グローバル経営の極北

グローバル経営を考える「素材」を提供します

米投資銀行の「Google化」について

next.ft.com

ゴールドマン・サックスの新卒応募が25万人を越えた、というFinancial Timesの記事について触れたい。

まず、この記事の背景にあるのは、アメリカでは金融危機後の規制強化と業績不振、高額報酬への世間からの強い批判、極端な長時間労働、などを理由に、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった投資銀行の労働市場における人気が落ちてきているということ。

逆に人気が高まっているのはハイテク業界。Google, Facebook, Amazonといったハイテク業界の中心プレイヤーから野心的なスタートアップまで、エンジニアを中心に優秀な人材を高額の報酬で奪い合っている。さらに、Googleが先鞭をつけた至れり尽くせりの福利厚生やお洒落なオフィス、そしてなにより従業員の「自由」や「イノベーション」を尊重する企業文化が、多くの優秀な若者を引きつける要素になっている。

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例えばハーバード・ビジネススクールの卒業生の進路を見ると、この流れははっきりしている。上にあげたグラフ*は2011年と15年の卒業生の進路を比較したグラフだが、11年には39%が金融業界(Financial Services)に就職していたのが、15年には31%と8%も減少している。

一方でハイテク業界(Technology)は、逆に11年に11%だったのが、15年には20%と9%も増加している。つまり、金融業界の減少分がそのままハイテク業界に移ったことを表している。

(なお、コンサル業界が24%と安定した人気を誇っているのも興味深い。コンサルティングへの安定した需要、高い給与水準、「知的」職業としての面白さ、などは高学歴層には依然として魅力を保っていると言える)

こうした「不人気」に危機感を感じた金融業界は、過剰な長時間労働の是正パフォーマンスレビューの廃止サバティカル休暇の提供、など「Google Model」を意識した従業員待遇の改善による魅力の向上に努めてきた。FTの記事で触れられているように、そもそも金融業界の「不人気」というのは誇張されすぎてきた面はある。一方で、こうした施策によって就職先としての魅力が改善してきていることは事実だろう。

また、FinTechの潮流はハイテクと金融の接点に新たな産業を興しつつある。AI, IoTが生み出す大きな変化を考えると、テクノロジーという「横串」と既存の産業との接点に「魅力的」な仕事が産まれてくる、というのは今後も続いていく流れで、そこが世界中から優秀な人材を惹きつけ続けるアメリカの強さであろうと改めて思う。

 *Source: AT-A-GLANCE Recruting, Harvard Busines School
http://www.hbs.edu/recruiting/data/Pages/at-a-glance.aspx?tab=career&year=2015
http://www.hbs.edu/recruiting/data/Pages/at-a-glance.aspx?tab=career&year=2011

 

最高の仕事ができる幸せな職場

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How Google Works

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  • 作者: エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ,アラン・イーグル,ラリー・ペイジ
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2014/10/17
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログ (7件) を見る
 

 

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

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ベネッセ原田社長の退任から透ける「現場の抵抗」問題解決の難しさ

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business.nikkeibp.co.jp

ベネッセの原田社長が退任を発表した。この日経ビジネスの記事では、彼が就任当時に漏らしたこんなコメントに触れている。

ベネッセの社員は教材作りなどで優秀だが、学級委員タイプでマーケティングや財務などの経営の基本ができていない

原田氏の経営手法が実際どうだったかは別にして、この「経営の基本が共有されてない」というのは、日本企業が抱える課題と言える。日本企業の経営では、その企業「独自」の経営手法が賞賛される傾向にあり、結果として欧米(最近ではアジアでも)で標準化されつつある経営の基本的な手法に精通した人材が少ない。

さらに、こうしたグローバルで標準的な経営モデルに移行しようと望んでも、企業(事業)の成熟期に入ってから経営の仕組みや人材のスキルセットを変えるのは難易度が高い。特に、日本企業で一般的な終身雇用モデルだと、その変革はさらに難しくなる。

そこで、多くの企業は外部のコンサル登用や中途採用でその課題に対応しようとしているのだが、「民主型」の日本の経営モデルだと、現場からの強烈な突き上げ、というさらに困難な課題があり、それを解けずに経営陣が変革を諦めていく場合が多い。

経営モデル移行の困難

ベネッセの課題もまさにそこにあるように見える。「進研ゼミ」をはじめとした教育事業は、安定した事業基盤となって会社を支えてきたし、そこでの成功で得たキャッシュを介護事業などに投入する形でベネッセは事業拡大してきた。現在の業績不振は個人情報流出に起因する面も大きいとはいえ、より本質的には、少子化やリクルートのスタディサプリのようなデジタル化による変化に、既存の成功モデルが以前ほど通じなくなっていることが大きいだろう。

圧倒的な成功モデルを持ち、しかもそれを担う人材が長期間変わっていないと、ベネッセが直面しているように、市場の変化に対応した経営モデルに移行していくのはとても難しい。日経ビジネスの記事からは、この課題をうまく解くことができなかったことへの原田氏の苛立ちがとてもよく伝わってくる。

