グローバル経営の極北

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ビジネスプランを作る上でとても参考になる3冊

最近新しい事業案を色々と考えてるんですが、参考になる良い本がたくさんあるので3冊ご紹介。

巻き込む力

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

巻き込む力 支援を勝ち取る起業ストーリーのつくり方

 

これは非常に面白くて、資金調達で必要となる事業計画の立案からピッチの作成、投資家へのプレゼン、資金調達でのポイントなどをとてもわかりやすく説明した本。

特に役に立つのは、資金調達に成功した15社のピッチがそのまま載っているところ。

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例えばこれは出会い系アプリのHinge社のピッチ。課題から解決策、競合・市場、そして製品までが分かりやすいデザインで事業の魅力を訴求していることがよくわかる。

なお、同社はこのピッチを使い、合計310万ドルを28名の出資者から集めることに成功している。

また、ピッチのポイントとして「ストーリー」と「デザイン」に焦点が当たっているところも興味深い。

投資家の判断のポイントとして、いかに魅力的なストーリーを持った事業を、説得力のある優れたデザインで伝えるか、が重要ということだ。

優れたストーリーは私たちの内側にある真実を語ります。だからこそストーリーは効果的なのです。

起業家精神とはある意味、再現性のある解決策によって問題が解決されるストーリーをつくり、語ることです。

ピッチ資料を縫い合わせる糸がストーリーなのです。

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

 

ライフネット生命のビジネスプランについて、どうやって作ったかというストーリーから、細部の分析や資料までそのまま載っており、この本もとても参考になる。

岩瀬氏がハーバードMBAで学んだことのエッセンスをまるっと、起業への熱量と一緒に注ぎ込んだ感じの事業案で、132億円を集めたことも頷ける内容。

個人的には特にペルソナについての部分が学びが多かった。ユーザーインタビューをきちんと行い、想定されるユーザー像を細かく性格付けして絞りこんでいく。

創業当初のライフネットは、まさにこのペルソナ通りのユーザーに熱く支持された感じがあり、それは事業案としての完成度の高さゆえだったんだなと思う。

ビジネス・クリエーション!

ビジネス・クリエーション!

ビジネス・クリエーション!

 

 MITの起業家センターで教えており、自らもスタートアップの立ち上げ経験がある著者による本。

起業で必要となるプロセスを24のステップに分解しそれぞれについて、実体験も踏まえてわかりやすく解説がつけられている。

特にMITは多くの起業家を輩出しているため、その事例が常に参照されるのが説得力を増している。

事業を立ち上げるためには、奇をてらったアクションよりも、必要なステップをきちんと一つずつこなしていくことの方が重要だというのが腹落ちする本。

この本を読むと、モデル化と実践が常に行ったり来たりしながら標準的な知見が蓄えられていくところはアメリカの強さだよなと改めて思う。

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どれも面白い本ですのでぜひ読んでみてください!

育児はこうあるべき、という観念から遠いところで

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「牛乳石鹸」炎上の論点とは?

牛乳石鹸のウェブCMが炎上している。

ただ、この件については、インサイトフォースの山口さんのこの指摘につきると思う。

つまり、マーケティング観点が論点だということ。

ポリコレ観点から表現の「正しさ」を査定する、というのはアメリカではよくある観点だけれど、それが社会を覆いすぎるのもなかなかしんどいものがある。

ただ、お父さん側の大変さも理解しつつ、同時にふと思う。やっぱり育児の大変さってうまく伝わりにくいよなと。

育児と仕事に追われながら

この記事(「育児とはマネジメントである」)で書いたように、育児は決して「単純作業」でなく「マネジメント」が求められるため難易度は高い。

意思決定の連続だし、子供の行動は予測不可能なのでそこに対応していると、メンタルは徐々に削られ疲労はどんどん溜まっていく。

結果として、仕事に割ける物理的時間が少なくなることに加え、その疲労感から仕事の意思決定の質が下がってくる。

この負の連鎖は結構しんどくて、私もそこに慣れるまでかなり時間がかかってしまった。

そして、このしんどさに加えて、仕事と育児をどうバランスさせていくのか、という難題が残る。

仕事でキャリアを築いていくには「ここが集中しどころだ」というポイントが確かにある。

そこで質量とも自分の持てるリソースを徹底的に仕事に投入することで大きな成果を得ることができるし、何よりその没入を通じてその後のキャリアの礎となる経験とスキルを身につけることができる。

一方で、子供の成長を近くで見られるのも人生で一回切り。

子供の成長は思ったよりも速い。娘と毎日毎日長い時間を過ごす中で、夜中に泣き止まない彼女を抱っこして、汗だくになりながら部屋中歩きスクワットでグルグル回っていたこと、はじめてごろんと娘が寝返りうった時のこと、「たーたん」と自分を呼んでくれた時のこと、などその時の必死さや感動も含めてすべて生き生きと思い出すことができるし、これは今後の人生で自分を温めてくれる記憶になるなと思う。

仕事も育児も、ここしかない、というポイントがある。

どちらにも同じくらいの熱量を傾けることは、とても、むずかしい。でも、世の中のお母さん(そしてお父さんも)は、その両立の困難さに毎日くらくらしながら、自分のその時の精一杯を傾けて育児と仕事に向かい合っている。

社会はこうあるべき、という観念から遠いところで。

日本のビジネス界で仕事の標準化が好まれない理由

標準化を好まない理由

日本のビジネス界では標準化が好まれない、というのは興味深い特徴で、大企業からスタートアップまで、自分だけ、もしくは自社だけのやり方を見つけ出そうとする傾向がとても強い。

例えば、業務を標準化してインドや中国などにアウトソースしていくBPO市場を見てみても、日本は米国に比べてGDPに占める割合が非常に小さい。

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出所: HfS Research 「State of the Outsourcing Industry 2013」

