グローバル経営の極北

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なぜグローバル企業の経営陣は「定時退社」するのか? 

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グローバル企業の経営陣の退社は早い。突発的な事態がなければ、定時の6時にはまず帰る。なので、遅い時間にミーティングが入ったりすると、露骨に不機嫌になったりする。これはなぜだろうか?

意思決定の質が落ちてしまう

一番大きな理由は、コンディションが悪化すると「意思決定」の質が落ちる、ということを彼等がよく理解していることにある。グローバル経営においては、マネジメントすなわち意思決定する人、というのが明確に役割定義されていて、彼等の評価はその意思決定の質と成果によるところが大きい。

よって、マネジメント(マネージャー)を担うようになったら、きちんと毎日休息を取ってコンディションを整えるのも「仕事」である、との認識をみな持つようになる。例えば深夜まで仕事してしまうと、夜中に勢いで重大な決断を下したり、次の日に寝不足の頭で雑な意思決定をしたり、もしくはなかなか決められなかったり、ということが起こりうる。これを避けるために、できるだけ毎日「定時」に帰宅し、家族と夕食を取り、体と頭を休めつつ質の高い意思決定を継続的にできるようにコンディションを整えることが重要な「仕事」になってくるわけだ。

チームマネジメントの重要性

また、休息を取るのも仕事であると考えると、マネージャー自身が仕事を抱え込むことをせずに、適切にメンバーに振り分けることが必須となる。それには、メンバーの役割と業務内容、期待される成果をきちんと定義すること、自部門の仕事量がメンバーの許容量を越えないように計画すること、などのチームマネジメントが求められてくる。結果として、マネージャーの経営マネジメントのスキルも上がっていくことになる。

僕がマネージャーになりたての頃、自分で「作業者」としての仕事も抱えて死にそうになっていた時、隣の部署の大ベテランのマネージャーに言われたことがある。

「あなた目一杯でやりすぎ。それでどうやって突発事態への対応や新しい事への挑戦をするの?常に余裕持ってないマネージャーダメすぎ」

 こう言われた時は「そうは言うけどさ、仕事が降ってくるんだからしょうがないんだよ!」と正直思った。でも、その後、徐々にマネージャーとしての経験を積むうちに、「余裕」を持つことがなぜマネージャーにとって重要なのかが腹落ちするようになったのを覚えている。

長時間労働が生産性への意識を弱くする

かたや日本では依然として管理職、非管理職を問わず長時間労働は常態化している。この状況は、上記したように、コンディション悪化による意思決定の質を下げるリスク、の他にも弊害がある。それは、長時間労働を厭わないことが普通になると、業務の標準化や効率化、アウトソースの本質的なメリットや価値について理解できず、結果実行されないという点だ。

欧米グローバル企業では、ここ20年くらいで間接業務を標準化し、SAPに代表されるようなERPパッケージを導入する、もしくは、インドなどのオフショアに業務をアウトソースすることが一気に進んだ。一方で、日本の大企業はSAPなどの導入は一定程度進んだものの、業務の標準化やそれに伴う間接部門改革、さらにはオフショアへのアウトソースなどについては、国際標準からみると依然かなり遅れていると言わざるを得ない。

この遅れの理由はかなり多面的だが、一つの大きな要因は、日本企業に、仕事の課題はリソースの徹底的な投入によって解決するものだ、という文化がまだ根強いことがある。この文化は結果として従業員の長時間労働を招くし、現状の業務を分析し、そこから浮かび上がった課題を踏まえて業務標準化や効率化を図ることへのインセンティブを失わせる。

このことは、経営レベルで見ると、間接業務を中心としたオペレーションコストの最適化を難しくさせ、結果的に国際標準でみて日本の利益率が低いことの一つの要因になっている。さらに、低い利益水準は、大規模投資や次世代への技術投資を躊躇わせることにも繋がっている。

「長時間労働」の常態化は従業員の健康や生活に負の影響があるというのはみな分かっている。しかし、上記したように、「意思決定」や「業務改革」といった経営レベルの課題に直結していると意識している人は少ないだろう。この点の改善がないと日本の大企業がグローバル化していくには難しいと感じている。