「お神輿型」マネジメントの課題

日本企業の経営モデルは「お神輿型」だというのはよく言われる。これはお神輿の上に乗った経営陣を、「現場」のミドル層が「担ぐ」形で経営が行われる様子を指している。

この例えが面白いのは、経営陣がお神輿の上に乗っている、ということは、それを支えるミドル層が経営陣を神輿から「落とす」ことも可能だということ。つまり、経営陣の生殺与奪をミドル層が握っていることになり、実際のところ日本の経営では経営陣の意思決定を「現場」のミドルが押しつぶしたり、抵抗勢力としてその実現を阻むケースがとても多い。

三枝匡「V字回復の経営」が名著である理由の一つは、「抵抗勢力」をどう抑えながら改革を進めるか、という日本の経営環境で一番難易度が高く、重要な課題を正面から取り上げているから。彼の本からは、「現場」の抵抗、という経営における困難がリアルに伝わってくるし、それをどうやって解くべきかの回答を、具体的なストーリーを通じて学ぶことができる。

大切なのは、欧米型経営のコンセプトをそのまま日本企業の経営に導入しようとすることでなく、日本型経営の歴史や企業ごとの特性を十分に踏まえた上で、経営のリアルな「現場」でどうやって競争力のある経営モデルを導入、実行していくかにある。その困難に正面から向きあう経営陣や管理職が増えないと、今後もベネッセが直面しているような課題を解くことは難しいだろう。

V字回復の経営 2年で会社を変えられますか 企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

V字回復の経営 2年で会社を変えられますか 企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

 

 

経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

 

 

戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)

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比較制度分析序説 経済システムの進化と多元性 (講談社学術文庫)

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キャリア構築のヒントについて、リクナビNEXTジャーナルに寄稿しました!

next.rikunabi.com

リクナビNEXTジャーナルに寄稿しました。20, 30代の若いビジネスパーソンを励ますような記事を、というお題を頂いてから色々考えました。結果、あまり大上段に構えて抽象的な話をしてもしょうがないし、自分の経験を具体的に伝えることで、キャリアのヒントみたいなものを掴んで貰えたらと思いながら書きました。

こうして一つの文章としてまとめると、どうしてもうまくいった部分が前面に出てきますが、実際はそこまで美しい話ではなく、「花形」で活躍する人達への嫉妬、自分を露骨に蔑んでくる人達への怒り、全然仕事がうまくできない辛さ、このまま将来どうなってしまうんだろという不安、などあらゆる感情が自分の中で渦巻きながら、毎日歯を食いしばりながら頑張ってきたというのがより真実には近いです。

こうした様々な感情とどう折り合いをつけて「自分だけの動機」に深く入り込んでいけるか?自分が成果を出す上でこのことは決定的で、その重要性に気づけたのは、必ずしも恵まれた「花形」でなく、「マイナー」な部門で仕事をこなしてきたからだと思います。

ぜひご一読下さい!

パワポ1枚でビシっと決める 経営陣から合意をとりつけるコツとは?

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経営陣によるビジネスレビューに参加することが多いのだけれど、いつも気になるのは、パワポで10枚以上になるような資料を作ってくる人たちのこと。しかも、ご丁寧に1枚目はデータの前提や定義からはじまり、その後、一枚一枚彼らの考えるロジックが淡々と説明されていく。で、大抵の場合そのロジックは冗長で、それぞれの論理的繋がりも弱かったりする。

こういう時の経営陣は、見るからにイライラしだして早々にプレゼンを遮ったり、逆に無関心になって全然話を聞かなくなったりする。なぜ、こうなってしまうのだろうか。

まず大事な前提は、経営陣は「意思決定」するためにミーティングに臨んでいる、ということ。意思決定で必要となるのは、課題が構造化されていて、その課題を浮き彫りにする分析が定量的データと共になされ、そこから論理的に導き出されるいくつかのアクションが提示されていること。経営陣はこれらの要素を含んだ資料を見て、それを彼等の経験や洞察に照らし合わせて考え、最終的にこれだと思う「意思決定」を行う。

なぜ10枚以上になるような資料がまずいかというと、そういう資料を作ってしまう人は、多くの場合、課題の構造や本質を正しく捉えきれていなかったり、適切な抽象化を行えていないから。なので、論理的な展開が弱かったり冗長な資料を作ってしまうし、自信の無さからまずはデータの前提や定義からはじめてお茶を濁そうとしたりしてしまう。

僕が経営陣に資料を持って行く時は、多くてもパワポ3枚くらいに収まるようにすることを心がけている。理想的には1枚。課題の構造を適切に切り取った表やグラフが説得力のある定量データと共に示されて、そこからの洞察が簡潔に整理され、論理的に導かれるアクションや提案がまとめられている。これが1枚にまとまっていて、ミーティングが開始してすぐ経営陣を議論に引き込んでいく。

