グローバル経営の極北

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【組織心理学を学ぶ】リーダーシップを決める要因とはなにか?

最近のビジネス界では、マインドフルネスやHR Techなど組織・人事領域への関心が非常に強くなってきている。その中でも、リーダーシップ、というのは奥深く、経営にとっても重要なテーマ。今回は組織心理学を参照してリーダーシップ研究を概観してみよう。

なお、以下の議論は全て「産業・組織心理学エッセンシャルズ」の5章を参照している。

産業・組織心理学エッセンシャルズ

産業・組織心理学エッセンシャルズ

 

まとめ

  • リーダーシップ研究はリーダーの「特性」を理解しようとするところからスタート
  • 次に、リーダー自身の「行動」が組織にどう影響を与えるかに着目するアプローチが主流に
  • リーダーの行動をフレームワークで構造的に捉えるPM理論が登場

特性アプローチ

リーダーシップ研究の初期は「優れたリーダーはどんな特性を持っているか」に対するアプローチが主流だった。

ストグディル(1974)は、リーダーは「知能」「素養」「責任感」「参加性」「地位」の点で他のメンバーは優れている、と過去の研究成果を整理した。

しかし、すぐわかるように、軍隊と企業、など組織のタイプによって求められるリーダーシップの特性は異なる。さらに、特性を選び出す基準は厳密なものと言えず、互いに矛盾するものが存在するなど問題点が指摘され、この方向での研究はなかなか発展しなかった。

我々が普段話している「あの人は良いリーダーだよね」というのは、まさにこの特性アプローチで、頭の良い人、最後まで諦めない人、皆をまとめられる人、など様々な特徴が指摘されるけれど、全ての要素を満たす人はいないし、どの要素が一番効くかは組織によっても違うので、特性を積み上げるこのアプローチの限界は理解できる。

行動アプローチ

1950年代以降は、どんな特性の人がリーダーになるか、でなく、リーダーになった人がどのように行動するか、に着目する行動アプローチが主流になった。

これが面白いのは、リーダーという「役割」が組織にどういう影響を及ぼすか、という視点で、リーダーの個人的な特徴から論じるのでなく、構造的な観点から論じることを可能にしてくれる。代表的な研究に触れよう。

■リーダーシップスタイル

 ホワイトとリビット(White & Lippitt, 1960)は大学生のリーダーシップスタイルを「民主型」「専制型」「放任型」の3種類に設定し、その影響を実験した。

結果は以下の通り。

「民主型」:メンバー達は友好的な関係を築き、動機づけも高かった

「専制型」:チームの雰囲気は攻撃的で悪く、リーダーがいなくなると怠慢になった

「放任型」:メンバー達は緊張感にかけ、動機づけや効率性も低かった

この研究のポイントは、リーダーシップの「スタイル」が組織に与える影響を示したこと。つまり、リーダーの「行動」が組織のあり方やパフォーマンスを規定していく、という方向性を示したことが画期的と捉えられた。

これを踏まえて、ではそのリーダーの行動は組織においてどんな「機能」を果たしているのか?という方向に研究は進んでいく。

■リーダー行動の2機能説

 リーダー行動の機能に着目した研究の共通点は、その機能には2つの種類がある、ということだった。

例えばカートライトとザンダーは「目標達成機能」と「集団維持機能」、リカートは「仕事中心的活動」と「従業員中心活動」などのように、リーダー行動は、「課題指向」と「人間関係指向」の側面から整理された。

これは普段接しているリーダーのタイプからも頷けることで、とにかく成果を出すことに拘る人、チームワークを重視しメンバーを盛り上げようとする人、の2つで切り取ることはそれなりに納得感がある。

次に研究で注目されたのは、では、どちらの機能の方が組織のパフォーマンスにとって「重要」なのか、という点。

この点についても多くの研究がなされたが、分かったのはどちらか一方だけではだめそうだということ。この2つの側面がきちんと備わっていることが大事そうだ、ということになり、PM理論という有名なフレームワークが生まれてくる。

