グローバル経営の極北

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今週のおすすめ本 - なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?など

 Speak Business English Like an American
Speak Business English Like an American (English Edition)

Speak Business English Like an American (English Edition)

 

これはおすすめ。現職は西海岸の企業なこともあり、アメリカ人の同僚の会話にイディオムが含まれることが多く、意味がいまいち掴めない時がある。そういったビジネスの場で使われるイディオムについて、簡単な対話、そこで使われているイディオムの解説、クイズ、とシンプルだけど分かりやすい構成になっていて学びやすい。

 なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?
なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

 

 これは非常におすすめ。しかも今月はKindle 50%オフ!ロンドンの金融街シティの金融関係者200名以上へのインタビューをもとに、そこで働く「普通の」人たちが何を考え、どういう「制度」に規定されているのかを、分かりやすい文体でまとめた本。金融危機関連の本は本格的なものが多く、そこでは業界の「大物」達に焦点が当たるのだけれど、この本では人類学的観点から、そこで実務を担う人たちの「生態」を描き出しているところが非常に面白い。

 外国語学習の科学 - 第二言語習得理論とは何か
外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

 

 語学つながりでこちらも。何かを習得するにはその原理をおさえると早いというのは、マラソンで記録を目指して練習を積んでた時に痛感したんだけど、語学も同様でこの本はオススメ。前半で外国語習得に関する言語学の理論が丁寧かつ分かりやすく紹介されており、後半はそれを踏まえた実践の事例などが挙げられていて参考になる。

スクラム 仕事が4倍速くなる”世界標準”のチーム戦術
スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房)

スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房)

 

「スクラム」の考え方や手法はシステム開発だけでなく応用可能で、そのシンプルさと、生産性を意識した部分が非常に参考になる。トヨタの「カイゼン」に大きく影響受けてるのもなんか嬉しい。タスクを「未着手」「進行中」「完了」の3つで区分してKanban Boardを使いながら進める手法は私も既に実践済みでとても有効。

 経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか
経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

 

 マッキンゼー支社長、カーライル共同代表、早稲田大学MBA教授という経歴の著者によるこの本はまださわりだけしけ読めていないけれど非常によさそう。世界の経営のマクロの動きを概観しつつ、そこに対応できなかった日本企業の課題を整理して未来を展望する内容。

 インターフェースデザインの心理学
インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

  • 作者: Susan Weinschenk,武舎広幸,武舎るみ,阿部和也
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2012/07/14
  • メディア: 大型本
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 「人はパターン認識でものを識別する」など、デザインの上でポイントとなる心理学の知見が分かりやすく整理されていて参考になる本。私はデザイナーではないけれど、社内向けの資料作りにおいても、こうした心理学の要素を理解していると、メッセージがきちんと伝わるので重要と感じている。

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

  • 作者: クレイトン・M・クリステンセン,ジェームズ・アルワース,カレン・ディロン,櫻井祐子
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2012/12/07
  • メディア: 単行本
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 「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバード・ビジネススクール教授のクリステンセンが書いた「人生論」。原書で読みかけのままなのだけれど、最近この本に感銘を受けたという人を見かけるので、改めて読み直したい。人生における「成功」とは何なのか、というのを本質的に自分に問いかけるステージに自分もあるので。

 

コンサルティングのビジネスモデルについて

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コンサルティングというビジネスは多く人の関心を惹いていますが、そのビジネスモデルについて語られることはあまり多くありません。そこで、この記事では、コンサルティング・ビジネスのビジネスモデルについて考えていくことにします。 コンサルティング、は幅広い領域を含む概念ですが、ここでは俗に「戦略コンサルティング」や「ITコンサルティング」と呼ばれるような、企業向けの経営・ITに関するコンサルティングに話を限定します。

この領域では、経営やITに関する顧客の「お困りごと」に対して、コンサルタントが知的成果物(報告資料やシステム)を提供することで対価を得ます。
※対価を「成果物」に対して得るか、「時間」に対して得るか、というのは請負(Fixed)か準委任(Time & Material)という契約形態の話に繋がるのですが、ここでは触れません

ビジネスモデル上の最大のポイントは、コンサルティング・ビジネスは、「人(コンサルタント)」自身が「商品」である、ということです。顧客がお金を払うのは「人」が生み出す成果物や、それを作るためにかかった時間です。また、原価の大半はその「人」自身にかかる費用、つまり給与などの労務費です。