労働時間の経済分析

労働時間の経済分析

 

 

今週のおすすめ本 - 1/30~2/6 「132億円集めたビジネスプラン」「職場の人間科学」他

1/30~2/6にツイッターで紹介した本のまとめです。経営者本多めですが、やはりどれも面白いです。

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

132億円集めたビジネスプラン 熱意とロジックをいかに伝えるか

 

 ライフネット岩瀬氏のこの本はやはり良書で、起業だけでなく事業計画立てる上でも改めて頭の整理になる。ここまで具体的に資金調達から起業に向けての資料と経緯を書籍してくれたのはありがたい。「熱意とロジック」というのがポイント。

財務マネジメントの基本と原則―これ一冊で「使えるファイナンス」の真髄が身に付く

財務マネジメントの基本と原則―これ一冊で「使えるファイナンス」の真髄が身に付く

 

 未読ですがKindle 40% OFF中でお得。レビューを読む限り、実務で使いこなす上で有益な本のよう。

チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ

チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ

 

 こちらもKindleセール。グローバル経営においては、メンバー間のコラボレーションをどう促進していくかが鍵になってきており、その文脈で非常に面白そうな本。私も買いました。

スターバックス再生物語 つながりを育む経営

スターバックス再生物語 つながりを育む経営

  • 作者: ハワード・シュルツ,ジョアンヌ・ゴードン,月沢李歌子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2011/04/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 2人 クリック: 79回
  • この商品を含むブログ (9件) を見る
 

 経営者本はどれも面白い。その中でも、スターバックス創業者のハワード・シュルツがCEO退任から復帰、スタバの改革までを描いたこの本は特に好き。ビジョンを改めて練りこんで、情熱を持って現場を変えていく姿はこちらも熱くなってくる。

フェイスブック 若き天才の野望

フェイスブック 若き天才の野望

 

 この本も面白い。ザッカーバーグがFacebookで実現したかった初期衝動に忠実であり続けていることがよく描写されてる。投資家とのやり取りや人材の登用など起業における現実的な困難も丁寧に取材されていて、さすが米ジャーナリストという出来。

現代思想のパフォーマンス (光文社新書)

現代思想のパフォーマンス (光文社新書)

 

 小津安二郎の「お早う」にレヴィ・ストロースの思想を読み込み、「お早う」という日常の挨拶から関係性が穏やかに立ち上がる様を見事に論じた、内田樹氏の文章は本当に絶品なのでオススメ。

「どちらへ?」と問いかけるものは目的地を訪ねているのではない。そうではなく、これは「どこへ行かれるにせよ、あなたの歩みに天の恵みがありますように」という祝福のことばを贈るための修辞的な問いなのである。だからこの問いに対しては「祝福をありがとう」という感謝を込めて「ちょいと西銀座まで」と答えるだけで足りているのである。
「お早うのコミュニケーション」p274

職場の人間科学

職場の人間科学

 

 これは必読本。センサーを使ってコミュニケーションを定量化し、そのデータをもとにどういったコミュニケーションが組織の生産性を高めるか、という実践まで持っていくところが非常に面白い。対人コミュニケーションの重要性が強調されるとともに、チーム内のメンバー間のコラボレーションがいかに重要かを説得力をもって示している。

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)

 

 日本で仕事する人ならすべての人が読むべき、と言いたくなる名著。この本については改めて長文できちんと論評したい。

渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉

渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉

 

 日本人経営者の書いた自伝でもやはりこれが一番好き。働き始めて以来折にふれてこの本を読んでいる気がする。自分の置かれた境遇や成長度合いによって様々な捉え方ができる。藤田氏は経営者ではめずらしく、きわめて「文学的」な文章を書く人と思う。

起業家 (幻冬舎文庫)

起業家 (幻冬舎文庫)

 

 藤田氏は「起業家」もやはり面白い。アメーバブログへの徹底的なのめり込みと取り組みで念願のメディア事業を立ち上げ自社を変革していく様子がリアルに描かれる。「孤独、憂鬱、怒り、それを3つ足してもはるかに上回る希望」の言葉も響く。

FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争 (角川書店単行本)

FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争 (角川書店単行本)

