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英語を学ぶには「決算資料」が最強であるワケ

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この記事(「英語力をどうやって鍛えるか? 私が普段やっていることを公開!」)はありがたいことに反響が大きく、たくさんの方に読んでいただきました。ありがとうございます。そこで紹介した、グローバル企業の決算は英語の勉強にも最適、という点について、IBMを例にしながら説明してきたいと思います。ポイントは以下の3つです。

  • 構造をつかもう
  • 表現を学ぼう
  • 真似をしよう

なお、決算資料はInvestor Relations(IR)のページに置いてあります。よってGoogleで「IBM IR」など検索をかければすぐ出てきます。

IRのページは非常に充実していますが、今回は四半期決算の資料を見ていきます。直近の決算であるIBMの2017 Q2(第2四半期)を使います。

では、早速見ていきましょう。

構造をつかもう

ある程度基礎ができたあと、実際に仕事で英語を使っていく上で重要なのは、実は「構造」の理解です。

 【プレスリリース】

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 【プレゼン資料 P1】

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両者とも、資料の「冒頭」に箇条書きで決算のポイントが簡潔に述べられています。EPS(1株あたり利益)、売上、戦略事業およびクラウド事業実績、Free Cash Flow、EPSガイダンスといった投資家はじめとしたステークホルダーがまず一番知りたい情報が最初にまとめられているわけです。

アメリカのビジネス界はこうしたスタイルを好みます。英語はあくまで「言葉」ですので、本質は相手にどういったメッセージをどうやって届けるか、です。その点で、相手が知りたい情報を簡潔に最初に伝える、というのは英語でのコミュニケーションで常に意識すべき「構造」です。

例えば、米企業の場合は、普段のプレゼン資料でも、冒頭にExecutive Summaryとして箇条書きでその資料全体の「要約」を簡潔にまとめ、その資料のスコープとメッセージを明確にすることが好まれます。

これにより資料の受け手は、いまから説明される資料が、いま起きている課題にどうやって答えようとしているのか、という一番重要な点を最初に理解できるわけです。これにより、その後の説明への理解や関心が深まりますし、適切な議論も生み出されます。こうした「トーン・セッティング」は非常に重要です。

なお、「構造」に関して言うと、Academic Writingの考え方は参考になります。以下のページはとても参考になるので読んでみてください。

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表現を学ぼう

次に重要なのは、ビジネスにおける英語表現の特徴を掴むことです。ビジネス文書の場合は、日本語でもそうですが、回りくどい言い回しや華美な表現は必要ありません。また使われる単語もシンプルです。

そして、重要なのは適切に数字を入れることです。これにより変に凝った文章に頼ることなく、ビジネスで必要となる情報を相手に明確に伝えることができます。

これらを頭に入れて、IBMの決算発表の原稿を見てみましょう。

Overview

Thanks Patricia. In the second quarter, we delivered $19.3 billion of revenue, operating pre-tax income of over $3 billion, operating earnings per share of $2.97, and free cash flow of over two-and-a-half billion dollars.

「構造をつかもう」で触れたように、決算発表でも、まず「一番相手が知りたいこと」を簡潔に伝えています。しかもその表現がとてもシンプルなことに気づくと思います。We delivered の後に、先ほど触れたように、ステークホルダーにとってもっとも関心の高い、売上、税引き前利益、EPS、フリーキャッシュフローについて数字とセットで表現しているだけです。

ビジネスの現場では、これくらいのシンプルさで、重要なポイントを数字とともに明示する、というのが大切です。これにより「ノイズ」なく必要な情報について議論をすぐはじめることができるわけです。

The quarter played out as we expected, with continued solid growth in our strategic imperatives, which now really reflects organic growth. We wrapped on the acquisitive content, and we’re at the stage where we can start to get some efficiency as a result of bringing them into IBM, while we build on the new content.