■三隅のPM理論

心理学者の 三隅二不二のPM理論は、リーダーの行動をシンプルなフレームワークで整理したところに特徴がある。

課題指向の側面を課題達成(performance)機能(P機能)、人間関係指向の側面を集団維持(maintenance)機能(M機能)と名付けて、その2軸でリーダーシップを整理、以下の図のように4領域に類型化した。

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ここでのポイントは、目標達成と集団維持、という一見相容れないようなタイプを一つのフレームワークで捉え、両者を共に達成するPM型というリーダーシップが存在することを示した点にある。

実際このPM理論に基いて多くの実証研究がなされ、集団の生産性およびメンバーの意欲・満足度はPM型のリーダーシップが発揮された時に一番高くなるとの結果が出ている。

一方で、組織の生産性においては、やはり目標達成を重視するP型がPM型についで高く、メンバーの意欲や満足度は、人間関係を重視するM型がPM型について高くなる。

これらは、現場の経験から考えるとある種「当たり前」とも言えるが、リーダーシップ理論の歴史を踏まえると、「課題達成重視」と「人間関係重視」というリーダーに見られる大きな2つの特徴を、一つのモデルで、「両者が絡み合うダイナミクス」をシンプルに捉えられることは有益と感じる。

さらに、実務での応用のイメージもわきやすい。例えば、成果に強くこだわるタイプのリーダーとのコミュニケーション。まず、このモデルを使い、具体的な成果や強みを話しながらその人がP型の領域に属することを確認する。そこからPM型の象限に向けて「メンバーとの関係をさらにどう深めていくか」という点を、その人の弱みや具体的なアクションのアイディアなどを出し合いながら会話するのは有益に感じる。

良いモデルは、自分の「立ち位置」をシンプルな構造で把握し、さらに改善への「動き」を同じモデルで表現できるもの。その点からこのPM理論のモデルはシンプルながら「使える」ものになっている。

長くなったが、以上の「行動アプローチ」に続き、「コンティンジェンシーアプローチ」という、リーダーが置かれている「状況」に着目しリーダーシップの作動原理を探る理論が非常に面白いので、それは別の記事で紹介したいと思う。

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とくさん (@nori76) on Twitter

【お悩み】入社4年目27歳。工場の人事として学ぶべきことは?

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よく皆さんからツイッターやメールで相談や質問を頂くことがあります。ご本人の同意をいただきましたので、先日頂いたキャリアについての質問と私の回答を書いてみます(なお、私の回答は加筆修正しています)

当方素材メーカーの工場で人事担当を4年間務めています。今後1〜2年後に本社や関係会社、海外での人事担当で能力発揮することが期待されていますが、今の工場にいる段階、または27歳という今の年齢で学んでおくべきことや意識しておいた方が良い視点などはありますでしょうか。

こんにちは。ミクロとマクロの視点両方を常にもち、またその両者を「行き来する」方法を覚えるのが大事かなと思います。

「ミクロ」の視点とは?

まずは「ミクロ」について。工場の人事を担当されているとのことなので、工場の皆さんに向けた人事施策を考えたり、実行していくのが日々の実務かと思います。なので、まずは、いくら小さな仕事でもそこに真剣に取り組むことが大事ですね。

その時に、工場の皆さんの「生の声」に耳を傾けることが特に大切かと。せっかく工場の中で仕事をしているわけですから、直接色々な役職や地位の人と積極的に話をして、そこで語られている内容だけでなく、皆さんの表情や声のトーンだけでなく、そこに潜む心理にまで思いを馳せることもすごく勉強になります。

ひとつひとつの施策を淡々とこなすだけでなく、それが実行された時に、工場の皆さんの仕事や生活にどんな影響があるかを、実際に話を聞きフィードバックを受けながら、その意味について自分の頭で考えること。それこそは、「顧客の声」に耳を傾ける、というマーケティングでいま最も重要とされている考え方で、これは「人事」においても同じと思っています。

「マクロ」の視点とは?