 

 Yahooが窮地のいま、メディア、ITなど各業界の著名な経営者がことごとく立て直しに失敗し、そしてマリッサ・メイヤーも苦戦し続けている、Yahoo経営苦難の歴史をうまくまとめたこの本はおすすめ。とても面白い。

 エディ・ジョーンズのコーチングはビジネスにおいても非常に参考になるので意識的に勉強している。マネジメント手法、サイエンスやデータの取り込み、選手とのコミュニケーション、など現代経営における大事な論点が詰まっている。

 

グローバルの新卒人気企業ランキングにみる、日本でのコンサルキャリア構築の難しさ

Universum Globalの「新卒」で働きたい会社ランキング(主要12カ国*1の合計20万人の学生対象)によると、Business分野の結果は以下のとおりになっている。Googleがやはり1位だが、2位 EY, 3位 PwC, 4位 KPMG, 5位 Deloitteと上位を会計系ファームが独占している。

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Source: http://money.cnn.com/pf/jobs/newgrads/2014/full-list/index.html

では、なぜこれらの会計系ファームが人気があるのだろうか。

まず言えるのは、キャリアパスの側面。グローバル大企業は、それぞれの役割がかなり標準化されており、フロントエンドであれば、プリセールスからポストセールス、マーケティング、テクニカルサポートなどについて標準的な役割定義が存在する。バックエンドでも同様に、ファイナンス、オペレーション、購買など各種機能で標準化が進んでいる。

会計系ファームは伝統的な監査だけでなくコンサルティング業務をさらに強化しているので、標準化されたグローバル大企業のバリューチェーンの上流から下流まで、事業戦略分析および構築、As-Is分析からTo-Beモデルの構築、業務プロセス整備、ITシステム導入など、ビジネスを展開していく上での「足腰」の部分に具体的に関わることができる。特にコンサルティングは高いフィーを取ってクライアントに向かい合うわけで、グローバル経営の「基本」を体に叩き込める点が新卒にとって魅力と言える。

実際のところ僕が在籍している会社(サンノゼ本社のソフトウェア企業)も、同僚には、現場のコンサルだけでなく、ファイナンスやオペレーション部門などの間接部門も含めて、会計系ファーム出身者がかなりの数いる。

彼等の多くは会計系ファームでマネージャークラスまで自分を現場で鍛え上げ(経験5-10年)、その後大手グローバル企業やスタートアップに転職して、各機能でCxOなどの上級管理職を目指す。また、その過程で一度コンサルティングファームに戻る場合もある。いずれにせよ上記したように各機能は標準化されているので、自分が築き上げてきたスキルが「ポータブル」である、というのが最大のポイント。このおかげで多様なキャリアパスが可能になっている。

翻って日本はどうか。この点ではきわめて不幸な状況と言える。日本のコンサル界隈でよく聞かれるのが「事業会社」という言葉。この言葉が使われる時、「コンサルファーム」は顧客側の「事業会社」とは違うモデルで運営しているようね、という含意がある。これは一面真実をついていて、日本の大企業は一般的に、個別企業に「特有の」オペレーションを構築することが競争優位の源泉、という認識を強く持っている。ここが上述した「グローバル」企業が常に標準化を志向するのと大きく異なる点。

この差異は経営における多様な論点も含むのだが、今話しているキャリアパスの文脈で言うと、これが日本におけるコンサルタントのキャリアパスを難しいものにしている。

コンサルティングファームはどこも規模が拡大しており、俗にいう「上が詰まっている」状況は各社共通。がゆえに、大手ファームでパートナーまで昇進できる確率はかなり下がっている。こういう環境では、ファームでマネージャークラスまで自分を鍛えあげて、その後大手グローバル企業やスタートアップでCxOを目指す、というのはキャリア構築の有力な解になるはず。

しかし上述したように、日本の大企業は個別企業ごとに経営モデルが異なるし、役割型の雇用でなく終身雇用前提でどうしても「生え抜き」重視の人事制度が構築されている。さらにスタートアップも、大企業と違って「実力主義」的ではあるが、オペレーションの標準化を志向しているところは少ない。こうなると、コンサルティングファーム出身者が自分が培ったスキルをそのまま発揮することが難しく、転職後に個別企業に最適できるかが成功要因になってしまう。これは成功の確率を下げるし、がゆえに、「事業会社への転職はねえ」というコンサルタントの嘆きが日本では多く聞かれることになる。

