グローバル経営の極北

グローバル経営を考える「素材」を提供します

日本企業で「グローバル経営」を学ぶチャンスとは

日本経済は依然として非常に規模が大きく、顧客の要望は厳しく競合との争いも熾烈。さらに教育水準も高く、人材の質は平均的に高い。ということで、日本企業に勤めることで、巨大な市場規模と洗練度を誇る日本市場での戦い方を学べる。もしくは、輸出が中心の企業であっても、長期的な視野で顧客と関係を構築していく企業文化から学ぶことは多い。一方で、日本企業では、世界で標準的とされている経営モデルやマネジメント手法を身につけることは結構難しい。この現実をもとに、日本人としてどうキャリアを組み立てていくか。これは自分も常に考えているポイント。

日本企業の経営の相対的な「ゆるさ」は逆にチャンスで、僕がいま日本企業にいたら、海外買収先の管理職や経営陣になれるよう画策する。こういう画策が人づてにできたりするのがいい意味の日本企業の「ゆるさ」。買収先で国際標準の経営にもまれて、失敗をたくさんすると色々学べると思う。ただ、多くの人はこういったチャンスを意識できずに、英会話学校に行ったり、大学院で経営の「勉強」して、「グローバル化」という変な概念に対応しようとする。それはもったいない。

日本企業の、リソース配分の意思決定がモデル化されていない、というのは経営の弱点なんだけど、そのおかげで、事業部長に見込まれてる、くらいの理由で海外での挑戦的な仕事にありつけたりする。これは欧米企業ではありえない。個人としては、大きなチャンス。日経の「私の課長時代」を読んでも、こうした「ゆるさ」から、海外工場の立ち上げ、海外買収先企業の立て直し、などの仕事をある日突然与えられて、悪戦苦闘しながら経営を学んでいく姿がよく描かれる。これは今でも変わらぬ日本企業にいるメリットだと思う。

だから、日本企業だと会社の「花形事業」にいる人が実はリスクが高い。花形事業って、日本企業特有の経営モデルで運営されてることが多いから、グローバル経営に応用効かないやり方覚えてしまうし、いまなら上が詰まってるので若手が挑戦的な仕事やる余地が少ない。また、事業のライフルサイクル的にも花型事業は大抵後期に属しているので、最近のように「破壊的」プレイヤーが常に産業構造を揺るがし、そのルールを変えてしまう恐れがある点もリスク。

個人的には、前職で中国のオフショア開発拠点に駐在していた時に、「グローバル経営」がはじめて腹落ちした。日々の業務や意思決定を通じて、頭だけでなく、体でその構造が理解できた気がする。日本企業の海外企業の買収は今後も増える一方だろうし、従業員にとっては「経営」の最前線で実践的な経験を積むチャンス。この機会をうまく掴めるかは今後のキャリアを考える上でのキーになるだろうと思う。

P&Gの社長交代からグローバル経営を考える

今日はこのP&G日本法人交代の記事について。

toyokeizai.net

この記事自体は踏み込みが浅くあまり参考にならないけれど、このニュースからはIBMなどと同様に、米の伝統的大企業の苦戦の構造が透けて見える。

1. 既存のコア事業のライフサイクルは先進国では成熟期に入っており、売上高成長が見込めず、一方で値下げ圧力や競合との消耗戦で利益維持が徐々に困難に。

2. 一方、ここ数年売上成長を牽引してきた新興国の経済が軟調。期待していた売上および利益が稼げなくなっている。

3. さらに、大型株なので投資家からのプレッシャーは強く、グローバル規模でのコストダウン、「コア事業への集中」を謳った事業売却、期待されるEPSを達成するための自社株買い、などに注力する必要。

4. しかし、3.の施策は株主向けの対処療法で、数兆円規模の事業成長(特に売上高)をどう達成するか、という本質的な課題への解がなかなか見つからない。

私は消費財業界には詳しくないのだけれど、P&Gが研究開発やマーケティングをシンガポールに移したり、社長を外国人にしてガバナンスを強める、というのは上記の課題に対して米グローバル企業が取る施策の典型なので、むべなるかなという感じ。

ただ、私の経験上、こうした施策は各地域でのビジネス拡大という本質的な部分ではあまり機能しない。特にマーケティングや営業などの顧客接点の部分を海外の統括会社で管轄というのは疑問。ファイナンスやオペレーションをグローバルで標準化してオフショア化する、というのと違い、顧客接点の部分については、現地でそこのビジネスに精通した人(日本人であれ外国人であれ)にきちんと権限持たせないとやはりうまくいかないからだ。