つぎに「マクロ」について。ご存知のように、製造業においての工場は経営の「根幹」です。工場における生産性が商品の競争力、品質、収益性まで全てを左右します。

より広い文脈では、例えば、そもそも工場をどこに置くべきか、という論点があります。ここ30年くらいの世界のグローバル化の流れは、最適なコストおよびサプライチェーンの模索に企業を向かわせ、中国をはじめとした海外に生産拠点を移管していく流れが続いています。

日本企業も例に漏れず、以下のデータが示すように、1980年代には5%を下回るレベルだった海外現地生産比率は、2015年では国内全法人ベースで25.3%, 海外進出企業ベースだと38.9%まで上昇しています。

 第3-1-2-1図 我が国製造業の海外現地生産比率の実績と見通し

Source: http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2012/2012honbun/html/i3120000.html

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http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result/result_46/pdf/h2c46kaku1.pdf

工場の人事部門であっても(だからこそ)、こうした「マクロ」の情勢に気を配り、どういった人事施策がこうした潮流に最適なのかを考えることは、ビジネスのスピードや事業の複雑性が増している現代では非常に重要になってきます。

ミクロとマクロを行き来する

そして、最後にミクロとマクロを「行き来する」こと、について。

上記してきたように、ビジネスにはミクロとマクロの要素、日本で好まれる言い方としては「現場」と「経営」の視点があります。

例えば、コスト競争の激化を踏まえて、生産工場のベトナム移管が経営課題にあがってきたとします。生産工場の海外移管は、いま毎日コミュニケーションしている現場の皆さんの雇用に影響があるかもしれない。けれど、製品の競争力を維持するためには、工場移管を含めた経営レベルの意思決定が求められる。

これが、両者を「往復」すること、の意味で、ビジネスではこうした「現場」と「経営」の視点や利害が必ずしも合致しないことが多々あります。しかし、ビジネスを前に進めるためには、いくら難しくとも誰かが「意思決定」する必要があります。

まだご自身は経営の意思決定をする立場ではないと思いますが、想像すること、考えることは自由です。こうした、難しい課題について、自分が経営者もしくは工場長だったらどうするか、そしてそれは日々接している工場の現場の人たちにとってなにを意味するのか、などを普段から考えておくことはとても有益だと思います。

ぜひがんばってください!!

僕が若かった頃の「弱さ」について

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大学時代の友人のAさんはとても目の大きな女の子だった。黒目がはっきりと濃くて、まるで小動物のようにキョロキョロとその目が動いた。厚めの唇をしていて、よく笑う。表情がころころと変わる。その佇まいからは強い意思を感じさせるけれど、語り口は柔らか。視点にはシニカルさがほのかに香っているところがすごく気が合った。

彼女は文字通り「読書狂」だった。僕も大学時代は狂ったように本を読んでいたので、二人で飽きることなく、よく読んでいる本の話をした。

彼女はアメリカ文学が好きだった。彼女がブコウスキーの「くそったれ!少年時代」を絶賛していると、ひねくれた僕はバロウズの「ジャンキー」について語った。

ジャーナリストの本もよく読んだ。彼女がキャパの「ちょっとピンぼけ」が面白かったというと、僕は近藤紘一の「サイゴンから来た妻と娘」の話をして「あれは名作だよね!」と二人でうなずき合った。そして、その勢いで沢木耕太郎の「テロルの決算」のヒリヒリした感じについて語り合う。

政治や歴史も読む。彼女が、授業でフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」を読んでるというと、僕はカーの「危機の二十年」について語る。

こんな感じで、ジャンルを問わず、二人ともとにかく貪るように本を読んだ。スノッブから遠いところで、メジャーもマイナーも、面白そうと思ったものを片端から読んでいくスタイルは二人に共通していた。

ある日、そんなAさんといつものように話し込んでいた時のこと。

どんな流れだったかは覚えていないけれど、僕は自分の「弱さ」がほんとうに嫌だと彼女に向けて語っていた。

その頃の僕は、今から考えると笑ってしまうほど弱かった。すぐ精神的に折れた。誰かにすこし嫌なことを言われたとき、自分がやっていることが急にバカバカしく感じられたとき、女の子に告白して断られたとき、将来の不安にいてもたってもいられなくなるとき、とにかく頻繁に「弱さ」が顔を出してそれに悩まされていた。