うまく経営陣に刺されば、彼等からは矢継ぎ早に質問が飛んで来る。この質問に、その場ですぐ数字や事例を、資料でなく「空で」返答できるかが非常に重要。「それはこちらの資料で」と言って、他のページに飛んだりするのが一番まずい。

なぜかというと、経営陣は質問した瞬間に適切な返答ができるかで、その人自身が分析や提案を深く理解しているか、その人は信頼できるか、ということをレビューしているから。上記したように、経営陣は「意思決定」するためにミーティングに臨んでいるのであって、持ち込まれた分析や提案が、自分の意思決定を助ける質と深さを持っているかはきわめて重要になってくる。

特に、グローバル企業では、経営に関する意思決定の失敗で数字の実績を出せないことが続けば、経営陣にはすぐクビや更迭が待ち構えている。だから、彼等は真剣に、自分の意思決定を助ける素材が提示されているかをレビューするわけである。

僕の前職の(勝手に師匠と思っている)COOは、本社との業績レビューの前には、自室に閉じこもって、関連資料を全て机の上に広げて真剣に読み込み、全ての経営指標とそれを補強する事例を頭に叩き込んでいた。その真剣さはこちらがとても近づけない迫力だった。そして、実際のレビューでは、本社CFO&COOから次々と投げかけられる厳しい質問に、瞬時に、しかもきわめて的確に答えていた。それは、まるで映画の一シーンのようで、今でも鮮明にその時のことを思い出すことができる。

経営陣に資料を持って行く時は最初の1枚が全てを決める。この意気込みで準備を行えば、きっと良い成果が得られるはずである。

 

ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール

ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール

 

 

留学生から敬遠される日本企業

「外国人からは「役割や仕事内容が不透明」「能力や成果に応じた人事評価が不十分」「長時間労働」などの声があるという。学生からは「日本の就職活動の仕組みが独特で分からない」との不満も指摘さされた」

最近では、グローバル化の必要性を強調しない日本企業の経営者はいないくらいだが、上記の記事が示すように、外国人を雇用する仕組みづくりはなかなか進んでいない(そもそも、この「外国人」を雇用する、という考え自体が特殊なのではあるが、、)。

この記事で外国人留学生が正しく指摘しているように、終身雇用と年功賃金、ジェネラリストの育成、といった「日本的経営」を形作ってきた制度や慣習は依然として多くの日本企業で残っている。

これらの仕組みは、もちろん合理性もあるし、メリットもある。特に日本企業が戦後復興から驚異的な勢いで成長していた時期には見事に機能したと言えるだろう。しかし、忘れてならないのは当時の成長企業の中核メンバーは30代が主であったこと。雇用の不安がなくて、役割問わず何でもできて、しかもそれが会社の成長として成果が出てくるのであれば、特に若い世代は士気が上がる。

一方で今や日本の大企業の平均年齢は40歳を越えるのが普通で、中核事業の売上成長率はよくて一桁前半、下がる場合も多い。この事業環境で、今の制度を維持するのは非合理なことが多くなってきている。上にあげたように、優秀な海外の人材を獲得しにくい、というのはわかりやすい弊害の一つだろう。

経営の工夫としては、日本を一つの「地域」にしてしまう、というやり方はある。例えば、各地域をグローバルの統括会社にぶら下げるような形にして、日本は地域の特性を踏まえた制度設計で運営する。特定の地域に偏った制度設計はグローバル企業の一般的な成功方程式とは異なるけれど、現実的にはまずはこのやり方なのかなとは思っている。国内と海外事業を切り分けたソフトバンクや、海外統括本社を作っているJTなどの事例が参考になるだろう。

メールでの議論やめませんか?

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僕は経営管理を仕事としているので、複数のチームを俯瞰的に眺めてうまくいっているか、なにか問題がないかといつも気を配っている。

そうした仕事をしていると痛感するのは、チーム内もしくはチーム間のコミュニケーションや情報流通が滞ることで全体の生産性が落ちるということ。

例えば、営業部門はマーケティング部門が自分達が思うようなキャンペーンやイベントを打ってくれないと文句を言っている。逆にマーケティング部門は、営業部門が非協力的なので、効果的なキャンペーンやイベントができないと文句を言っている。

もしくは、メールでの議論。お互い全く歩み寄らず、厳しい口調のメールが飛び交う。指摘は段々細部に入り込んでいき、もともと解決したかった問題からはどんどん離れていく。

経営の立場からすると、こうした事例は頭が痛い。コミュニケーションの不調は、案件成約を滞らせたり、商品発表の効果を落としたり、顧客の不満解決が遅れたり、と実際に経営に負の影響を生じさせるからだ。

なので、僕は対立する2者の間に入り、それぞれから事情を聞き取った上で問題の構造を整理する。その上で両者を呼んで(できれば対面で)ミーティングを開き、整理した構造をもとに、そもそもの課題や目的はなんなのか、そしてどういったアクションを取ればそれが解決するのかを提示し、お互いの同意を得ていく。