例えばIBMは「中興の祖」である椎名氏以来、日本ローカルでの権限を強くし、本社からの介入を最小限に抑え成功してきた。それを00年代に入り「グローバル標準化モデル」と称して営業などの顧客接点の部分に画一的なモデルを持ち込んだことが顧客の離反を招き、一気にビジネスが縮小した。幸い、外国人でありながら現地での顧客接点の強化の重要性を熟知したイェッター氏が、顧客ニーズに沿った営業強化施策を取ることで、再成長路線にのせることに成功した。今では、世界中で売上が縮小する中、日本のみが売上成長を果たしている。(下記表を参照)

IBM 2015 Q3 Revenue by Geography 

f:id:nori76:20160111230605p:plainSource: 3Q earnings presentation:  http://www.ibm.com/investor/att/pdf/IBM-3Q15-Earnings-Charts.pdf

P&Gが内部でどういった仕組みを構築しているかは分からないが、シンガポールからリモートで日本市場を再構築しようとしているならば、かなり厳しいだろうと思う。各地域にどれくらい権限を持たせて経営すべきか?というのは、グローバル経営において古くて新しい、コアとなる論点なので、P&Gの改革の方向性についてもう少し調べてみようと思う。

ちなみに、最後にP&Gの業績について。直近4四半期の売上と純利益率は以下の通り。売上はドル高の影響もあり、四半期ごとに減少。純利益率はQ1 '16でなんとか盛り返しているが、コストダウンでしのいでいる感じ。

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Source: Yahoo Finance http://finance.yahoo.com/q/is?s=PG&annual

株価はやはり軟調で、ここ1年で90ドルから75ドル近辺まで落ちている。

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クラウドがもたらす法人向けビジネスの地殻変動

先日書いたブログ記事で、IBMがコンサルティング領域でひとり負けしていることを取り上げた。IBMは、高付加価値分野はアクセンチュア、デロイト、PwCに、価格勝負なところはタタ、インフォシスなどのインド勢に、両面から攻めこまれ苦戦している状況への解が示せていない。そして、一番深刻なのは、彼等が最も得意とし、最も利益を稼いできたインフラ関連のビジネスをAWSに食われていること。(今思えばIBMのお得意さんだったCIAの契約をAWSに奪われたことが象徴的だった。IBMはなんとCIAを訴えた。。)

ガースナー改革を経てパルミサーノが牽引する形で、ハード、ソフト、サービスの垂直統合でIBMは先駆けた。しかし、AWSに象徴されるクラウドベースのエコシステムが業界を席巻しだすと、垂直統合による自社への囲い込みという成功モデルが一転足かせになる。AWSの好調は言うまでもなく、さらに中立の立場でコンサルできるアクセンチュア、デロイトなどが元気なのもこの理由。

で、実は本稿はここからが本題。クラウドを軸にして起きている、より本質的な大きな変化は、BtoB市場でも「ごまかしのない」顧客志向が求められてきているということ。BtoC市場ではだいぶ前に起きた変化が法人向けビジネスでも起きている。一般的に法人向け市場は、投資決定者、つまり経営陣の意向や都合に左右されることが多いし、商品自体も柔軟性に欠ける場合が多い。クラウドの持つ拡張性や柔軟性がその課題を解決しつつあって、実際にツールを使うユーザーに寄り添ったサービス提供を可能にする仕組みが整ってきている。その代表がAWSだし、Salesforce, Adobe, Workday, TableauといったSaaSベンダーもこのクラウドの特徴を活かして、顧客にフォーカスしたビジネスをうまく展開している。

例えば、なぜAWSのユーザーグループにあそこまでの「熱」があるかというのもこの構造変化で説明できる。実際に運用や活用に関わるユーザーに向けてサービスを届ける。BtoCなら当たり前のこのことがBtoBではないがしろにされてきたわけで、だからこそAWSが常識を超える速度で伸びてきている。

なので、IoTもただのバズワードと捉えていると大事なものを見失う。医療、生産管理はじめ今まで情報がオープン化や構造化されにくかった部分に、クラウドプラットフォームに集められたデータをもとにして、顧客志向を徹底したサービスが入り込んでいくと何が起きるか。今まで見落とされていた「ユーザー」主導が法人向けビジネスをIoTの文脈でも変えていくことが予想される。