次に触れているのは「Strategic Imperatives 戦略事業」についてです。ここでも表現はシンプルですね。動詞はplay out, reflect, start, get, bring ~ into, bulid onなど中学生レベルの単語が使われています。また、構文もひねっておらず、事実を頭からどんどんと伝えていきます。

大事なのはここでも構造や文脈です。1段落目で主要な経営数値を述べたあとに「戦略事業」に触れています。これは、IBMが現在メインフレームを中心としたレガシーのビジネスから、コグニティブ(Watson)、クラウド、モバイルといった成長領域への事業構造転換が事業戦略上もっとも重要であるという背景があります。よって投資家の注目が高く、彼等の「知りたい」情報なわけです。

A Cognitive Solutions & Cloud Platform Company

We have been focused on helping our enterprise clients transform their businesses to leverage their data for competitive advantage, and to improve the efficiency and agility of their IT environments. Our strategic imperatives performance has been an indication of our progress in moving to these areas. As you know, our “strategic imperatives” aren’t separate businesses, but signposts that represent the revenue across our business lines that work together to address demand for analytics, cloud, security, mobile and social. Our clients are taking the productivity savings we’re delivering to them in the more traditional areas of IT, and reinvesting those savings to move into these new areas. These are the dynamics you’ve seen in our revenue.

その流れで、Overviewの次のトピックは、A Cognitive Solutions & Cloud Platform Companyになっています。

ここは学びがいのあるところで、先ほど言ったように、IBMが一番力をいれている戦略事業がなぜ重要で、そこにどうアプローチしているかを論理的かつ簡潔に表現しています。

ちょっと訳してみると、以下のようになります。

我々は、お客様企業が、データを競争優位として事業を変革すること、IT環境の効率性と柔軟性をより良いものに改善していくこと、の「お手伝い」をすることにフォーカスしてきました。そして、「戦略事業」がうまく実績を出せているかを見ることで、この方向に我々が正しく向かっているかを測っています。ご存知のように、我々の「戦略事業」は、バラバラな事業群を示すのでなく、アナリティクス、クラウド、セキュリティ、モバイル、ソーシャルにおけるお客様のニーズを、様々な事業にまたがって満たしていることを表現した概念です。お客様は、昔ながらのIT領域では我々により生産性改善をはかり、そこで浮いたお金をこうした新しい領域に再投資しています。こうした動きが我々の売上における「構造」を表しているわけです。

ここでのメッセージは、「戦略事業」とは?、です。それに対して、IBMの強みはなにで、その流れにどう「戦略事業」は位置づけられるか、なぜ顧客のニーズを捉えられるのか、というのを短い文章に論理的な流れをもって、かつコンパクトにまとめています。

英語を「表現する」上で大切なのは、繰り返すように、このように文章レベルでも核となるメッセージと構造を予め整理しておくことです。まずそこを準備した上で、できるだけ平易な単語とシンプルな構文を使って文章を書いていくことで、相手へのメッセージは強くなります。

真似をしよう

最後のポイントは「真似をすること」です。ほとんどの米企業の決算発表では、投資家向けの電話会議を質疑応答まで全て録音が公開されています。

これは最高の教材で、私も時間を見つけては、決算発表の原稿をそのまま自分でしゃべってみる練習をしています。その時に、スマホで録音をしておくと、自分のスピーキングの発音やイントネーションのつけかたのどこに課題があるかもよくわかります。

また、決算発表の部分は主に用意された原稿を読み上げるだけですが、質疑応答の部分は臨場感があるやり取りとなっているので、どんな表現が使われているかを学べますし、またリスニングの勉強にもなります。

さらに、経営陣と機関投資家というビジネスのプロたちが企業業績や戦略についてどういう視点で議論を戦わせるのか、というのをリアルに学べますので、英語だけでなく経営を学ぶ教材としても素晴らしいと思います。

最後に、以下にいくつかのハイテク企業の決算発表へのリンクを紹介しておきます。皆さんも「企業名 IR」でGoogle検索してみてください!

Google

Alphabet Investor Relations - Investor Relations - Alphabet

Amazon

Amazon - Investor Relations - IR Home

Facebook

Facebook - Home

Salesforce

Salesforce - About Us - Investor Information - Home

Intel 

Intel Corporation - Investor Relations

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