「ダメならクビ」がハイテク産業の勢いを支えている理由
いま一緒に仕事をしている事業部長はなかなか含蓄のあることを言うのだけれど、この前こんなことを言っていた。
僕のポジション(シニア・ディレクター)って、運や政治に左右されることも多いから、急にポジション失うこともよくある。それはしかたないのよ。だからさ、きちんと組織を作って、人を育てて、組織の成功を導く「モデル」とか「文化」を作るのがやりがいだよね。
こういうことをさらっと言えるのはカッコよい。実際のところ、アメリカ企業でディレクター以上(日本企業の執行役員レベル)になり、しかも事業責任を担う役割についていれば、業績が2四半期連続で悪ければほとんどアウトで、たいていの人はクビになるまえに他の仕事を探し始める。また、当然ながらアメリカ企業、特に大企業には社内政治が多かれ少なかれ存在するので、同じ業績を出していても経営陣の評価が異なってくることもよくある。
ダメなら即クビ、というのは厳しく聞こえるかもしれないけれど、産業全体で成長が続いているハイテク産業は、労働市場の流動性が高く、新しいチャンスは外部にいくらでもある。なので、自分のスタイルで業績を残せそうにないなと思えば、彼等はためらいなく会社を辞めて次の機会を求めていく。
この構造の利点は2つある。まず労働市場の流動性が担保されているので、事業責任者や管理職のレイヤーで新陳代謝がきちんと起きる(起こせる)。簡単に言えば、ダメな管理職が重要なポジションで滞留することを防げる。特に、アメリカ企業の経営モデルの場合は、組織の業績はマネジメントの巧拙にかなり依拠しているので、この「新陳代謝」は企業経営において非常に重要なポイントと言える。
以上は雇用者側の視点で、雇われる方にとってもメリットはある。それは、上記した事業部長のように自分の「やりたいこと」を追求できるという点。彼が触れているように、自分がきちんと社内で評価されるかは、運や社内政治にも大きく左右される。ならそこに拘泥しないで、自分がこうしたいと思うビジネスを追求しよう、となる。
実際のところ、いま僕が所属している会社でも、非常に優秀で業績をあげているディレクターが、自分の上司が変わったらすぐ辞めるという例は世界中で頻繁にある。上記したように、ハイテク産業はあちこちにチャンスがあるので、自分が「やりたいこと」が自由にできなそうなら、すぐ他社に移っていくわけである。
もちろん、こういう風に考えず、社内政治をうまく乗りこなして業績があまり出ていないのに居残る人もいる。ただ、全体としてそういった人が安穏としていられない環境と構造があり、それがハイテク産業の勢いを支えていると感じている。