ハイテク業界に限らずあらゆる企業は「顧客」が重要と言っている。しかし、企業全体の仕組みを「顧客」の要望に徹底的にフォーカスする形で構築している会社はきわめて少ない。その代表選手であるAmazonが法人向け市場でも変革をリードしており、この流れに乗れない企業は淘汰されていくことになるだろうと思う。

きみが戦うのなら、きみは戦えばよい。きみが希望をいだくのなら、きみは希望をいだけばよい。

昔書いていたブログを読み返していて、これを見つけた。大学時代、古本屋でたまたま買ったヴィトゲンシュタインの「反哲学的断章」。奇妙にこんがらがった大学時代、この引用部分を幾度と無く読み返しながら、なんとか生き延びたことを覚えている。

ある人は「これではだめだ!」といって、それに抵抗する。こういう反応から生じるものはといえば、それとおなじくらい耐えがたい状態なのかもしれない。そしてその結果、もっと反抗をつづける力が、使いはたされてしまうのかもしれない。「その男がそんなことをしなければ、こんな悪い目に会わなくてすんだだろうに」とわたしたちはいう。だがいったい、どういう権利があって、わたしたちはそういうのだろう。社会が展開してゆく法則を、だれが知っているというのだろうか。どんなに利口な人にも予測はできないものだ、とわたしは確信している。きみが戦うのなら、きみは戦えばよい。きみが希望をいだくのなら、きみは希望をいだけばよい。
 わたしたちは戦うことができる。希望をいだくこともできる。そのうえ信じることすらできるのだ。しかも、学問的・科学的に信じる必要などは、ないのである。
ヴィトゲンシュタイン 「反哲学的断章」 P161-162

反哲学的断章―文化と価値

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「新卒以下のコンサル」がマネージャーになって思ったこと

日系メーカーから外資コンサルに転職した僕は簡単に言うと使えないコンサルで、そもそもPMの言っていることが分からなかったし、作った資料は「てにをは」から直されるし、お客さんからは怒鳴られるしと本当に悲惨な状況だった。で、そのままコンサルをお役御免になり間接部門に飛ばされた。異動は年の後半だったので、年次評価はコンサル時代のマネージャーが実施することに。付けられた評価は下から2番めの最低レベルで、それはリストラ候補となることを意味する。今思えば仕方ないと振り返れるけど、その時は悔しくて、少し突っかかって説明を求めた。そのマネージャーは普段は温厚だけれど、秘めたるプライドが高い人だったので、こちらの反論に不快感を露わにして言った。

「正直言いますけどね、あなたなんて新卒以下のスキルでしたよ」

この言葉は本当に悔しくて、その後も折にふれて思い出した。その悔しさがあったから異動先でどんなに嫌なことがあっても、歯をくいしばって、結果がでるまでやり続けられたと思う。何年かして、異動先での成果が認められてマネージャーに昇格し、部下を持つことになった。その時改めて思い出したのは、このマネージャーの言葉。この時の彼の言葉と振る舞いは反面教師となって、ああいうことだけは止めようと思った。

だから、メンバーには組織の向かう方向をきちんと示して、頻繁にコミュニケーションを取って、褒めるべき時は褒めて、叱るべき時はきちんと叱って、お互いの信頼関係を深めていくことを何より重視した。今思えば、少し肩に力が入りすぎていたし、全てがうまくいったわけではないけど、何人かのメンバーは見違えるようになった。

「メンバーのモチベーションが高く、目標にコミットしていて、相互のコミュニケーションが深く取れている時に、組織は高いパフォーマンスを出すことができる。」

組織運営の秘訣は煎じ詰めればこういうことになる。そして、これを実現するにはマネージャーが不可欠。でも、多くのマネージャーはメンバーに向かい合い切れない。やたら部下にキレて権力を盾にメンバーをコントロールする人、逆にメンバーを恐れて都合の悪いことが言えずなめられている人。マネージャーというのは本当に難しい。でも、僕が心がけているのは、メンバーとは絶対中途半端な気持ちで関わらないということ。褒めるときも、怒るときも、相手のことを思って真剣にコミュニケーションする。「外資系」的ではないかもしれないけれど、理由もくれずにただ僕を罵倒したマネージャーのことを思い出して、やっぱり自分はこのやり方でいこうといつも思う。

