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「ワトソン」は不調?IBMとMITの共同研究を読み解く

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IBMとMITがAIの共同研究プロジェクトに、今後10年間で2億4千万ドル(約260億円)を出資すると発表があった。

「MIT-IBM Watson AI Lab」と名付けられた研究所で、ニューアルゴリズム、ハードウェア、ソーシャルインパクト、ビジネス活用の4領域に注目するという。

上記の記事でも触れられているように、気になるのはIBMのワトソン事業の状況。

IBMは21四半期連続の減収という苦しい業績が続いているが、ワトソンを核とした「コグニティブ」事業に大きく投資をして、事業の再編を狙っている。

一方で、本当にワトソン事業がIBMを救うのか、という疑念は投資家の間で広がっている。

例えば、ヘルスケア情報関連のメディアであるStatが癌研究での活用が期待されたワトソンが思ったような成果を挙げられていないことを詳細にレポートしている。

インタビューを受けた、ワトソンを導入した病院の医師は「ワトソンはまだ開発途上で、実際の医療に活用するまでは先は長い」と回答している。

また、継続的に医療関連の最新データをワトソンに読み込ませ続ける必要があり、エンジニアや医師の負担が大きいほか、現場の医療活動にとって意味のある「洞察」はなかなか出てこないと記事ではまとめている。

この苦戦を裏付けるように、直近の2017年Q2の決算では、ワトソン事業を含むコグニティブ・ソリューション部門が対前年比1%の「減収」となった。これは「異例」のことだ。

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https://www.ibm.com/investor/att/pdf/IBM-2Q17-Earnings-Charts.pdf

というのも、ハイテク企業では大きく投資する成長事業の場合は、前年比+30-50%の勢いで伸びることが通常となっており、まだ立ち上げ段階とはいえ、なかなかワトソン事業が想定どおりに立ち上がっていないことを示唆する。

例えば、AWSは前年比+50%レベルの成長を一貫して続けてきている。

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https://www.nextplatform.com/2017/02/03/will-aws-move-stack-real-applications/

さらに、直近の2017年Q2の決算では、四半期の売上が41億ドル(約4500億円)となっており、年間売上は1兆5千億円を優に越えるペースとなっている。

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http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=97664&p=irol-presentations

さらに、課題なのは前掲のForbesの記事でも触れられている人材面。

経済メディア「バロンズ」はKisnerの次のような発言を記事内に引用した。「人工知能領域では人材の不足が大きな課題だ。我が社のアナリストらの見立てでは、IBMがAI人材の獲得戦線で勝利を収める見込みは少ない」

たしかに、Google、Facebook、Microsoft, Amazonといった「巨人」達が全てAI領域に注力しており、彼等との人材争奪戦に勝つのは容易なことではない。

よって、今回のMITとの共同プロジェクトについては、労働市場での直接の人材争奪戦ではやや分が悪いIBMが、MITというアカデミアの人材に深くアクセスすることで、なんとか活路を見出したいと考えるのは間違いではないだろう。

なお、IBMの株価はここ2四半期の低調な業績により大きく下げている。

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