彼女が言う。

「うーんそうだな。とくちゃんはさ、そうやってつい考え込んじゃうんだよね。でもさ、それはさ、とくちゃんの良さでもあると思うよ」

「弱さをそこまで真剣に突き詰められる人も限られてる。そう思う」

「ほら、村上さんがさ、傷つかなくること、について書いていたじゃない」

と彼女がそこで触れたのが、村上春樹のエッセイ「傷つかなくなるについて」だった。そこで、村上春樹はこう書いている。

例えば若いうちは、僕もけっこう頻繁に精神的に傷ついていた。ささやかな挫折で目の前が真っ暗になったり、誰かの一言が胸に刺さって足元の地面が崩れ落ちるような思いをすることもあった。思い返してみると、それなりになかなか大変な日々であった。

この文章を読んでいる若い方の中には、いま同じような辛い思いをなさっておられる方もいらっしゃるかもしれない。こんなことで自分は、これからの人生を乗り越えていけるのだろうかと悩んでおられるかもしれない。でも大丈夫、それほど悩むことはない。歳をとれば、人間というものは一般的に、そんなにずたずたとは傷つかないようになるものなのだ。

「村上朝日堂はいかにして鍛えられたか」P129 (強調引用者)

そして彼は、自分がある日を境に、歳をとった人間が傷つくことはあんまり見栄えの良いものでないなと思い、そこからなるべく傷つかないように訓練したと述べて、こう続ける。

でも僕はそのときにつくづく思った。精神的に傷つきやすいのは、若い人々によく見られるひとつの傾向であるだけではなくて、それは彼らに与えられたひとつの固有の権利でもあるのだと。

同上 P131-2 (強調引用者)

 Aさんは静かに、少し斜め下に目線を落としながら、こう言ってくれた。

「とくちゃんの今はほんとにしんどいとおもうんだよね。でもさ、いつかはさ、それは薄れていくと思う。で、村上さんが言うように、その弱さにさいなまれた日々こそがとくちゃんである、ということが記憶として静かに残るんじゃないかな」

もう20年近く前のことなのに、この時彼女が言ってくれたこと、その表情、声のトーンをいまもよく覚えている。その時のまわりの情景や光の感じも。

この記憶と、村上春樹のエッセイに書かれた言葉たちは、僕のこの後の、あちこちにぶつかり、転び、それでもなんとか歯をくいしばって生き延びてきた人生をどこかで支えてくれたと思う。そして、まさにAさんが言ってくれたように、その「弱さにさいなまれた」日々は、僕の心の奥底に、静かに残っている。

「受験勉強」みたいな読書はやめたほうがいい理由

「受験勉強」的読書の問題とは?

「本を読みたいです!」という人は多い。でも、そういう人を見てて思うのは、学生時代みたいに「頭からきちんと線を引いて読んでいく」というのが読書だと刷り込まれてるなということ。つまり、受験勉強のやり方の延長。

なので、最初から1ページずつ丁寧に読まなくてはという脅迫観念があるし、なんならば書かれてることを暗記していかなくてはと思ってしまう。

つまり、こんな感じ↓の読書になっている

f:id:nori76:20170922154847p:plain

https://resemom.jp/article/2016/01/07/28850.html

それもあってか、なにかを学びたいと思う人の多くは資格を目指す。資格の勉強のための「読書」はまさに受験勉強のそれと同じだから安心するのだと思う。教科書を買って、最初からきちんと読んで、線を引いて暗記していく。一通り終わったら試験で確認する。

私は資格自体は否定しないし、ある専門領域を体系的に短期間で身につけるには、資格の勉強は有効といえる。私もいくつか資格を持っているし。

本のメッセージを「つかまえる」

ただ、「本を読むこと」を、例えば仕事に役立てたいと考える時でも、まずもって大事なのは一冊の本のコアになっているメッセージをきちんと「つかまえる」ことだと思う。

本というのは、あるまとまった長さを伴った文章で、筆者が伝えたいことを、あの手この手でみんなに伝えるメディアのこと。だから(良い本であれば)そこには必ず明確なメッセージがある。それを、読みながら「さっと」つかまえること、がすごく重要。

だから、流し読みだったり、良さそうな部分をいきなり読み始めるのでも全然良い。ポイントはメッセージを読み取るスキル。

そもそものところ、社会人は日中働いているわけで、例えば250ページの本を線を引きながら丁寧に読む時間は残念ながらない。どうせすぐ忘れちゃうし。私も本は読み慣れているけれど、細部はほとんど覚えてない。すぐ忘れてしまう。

それよりも、本の内容を暗記しようとせずに、さーと流しながらでも読んで、そこからワンフレーズで大事なメッセージを「抜き取る」ことに集中する。これはすごく重要なスキルだと思う。

「概念のストック」をもっておく

とはいっても、そのスキルをどう身につけるのか?