なぜだろうか。

もちろん理由はひとつではないけれど、やはり雇用モデルがメンバーシップ型であることは大きい。メンバーシップ型では、仕事の役割や範囲が明確に定義されることは少なく、結果として仕事で「自分なりの」やり方を見つけ出して成果を出すことに価値が置かれやすい。

仕事は自分の「表現」

そして、さらに重要なのは、そうした仕事のやり方における「個性」がアイデンティティの拠り所になっている、という心理的な要素。つまり、仕事それ自体が自分自身の「表現」になっているのだ。よって、日本では自分なりの「創意工夫」を仕事に込めようとしている人は多い。

これは、あらかじめジョブ・ディスクリプションという形で作業内容が定義されている欧米で主流となっているジョブ型では起こりにくい。私もアメリカ企業で長く働いているけれど、そこで重要となるのは、あらかじめ定義された職務内容の範囲でいかに「成果を出すか」が焦点。なので、付加価値が出しにくい定常業務はさっさと標準化してオフショアにアウトソース、というのは日常的な光景になっている。

対して日本の場合は「アイデンティティ」という繊細な部分と紐付いているので、業務の標準化に対する反発は想像以上に大きい。ERPの導入や業務改善のプロジェクトに関わったことのある人ならば、この「現場の反発」は一度は経験していると思う。

そこでは、仕事のやり方を変える、とか、効率化する、という話が簡単には受け入れられずに「自分の存在が脅かされる」という感じで情緒的に反対する人が実務の現場では結構多い。

AI時代にどう適応していくか

ただ、強調したいのは、標準化の推進について、欧米と日本のどちらが良いかとは一概に言い切れるわけではないということ。

日本企業における「自分のやっている仕事が自身のアイデンティティと紐づく」という特性は、仕事での日々の創意工夫につながっており、それは日本企業の「現場の強さ」や「思いがけないイノベーション」を生み出す源泉になっていると言える。

つまり、主に財務的側面から業務を標準化して経営変革すればいっちょあがり、という訳にはいかず、それが経営力を弱めるリスクもあるのが注意すべき点。これはAIの導入やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)に日本企業がどう向かい合うか、というテーマにつながり、今後も日本企業の経営で重要な要素となるだろう。

 

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

 

オープンハウスとライフネット生命 ー マーケティングにおける「感情」とは?

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 オープンハウスが喚起する「感情」

先日オープンハウスという都心で戸建て住宅にフォーカスして業績を伸ばしている企業についての記事を読んだ。これが面白かったのでご紹介。 

このインタビューで、荒井社長が語っているこの部分は非常に面白い。

荒井: 買うモノがあるということが大きいです。家は感情で買います。ロジックでは買いません。偉そうなロジック型の営業担当から家は欲しくないでしょう。上から最もらしいこと言われるよりも、下から気持ち良くさせてもらいたいのが人間の本能です。

不動産に関して、究極的に顧客にとって営業マンは関係なく、場所と価格なのです。そこに良い商品を提供すればいい。あとは営業マンが信頼できそうかだけ。(強調引用者)

 私も昨年家を買ったのだけれど、その経験からするとこれはすごく頷ける。まさにポイントは「感情」。

というのも、普通のサラリーマンにとって住宅ローンは金額が大きすぎて、ロジックの積み上げではなかなか決断できない。

なので、結局「家族を喜ばせたい」とか「家を自慢したい」みたいな「感情」が伴わないと最終的な意思決定に至らないからだ。

考えると保険もそういうタイプの商品で、合理的な計算よりも「自分が死んだら家族が心配」や「資産運用とか難しいから任せたい」という感情が全て。

そこに多少強引にでも寄り添う生保レディモデルによる営業が機能したのは、上記のオープンハウス社長の観点からもよく理解できる。

ライフネット生命の苦戦

そこで頭に浮かんだのはライフネット生命。彼等は、生保レディに象徴される既存の保険営業を否定し「合理的」な意思決定をアピールした。

これは新鮮な切り口だったし、私も創業者二人の理念や理想に共鳴し、創業当初のセミナーに足を運んだくらいだった。実際彼等はソーシャルを最大限活用したマーケティングに成功し、一気に加入者を増やし上場まで事業を持っていった。

しかし、今振り返ってみると、そうした初期の加入者は「創業者の理念や格好良さに共鳴する先進的な自分」という「感情」が意思決定の肝だったかなと思う。

私もまさにそういう気持ちだった。ただ、そういうやや入り組んだ「感情」は市場が狭い。結果として、ここ数年は契約数が伸び悩み、株価も上場時の半値以下に低迷している。

オープンハウスに話を戻すと、彼等の営業はほんとうに「しつこい」。

私も一度物件の問い合わせをしたことがあったのだけれど、その後の営業攻勢は徹底していて、夜にも平気で電話かけてくるし、電話はやめてくれといったら毎日ひたすらメールを送ってきた。

ただ、いま振り返ると家を買う時(オープンハウス以外から購入)のポイントは、まさに「場所」と「価格」の掛け算だったし、自分が家を買うんだ、という今思うと不思議な「高揚感」がそこにセットになって購買に至った。

そのことを振り返ると、オープンハウスの営業攻勢は、一見時代遅れな根性主義に見えるけれど、人が物を買うという行為に対して「合理的」といえるのではないか。

こうした観点からは、この田端氏の記事は非常に示唆的なので最後にご紹介。

特に以下に引用する部分はとても頷ける見解だと思う。

マーケティングとは何かっていうことをビジネス的に考えるのもいいけど、僕はマーケティングってもっと下世話なものだと思っていて。欲望を扱うものだと思うんです。

何が言いたいかというと、みなさんはコンビニに行って、『お〜いお茶』か『伊右衛門』か、どちらを買うかを必ず決めている人って少数派じゃないですか、何となく選んで買いますよね。
断言しますけど、今の消費行動の8割くらいは、実は消費者自身がなぜそれを選んだのかがわかっていない。
後づけで自己正当化することはあっても、買う時には無意識に決めているんですよ。その無意識の深層心理にどう訴えかけるかというのも、マーケティング。
だから、自分自身の行動をよく観察したり、自分自身の心の中の汚い部分とかどす黒い部分、せこい部分や嫌な部分を観察することがすごく大事ですね。