【ネタバレ注意】「かくかくしかじか」が解毒する「自分さがし」という宿痾

(ネタバレ含むのでこれから作品読みたい方は気をつけて下さいね)

「東京タラレバ娘」を読んだらとても面白かったので、その勢いで「かくかくしかじか」も読んだ。これは素直に名作と思う。一番印象に残ったのは、アキコが「先生がいないと私達みんなダメなんだよ。みんなただのクズなんだよ」と泣きながら語るところ。

「自分探し」というのは、いまを生きる人の宿痾のようなもので、みな多かれ少なかれ人生において「自分らしさ」というやつを追求しようとしてしまう。でも残念ながらこの追求はどこにも行き着かない。なぜなら、「自己」というのは、それ自体で存在するものでなく、他者との関係性によって規定され、浮かび上がってくるものだから。

アキコのセリフが泣けるのは、彼女がこのことに改めて気づき、素直な気持ちを吐露しているから。漫画が描きたい、なんとか売れたい、こう願って先生のことを忘れて東京で仕事にのめり込む作者。でも、彼女は先生の死に触れて、自分の存在が先生との関係を通じて構築されていることに気づく。師匠である先生が最後まで言い続けた「描け」という激を通じてこそ、漫画家としての彼女の存在が立ち上がるのだということを。

「実存は本質に先立つ」のではなくて、我々の主体は関係性(システム)によって規定されているのだと構造主義は主張し、サルトル(実存主義)の息の根を止めた。けれど、我々の社会では、いまだに自分探しによって「ほんとうの自分」にいつか辿り着くのだ、という神話が流通している。その先は袋小路でしかないのに。

「かくかくしかじか」は、竹刀を振り回し、怒鳴り続けながら、自己の存在を常に相対化し続けてくれた先生によって「自分」が存在しているんだ、ということを描き切り、こちらをみごとに解毒してくれる。清々しい名作だと思う。

 

かくかくしかじか コミック 全5巻完結セット (愛蔵版コミックス)

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日本企業のグローバル経営移行へのヒント~武田薬品、日立製作所、JT

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金曜の夜なので軽めにインタビューの紹介。武田薬品の長谷川会長、日立製作所の中西会長兼CEO、そしてJTの経営企画部長のインタビューは、日本企業がどうグローバル標準の経営モデルと向かい合うかの好例。「日本人」であることにこだわりすぎること、グロバール経営の経験を積んだ日本人が少ないこと、など共通の課題が浮かび上がる。

【武田薬品】

business.nikkeibp.co.jp

ー 今の武田の舵取りには、ウェバー社長が最適だと考えた訳ですか。

長谷川:そう。それは私がやってもできません。形だけはできるかもしれませんが、彼が今手がけているような実態を伴ったレベルまではできません。私は自分のことを良く分かっていますから。

ー 長谷川会長すらできない。重い言葉ですね。

長谷川:本当に正直なところそう思っています。社長の役割はやはり特別なんですよ。共通の素質とか資質というのはあるけど、企業が置かれている状態によって、特別に求められるものがあります。

 大型新薬の特許切れの中で、いかにして成長のモメンタム(勢い)を失わないようにするか。短期的には買収で補うけど、中長期的に見れば研究開発の生産性を上げるといった手を打たないといけない。そのために必要な人材を全部呼んできたということです。

 私はクリストフを見ていて、自分は経営者として本当に足りないところがたくさんあったなと思っていますよ。

 【日立製作所】

business.nikkeibp.co.jp

ー 日本企業がグローバル展開しても、日本人が現地法人トップになるだけでは限界があるというのが、これまでの歴史。そこから脱皮しないと真のグローバル企業にはなれない。

中西:その通りです。日本企業の海外展開の歴史で見ると、まず日本で作って海外に持っていって売るという「輸出型」が中心だった時代は、現地に権限を委譲したり、現地人をトップにしたりして任せる、ということまでは必要性が小さかったのかもしれない。

 しかし今は違うわけですよ。マーケティングから販売、開発や生産、アフターサービスまで、フルバリューチェーンが海外で丸ごと必要になるでしょう。そうなると日本人が海外にのこのこ出かけてオペレーションを全部やろうとするのは無理。経営幹部はほとんど外国人の現地人材になり、立ち上げ時は日本人が経営トップにいたとしても、いずれは現地人材をリーダー格に引き上げる必要性が出てきます。