だいぶ長くなってしまったが、もう一つ重要なポイントは給与。Glassdoorを検索かければこの辺はすぐ分かる。DeloitteのManager in USだとBase Salaryの平均値は$134,942

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Source: https://www.glassdoor.com/Salary/Deloitte-Manager-Salaries-E2763_D_KO9,16.htm

同様にPwCのManagerのBase Salary平均は$128,773になっている。

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で、例えばハイテクの雄GoogleのFinance Managerで調べてみると、Base Salaryの平均は$158,259と非常に高い。

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Source: https://www.glassdoor.com/Salary/Google-Finance-Manager-Salaries-E9079_D_KO7,22.htm

他にも色々調べると面白いけど、いずれにせよ、コンサルファームとグローバル大手企業との給与レベルは変わらないし、いま勢いのあるハイテク企業ならば、コンサルファームより高い給与水準であることが一般的。このことは、上述したキャリアパス構築の観点と同様に非常に重要で、コンサルから外部の会社に転職することが「当たり前」の選択肢になりうる。

これに対して日本がどうなっているかは、みな知っているように、総合商社などを除き一般的な日本企業であれば課長クラスで1000万円の給与が標準。しかも40歳前後でその役職につくことが普通。これに対して、アクセンチュアや会計系ファームだと、入社5-10年目でマネージャークラスになり、その給与は1000-1300万円くらいが相場。この事実は、スキル面でのフィットと合わせて、「事業会社」にコンサルが転職していくことの大きな阻害要因になっていると言えよう。

だいぶ長くなってしまったが、オペレーションの標準化、という思想は、現代経営を考える上での一つの大きなテーマなので、そのことについては別記事で論じてみたい。

*1:the U.S., China, Japan, Germany, France, U.K.., Brazil, Russia, Italy, India, Canada and Australia

総合商社マンKさんのこと。そして「商社冬の時代」は巡るのか?

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Sさんのことについて書いたら、メーカーで海外営業をやっていた時のことを懐かしく思い出した。その頃の数少ない同世代で、楽しく一緒に仕事した総合商社のKさんについても書いてみたい。また、「総合商社の中の人」のトイアンナさんによるインタビューを読んで触発された部分も含めて、総合商社の強みとはなんなのか、という考察も少し。

Kさんは「川があったら泳いで渡る」総合商社の人で、僕より2歳年上。紙・パルプ産業の部署で、その頃は関連子会社に出向していた。僕のいた新規事業はある特殊な塗布技術の開発に成功し、それをプレミアム用途の紙として商品化していた。その販路として商社も活用しており、その流れでKさんと知り合った。

彼は、皆が幻想を抱いている「イケてる」商社マンからはかけ離れていた。まず見た目。身長は160センチ台で、やや小太り。童顔だけれど髪は少し薄め。「合コンでウェーイ」タイプとは程遠い。

でも(だから)、仕事はできた。なによりハングリーだったし、常に現場に足を運んで自分の目で確かめる。大学では中国語専攻で、留学したことはなかったのに流暢に中国語を使いこなした。人懐っこい笑顔で相手の懐にさっと入り込んで、ビジネスチャンスがあればさっと食いつくまさに「商人」だった。

彼と知り合った時、僕はちょうど2年目になったところで、部署で誰もきちんと担当していなかった中東やアジアの市場開拓や代理店管理をまかされたところだった(というか、人を寄せ集めた新規事業だったので「Tは英語話せるし、なんか汚いのもいけそうなんで中東・アジアやっといて」みたいな適当なノリだった)。

Kさんとは最初に会った時から意気投合した。同世代だったこともあるし、なにより彼の話の早さが好きだった。東南アジアで販路広げたいんですよね、と言ったら、すぐタイで複数の候補が上がり、次の週には確認に出張に飛ぶ。そんなリズムで話が進むのでこちらもすごくやりやすかった。