今週のおすすめ本 - なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?など

 Speak Business English Like an American
Speak Business English Like an American (English Edition)

Speak Business English Like an American (English Edition)

 

これはおすすめ。現職は西海岸の企業なこともあり、アメリカ人の同僚の会話にイディオムが含まれることが多く、意味がいまいち掴めない時がある。そういったビジネスの場で使われるイディオムについて、簡単な対話、そこで使われているイディオムの解説、クイズ、とシンプルだけど分かりやすい構成になっていて学びやすい。

 なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?
なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

 

 これは非常におすすめ。しかも今月はKindle 50%オフ!ロンドンの金融街シティの金融関係者200名以上へのインタビューをもとに、そこで働く「普通の」人たちが何を考え、どういう「制度」に規定されているのかを、分かりやすい文体でまとめた本。金融危機関連の本は本格的なものが多く、そこでは業界の「大物」達に焦点が当たるのだけれど、この本では人類学的観点から、そこで実務を担う人たちの「生態」を描き出しているところが非常に面白い。

 外国語学習の科学 - 第二言語習得理論とは何か
外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

 

 語学つながりでこちらも。何かを習得するにはその原理をおさえると早いというのは、マラソンで記録を目指して練習を積んでた時に痛感したんだけど、語学も同様でこの本はオススメ。前半で外国語習得に関する言語学の理論が丁寧かつ分かりやすく紹介されており、後半はそれを踏まえた実践の事例などが挙げられていて参考になる。

スクラム 仕事が4倍速くなる”世界標準”のチーム戦術
スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房)

スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術 (早川書房)

 

「スクラム」の考え方や手法はシステム開発だけでなく応用可能で、そのシンプルさと、生産性を意識した部分が非常に参考になる。トヨタの「カイゼン」に大きく影響受けてるのもなんか嬉しい。タスクを「未着手」「進行中」「完了」の3つで区分してKanban Boardを使いながら進める手法は私も既に実践済みでとても有効。

 経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか
経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

 

 マッキンゼー支社長、カーライル共同代表、早稲田大学MBA教授という経歴の著者によるこの本はまださわりだけしけ読めていないけれど非常によさそう。世界の経営のマクロの動きを概観しつつ、そこに対応できなかった日本企業の課題を整理して未来を展望する内容。

 インターフェースデザインの心理学
インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

  • 作者: Susan Weinschenk,武舎広幸,武舎るみ,阿部和也
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2012/07/14
  • メディア: 大型本
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 「人はパターン認識でものを識別する」など、デザインの上でポイントとなる心理学の知見が分かりやすく整理されていて参考になる本。私はデザイナーではないけれど、社内向けの資料作りにおいても、こうした心理学の要素を理解していると、メッセージがきちんと伝わるので重要と感じている。

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

  • 作者: クレイトン・M・クリステンセン,ジェームズ・アルワース,カレン・ディロン,櫻井祐子
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2012/12/07
  • メディア: 単行本
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 「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバード・ビジネススクール教授のクリステンセンが書いた「人生論」。原書で読みかけのままなのだけれど、最近この本に感銘を受けたという人を見かけるので、改めて読み直したい。人生における「成功」とは何なのか、というのを本質的に自分に問いかけるステージに自分もあるので。

 

コンサルティングのビジネスモデルについて

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コンサルティング・ビジネスとは?

コンサルティングというビジネスは多く人の関心を惹いていますが、そのビジネスモデルについて語られることはあまり多くありません。そこで、この記事では、コンサルティング・ビジネスのビジネスモデルについて考えていくことにします。

コンサルティング、は幅広い領域を含む概念ですが、ここでは俗に「戦略コンサルティング」や「ITコンサルティング」と呼ばれるような、企業向けの経営・ITに関するコンサルティングに話を限定します。

この領域では、経営やITに関する顧客の「お困りごと」に対して、コンサルタントが知的成果物(報告資料やシステム)を提供することで対価を得ます。
※対価を「成果物」に対して得るか、「時間」に対して得るか、というのは請負(Fixed)か準委任(Time & Material)という契約形態の話に繋がるのですが、ここでは触れません

ビジネスモデル上の最大のポイントは、コンサルティング・ビジネスは、「人(コンサルタント)」自身が「商品」である、ということです。

顧客がお金を払うのは「人」が生み出す成果物や、それを作るためにかかった時間です。また、原価の大半はその「人」自身にかかる費用、つまり給与などの労務費です。

これを、例えば製造業と比べてみると、その特徴がはっきりします。

製造業での「商品」は、主にPCやサーバーのようなハードウェアになります。「商品」を生み出すには、長期間にわたるエンジニアによる開発、工場での生産、市場への流通、商品を販売する営業、アフターケアと複雑なバリューチェーンと投資が必要になります。

それに伴い、原価も材料費、労務費、減価償却などを含む経費、と多くの要素を含みます。また、開発投資や工場に大きな投資が必要となりますので、資金調達などのファイナンスも重要になります。

一方で、コンサルティングのビジネスモデルはシンプルです。コンサルタント自身が、事業戦略やシステムなどのサービスの内容を「開発」し、サービスを顧客の課題や要望にあわせて「生産」し、顧客に対して自ら「販売」していきます。