これを言語化するのはなかなか難しいけれど、ひとつは、鍵となる「概念のストック」をたくさんもっておくこと。

Airbnb Story

Airbnb Story

 

例えば、Airbnbの起業ストーリーをまとめたこの本。起業にかける思いや、事業がすごい勢いで拡大していき、問題を抱えながらも世の中を変えていく様がカラフルに描かれていて、冒頭からぐいぐいと物語に引き込まれる。

で、私のこの本で印象に残ったメッセージを、ワンフレーズでまとめると「中流層に「場」を提供することの価値」。例えばこんな部分。

彼自信もエアビーアンドビー信仰に取りつかれていると認めている。この会社は中流層の原動力になれる。それに、エアビーアンドビー流のホームシェアが一般に広まった原因は、一連の社会経済的なトレンドが重なったからだ。それは、失われた社会の絆を強めてくれる。それは普通の人に経済的な力を与えてくれる。エアビーアンドビーは人々をひとつにする。「結局、エアビーアンドビーがこれほど成功しているのは、アルゴリズムに少々魔法の粉を振りかけたからじゃない。人と人とが触れ合って、人生を変える経験をさせてくれるプラットフォームを作ったからだ。

5章 アンチとの闘い Airbnb Story

中流層の崩壊、というのは現代のアメリカを語る上で欠かせないテーマ。トランプ現象の背景にはそれがあるし、米企業で経営を担う私としても、アメリカ社会が過度の「金融化」によって、投資家や経営者に富が集中し、中流以下の層にとって厳しい世の中になっていったメカニズムは「肌感覚」としてよく理解できる。

読書のポイントに戻ると、大事なのは「中流層」という言葉が持つ意味とその文脈を理解していること。それにより、本のメッセージをくっきりと掴むことができるし、記憶にも残りやすい。そして、この「中流層」という言葉を通じて、他の本や議論にも連想が連なっていく。

例えばそれは上に触れたように「トランプ現象」だし、スティグリッツの啓蒙書の「中間層の没落を食い止める処方箋を提供する」というワンフレーズと繋がってくる。そこから、アメリカの今の中間層の抱える苦闘と、そこから希望持って抜け出そうとする姿が浮かんでくる。

これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

 

このように「中流層」という概念の持つ意味とその文脈を理解していると、本を読みながら「はっと」する部分があるし、そこでのメッセージをより広い文脈で捉えて、一連の「ストーリー」の中に位置づけることで記憶にも定着してくる。

ぜひ試してみてほしい。

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ビジネス系オススメ情報まとめ!経営学からスタートアップ指南書まで

定期的にビジネス系の情報でおすすめなものを紹介していきたいと思います。今日は、経営学輪講、スタートアップ指南書、そしてアントレプレナーシップの講義、の紹介です。

赤門マネジメントレビュー経営学輪講

AMR経営学輪講

この前お会いした経営学の博士課程の方に紹介頂いたサイト。東京大学の「赤門マネジメントレビュー」内にあり、大学院の「経営文献購読」の授業をもとに、海外の経営学に関する論文の紹介および批評的な「読み」を行った論文がたくさん紹介されています。

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実際の経営でも使えそうな面白い論点のものが多いですし、どれもPDFで「無償」でダウンロードできます。

経営学は経済学と比べてなかなか全体像がつかみにくいですが、こうして論点ごとに専門家の知見に触れることで、実務への応用についてアイディアも沸いてきます。

さっと眺めて面白そうなものを5つピックアップしてみました。皆さんもぜひ面白そうな論文を読んでみてくださいませ。

なぜイノベーションは拡散しないのか?:専門家組織のもつ境界―経営学輪講 Ferlie, Fitzgerald, Wood, and Hawkins (2005)