ポイントは「そもそもなにがしたかったんだっけ」という点をはっきりとさせること。両者とも問題を解決したいんだけど、それぞれのやり方に固執していたり、感情的に対立している場合が多いからだ。なので、本来の目的や課題を整理してあげて、そこで両者から(公式の場で)同意をとって、その上で協力しましょうよ、と持っていく。

これがうまくいくのは、きちんとした目的、つまり大義名分がはっきりと提示された時に、それを正面から否定することは難しいからだ。そこまで否定してしまうと、じゃあお前はなにをしたいんだ?、ということになるわけで、さすがにそのレベルで議論をして自分を正当化するのは難しい。

もちろん教科書通りにいかないことも多いけれど、組織やコミュニケーションに働く力学には法則や一般化できる部分が必ずあるので、それをうまく活用していくことが経営では重要となる。特に、最近はデータサイエンスの活用でこうした組織やコミュニケーションの問題の構造が明らかになりつつあるので、今後はますますそういった知見を活用することが重要になるだろう。

と、こうして書いている間にも、またメールで喧嘩がはじまってる、、、今日も「経営のお仕事」は続いていくわけである。

 

グローバル企業のマネージャーは「経営陣」である

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僕が前職の米グローバル企業ではじめて管理職になった時に感じたのは、会社から期待されるステージが一つ上がったなということだった。もっと言うと、マネージャーになるということは経営陣の一人になる、ということだと感じた。

これには「外資系」にいる人からも反論があるだろう。マネージャーが経営陣?たかがマネージャーでしょ、外資系のトップダウンの仕組み知ってるの?と。

そういった側面はある。しかし、経営の仕組みという観点から考えれば、マネージャーへの期待値は間違いなく「経営陣」としてである。

グローバル企業でマネージャーに求められるのは、「限られたリソース(ヒト、モノ、カネ)を適切な意思決定をもとに、いかに有効活用して成果を出すか」という点につきる。マネージャーは、この一連の行為の「責任者」であり、「具体的な成果」を出すことが強く求められる。

チームの規模や責任の重さにもちろん違いはあるけれど、これは本質的には「経営者」と同じ責任を担っていると言える。経営者も限られた資本をもとに、開発、生産、販売、アフターサービス、などバリューチェーンのどこに投資するかを考え配分を決断する。人を雇用し、動機づけ、育てる。組織を設計し生産性が最大化するよう工夫し続ける。そして、経営の成果は株主をはじめとした外部のステークホルダーに評価される。

マネージャーがすべきことも同じだ。チームのミッションを定め、そこから導かれるアクションや役割を定義する。それをもとにチームメンバーをはじめとした手持ちのリソース(ヒト、モノ、カネ)をどこに配分すればチームの成果が最大化するか考えて決断する。メンバーに寄り添って、彼等に適切な目標を与え、課題があればその解決をサポートし、成果をきちんと計測・フィードバックする。そして、チームとしての成果は事業部長をはじめとしたステークホルダーに評価される。

グローバル企業では数多くの社内「レビュー」がある。営業だけでなくマーケティング、ファイナンスなどそれぞれの経営機能について、成果は定められたターゲットに達しているか、合意されたアクションの進捗はどうか、今後の方向性は正しく検討・定義されているか、などについて上級管理職が厳しく評価する。

マネージャーになれば、こうしたレビューに責任者として参加しなければならない。自分のチームが求められている成果を出しているか、向かっている方向は正しいか、などを厳しく追求される。

これはまさに企業の経営者が株主から求められることと同じだ。グローバル企業はこのことをよく理解しており、マネージャーに対しても同じレベルでのガバナンスやアカウンタビリティを求める形で経営モデルを設計している。

これが冒頭の「マネージャーは経営陣の一人」という僕の感慨に繋がる。この設計がグローバル企業の経営力を支えており、それは多様な論点を含むので、今後も触れていきたいと思う。

noteでマガジン「デジタル時代の経営を読み解く」をはじめました

noteで定期購読のマガジンをはじめました!「デジタル時代の経営を読み解く」というタイトルで、デジタル化の進展で大きな影響を受ける「経営」について論じていきます。ブログ、ツイッターと連動する形で、そこでの話題や論点をさらに深掘りしていくことを考えています。

第一回の記事は以下です。Adobeの事業変革は、コア事業のビジネスモデル転換、顧客志向の経営、買収の活用、ウォールストリートとの対話、など現代の経営で肝となる要素が詰まっています。ぜひ読んでみてください。

今後は、取り急ぎ以下のようなテーマで週1-2回の更新を考えています。

◆「中の人」が語るハイテクビジネス最前線
- Adobeのハーバード・ビジネススクール ケーススタディからクラウド時代の経営変革を考える
- Salesforce、Adobe、Tableau、Workday 群雄割拠のSaaS戦国時代はどうなるか?
- クラウド時代の「顧客志向」とはなにか?建前無しに顧客と向き合う時代
- IBMの経営変革を追う ガースナー改革から遠く離れて
- ハイテク各社の決算を読み解く なにが勝負を分けるのか?