原価は上記したように大半はコンサルタントやエンジニアの労務費ですし、開発や工場のような大規模な投資は必要としません。

この特徴を捉えることが、コンサルティングのビジネスを経営する上では最も重要です。

一般には「労働集約型」と呼ばれるビジネスで、モデル自体はシンプルなのですが、「人」がビジネスモデルの中核であることの「ゆらぎ」や「制約」をどうコントロールするかがポイントになってきます。

コンサルタントのパフォーマンスには「ゆらぎ」がある

まず、「ゆらぎ」について説明しましょう。例えば、PCであれば同じカテゴリーの商品の仕様は一定で商品ごとに異なる性能を持つことはありえません。しかし、コンサルティング・ビジネスで提供されるサービスは、その性格上常に同じ内容であることはありえません。顧客の要望は多種多様で、タイミングによっても大きく異なってきます。

さらに重要なのは、そのサービスを提供するコンサルタント自身のパフォーマンスも一定でないという点です。

自分が得意とする領域か否か、サービス提供時の肉体的・精神的コンディションの良し悪し、などにサービスの品質は左右されます。全くはじめての領域に急にアサインされたり、寝不足が続いたり、彼女(彼氏)に振られたり、と「人」のパフォーマンスを左右する要素には事欠かないのです。

レバレッジが効きにくいコンサルティング・ビジネス

次に「制約」です。コンサルティングビジネスは提供できる付加価値に上限があって、レバレッジが効きにくい、という点がきわめて重要です。人間が提供できる時間は(実際は無理ですが)最大でも24時間しかありませんし、「人」の生産性が急激にあがることもまたありません。

これに対し、例えば製造業であれば、新しい製造設備の導入によって生産性の急激な上昇を達成することが可能ですし、ソフトウェアビジネスであれば、一度開発をしてしまえば(ほぼ)コストゼロで複製可能となります。

また、コスト側についても、コンサルティングビジネスの原価は上に述べたように大半が労務費となります。これは原価低減できる余地が限られることを意味します。

どういうことかというと、例えば価格競争が厳しくなり原価を下げたいと思っても、コンサルタントの給与や人員削減くらいしか施策がないことを意味します。

しかも、これをやってしまうとコンサルタントの離反を招いたり、モチベーション低減による生産性の減少などに繋がってしまいます。つまり、売上とコスト、どちらについても経営上の選択肢は限られる、つまり「制約」が多くあるわけです。

この「ゆらぎ」と「制約」がコンサルティングビジネスを展開する上でのポイントで、この2点を経営上どうコントロールしていくかが実務上非常に重要になってくるわけです。

マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み

マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み

 

 

ベンチャーキャピタルにも「機械学習」が活用されはじめている

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 マッキンゼー・クオータリーの記事で面白いものがあったのでご紹介。Hone CapitalというシリコンバレーのベンチャーキャピタルのManaging PartnerであるVeronica Wuへのインタビューで、投資判断に「機械学習」のモデルを活用している、という点が非常に面白かった。以下に特に機械学習について話している部分を訳してみたので、ぜひ読んでみてほしい。

経験豊富なプロフェッショナルの知見や直感と機械学習のモデルを「組み合わせる」アプローチが、意思決定の質を高めてくれる、というのはベンチャーキャピタル投資に限らず経営の幅広い領域で今後の主要なアプローチになっていきそうなので、この事例はその点で参考になると思う。

マッキンゼー:機械学習モデルをどう作り上げていったかを教えてもらえますか。また、そこから得られた有益な示唆にはどういったものがありますか

Veronica Wu:過去10年の30,000件以上のディールのデータをCrunchbase, Mattermark, PitchBook Dataといったデータベースから抽出して、機械学習のモデルを作りました。そのデータをもとにシリーズAまで進んだディールを分析して400個の「特徴」を抽出。その上で、シードステージのディールの成功要因を20個選び出しました。

このモデルによって、投資家の過去のコンバージョン率、投資額合計、創業者チームのバックグラウンド、シンジケートのリード投資家の専門領域、といった要素を検討した上で、最適な投資戦略を弾き出してくれます。

例えば、シリーズAまで進むことに成功したスタートアップは、シード・ステージで平均150万ドル調達していたのに対し、失敗したスタートアップは、平均50万ドルしか調達できていませんでした。つまり150万ドルを下回る金額しか調達できなかった場合は、投資家の関心をうまく引き付けられなかった、もしくはアイディアは良くても十分な資金を得られなかった、という仮説が立てられるわけです。

 もう一つは、創業者のバックグラウンドについてです。モデルで分析してみると、創業者が異なる大学出身の方が、同じ大学出身の場合より2倍近く成功率が高かったのです。これは多様な視点が強みになる、という説を裏付けています。

 

マッキンゼー:過去に、あなたのチームは投資しないと決めたにも関わらず、データからは投資の可能性が示唆されており、改めて投資検討をした、といった事例はありますか?

 Veronica Wu:最近まさにそういったケースがありました。データは70-80%の成功率を示していたのですが、我々のチームが最初に精査した時は、そのビジネスモデルが成功するとは思えませんでした。紙の上では、そのビジネスが利益を生むとは思えなかったし、規制の問題もあった。にも関わらず、モデルは高い可能性を示している。そこで、リード投資家にこのディールについて、そのビジネスモデルを含めてもう少し詳しく聞いてみたんです。

彼が言うには、その創業者達は、規制の問題をクリアする優れた方法を考えついており、顧客獲得コストがほぼゼロで済むユニークなビジネスモデルも準備していました。その結果このディールでは、我々人間の直感や判断と、機械学習のモデルから導き出される人間ではなかなか思いつかない洞察、を組み合わせることができたわけです。データモデルをもっと使いこなすために、学ぶべきことは多い、ただ、そこに全てを任せるわけにはいかない。まさに、人間と「ツール」をどう組み合わせるかが鍵なわけです。

 

マッキンゼー:機械学習モデルを活用してどれくらいのパフォーマンスを出せていますか?