これを、例えば製造業と比べてみると、その特徴がはっきりします。

製造業での「商品」は、主にPCやサーバーのようなハードウェアになります。「商品」を生み出すには、長期間にわたるエンジニアによる開発、工場での生産、市場への流通、商品を販売する営業、アフターケアと複雑なバリューチェーンと投資が必要になります。それに伴い、原価も材料費、労務費、減価償却などを含む経費、と多くの要素を含みます。また、開発投資や工場に大きな投資が必要となりますので、資金調達などのファイナンスも重要になります。

一方で、コンサルティングのビジネスモデルはシンプルです。コンサルタント自身が、事業戦略やシステムなどのサービスの内容を「開発」し、サービスを顧客の課題や要望にあわせて「生産」し、顧客に対して自ら「販売」していきます。原価は上記したように大半はコンサルタントやエンジニアの労務費ですし、開発や工場のような大規模な投資は必要としません。

この特徴を捉えることが、コンサルティングのビジネスを経営する上では最も重要です。一般には「労働集約型」と呼ばれるビジネスで、モデル自体はシンプルなのですが、「人」がビジネスモデルの中核であることの「ゆらぎ」や「制約」をどうコントロールするかがポイントになってきます。

まず、「ゆらぎ」について説明しましょう。例えば、PCであれば同じカテゴリーの商品の仕様は一定で商品ごとに異なる性能を持つことはありえません。しかし、コンサルティング・ビジネスで提供されるサービスは、その性格上常に同じ内容であることはありえません。顧客の要望は多種多様で、タイミングによっても大きく異なってきます。

さらに重要なのは、そのサービスを提供するコンサルタント自身のパフォーマンスも一定でないという点です。自分が得意とする領域か否か、サービス提供時の肉体的・精神的コンディションの良し悪し、などにサービスの品質は左右されます。全くはじめての領域に急にアサインされたり、寝不足が続いたり、彼女(彼氏)に振られたり、と「人」のパフォーマンスを左右する要素には事欠かないのです。

次に「制約」です。コンサルティングビジネスは提供できる付加価値に上限があって、レバレッジが効きにくい、という点がきわめて重要です。人間が提供できる時間は(実際は無理ですが)最大でも24時間しかありませんし、「人」の生産性が急激にあがることもまたありません。

これに対し、例えば製造業であれば、新しい製造設備の導入によって生産性の急激な上昇を達成することが可能ですし、ソフトウェアビジネスであれば、一度開発をしてしまえば(ほぼ)コストゼロで複製可能となります。

また、コスト側についても、コンサルティングビジネスの原価は上に述べたように大半が労務費となります。これは原価低減できる余地が限られることを意味します。どういうことかというと、例えば価格競争が厳しくなり原価を下げたいと思っても、コンサルタントの給与や人員削減くらいしか施策がないことを意味します。しかも、これをやってしまうとコンサルタントの離反を招いたり、モチベーション低減による生産性の減少などに繋がってしまいます。つまり、売上とコスト、どちらについても経営上の選択肢は限られる、つまり「制約」が多くあるわけです。

この「ゆらぎ」と「制約」がコンサルティングビジネスを展開する上でのポイントで、この2点を経営上どうコントロールしていくかが実務上非常に重要になってくるわけです。

マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み

マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み

 

 

ベンチャーキャピタルにも「機械学習」が活用されはじめている

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 マッキンゼー・クオータリーの記事で面白いものがあったのでご紹介。Hone CapitalというシリコンバレーのベンチャーキャピタルのManaging PartnerであるVeronica Wuへのインタビューで、投資判断に「機械学習」のモデルを活用している、という点が非常に面白かった。以下に特に機械学習について話している部分を訳してみたので、ぜひ読んでみてほしい。

経験豊富なプロフェッショナルの知見や直感と機械学習のモデルを「組み合わせる」アプローチが、意思決定の質を高めてくれる、というのはベンチャーキャピタル投資に限らず経営の幅広い領域で今後の主要なアプローチになっていきそうなので、この事例はその点で参考になると思う。

マッキンゼー:機械学習モデルをどう作り上げていったかを教えてもらえますか。また、そこから得られた有益な示唆にはどういったものがありますか

Veronica Wu:過去10年の30,000件以上のディールのデータをCrunchbase, Mattermark, PitchBook Dataといったデータベースから抽出して、機械学習のモデルを作りました。そのデータをもとにシリーズAまで進んだディールを分析して400個の「特徴」を抽出。その上で、シードステージのディールの成功要因を20個選び出しました。

このモデルによって、投資家の過去のコンバージョン率、投資額合計、創業者チームのバックグラウンド、シンジケートのリード投資家の専門領域、といった要素を検討した上で、最適な投資戦略を弾き出してくれます。