◆売上数千億円のコンサル・SIビジネス経営変革のドラマ
- 本当の経営課題はなんなのか?COOはNYからコンサルタントを呼び寄せた。
- なにはなくとも稼働率 コンサルビジネスの基本のキ
- いまさらCOBOL? スキル開発の重要性
- 日本のシステム開発、多重請負の宿痾
- いまさら聞けないオフショア開発の勘所
- コンサルビジネスを売る困難 パートナーってなにしてんだよ!
- デジタル時代のコンサルビジネスはどうなるのか?

これ以外にも、日系メーカー海外営業、外資コンサル、外資経営管理と渡り歩いてく中で経験した失敗や挫折など、個人的な経験談についても書いていければと思います。

月額590円と、日経ビジネス1冊(690円)より安い値段で、経営に関する深い情報や分析、示唆を得ることができます。初月無料ですので、ぜひ購読開始してみてください。

サイボウズ「ちゃんと赤字になった」の背景とは?

サイボウズの直近の決算は「赤字」だった。青野社長の「ちゃんと赤字になった」というコメントの背景に触れたい。

重要なポイントは、クラウドのソフトウェア企業の多くは「赤字」決算を続けているということ。以下米の代表的なクラウドソフトウェアの企業の決算からその点を見ていく。

まずはSaaS市場を切り開いたCRMの雄、Salesforce。以下示すように、直近3年間のNet Incomeは全て赤字。一方で売上はYonY +20-30%で成長しており、2016年度の売上は既に67億ドルと独立のソフトウェア企業としてはきわめて大きい数字まで成長している。

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ソフトウェア企業はきわめて高い利益率を誇るのになぜ赤字なのか?以下示すように、R&DとSG&A(販売費及び一般管理費)の売上比率がきわめて大きいことがその理由。Salesforceの場合は、特にSG&A比率が高く、人員増とマーケティング強化に投資し続けていることが伺える。

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 一方でSaaSモデルは月額課金が中心で、キャッシュフローが安定して稼げるのが財務的なポイント。Salesforceの営業キャッシュフローを以下見てみると、YoY +30%後半の数字を続けており、売上増以上の成長を見せている。安定してキャッシュを稼ぐビジネスモデルをもとに、R&Dや従業員、マーケティングなどに大きく投資してさらなる成長を生み出していくサイクルをうまく続けていることが伺える。

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次に人事領域のSaaSでトップを走るWorkday。こちらも過去3年は全てNet Incomeが赤字。一方で売上はYoY +70%のレベルときわめて高い成長率を維持している。

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次にR&DとSG&Aの売上比率。こちらはR&D比率が38-40%と突出して高い。商品的には成熟を見せてきたSalesforceに比べて、まだまだ商品開発に大きく投資していることが伺える。

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以上Salesforce, Workdayの決算から青野社長の発言の背景が読み取れると思う。決算発表説明会の中で青野社長はこう話しており、クラウド分野への積極的な投資を行ったことに触れている。

「(当期純利益を)-8億円と設定したことで、思い切ってクラウドに投資した。長期的にみると、十分な利益」とした。同社は昨年、積極的にクラウド関連サービスの広告宣伝を行い、前年比2億6600万円増の17億4600万円を広告費に投下している。

 

電通の海外&デジタル事業強化は着々と進行中

電通の新たな買収(カナダのデータ分析のコンサルティング会社)が発表されていた。電通は海外事業&デジタル事業強化に舵を切っている。

そこで、直近の中期経営計画を見てみる。

◆中期経営計画 “Dentsu 2017 and Beyond” これまでの進捗と今後の展望
http://www.dentsu.co.jp/ir/data/pdf/201512EAPREJ2.pdf

海外事業比率は54.3%と既に5割を越えている。デジタル比率も34%と順調な伸び。

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買収をてこに2012年に15%だった海外事業比率を2015年で54%まで急速に高めた。この売上拡大は英イージスの買収が大きく、2012年に4000億円で買収している。

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イージス買収以降も海外のM&Aを継続しており、2013年4月以降で合計£760Mで76件、デジタル比率43%となっており、1件あたり£10Mと比較的小さめの買収をデジタル領域で行っていることがわかる。これはグローバル企業の買収手法で一般的。

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買収先企業は以下の様なものがあり、上記したようにデジタルマーケティング領域の各分野を網羅しようとしているのがわかる。

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オペレーティング・マージン(調整後営業利益÷売上総利益)がグローバルのメガ・エージェントに比べ高いことも強調されている。

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結果として株価は、ここ1年は市場の調整局面に引きずられているものの、5年軸でみると堅調に推移しており、2012年に2000円台だった株価は、直近5500円のレベルまで上がっている。

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「ムーアの法則」後はどうなるか?- エコノミスト「コンピューティングの未来」

今週のエコノミストの巻頭記事は「コンピューティングの未来」について。いま起きている変化について簡潔にまとめられている。

ポイントはムーアの法則がいよいよあてはまらなくなってきたかも、という点。今後も演算能力の拡大は続くけれど、今までのようなペースでの拡大は難しそう。だが、3つの新たなトレンドが台頭してきており、これらがコンピューティングの未来を規定しそうとこの記事は論じる。