Veronia Wu:約1年ほどやってきましたが、パフォーマンスは、シードステージからシリーズAまで進めたか、という点を重要な指標として見ています。というのも、大半のスタートアップは、シードステージで「死に絶える」か、次のステージでの調達に失敗するわけで、シリーズAまで進めたか、というのはスタートアップの将来の成功を占う上で鍵となる指標なんです。

我々は2015年にシードステージだった企業に「事後分析」を行いました。VCが投資したシードステージの企業では、約16%が15ヶ月のうちにシリーズAまで進みました。一方で、我々の機械学習モデルが推奨したディールだと、約40%が次のラウンドまで進んだ、つまり市場平均に比べ2.5倍のパフォーマンスとなったんです。面白いのは、これは我々のチームが機械学習モデルなしに選んだディールと同じパフォーマンスだったことです。さらに興味深いのは、市場平均の3.5倍というベストのパフォーマンスを出したのは、我々のチームと機械学習モデルを組み合わせたケースだったことです。これによって、ベンチャーキャピタル投資に機械学習を活用することで意思決定の質を高めることができる、という私の確信を深めることができました。

 (訳文中強調は筆者)

 

 

Pythonではじめる機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎

Pythonではじめる機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎

  • 作者: Andreas C. Muller,Sarah Guido,中田秀基
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2017/05/25
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GoogleやTwitterに学ぶ転職者受け入れのコツ

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昨日のエントリで触れたHBRの記事では、米企業の新規採用者のOnboardingプロセスについての工夫が多く挙げられていて、実務上とても参考になりそうなのでまとめてみたい。 

Google

まずはGoogleの仕組みについて。Googleでは、社員の入社日直前の日曜日に、マネージャーに対してメールで6項目のチェックリストを送っている。

  • 仕事の役割と責任(Role & Reponsibility)についてきちんと会話する
  • メンター役をつける
  • 社内でのネットワーク作りをサポートする
  • 最初の6ヶ月は毎月面談(Check In)を実施する
  • 気兼ねなく話せる環境を作る

 どれもシンプルだけれど重要な点で、昨日紹介した組織心理学の研究の「新規採用者が組織で成果を出すには、マネージャーのサポートを得ながら、能動的に情報を集め、コミュニケーションを積極的に行い、組織に受け入れられていくことが大切」というポイントを網羅的におさえている良いリストだと思う。

 Zappos

ユニークな経営で知られるZapposの仕組みも面白い。新規採用者に対して彼等は5週間の研修を実施し、そこでは会社の文化や理念が徹底的に伝えられる。そして、その研修の最後で、もしZapposに合わないなと感じたら、2,000ドルを「もらって」会社をそこで辞めることができる(ただ、実際にこの制度を使って辞めた人は1%くらいしかいないとのこと)。

企業文化や理念へのフィットをきわめて重要と考えているZapposらしい制度といえる。組織心理学の研究から「動機づけ」がパフォーマンスに影響することはよく知られており、入社時にその企業の核となる理念をきちんと学び、そこに納得した上で働いてもらうというのは、その点からも合理的と思う。

Twitter

最後にTwitterについて。'Yes To Desk'と称して、採用者がオファーを受けて(Yes)から、入社当日に席につく(Desk)までのプロセスをきちんと整えておくことを意識している。

具体的には、入社当日にはE-Mailなどのセットアップは全部済んでおり、席にはTシャツ、ワインが置かれている。そして、その人と関係の深い同僚の隣に席が配置されるよう配慮されている。入社当日の朝はCEOと一緒に朝ごはんを取り、その後オフィスツアーが実施される。

さらに企業文化の理解を深めてもらうために、月1回は'Happy Hour'で経営陣との交流があり、金曜の夜は他の部署がやっているプロジェクトを学ぶ機会も用意されている。

オファーから入社までを「一連のプロセス」と定義して、そこでの活動を通じて新規採用者が組織に馴染んでいくよう「仕掛け」を施しているところが重要かと思う。

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以上3社の仕組みを見てきたが、どこも新しく入社を決めた人が、その最初から企業の文化や理念に触れ、経営陣や社員とコミュニケーションを図り、そのプロセスを通じてその企業に受容されていくプロセスをデザインしているところが肝となっているのが興味深い。特に企業文化や理念の強調、オープンなコミュニケーションの促進、などはハイテクを中心とした今のアメリカ企業の経営のトレンドだなと改めて感じるところ。

中途採用者にすぐ活躍してもらう秘訣とは?

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 ハーバード・ビジネス・レビューで、新規の採用者をどうやって組織にうまく順応させていくか、というなかなか面白いテーマの記事があったのでご紹介。

hbr.org

 

まず、70の心理学研究をメタアナリシスしたこの論文では、自分がその組織に「受け入れられている」と感じることが、組織での成功で重要な要因であることを示している。それに関連し、インドのソフトウェアエンジニアに対して実施された研究では、組織に「受け入れられている」と感じている社員ほど積極的に情報を求める行動をすることが明らかにされている。さらに、409人の新卒採用者に対して実施された研究では、最初の2年で上司から適切なサポートを受けたかが、その後の役割の理解度、仕事への満足度、さらには給与にまで好影響を与えたことが示されている。

つまり、組織に「受け入れられている」と感じていることが重要で、それは組織側にサポーターがいることで促進される。そしてその役割を期待されるのは、やはりマネージャーということになる。