例えば、シリーズAまで進むことに成功したスタートアップは、シード・ステージで平均150万ドル調達していたのに対し、失敗したスタートアップは、平均50万ドルしか調達できていませんでした。つまり150万ドルを下回る金額しか調達できなかった場合は、投資家の関心をうまく引き付けられなかった、もしくはアイディアは良くても十分な資金を得られなかった、という仮説が立てられるわけです。

 もう一つは、創業者のバックグラウンドについてです。モデルで分析してみると、創業者が異なる大学出身の方が、同じ大学出身の場合より2倍近く成功率が高かったのです。これは多様な視点が強みになる、という説を裏付けています。

 

マッキンゼー:過去に、あなたのチームは投資しないと決めたにも関わらず、データからは投資の可能性が示唆されており、改めて投資検討をした、といった事例はありますか?

 Veronica Wu:最近まさにそういったケースがありました。データは70-80%の成功率を示していたのですが、我々のチームが最初に精査した時は、そのビジネスモデルが成功するとは思えませんでした。紙の上では、そのビジネスが利益を生むとは思えなかったし、規制の問題もあった。にも関わらず、モデルは高い可能性を示している。そこで、リード投資家にこのディールについて、そのビジネスモデルを含めてもう少し詳しく聞いてみたんです。

彼が言うには、その創業者達は、規制の問題をクリアする優れた方法を考えついており、顧客獲得コストがほぼゼロで済むユニークなビジネスモデルも準備していました。その結果このディールでは、我々人間の直感や判断と、機械学習のモデルから導き出される人間ではなかなか思いつかない洞察、を組み合わせることができたわけです。データモデルをもっと使いこなすために、学ぶべきことは多い、ただ、そこに全てを任せるわけにはいかない。まさに、人間と「ツール」をどう組み合わせるかが鍵なわけです。

 

マッキンゼー:機械学習モデルを活用してどれくらいのパフォーマンスを出せていますか?

Veronia Wu:約1年ほどやってきましたが、パフォーマンスは、シードステージからシリーズAまで進めたか、という点を重要な指標として見ています。というのも、大半のスタートアップは、シードステージで「死に絶える」か、次のステージでの調達に失敗するわけで、シリーズAまで進めたか、というのはスタートアップの将来の成功を占う上で鍵となる指標なんです。

我々は2015年にシードステージだった企業に「事後分析」を行いました。VCが投資したシードステージの企業では、約16%が15ヶ月のうちにシリーズAまで進みました。一方で、我々の機械学習モデルが推奨したディールだと、約40%が次のラウンドまで進んだ、つまり市場平均に比べ2.5倍のパフォーマンスとなったんです。面白いのは、これは我々のチームが機械学習モデルなしに選んだディールと同じパフォーマンスだったことです。さらに興味深いのは、市場平均の3.5倍というベストのパフォーマンスを出したのは、我々のチームと機械学習モデルを組み合わせたケースだったことです。これによって、ベンチャーキャピタル投資に機械学習を活用することで意思決定の質を高めることができる、という私の確信を深めることができました。

 (訳文中強調は筆者)

 

 

Pythonではじめる機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎

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  • 作者: Andreas C. Muller,Sarah Guido,中田秀基
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2017/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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GoogleやTwitterに学ぶ転職者受け入れのコツ

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昨日のエントリで触れたHBRの記事では、米企業の新規採用者のOnboardingプロセスについての工夫が多く挙げられていて、実務上とても参考になりそうなのでまとめてみたい。 

Google

まずはGoogleの仕組みについて。Googleでは、社員の入社日直前の日曜日に、マネージャーに対してメールで6項目のチェックリストを送っている。

  • 仕事の役割と責任(Role & Reponsibility)についてきちんと会話する
  • メンター役をつける
  • 社内でのネットワーク作りをサポートする
  • 最初の6ヶ月は毎月面談(Check In)を実施する
  • 気兼ねなく話せる環境を作る

 どれもシンプルだけれど重要な点で、昨日紹介した組織心理学の研究の「新規採用者が組織で成果を出すには、マネージャーのサポートを得ながら、能動的に情報を集め、コミュニケーションを積極的に行い、組織に受け入れられていくことが大切」というポイントを網羅的におさえている良いリストだと思う。

 Zappos

ユニークな経営で知られるZapposの仕組みも面白い。新規採用者に対して彼等は5週間の研修を実施し、そこでは会社の文化や理念が徹底的に伝えられる。そして、その研修の最後で、もしZapposに合わないなと感じたら、2,000ドルを「もらって」会社をそこで辞めることができる(ただ、実際にこの制度を使って辞めた人は1%くらいしかいないとのこと)。