 昔の日本企業はね、例えば海外に大きい工場を造って、生産機能だけを移して、日本人の製造部長さんが最後の仕上げの仕事と称して海外へ行って、毎日ゴルフをやってたわけですよ(笑)。もうこれじゃ、だめです。

 【JT】

toyokeizai.net

瀧本:どちらかというと、日本本社の組織が、よりジュネーブの組織に近づいていくイメージでしょうか。それとも、現在のどちらの組織とも違う新しいものができるのでしょうか。

筒井:私は、どちらでもないものができるのではないかと考えています。日本側にもJTインターナショナル側にも、それぞれ長所と短所がありますから。

JTインターナショナルは、外資系に近くて、意思決定のスピードが早く、各自のジョブディスクリプションがはっきりしています。一方、日本の場合は、職務範囲の境目があいまいな分、若いうちからいろんな経験ができますし、人の仕事を若干取り込んできても、文句を言われないところがあります。特にJT固有のことかもしれませんが、経営陣と新入社員までの距離が、ジュネーブに比べると比較的近いのも特徴です。

私は、海外で経験したマネジメントスタイルと、JTがこれまで培ってきたスタイルの中間に、何か新しいものが生まれるのではないかと思っています。 それは、ある意味、新しい「日本型経営」みたいなものかもしれませんが、JTを通じて新しい経営スタイルを示せればいいなと考えています。

 

みんな大好きコンサルティング各社の業績を整理してみた

Twitterでもコンサル関連の話題は拡散しやすく、みな興味を持っていることがわかる。そこで、コンサルティング各社(IBM, Accenture, Deloitte, PwC, McKinsey, BCG, Bain & Company)の業績を整理してみた。

まず各社の売上(2014年度)について。*1 *2 IBM, Accetunreがやはり大きく150億ドル(1兆5000億円, $=¥100換算)を超えている。次に続くのが会計系でDeloitte, PwCのコンサル部門はほぼ同じ100億ドル強。戦略コンサル各社はマッキンゼーが83億ドルと飛び抜けている。

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次に売上成長率(対前年比%、USドルベース)。IBMを除く全社が増収。特にDeloitte, PwC, BCGは10%を超える大きな伸び。Accenture, McKinsey, Bainも堅調に成長している。IBMはひとり負けとなっており、全社業績の不振にコンサルティングも引きずられている形。

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続いて、公開企業IBM, Accentureの直近4四半期の業績を見てみる。

まずはIBM。売上高は42億ドルから成長できていない。

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売上成長率(対前年比、現地通貨ベース)でみると全ての四半期で前年比マイナスとなっており、コンサル業界が好調で推移する中で厳しい状況に追い込まれている。

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IBMはコンサル事業以外のソフトウェア、ハードウェアも売上成長できておらず、直近一年で株価も大きく下がっている。

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次にAccenture。直近4四半期は絶好調。まず売上高は38億ドルから44億ドルまで成長し、四半期売上でIBM(42億ドル)を超えた。

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売上成長率(対前年比、現地通貨ベース)で見ると、全四半期で10%以上の成長率と素晴らしい業績。米だけでなく、ヨーロッパ、アジアなど全地域で成長が加速しており健全な状況。

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この好業績を受けて株価も直近一年で堅調に推移している。

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最後に戦略コンサルのネタを。2014年度の一人当たりの年間売上高(年間売上高/(直接)従業員数、従業員数は間接比率5%と推定して計算)を、比較してみた。やはりMcKinseyが一番高く514千ドル($=¥100で5140万円)、BCG、Bainと下がっていくのは事業規模や競争力ときれいに相関していて面白い。

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また、この一人当たり売上高をBillable稼働率70%でざっくり計算すると1時間あたりのBillable Rate(売値)は、以下のようになる。McKinseyで353ドルとこんなもんかなという数字。戦略コンサル業界の価格はあまり知らないので、業界の方教えて下さい。

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*1:IBM, Accenture, Deloitte, PwCは各社IRサイトを参照。戦略コンサル各社はForbesを参照。Mck: http://www.forbes.com/companies/mckinsey-company/ 

BCG: http://www.forbes.com/companies/boston-consulting-group/ 

Bain: http://www.forbes.com/companies/bain-and-company/

*2:「コンサル事業」とした各社のセグメントは以下のとおり。

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グローバル企業はなぜ「従業員重視」に舵をきっているのか?