1つ目はソフトウェア。

GoogleのAlphaGoがディープラーニングの活用で囲碁のトップ棋士に勝利を収めたように、ソフトウェアのアルゴリズムの活用がハードウェアの限界をカバーしていく。

2つ目はクラウド。

クラウド技術の進展が、「スタンドアローン」型で見られたようなリソース制約を解消しつつあり、スマートフォン、GPS、モーションセンサーといったデバイスから入手できる情報と組み合わせて、ネットワーク全体での性能は拡大していく。

3つ目はアーキテクチャ。

半導体が、クラウドコンピューティング、ニューラルネットワークといった特定の用途に応じて設計されるようになり、しかもそれはクラウド側に実装される。よって、個別のデバイスのパフォーマンスに依拠するモデルから脱却していく。

では、これらの変化の影響はどうなるか?

 企業はPCの更新頻度を落としたり、自前のメールサーバーを持ったりしなくなっており、今後はクラウドへの「コネクティビティ」がキーとなる。

ハイテク業界にとっては、さらなるクラウドへの投資が鍵となるため、Amazon、Google、Microsoft, Alibaba, Baidu, Tencentといった現在市場を占有しているプレイヤーが強く、今後も彼等がスタートアップを飲み込みながら力を増していく。

保育園問題をコンサル経営の視点から考える

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こんな記事が話題になっていた。

自治体が株式会社の参入を渋る、という構図自体は大きな課題だが、コンサル事業の経営を見ている身からすると、保育事業は民間事業者の参入を促しても構造的に難しい側面を抱えているのではないかと感じている。

保育園の収入モデルは基本的には毎月の固定の保育料が中心となっている。新生児を対象としているため受付可能な人数には限界があり、事業規模を大きくすることは難しい。よって、売上を大きくしていくことは難しく、結果として利益を出すには原価の大半を占める人件費を低く抑えることが主要な選択肢になる。しかし、給与を低く抑えることは、保育士のモチベーション低下や高い離職率に繋がり、それはサービスレベルの低下や人手不足を招いてしまう。

これはサービスビジネスというビジネスモデルが共通に抱える課題と言える。「人」自身がサービスを提供しており、労務費が原価の大半を占めているため、製造業で継続的に行われるような生産性改善や原価低減がなかなか難しい。

どういうことかというと、1点目は、人の生産性は急にあがらない、ということ。製造業のように、新しい設備投資をすることで生産性が一気に高まる、というようなことは起きない。もちろん実務経験や新しいスキル習得で生産性は徐々にあがっていくが、それを経営的にコントロールすることは難易度が高いし、仮に上がったとしてもその上昇の幅はさほど大きくない。

2点目は、給与は下げにくい、ということ。上記したようにサービスビジネスの原価は労務費が多くを占める。がゆえに、原価低減しようにも、従業員の給与くらいしか大きな費用項目がない(コンサル・ITビジネスでは「外注費」が大きな費用となっているがここでは一旦議論から外しておく)。しかし、誰もが分かるように、従業員の給与を下げる、というのは経営的には最後の手段となる。コンサル・ITビジネスでも、事業が不振になると給与削減やリストラを実施するが、それを実施すると従業員のモチベーションは著しく下がり、結果として顧客向けのサービスレベルが下がるという負のスパイラルにはいってしまう。

保育園の話に戻ると、上記のような構造に加えて、保育園は一定規模の「土地」が必要であることがさらに問題を難しくする。市場原理を導入して民間の参入を促しても、例えば東京都内だと地価が高く、場所の確保も難しいという制約があるため歪みが生じてしまう。実際のところ都内では、区民の負担率が低い認可保育園は「園庭付き+ベテランの経験豊富な保育士」という高いレベルのサービスを提供している一方で、月15万円以上かかる認証外保育園は「マンションの一室+経験が浅い保育士」と、区民の負担金額とサービスレベルが逆になっている例が多い。

よってフローレンスの駒崎氏などが指摘するように政府補助の増額というのは有力な選択肢であろうと思う。もっといえば保育の公立化を進めること。一方で、政策的にこれを実現するのは、この低成長の時代にはかなり難しいことはわかっているのだが。。

 

レビューも見ずに転職するの?