企業文化や理念へのフィットをきわめて重要と考えているZapposらしい制度といえる。組織心理学の研究から「動機づけ」がパフォーマンスに影響することはよく知られており、入社時にその企業の核となる理念をきちんと学び、そこに納得した上で働いてもらうというのは、その点からも合理的と思う。

Twitter

最後にTwitterについて。'Yes To Desk'と称して、採用者がオファーを受けて(Yes)から、入社当日に席につく(Desk)までのプロセスをきちんと整えておくことを意識している。

具体的には、入社当日にはE-Mailなどのセットアップは全部済んでおり、席にはTシャツ、ワインが置かれている。そして、その人と関係の深い同僚の隣に席が配置されるよう配慮されている。入社当日の朝はCEOと一緒に朝ごはんを取り、その後オフィスツアーが実施される。

さらに企業文化の理解を深めてもらうために、月1回は'Happy Hour'で経営陣との交流があり、金曜の夜は他の部署がやっているプロジェクトを学ぶ機会も用意されている。

オファーから入社までを「一連のプロセス」と定義して、そこでの活動を通じて新規採用者が組織に馴染んでいくよう「仕掛け」を施しているところが重要かと思う。

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以上3社の仕組みを見てきたが、どこも新しく入社を決めた人が、その最初から企業の文化や理念に触れ、経営陣や社員とコミュニケーションを図り、そのプロセスを通じてその企業に受容されていくプロセスをデザインしているところが肝となっているのが興味深い。特に企業文化や理念の強調、オープンなコミュニケーションの促進、などはハイテクを中心とした今のアメリカ企業の経営のトレンドだなと改めて感じるところ。

中途採用者にすぐ活躍してもらう秘訣とは?

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 ハーバード・ビジネス・レビューで、新規の採用者をどうやって組織にうまく順応させていくか、というなかなか面白いテーマの記事があったのでご紹介。

hbr.org

 

まず、70の心理学研究をメタアナリシスしたこの論文では、自分がその組織に「受け入れられている」と感じることが、組織での成功で重要な要因であることを示している。それに関連し、インドのソフトウェアエンジニアに対して実施された研究では、組織に「受け入れられている」と感じている社員ほど積極的に情報を求める行動をすることが明らかにされている。さらに、409人の新卒採用者に対して実施された研究では、最初の2年で上司から適切なサポートを受けたかが、その後の役割の理解度、仕事への満足度、さらには給与にまで好影響を与えたことが示されている。

つまり、組織に「受け入れられている」と感じていることが重要で、それは組織側にサポーターがいることで促進される。そしてその役割を期待されるのは、やはりマネージャーということになる。

一方で、マネージャーは非常に忙しく、新しく入社してきた人をきちんとサポートしていくのはなかなか難しいのが現実。

そこで面白いのが、インドのソフトウェアエンジニアに対して実施された心理学の研究。これは、マネージャーから入社後サポートを得られる人とそうでない人がいるのはなぜか、という仮説を調べた。結果として分かったのは、積極的で役割にコミットし、自ら情報を集めたり、広く社内コミュニケーションを深めていこうとする人ほどマネージャーのサポートを得られており、結果として組織への順応が高い、ということ。

これはなかなか興味深い結果で、動機づけが強く自ら情報の取得やコミュニケーションの構築に動く人ほど、結果としてマネージャーの信頼や共感も得やすく、組織にうまく受け入れられていく好循環を生み出す。その循環は心理的な安心感をも生み出し、実績を出していく支えとなる。

組織というのは常に流動的なので、その動的なサイクルに自らを位置づけることは重要だが、全く新しい組織に加入した時はなかなかそのきっかけを掴めずに、うまく実績を出せない人は多い。特に外資系は中途採用が中心となるが、前職では大きな実績を出してきたであろう人が、自らを新組織にうまく順応させられずに、1年も経たずに辞めていってしまうような事例はとても多い。

その観点からも、その組織に深くコミットし「自ら」能動的に動いていくことが、組織にうまく順応していく循環が回り出す鍵になる、というのはなかなか示唆的で、他の領域でも応用できる知見なのではと思う。

人生で「逃げ道」を確保しておくことの大切さ

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とてもためになる記事が多い樋口さんのブログでこんなエントリがあった。

これは全くもって仰る通りで、退路を断った結果失敗する事例の方が実際は多いから、逆に成功者の退路を断った話が英雄譚として「消費」されるのだろうと思う。

しかも、成功者は能力やモチベーションが大抵高いから、それ自体が実は最大の「保険」になってるとも言える。起業で世間で評判になるほど成功した人ならば、仮に一度失敗したとしても、別の領域で成果を出す能力や精神的なタフさを兼ね備えているだろうから。