タイでのビジネスはうまく軌道に乗り、次は彼が最も得意とする中国市場を攻めることに。Kさんが他のビジネスで既に緊密な関係を築いている会社を紹介してくれた。その会社は広東省にあり、社長がとにかく強烈なおっさんだった。訪問するなり自慢の工場に連れていかれ、工場の紙裁断の設備を指差しながらおっさんが吠える。

「見ろ、この"最新鋭"の裁断機を!すごいだろ、これほんとすごいんだ。これ使ってバーと裁断加工して、ダーと売り切り。これがオレのやり方だ(きらん)」

こんな感じで、顔をこちらの近くまでぐーと近づけてまくし立ててくる。派手に唾が飛んでくるし勘弁してくれよと思っていたが、Kさんは常に冷静。おっさんはさらに続ける。

「K、おれのすごさはもう分かっただろ。もっともっと売ってやる。とにかく安くしてくれ。そうしたらばんばん売ってやるよ。中国全国にオレは販路あるんだよ!」

おっさんは会う度にこんな調子だったが、Kさんは相手の顔を立てつつ、こちらの要求もうまく織り込んで、いつもうまく交渉していた。全て中国語でやっていたわけで、今思い出しても見事だった。

その後、Sさんの話で書いたように、僕がやっていた新規事業は結局事業売却となり、僕は転職したので、仕事でのKさんとの関係はなくなった。それでも彼とはたまに飲みに行く間柄だった。ある時丸の内で飲んでいた時に彼が呟いたことを今でもよく覚えている。

「いやー、私が子会社で現場駆けずり回ってビジネス作って日々口銭稼いでるのにね、本体で現場も見ずに中南米のパルプ開発投資してるやつがばーんと儲けるわけですよ。でね、人事の評価もあっちの方が高い。やってられないですよ」

ちょうど資源高によって総合商社の利益水準が大きく拡大している時期だった。仲介事業から事業投資へ。総合商社はビジネスモデルの転換に見事に成功したとしてもてはやされ、就職先としての学生の人気もうなぎ登りだった。

Kさんは中国ビジネスを中心に以前と変わらず大きな成果をあげていたようだったが、なかなか希望の中国駐在もできていなかった。子会社への出向もかなり長くなり、彼の苛立ちはこちらにもよく伝わってきた。

それから数年が経ち、いろんな偶然と幸運が重なり僕の上海駐在が決まった。その数年前から、Kさんは、念願叶って広州に駐在していた。メールで連絡を取り合って、彼の上海出張の時に会う約束をした。

久々に会ったKさんは痩せており、前より格段に引き締まった印象だった。話を聞くと非常に順調のようで、紙パルプだけでなく、生活産業全体を統括する事業部長になっていた。日本の大手生活用品企業のサプライチェーンに深く入り込んで、中国の現地企業とかなり大きなビジネスを展開しているようだった。

「中国の駐在店全体で最年少の事業部長になれましてね。やっぱ中国は強いですよ。まだまだここで仕事したいですねー、日本帰りたくないですよ(笑)」

Kさんの昔から変わらない人懐っこい、無邪気な笑顔が見れて嬉しかった。16年3月期の決算で、Kさんの商社が「非資源」投資での成功から業界最高の純利益を達成しそう、という記事を見た時、まず思い出したのは彼のことだった。

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Kさんをはじめとして、メーカー時代に多くの総合商社の人と仕事をしたけれど、やはり優秀な人が多かった。彼等の強みは、情報、特に「非公開情報」の価値と活用の仕方を知り尽くしていることにある(俗に言うところの「インテリジェンス」)。

優れた商社マンは、昼夜問わず顧客や流通から、普段オープンにならない情報を巧みに引き出す。それをうまく使いながら「商流」を構築していく。僕の経験でも、彼等がこちらが欲しいけど辿り着けていない情報を絶妙に「出し入れ」しながら交渉を進めていくことにいつも感心していた。このスキルは優れた商社マンが共通して持っている資質だ。

資産価格の上昇で、「事業投資」ばかりがクローズアップされたし、商社自身もそこが強みだと大きく舵を切ったけど、「総合商社の中の人」が指摘したように、そこは本質的な総合商社の強みではないのではないか。その点を見誤ると今後また「冬の時代」が来る可能性もある。