 ■官僚制はイノベーションを阻害するのか?―経営学輪講 Thompson (1965)

専門職および専門職集団におけるステータス決定要因―経営学輪講 Abbott (1981)

変革力マップとInnovator's Dilemma: イノベーション研究の系譜―経営学輪講 Abernathy and Clark (1985)

デザインの新奇性は製品の売り上げに貢献するのか?―経営学輪講Talke, Salomo, Wieringa, and Lutz (2009)

SaaS スタートアップ 創業者向けガイド

SaaS スタートアップ 創業者向けガイド - セールスフォース・ドットコム

セールスフォースの創業時からのメンバーを中心にまとめられたSaaS(Software as a Service)のスタートアップを作るための「指南書」です。私は英語版を読んでいたのですが、いまは日本語訳まで提供されておりさらに利便性が増しています。

これは本当にすばらしい内容で、サブスクリプションモデルがなぜ画期的なのか、というビジネスモデルの説明からはじまり、売上10億円企業を作るための必要なステップ、成長のためにどう営業組織を作りあげていくか、などなど実例を踏まえながら具体的に説明されていますし、カスタマーサクセス、というSaaSを特徴づける重要な概念についても触れています。

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個人的には「サブスクリプションモデル」がなぜ経営モデルとして「画期的」なのか、というのをきちんと理解するのは、現代の経営で非常に重要と考えており、その部分の記述には頷くことしきりでした。

アドビの経営変革についての記事でも、この「サブスクリプションモデル」の重要製については触れているので、ぜひ読んでみてください。

一方で、クラウド+サブスクリプションモデルの場合、契約期間内に顧客が製品に満足しているかが契約更新を決めます。なので、販売者側にも、普段から顧客が満足する品質やサービスを提供し続けるインセンティブがあるわけです。

この構造に加えて、クラウドは頻繁な製品アップデートを可能にしますから、顧客の要望にきちんと耳を傾けながら、短期かつ頻繁なアップデートでその要望を叶えていくことが可能になります。

Amazon AWSが圧倒的な成功を収めているのも、基本的にはこの構造によります。クラウド、というとテクノロジーの観点から語られることが多いですが(またそれが重要なのは間違いないのですが)、より本質的には上記のように「顧客価値の向上」にごまかしなく向かい合える、というのが実は一番重要なポイントです。

また、これはアメリカのハイテク業界のいいところなのですが、 この「指南書」のように、成功の秘訣や皆が陥りがちな失敗を、具体的な自らの体験を踏まえ、しかもそれをモデル化してオープンに伝えることが当たり前になっています。

こうした「情報共有」の文化が、シリコンバレーで次々と新しく、画期的で、世界に通用する企業が生まれてくる「エコシステム」を支えているんだなと、改めてこの資料を見て思います。

アントレプレナーシップ

次は、このブログではおなじみCourseraの紹介です。USA TodayのMBAランキング1位のペンシルベニア大学ウォートン・スクールの「アントレプレナーシップ」の授業です。

オススメのメールが送られてきたところで、まだ私も受講していないのですが、どれも面白そうです。

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一つ目は「機会を見つける」です。良いアイディアをいかにビジネスの「機会」に変えていくか、について概説されています。

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二つ目は「スタートアップを立ち上げる」です。「機会」を見つけて、プロトタイプまで作ったら、次はいよいよスタートアップを「立ち上げる」必要があります。組織をどう作るか、その注意点はなにか、というところまで詳しく触れています。

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三つ目は「成長戦略」です。事業を立ち上げて最初にぶつかる壁は、ビジネスをどう「スケールさせるか」です。これについて、売上機会をどう発掘するか、顧客をどう獲得するか、需要をどう予測するか、などノウハウについて具体的に触れています。

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四つ目は「ファイナンスと収益性」です。事業を成功させるには「ファイナンス」の側面は非常に重要です。損益モデルをどう組み上げるか、エンジェル、VC、クラウドファンディング、など投資をどう呼び込むか、などについてノウハウがまとめられています。