私の場合は、起業みたいにカッコ良い話ではないけれど、仕事も体調も絶不調で袋小路にはまり込み、さらに奥さんはアメリカに留学してという時に、千葉の実家に戻って体制を立て直したことがある。

それはいま思うと、人生の「岐路」における非常に良い意思決定で、あそこで無理して都内で一人暮らしをしていたら人生は破綻していただろう。

「退路を断って」という話ではないけれど、自分が置かれている状況を冷静かつ客観的に捉えて意思決定することの重要性を改めて感じる。

つまり、私にとって実家はまさにセーフティネットだったと言える。30歳を越えた男性が仕事もしているのに実家に帰る、というのは正直世間的には「情けない」と取られてもおかしくないのだけれど、その時の自分はどん底で、自分が戻れる「場」があることの大切さを痛感していた。

そして、育児真っ只中のいま思う。家族を作り上げていくというのは、子供達、つまり次の世代が困難に直面した時に、いつでも戻れる「場所」を確保しておいてあげることにその本質があるのかもしれないと。

誰かがいつでも戻れる場所を確保しておく、というのは、実は大変なことで、毎日変わらない日常をコツコツと積み上げていく必要がある。変化こそが最上とされる最近だとなかなか評価されにくいことだけれど、「場を維持する」ということにはやはり価値があるんだなあと思う。

かといって、変化を頭ごなしに否定してしまえば、それはそれで場は淀んでいく。変化と維持、この両者をどういう形で組み合わせていくのか、というのは、子供ができると一層リアルな問いかけになってくる。このせめぎ合いからまた新たな場所に出れるのかなとしみじみと思うところ。

日本の組織が専門家をうまく扱えないワケ

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少し前になるが日本から香港の大学に、主に給与を理由として移籍することになった経済学の教員の方が話題になっていた。

その方に限らず、大学の教員の方が低い給与や雑務の多さを嘆くのはソーシャルメディアでよく見かける光景。ここから、専門性の強いはずの大学でも、日本では人事モデルは「メンバーシップ型」で「ジョブ型」でないんだよなと改めて思うところ。

実際のところ、ジョブ型への移行、というのは口で言うのは簡単だけれど、実現には経営モデル自体の変革を伴うので道のりはなかなか険しい。

ジョブ型の場合、給与から投資規模まで、様々な経営リソースの傾斜配分を経営陣が意思決定していく必要がある。よって、基本はできる限り均等にリソースを振り分けることが前提となっているメンバーシップ型とは経営思想がだいぶ違う。このギャップを埋めることが難易度が高い。

例えば、活躍している経済学の教員の方は、経済学は国際競争にさらされているから能力の高い教員の給与も高くすべき、と言っていると思う。しかし、メンバーシップ型の雇用モデルでは機能ごとの価値を平等に見る、つまり文学部も経済学部も同じ価値があるとみなす。それは、日本企業が全ての部門に基本は同じ給与モデルを適用するのと同じで、この経営モデルを採用している限りは、いくらある特定のスキルが市場価値が高くても、そこに他より多くの投資を行うことは困難となる。

ロースクールを日本で作った時に、日本企業の法務部門での採用が進むと期待されていたけど、全く進まずに制度的に失敗に終わったのもこれが一因と言える。メンバーシップ型の日本企業からすると、給与モデルはじめ社内弁護士をどう位置づけるかが難しい。繰り返しになるが、人事制度上差別化できないからだ。

最近だったら、データサイエンティスト、なども同様。日本企業は傾向として専門家を社内に持つのを得意としないけれど、これはメンバーシップ型の人事モデル、という「制度」から来ているが故に、単に市場価値が高く優秀な人材は当然高い給与で雇いましょう、とはいかない。

そして、このメンバーシップ型の人事モデルからの帰結として、ファイナンスは銀行、マーケティングは広告代理店、貿易や与信は商社、情報システムはSIer、など専門的な職能は全て「外部の専門家」に任せる日本企業特有の仕組みが戦後に形成されてきたのかなと思う。

よって、CFO, CMO, CIOなどの存在がなかなか定着せず、CxO職なんて名前だけのお飾りだろ、みたいな話に未だになってしまう状況だけれど、現代の複雑化した経営では、各職能に専門家をきちんと設置することの重要性はさらに増してきている。この課題に、日本のメンバーシップ型組織でどう対応するか、というのは、古くて新しい経営課題だと考えている。