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レストランを探すときに食べログをはじめとしたレビューサイトを確認するのは既に日常になっているが、VorkersGlassdoorといった従業員レビューのサイトも転職においてかなり「使える」ものになってきている。

転職の難しさは、事前に得られる情報が限定的であることだった。入社前に会うことのできる社員は、基本的に面接官に限られる。事前に所属部門の社員に会うことも可能な場合は多いが、そこから得られる情報はどうしても表層的なものになる。給与モデル、昇進の仕組み、社風など事前に確認しておきたい情報はなかなか得られなかった。

こういった情報の非対称を緩和してくれるのが従業員レビューサイトになる。レビューは、第三者でなくて従業員本人が書き込む。そのことによって、第三者の視点や思惑がノイズとして入り込むことを防ぎ、実態に近い情報を得ることが可能になる。

もちろん限界はある。レビューはあくまで一部の人の主観に過ぎない、とか、悪意のある人が偽装して誤った情報を書き込む可能性がある、といった批判はもっともだ。一方で、食べログと同様に一定数以上のレビューが揃えばそこには必ず「傾向」がうまれる。その傾向を自分で分析、解釈して意思決定できるかがポイントになってくる。

例えば、レストラン選びもいくつかの成功と失敗を繰り返し、経験を積んでいけば細かく食べログのレビューを読まなくても、総合点や写真の雰囲気だけさらっと確認するだけで良し悪しをある程度判定できたりする。それは自分の好みや評価軸が経験の積み重ねによって養われてくるからと言える。

会社選びも同じで、まずはレビューサイトの情報をきちんと読み込んで、そこから浮かび上がってくる傾向をつかんだり、実際転職で苦い思いしたり、といった経験を積み重ねることによって、自分なりの評価軸が作られてくる。

さらに大事なのは、レビューの「傾向」がビジネスモデルや経営の仕組みという「構造」からきていることを理解できるかという点。例えば、中核事業の利益率が高ければ当然給与や各種福利厚生は期待できるし、逆に成熟している、もしくは、利益率が低い事業が中心ならば、当然従業員の待遇に期待することは難しくなる。

例えば僕が担当しているコンサルティング事業。このビジネスの原価の大半は労務費、つまりコンサルタントに支払う給与やインセンティブの支払いが大半を占める。が故に、ビジネス環境が悪化し稼働率が低下すれば、給与や人の削減といったネガティブな施策を打たざるを得ない。

こうした事業の「構造」を踏まえたうえで、各レビューの意味するところをうまく咀嚼できるならば、転職においてこうしたレビューサイトは大きな助けになるだろう。

データが導く新しい「人事」の姿

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いま僕が在籍している米企業では毎年従業員サーベイを実施している。最近その結果を見ることができたのだけれど、とても興味深かった。外部ベンダーのクラウドのソフトウェアを使って、エンゲージメントの深さ、マネジメントの巧拙、企業戦略の周知、オフィス環境など多様な項目について調査が実施され、全社、日本法人、事業部門、そして各マネージャーごとの評点を簡単に知ることができるし、過去の調査との比較も容易。また、統計分析をもとに、企業業績にとって重要となる改善項目も示唆される。

今までこうした「人事」の領域の弱点はとにかく「定量データ」が整備されていないことだった。そして、その影響として、人事部門にデータを適切に分析し、それをもとに実行する人材の層もなかなか育っていなかった。また、経営層も、従業員こそが重要です、とお題目を掲げる人は多かったが、実際のところ(特に欧米企業では)、人材を「コスト」と捉えて、ファイナンスの視点から従業員数や労務費をコントロールすることが経営における「人事」のポイントだったのが実情だろう。

しかし、こうした課題は徐々に解消されつつある。一番有名なのはやはりGoogleで、「How Google Works」「Work Rules」で詳述されたように、Googleは人事部門にも博士課程をもったデータサイエンティストを配置し、最適な採用、マネジメント、福利厚生などをデータをもとに改善、実行する仕組みを作り上げた。Googleの経営が優れた「人材」をもとに作られてきたことは疑いようがなく、その具体的な成果がそういったデータをもとにした「人事」によって支えられていことのインパクトは大きい。

こうしたGoogleの成功に刺激される形で、この記事でも触れたように、ハイテクを中心に米企業では、従業員のエンゲージメントやコミュニケーションが組織の生産性を高める、という考え方を経営に応用していくことが大きなトレンドになってきている。

このトレンドの背景として2点あげたい。1点目は、上記したように人材を「コスト」と考えて、業績好調時には積極採用、不調時にはリストラ、と主に財務面の理由で従業員数をコントロールしたり、従業員をパフォーマンスで階層化して下位の要員をリストラする、といった欧米企業の過去の経営手法への反省がある。

このやり方だと、平均的な従業員はリストラ対象となることを恐れて自分の役割範囲をできるだけ小さくしようとするし、トップパフォーマーは業績を出して高い報酬を得ようと利己的な行動に走りがちになる。結果として従業員間のコミュニケーションは淀みはじめ、従業員のモチベーションやエンゲージメントのレベルも下がり、組織全体の生産性に負の影響をもたらしてくる。

2点目は欧米企業がここ20年で急速に進めてきた業務の標準化・効率化およびオフショア化がある。投資家からのプレッシャーが強まる中、コスト削減を主眼として欧米企業は業務を標準化、ERPを導入し、その業務をインドや中国などにアウトソースするオフショア化を急速に進めた。またIT技術の普及は在宅勤務を加速させ、僕のいた米IT企業ではアメリカの社員の70%が在宅勤務だった。