日本でも、外資系といえばリストラ、と多くの人が思っているように、欧米グローバル企業は年次評価のレーティング(通称パフォーマンスレビュー)を行い、下位10-20%をリストラの対象とする会社が多かった。しかしこの人事評価の仕組みに最近変化が起きている。

例えば、この記事は「パフォーマンスレビュー」をやめて新しい人事評価制度を構築した大手米企業6社(GE, Cargill, Eli Lilly, Adobe, Accenture, Google)の取り組みを紹介している。例えばGEは、ジャック・ウェルチの「下位10%の人材に時間を使うのは生産的ではない」という発言が有名だったが、10年前にその制度は廃止し、現在はマネージャーによるコーチングに比重を置いた人事評価制度に移行している。アドビはやはり一年に一回のパフォーマンスレビューでの評価を廃止し、"Check-In"と呼ばれる仕組みを導入。マネージャーが頻繁に従業員とコミュニケーションを取りフィードバックを返すことを奨励している。

では、なぜグローバル企業はこうした変化を進めているのか?一つには、相対評価とそれに基づく過剰なリストラが、従業員間が協力しあうことのモチベーションを失わせ、それが組織の生産性を落とすことに気づいてきたことがある。

欧米企業の人事評価は相対評価のため、組織の10-20%には必ず低評価をつけなければならない。これには問題があって、たとえその組織全体が非常に高いパフォーマンスを出していても、必ず低評価(=リストラ対象)を一定数つけなければならない。よって、従業員には、組織内で協調しあうよりも、個人として成果を出す方向にインセンティブづけがなされてしまう。これに対し「別に組織で協力しあう必要なんてないんじゃないの?できるやつはできるし、ダメなやつはダメでしょ」という考えもあるが、こうした「スーパースター」信仰が必ずしも組織全体の生産性を高めない、という研究が最近進んでいる。

例えば、2012年にHarvard Business Reviewに投稿された論文"The New Science of Building Great Teams"は、組織の生産性は、組織内および外部との緊密なコミュニケーションによって決まり、特定のハイパフォーマーに依存するものでない、ということを示して話題になった(この論文は12年のマッキンゼーアワードを受賞。非常に面白い論文なので詳細は別記事で紹介したい)。

こうした研究や実際の経験から、最初にあげたように、多くの欧米企業でフィードバックの頻度を高め、従業員のスキルやモチベーション向上、従業員間の協業の推進を狙った新しい人事の仕組みが構築されてきている。また、この文脈ではEQが重視されており、私の所属企業でもマネージャーの資質として最も重要なものの一つとしてEQをあげて、その向上を促している。またGoogleを代表とするハイテク企業はどこも「従業員重視」を掲げており、この潮流はグローバル企業では当たり前のものになっていくと思われる。

では、これらの潮流に対して日本企業はどう対応しているだろうか?富士通の成果主義の失敗、が話題になったように、日本企業では欧米企業が導入した厳しい年次評価に基づくリストラ込みの人事制度、というのを結局導入しなかった。従業員同士の協業の重視、というのは日本企業の伝統で、それは上記した欧米企業の潮流とは同じなのだが、欧米流の「成果主義」を導入しなかったがゆえに、また、終身雇用が依然前提となっているがゆえに、やや弛緩した形での「従業員重視」になっているのではとの印象がある。この辺りは別途論じてみたい。

 

「データ経営」の前にまずマネーボールを観よう

Huluでマネーボールを見つけたので、改めて視聴。これはデータ経営を考える上でとても良い教材。いまや、猫も杓子も、という感じで「データを経営に活用すべきだ」とみんな大騒ぎしている。ただ、経営にデータを活用する上では、優れたデータ分析家を揃えるだけでは不十分。いくら高度で有益な分析ができたとしても、それが「現場」を納得させ、彼等が自律的に動くように仕掛けなければ成果は出ない。この課題とその解決策の示唆をマネーボールを与えてくれる。

アスレチックスのGMビリーは、エール大卒のピートを雇い入れ、セイバーメトリクスをもとにしたチーム作りに乗り出す。しかし、監督は統計をもとにした、突飛ともいえる選手起用(故障でキャッチャーとして使えなくなった選手を未経験の一塁手にコンバート、など)に激しく反発。自分の意に沿った選手起用を続けチームは不振を極める。