一方で、マネージャーは非常に忙しく、新しく入社してきた人をきちんとサポートしていくのはなかなか難しいのが現実。

そこで面白いのが、インドのソフトウェアエンジニアに対して実施された心理学の研究。これは、マネージャーから入社後サポートを得られる人とそうでない人がいるのはなぜか、という仮説を調べた。結果として分かったのは、積極的で役割にコミットし、自ら情報を集めたり、広く社内コミュニケーションを深めていこうとする人ほどマネージャーのサポートを得られており、結果として組織への順応が高い、ということ。

これはなかなか興味深い結果で、動機づけが強く自ら情報の取得やコミュニケーションの構築に動く人ほど、結果としてマネージャーの信頼や共感も得やすく、組織にうまく受け入れられていく好循環を生み出す。その循環は心理的な安心感をも生み出し、実績を出していく支えとなる。

組織というのは常に流動的なので、その動的なサイクルに自らを位置づけることは重要だが、全く新しい組織に加入した時はなかなかそのきっかけを掴めずに、うまく実績を出せない人は多い。特に外資系は中途採用が中心となるが、前職では大きな実績を出してきたであろう人が、自らを新組織にうまく順応させられずに、1年も経たずに辞めていってしまうような事例はとても多い。

その観点からも、その組織に深くコミットし「自ら」能動的に動いていくことが、組織にうまく順応していく循環が回り出す鍵になる、というのはなかなか示唆的で、他の領域でも応用できる知見なのではと思う。

人生で「逃げ道」を確保しておくことの大切さ

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とてもためになる記事が多い樋口さんのブログでこんなエントリがあった。

これは全くもって仰る通りで、退路を断った結果失敗する事例の方が実際は多いから、逆に成功者の退路を断った話が英雄譚として「消費」されるのだろうと思う。

しかも、成功者は能力やモチベーションが大抵高いから、それ自体が実は最大の「保険」になってるとも言える。起業で世間で評判になるほど成功した人ならば、仮に一度失敗したとしても、別の領域で成果を出す能力や精神的なタフさを兼ね備えているだろうから。

私の場合は、起業みたいにカッコ良い話ではないけれど、仕事も体調も絶不調で袋小路にはまり込み、さらに奥さんはアメリカに留学してという時に、千葉の実家に戻って体制を立て直したことがある。

それはいま思うと、人生の「岐路」における非常に良い意思決定で、あそこで無理して都内で一人暮らしをしていたら人生は破綻していただろう。

「退路を断って」という話ではないけれど、自分が置かれている状況を冷静かつ客観的に捉えて意思決定することの重要性を改めて感じる。

つまり、私にとって実家はまさにセーフティネットだったと言える。30歳を越えた男性が仕事もしているのに実家に帰る、というのは正直世間的には「情けない」と取られてもおかしくないのだけれど、その時の自分はどん底で、自分が戻れる「場」があることの大切さを痛感していた。

そして、育児真っ只中のいま思う。家族を作り上げていくというのは、子供達、つまり次の世代が困難に直面した時に、いつでも戻れる「場所」を確保しておいてあげることにその本質があるのかもしれないと。

誰かがいつでも戻れる場所を確保しておく、というのは、実は大変なことで、毎日変わらない日常をコツコツと積み上げていく必要がある。変化こそが最上とされる最近だとなかなか評価されにくいことだけれど、「場を維持する」ということにはやはり価値があるんだなあと思う。

かといって、変化を頭ごなしに否定してしまえば、それはそれで場は淀んでいく。変化と維持、この両者をどういう形で組み合わせていくのか、というのは、子供ができると一層リアルな問いかけになってくる。このせめぎ合いからまた新たな場所に出れるのかなとしみじみと思うところ。

日本の組織が専門家をうまく扱えないワケ

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少し前になるが日本から香港の大学に、主に給与を理由として移籍することになった経済学の教員の方が話題になっていた。

その方に限らず、大学の教員の方が低い給与や雑務の多さを嘆くのはソーシャルメディアでよく見かける光景。ここから、専門性の強いはずの大学でも、日本では人事モデルは「メンバーシップ型」で「ジョブ型」でないんだよなと改めて思うところ。

実際のところ、ジョブ型への移行、というのは口で言うのは簡単だけれど、実現には経営モデル自体の変革を伴うので道のりはなかなか険しい。

ジョブ型の場合、給与から投資規模まで、様々な経営リソースの傾斜配分を経営陣が意思決定していく必要がある。よって、基本はできる限り均等にリソースを振り分けることが前提となっているメンバーシップ型とは経営思想がだいぶ違う。このギャップを埋めることが難易度が高い。

例えば、活躍している経済学の教員の方は、経済学は国際競争にさらされているから能力の高い教員の給与も高くすべき、と言っていると思う。しかし、メンバーシップ型の雇用モデルでは機能ごとの価値を平等に見る、つまり文学部も経済学部も同じ価値があるとみなす。それは、日本企業が全ての部門に基本は同じ給与モデルを適用するのと同じで、この経営モデルを採用している限りは、いくらある特定のスキルが市場価値が高くても、そこに他より多くの投資を行うことは困難となる。

ロースクールを日本で作った時に、日本企業の法務部門での採用が進むと期待されていたけど、全く進まずに制度的に失敗に終わったのもこれが一因と言える。メンバーシップ型の日本企業からすると、給与モデルはじめ社内弁護士をどう位置づけるかが難しい。繰り返しになるが、人事制度上差別化できないからだ。

最近だったら、データサイエンティスト、なども同様。日本企業は傾向として専門家を社内に持つのを得意としないけれど、これはメンバーシップ型の人事モデル、という「制度」から来ているが故に、単に市場価値が高く優秀な人材は当然高い給与で雇いましょう、とはいかない。