この変化はコスト削減に繋がったし、世界市場で標準化された経営をすることに寄与した。一方で従業員間のコミュニケーションはどうしても弱くなり、例えばプロジェクトの始まりから終わりまで一度も会わない、ということも珍しくなくなった。結果、会社への帰属意識やエンゲージメントのレベルは下がっていった。

この2点に代表されるような課題が欧米大企業を中心に顕在化していたところに、Googleが登場した。彼等は社員をオフィスに集め、無料食堂はじめとした福利厚生を整備し、従業員間の対面コミュニケーションを重視して、大きな成功を収める。

彼等の成功はシリコンバレーのハイテク企業の成功方程式になり、各社は競うように「従業員重視」の施策を打ち出した。ここにクラウド技術の進展が重なり、ソフトウェアによる可視化が進むと、冒頭にあげたように、旧来の「人事」がすくいきれていなかった、データをもとにした、従業員のエンゲージメントやコミュニケーションに焦点を合わせる新しい形の「人事」機能が姿を見せはじめている。

この変化は、人事もデータを使うようになりました、とか、単に企業が従業員のことをもっと考えるようになりました、というレベルに留まらない本質的な変化を経営にもたらすと個人的には考えている。ネットによる情報のオープン化、可視化、民主化などが進展することで、小売業を中心に「顧客」の声が強くなり、いまや企業や流通の論理だけでビジネスを進めることはきわめて難しくなってきている。そして、経営においてもこれと同じ構造の変化が起こりうるのではないか、というのが僕の仮説である。

この点については、別途論じてみたいと思う(といいつつ、お前なかなか書かないだろ、とのツッコミが聞こえてきそうですが、、)。

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ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

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意思決定することは「仕事」です

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この記事(なぜグローバル企業の経営陣は「定時退社」するのか?)はありがたいことに多くの人に読んでもらっており、PVは60,000を越えて、Facebookのシェアも5716までいった。

この記事で言いたかったことの一つが、「意思決定は仕事である」ということ。前掲の記事では「定時退社」という言葉に反応する人が結構いて「定時に帰るマネージャーは信用できない」とか「家に帰って仕事してんだろう」みたいなコメントが散見された。これを見て思ったのは、「意思決定は仕事である」というのをなかなか信じ切れない人が多いんだなということ。

こう思っていろいろ検索していたら、こんな記事を見つけた。バブソン大学の教授のHarvard Business Reviewのインタビューをまとめたものだ。

重大な意思決定を迫られたマネジャーが、リソースにも知識にも恵まれていながら、賢明とはいえない決断を下すことが多いのはなぜだろうか。理由の大部分は、意思決定に対する認識が間違っていることにある。彼らは主要な意思決定を、組織の仕事を前進させるためにすべき選択のように考えている。しかし本来、意思決定そのものが仕事なのだ。

これは本当に重要なポイントで、多くのマネージャーは、意思決定を自分の重要な仕事であるとはなかなか信じ切れない。がゆえに「手を動かす」仕事に自分も長時間従事することで成果を出そうとする。

しかし、なぜ企業がマネージャーという「中間管理職」を置いているのかと言えば、それはまさに意思決定することを彼等に望んでいるからに他ならない。もっと言えば、マネージャーに「預けている」リソース(メンバーやその他経営資源)から、適切な意思決定の連鎖で、最大限の投資対効果を引き出すことを期待していると言える。

なので、マネージャー自身が「現場」の仕事に忙殺されていては、マネージャーというポジションを置く経営的な意味がなくなってしまう。そもそも、意思決定というのは、それ自体が非常に負荷のかかる「重い」仕事のはずである。

例えば、僕が「師匠」と思っている前職のCOOは、毎日6時には帰宅していたけれど、まさに24時間考えて、意思決定し続けている人だった。いつも頭の中で経営の最適解は何かを考えていて、その仮説のエビデンスが欲しい時に昼夜を問わず僕にメールをしてきた。

毎週土曜日の朝6時ごろに彼が欲しいデータや仮説のリストが僕に送られてきたのを思い出す。朝起きると次の1週間に向けて必要なアクションが彼の頭に浮かぶのだろう。そのリクエストからは、彼の深い経営的洞察や仮説がいつも透けて見えてきて、彼の意思決定を助けるデータや洞察をどうやったら提供できるかと考えるのは、苦労も多かったけれど、楽しい作業だった。

さらに、こちらが提供したデータや洞察によって、彼が素早く意思決定し、それが数千億円規模のビジネスを直接に動かしていくのは驚きだったし、「経営」の仕事というのが本当にあるのだ、と気づかせてくれたのも彼のその意思決定の見事さだった。

日系企業、外資系企業と僕は3社を渡り歩いてきたけれど、そのどちらも優れた管理職や経営陣は意思決定することに焦点を合わせていた。質の高い意思決定をすることは、経営を良くする、という側面だけでなく、ヒト、モノ、カネをチームに適切に呼びこむことで、メンバーも幸せにすることができる。「意思決定は仕事である」という認識がもっと広がればと思っている。

 

ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語

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意思決定と合理性 (ちくま学芸文庫)

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新版 経営行動―経営組織における意思決定過程の研究

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