ここでビリーがとったアクションがポイント。彼は「分析家」であるピートに、言いにくいトレードを彼自身から選手に告げさせると共に、チームに常に帯同するよう命じる。この場面は、データ分析それだけで成果を出すことは難しく、分析者の「結果へのコミットメント」と「深いコミュニケーション」が決定的に重要であることを見事に描いている。ピートはビリーの鼓舞に応え結果を出すことに彼自身深くコミットし、選手それぞれに統計的洞察がプレーで持つ意味を丁寧に、直接のコミニュケーションを使って紐解いていく。その結果チームは大躍進を遂げる。

そして、これらは経営の現場にも当てはまる。データサイエンティストが、優れた洞察や示唆を与えても、それだけでは現場は動かない。逆にデータサイエンティストがロジックを振り回すほど現場はそれに懐疑の目を向けたり、感情的に反発してくる。データ経営、というと最新の経営手法に聞こえるけれど、具体的な成果を出すには、コミットメントとコミュニケーションというビジネスのあらゆる場面で必要となる要素が不可欠、ということをマネーボールは分かりやすく教えてくれる。

このこと以外にも、組織をまとめるマネジメント手法、経営における「物語」の重要性、コミュニケーションの「科学」、など最近個人的に関心を寄せている要素が多く含まれている作品。ビッグデータや人工知能、データサイエンティスト、という言葉が一人歩きしている今こそ観る価値があるのでは。

マネーボール (字幕版)

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マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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はじめに~「中から」見たグローバル経営

Twitterで幸い多くのフォローを頂き、自分の経験や考えをもう少しまとまった文章にしてみたくなり、久々にブログをはじめることにしました。テーマはTwitterと同様に、主にグローバル経営とハイテク産業の動向/経営とします。

まずグローバル経営について。最近の日本では、グローバル経営を扱う文章や発言は非常に多いですが、実際の現場で日々奮闘しているものからすると、やや評論家的というか外部の視点だなと感じることが多いです。私は、新卒で日系メーカー、その後米系IT大手のコンサル、経営管理と、日本企業と米企業両方でフロント/バックオフィスを幅広く経験してきてきました。が故に、米グローバル企業の経営モデルの強さとそれを導入する上で日本企業が抱える困難を「中から」語ることができるのでは、と思っています。

次にハイテク産業について。ハイテク産業は、クラウドが産業の事業構造を根本から変えてきており、それをベースにして、アナリティクス、人工知能、デジタルマーケティング、IoTなどハイテクに留まらず、全産業を変革しうる変化が起きています。残念ながら私は技術屋ではないので、これらの動向を技術の面からでなく、主に経営の観点から語ることで、有益な視座を提供できればと思っています。

大きなテーマは以上2つですが、根っからの本好きなこともあり、経営領域はもちろん、文学・思想、歴史、ノンフィクション、サイエンスなどなど幅広い領域で面白かった本を紹介していきます。また、全くの素人談義ですが、ネットでの議論を思想的観点から読み解くことなどもやっていければと思います。

と、まずは取り急ぎブログのご紹介から。もったいぶった形にせずに、Twitterで呟いたことをもう少し深掘りした形でどんどん更新していきたいと思っています。ご購読のほどよろしくお願いいたします! 

 

 

プロフィール

Twitter: とくさん
Mail: globalbiz7619@gmail.com ※ご相談などお気軽にどうぞ
問い合わせ:  お問い合わせフォーム - グローバル経営の極北

  • 1976年千葉県生まれ。
  • 中高は港区の私立男子校。自由でおかしな人がたくさんいる素敵な学校だった。
  • 大学受験に激しく失敗。さすがに落ち込む。
  • 米イリノイ州の大学に交換留学
  • 新卒で日系メーカーに就職。新規事業の海外営業部に配属。中東、アジアを皮切りに欧州、アメリカも担当。
  • 外資系コンサルに転職。使えないコンサルタントとして苦しむ。
  • あっさりコンサル部門からダメ出しされリソースマネジメントを担当する間接部門に飛ばされる。
  • 間接部門でコツコツやっているうちに「経営」のコアな部分に思いもかけず気づく。そこから徐々にうまくいきはじめ、上海のオフショア開発センターに駐在。
  • 外資系2社目の転職。現在米系ソフトウェア会社(東京勤務)でコンサルティング事業の管理部長。経営企画から経営管理、プロセスマネジメントまで幅広く担当。