これらはSpecializationの形で提供されており、月額79ドルですが、Certificationが必要なくそれぞれのコースを受講するだけならば無料です。そのやり方は以下の記事でまとめているので、参考にしてみてください。

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ポール・オースター「幻影の書」を読む。そこで示される希望とは。

昔はてなダイアリーを書いていたのですが、それを改めて読んでいたらこの書評を見つけました。ポール・オースターの「幻影の書」についての感想。とても気に入っている文章なのでこちらに載せてみます。ぜひご一読くださいませ。

幻影の書 (新潮文庫)

幻影の書 (新潮文庫)

 

ゆっくりと読み進め読了。ストーリー性が高い上(当然ながら)柴田訳は見事な品質を保っていて心地良い読書体験だった。オースターの物語は、まずオースターという全体を制御する人物がいて、一方でその作品内で動きだす登場人物がそれぞれ固有の物語性を持って人生を生きる(そこには喜劇あるいは悲劇がある)、という入れ子の構造が細部まで意識された形で構築されているから安心して読むことができる。柴田氏がオースターは作品内作品、今作でいうとヘクターの映画描写が素晴らしい、と言っているがそういった明示された入れ子構造だけでなく、上記したように物語全体を貫く入れ子構造がオースターの特徴だと思う。

そして、オースターがこの日本にいる僕の心を温めてくれるのは、彼が信じている「物語」というものの力だ。

ヘクターの自伝を7年間書き続けているアルマという女性。彼女はデイヴィッドをヘクターに引き合わせようとする。主人公とアルマはこの不思議な邂逅を経て近づいていく。ヘクターの元にデイヴィッドはたどり着き彼と言葉を交わし親密な関係を築くが、翌日の未明ヘクターは静かに息を引き取る。長旅の疲れからそのことを知らずに眠っているデイヴィッド。アルマは彼のベッドの横で彼が目を覚ますのを待っている。そして彼が目をさました時、彼女は死についてすぐに触れない。まずキスがあり、親密な言葉があり、彼にコーヒーを渡す。

ヘクターについてすぐ話し出さないことによって、彼女は私に、物語の結末部分の中に自分たち二人を溺れさせる気はないことを伝えていたのだ。私たちはもう自分たち二人の物語を始動させたのであり、その物語は彼女にとって、もうひとつの、彼女のこれまでの人生そのもの、私と出会う瞬間に至る全生涯そのものだった物語に劣らず大切だったのだ。

アルマはヘクターの物語を紡ぐ事で、自分の人生を生きてきた。人の物語に仮託することで生起する人生。深く絶対的な孤独を癒す手段としてそれはあっただろう。しかし、ヘクター・マンという男の人生を通じて彼女は別の物語の回路と繋がるきっかけをつかむ。それがデイヴィッドであり、ここに引用したようにアルマはその物語をはっきりとした意志を持って始動させようとする。

では、ここで新たに生み出された物語は自由意志の勝利だろうか。簡単にそうとは言えないことは、オースターは残酷にも物語のラストで示す。アルマは自分の意志で確かに物語を始動させたように見えた。しかし、その物語はどこまでもヘクター・マンを巡るものだった。その桎梏が彼女を縛りつけ、彼女の孤独からの解放は不首尾に終わる。

けれど、アルマの残した痕跡はデイヴィッドの心に残りその物語は引き続き彼の中で生きる。オースターは簡単に希望を示してはいない。ただ物語の持つ力と時としてそれが持つ残酷さ、そしてそこからの回復、という転回を今回もまた見事に描いていると思う。安易な内省に留まらないオースターの示す希望に少し励まされたりする。

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「ワトソン不振」は「イノベーションのジレンマ」の観点から捉えておきたい

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この記事に対して「ワトソンとAWSを比較するのは適切でないのでは」というコメントを幾つか頂いたので、それに対しての見解をツイートしました。まとめておきます。

IBMが直面している状況と、それに対して進めている事業構造変革の動きは、「イノベーションのジレンマ」に大企業はどう対応すべきか、という論点について学びの多い事例です。今後も定期的に触れていきたいと思います。