
  • あっさりコンサル部門からダメ出しされリソースマネジメントを担当する間接部門に飛ばされる。
  • 間接部門でコツコツやっているうちに「経営」のコアな部分に思いもかけず気づく。そこから徐々にうまくいきはじめ、上海のオフショア開発センターに駐在。
  • 外資系2社目の転職。現在米系ソフトウェア会社(東京勤務)でコンサルティング事業の管理部長。経営企画から経営管理、プロセスマネジメントまで幅広く担当。