そして、このメンバーシップ型の人事モデルからの帰結として、ファイナンスは銀行、マーケティングは広告代理店、貿易や与信は商社、情報システムはSIer、など専門的な職能は全て「外部の専門家」に任せる日本企業特有の仕組みが戦後に形成されてきたのかなと思う。

よって、CFO, CMO, CIOなどの存在がなかなか定着せず、CxO職なんて名前だけのお飾りだろ、みたいな話に未だになってしまう状況だけれど、現代の複雑化した経営では、各職能に専門家をきちんと設置することの重要性はさらに増してきている。この課題に、日本のメンバーシップ型組織でどう対応するか、というのは、古くて新しい経営課題だと考えている。

仕事の持つ物語性について

 

物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術

物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術

 

この本はとても示唆的。それは単に、創作に役立つ、という側面だけでなく、我々の人生自体が、どういう物語を外面/内面共に選びとって、そこをどう潜り抜けて、何を掴むのか、という構造のもとにあることに気づかせてくれたから。こうした外面/内面の「旅路」における一連の行為自体が人生なのではと最近思っている。

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エッセイも、小説と並んで
最も売れないジャンルの本です。

先週会った編集者さんは
「今はビジネス書ばかりが売れて、純文学やエッセイは、
アマゾンの30位以下にいかないと見つけられない」とも言っていました。

はあちゅう - 即効性コンテンツと遅効性コンテンツ - Powered by LINE

はあちゅうが「編集者から最近はエッセイは売れない、とにかくビジネスものしか売れないと言われて(エッセイがある好きだから)残念」と話していたのが印象に残っていて、これは、ビジネスが、物語の神話的構造を外面/内面共に体現しやすい舞台になっているからではと思っているところ。

つまり、日常から冒険への踏み出し、賢者との出会い、試練との闘い、仲間との協力、死と再生、試練の乗り越えと帰還、等々の神話構造的要素はビジネスに色濃くあるし、例えば長時間労働の問題も、こうした物語に人々が没入するが故に起こるという側面は色濃くあるかと。その意味で、古賀さんのこれはすごく鋭いと思う。

愛の日記 @ Drivemode | ドラクエ人生論 http://yokichi.com/2011/05/post-315.html

 良かれ悪しかれビジネスが我々の人生に占める比重は大きくなっていて、が故に、そこでどんな「物語」を生きるのか、というのが人々の強い関心になっている。ここは結構重要な論点で、いかに長時間労働を是正していくか、男性の育児参加をどう高めていくか、育児への社会的支援をどう深めていくか、といった現在の日本で議論となっている課題も、こうした仕事の持つ物語性への理解がないとうまく進まないかなと思う。

育児とはマネジメントである

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娘は毎日すくすくと育っていて気づいたら1歳半。仕事と育児に追われる生活を続けながら重要な気づきがあって、それは、育児とはマネジメントである、ということ。

多くの人は育児や家事を「作業」と思っている。しかも偏見のある人からすると「単純作業」なのではとすら思われていたりする。でも、実際に育児をやっていると、こういいう考え方がどうもぴんとこない。「単純作業」だとしたらなんでこんなに毎日疲れるんだろうか。

で、改めて考えてみると、育児は意思決定の連続だということに気づく。毎日めまぐるしく状況は変わる。そして、子供の体調が悪い時どう対応すべきか、どの病院が最適か、待機児童の多い厳しい状況のもとで保育園戦略はどうするか、子供が急に泣き出した時どう対応するか、どんな食事を与えるべきか、などなど育児では常に意思決定が求められる。しかも一人目の子供であれば、過去に一度も経験したことないので、意思決定のもとになる情報や経験は限られて、常に手探り状態。

これはまさに「マネジメント」の仕事だ。与えられたリソースは限られているし、手持ちの情報も常に部分的。しかも未来がどう動くかはやってみないとわからないことだらけ。こうした不完全な状況下でも、マネジメントは「意思決定」し続けなくてはいけない。これはまさに育児で求められることと同じだ。

よく、育児や家事は「アウトソース」してしまえばいい、という話が外野からはあがる。これは経営の観点でも一つの真実ではあって、定型業務をアウトソースすることによる経営上のメリットは確かにある。しかし、どの業務をどういった粒度でアウトソースするか、というのはまさに意思決定が必要な部分だし、仮に定型業務をアウトソースしたとしても、その後に残るのは、マネジメントとして意思決定する、という非常に難易度の高い部分。これは育児でも同じ。子供をどういう方針で、どのくらい「限られたリソース」を投入しながら育てていくか。これはなかなか高度な判断を要する。

さらに言えば、うまくアウトソースできたとしても、育児って、結局マネジメントだけでなく細かい実務を同時にどっぷりこなす必要があって、スタートアップを立ち上げた社長みたいなものとさえ言えるかもしれない。しかも、1人目なら、その領域で経験やスキルがないのが普通という厳しい前提。離婚全体の3分の1が子供が3歳までに起こる、というように「破綻」が珍しくないのも起業に似てると言えるのではないだろうか。

「育児とはマネジメントである」この認識が世間に広がるといいなと思う。専業主婦だけでなく共働きであっても、日本は主に女性が育児を担っているけど、それは決して「単純作業」なんかでなく、複雑で難易度の高い「意思決定」を必要とするものなんだよ、と。そして、こういう認識が広がれば、俺ももっとそこに関与していかなくちゃな、と思う男性も増えたりするのではないかとそっと期待する。

 

大丈夫やで 〜ばあちゃん助産師(せんせい)のお産と育児のはなし〜

大丈夫やで 〜ばあちゃん助産師(せんせい)のお産と育児のはなし〜

 

 

いいおかお (松谷みよ子 あかちゃんの本)

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「内面の葛藤」はそれ自体では解けないということ

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この記事で書いたように、仕事も含めて改めて人生の意味みたいなものを考える時期になってて、久々に内省的なモードになっている。仕事ってなんなのか、というのを、未来は全て想像でしかなかった若い頃と違う形で、15年ほどの仕事経験を踏まえて改めて考えなおしているとも言える。

前職で駐在していた時の日本人の同僚で、仕事の理想像を強く持ち、そのビジョンをメンバーにも伝えて組織を鼓舞し、成果の達成に徹底的に拘ることで実績を積み上げていた強いリーダーがいた。自分に厳しい人で、そういう人の常として、他人に求める基準も高かった。僕もその人に幾度となく「詰められて」何度も冷や汗をかいたことを思い出す。

その人がある日突然会社を辞めて日本で独立した。当初は色々と試行錯誤していたけれど、最終的に行き着いたのは、個人の変容を東洋思想的な観点から促す、みたいな「ちょっと精神性強すぎないでしょうか」というような方向での事業だった。ただ、その内容自体がどうというより、そこに至る精神の動きみたいなものは最近なんとなくわかる。米の公開企業が四半期業績をきちんと着地させることに注ぐ力やプレッシャーはものすごいものがあって、そこからの要請で、狂ったように仕事に没入することで学べることや、限界を走る快感みたいのは確かにある。ただ、やはりその延長に何かしらの袋小路を感じてきたのも事実。

そうした外面的な圧力とは別に、僕の場合は、「内面の葛藤」の延長として仕事に狂ったように打ち込んでいた側面がある。それは自分がうまく成果を出せないことへの「怒り」が原動力だったし、他人や状況からのプレッシャーや圧力に正面から向かい合い、自分の「弱さ」を言い訳にせず、それと対峙して一歩も引かない強さを求めていく過程だった。この内面的な葛藤は、幸いのところ、実際の仕事における試行錯誤と鍛錬の結果、30代を通じて一つの解決といえる地点までたどり着いた。一方で、では、仕事それ自体になにを求めるのかと、というのがテーマになってきているのだろう。

内面に抱える課題は内面の葛藤それ自体では解けない、というのが30代に学んだことで、それがよく分かってなかった20代は、そこで完全に隘路にはまっていた。例えば自分の弱さを克服したいとして、その弱さを内面の言語、つまり抽象的な概念で克服することはできない。外面と内面は常に連動していて、外面、ここで言えば仕事という場における課題を通じて内面の課題は浮かび上がり、仕事の課題解決を通じて、それは内面の課題にフィードバックされる。この相互依存性が本当に鍵で、もう少し自分の体験も踏まえながら今後掘り下げていきたいと思う。

「どんな状況でも仕事で成果を出すのがプロ」という主張の危うさについて

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最近のネットは、成功した起業家や、注目企業で成果を出した人のインタビューや記事に溢れていて、そういった人への憧れや、何かを学び取りたいという皆の思いが強く感じられる。それ自体は特に悪いことではないし、学びを得られることも多いのだけど、一つ気になるのは「どんな状況でも仕事で成果を出すのがプロ」という主張がよく使われている点。

職業人としてのプロ意識というのは重要だし、困難な状況に追い込まれながら成果を出せるかはきわめて重要。ただ、経営管理の仕事をしてきた経験からすると、どんなに優れた実績をあげてきた優秀な人も、例えばモチベーションの低下やメンタル面での不調でパフォーマンスは有意に影響される。これはビジネスに限らず、プロスポーツの世界でもよく見られる事象で、例えば欧州で活躍するトップレベルのサッカー選手が、監督との不和、もしくはプライベートでの悩み事、など様々な精神的な理由でパフォーマンスを落としていく事例は多い。

私のいる外資系ハイテクの競争的でタフな環境で生き残ってきた役員クラスでも、新しい組織を担当した時に、配下のマネージャー達をうまく方向付けできず、彼等からの不満や反発などが強まることで、自信を失ったり焦りが生じ、その結果として期待された成果が上がらず、それがさらに自信を失わせる、という負のスパイラルにはまり込んでしまう例は多く見てきた。

また、仕事で成果を出してきた人というのは、必ず自分の中に成功モデルを持っている。逆に言うと、そのモデルがうまくはまらない状況では、モデルへの依拠が足枷になる場合も多い。成功モデル、はどんな状況にも普遍的に当てはまるものではないのに、成功したイメージを捨てきれず、モデルがうまくはまらない、前提の異なる新しい状況にもそれを適用しようとして泥沼にはまっていく。

例えば、外資系の日本法人には本社側から外国人の経営層が送られてることも多い。その際に米国以外での実績や経験に乏しい役員は、ビジネスの構造や文化が全く違う日本市場や組織に、米国での成功体験を「そのまま」持ち込もうとして、激しい反発を受けて成果を出せないケースがよくある。

外資系を生き延びているうちに学んだのは、自分の成果は所詮状況に依存している部分が大きいということ。事業の状況、与えられた役割、上司のタイプ、ステークホルダーとの関係。こういう多様な要素のもとに自分の成果もかなり規定されてくる。

ビジネスでは一人で成果を出すことは不可能で、周りが自分を信頼してくれてお膳立てをしてくれているから成果を出せるのに、「どんな状況でも仕事で成果を出すのがプロ」という「プロ信仰」に固執して潰れていく人はとても多い。圧倒的な「プロ」であるメッシですら代表ではクラブの時ほど活躍できないように、どれだけ優れた人も、周囲との関係性の中で個のパフォーマンスは決定されてくる。

もちろん、組織からの同調圧力が強く「個」を発揮することを躊躇いがちな日本の文化において、強い個としてのプロ意識を持って主張することはもっと求められるとは言える。ただし、プロがより高いレベルでパフォーマンスを出すには、改めて冷静かつ客観的に、自分の成果は外部の様々な要因に規定されていることを認識するのは重要と思う。