さらに本質的な脅威は、バリューチェーンの情報がデジタル化によってオープン化したり、プラットフォーマーに集約されること。GEが狙っているのはここだし、もしこの方向でのデジタル化が成功をおさめてくると、じわじわと総合商社の存在を脅かすことになるだろうと考えている。「破壊的」プレイヤーの隣接業界からの侵攻、という現代経営のテーマは「総合商社」という世界でも特殊な産業においても注視すべきテーマになってきているのではないだろうか。

 

僕のメンターだったSさんのこと(注:加筆・修正したものを東洋経済オンラインに「48歳で課長になれなかった男の「以後の人生」 」のタイトルで掲載しました)

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【注】この記事を加筆・修正したものを、東洋経済オンラインに2018年2月14日「48歳で課長になれなかった男の「以後の人生」 」のタイトルで掲載しています。

toyokeizai.net

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僕のメンターだったおじさんの話をツイートしたら、結構反響があった。もう少し書いてみようと思う。その人はSさんとする。

僕が新卒で入社したのは創業100年を超える老舗のメーカーで、配属は新規事業の海外営業部だった。そこでメンターとしてついたのがSさん。普通メンターって若手~中堅くらいの人がなるのだろうけど、そのメーカーは日系企業のご多分にもれず40代以上が非常に多かったため、面倒見がよさそうなSさんが選ばれたのだと思う。彼はその時既に43歳で「課長代理」だった。

Sさんはドがつく真面目な人で、髪は七三にきっちり分けて、昭和なデザインのスーツを毎日きっちりと着てくる人だった。仕事ぶりも本当に真面目で、毎日遅くまでこつこつと営業資料を作っていた。はっきりいって不器用で、ムダなところまで丁寧な感じだったけどそれが長年培った彼のスタイルだった。

Sさんとはよく外回りに出かけた。外回りの時って本音の話が出てくるもの。彼がいつも言っていたのは、こんなボヤキだった。「Tくん、僕はねえ課長になりたいんだよ。なんとかなれないかなあ。」

おいおい新人に何言うんだよって感じだけど、これには背景がある。僕のいた新規事業は、日本企業ならではというか、各部署で疎まれてお払い箱になったり、あまり評価の高くない人達が集められていた。それでも、開発部門が画期的な技術をベースに競争力のある商品を生み出していたし、事業部長のそれにかける情熱はすごかったので、うまく成長軌道にのって売上は倍々ゲームの形で伸びていた。

そうすると、会社側も期待し始める。主流部門から人が異動し始めてきて、そこにはSさんの同期も数人いた。その同期はみな「課長」だった。

Sさんは、あからさまな野心を見せる人ではなかったけれど、これはさすがに悔しかったのだろうと思う。実際その海外事業は、彼が商社を粘り強くサポートすることで大きく伸びていた。Sさんは毎晩遅くまでその商社のために資料を作り、一緒に海外出張して商品を説明し、献身的に努力をしていたのだった。なのに、結局よその部署から来た同期は課長として彼の「上司」になっていた。

「課長になりたい」というボヤキはそんなところから来ていたのだと思う。でも、Sさんは、それで腐ったりはせずに、持ち前の真面目さ(不器用さ)で毎日仕事に向き合っていた。ひとつ今でも印象に残っているのは、彼が英語を勉強し始めた時のこと。

Sさんは英語を昔からこつこつ勉強していたようだったけれど、はっきりいって仕事で使うレベルからは程遠かった。僕は一年間アメリカに交換留学に行っていたので、彼に英語の資料チェックを頼まれることがあった。見てみると全部自分で書きなおしたほうが早いくらいだいぶひどかった。。

それで一念発起したSさん。英会話学校のジオスに通い始めた。ある日英会話学校どうですか、と聞いてみると、いつもの調子で頭をかきながら「いやー、Tくん、大変だよ。宿題が本当に多くてね。全部やるのに週末をつぶさなくちゃいけないんだよね。」と答えた。

これには本当に驚いた。英会話学校の宿題を完璧にこなして、きちんと通っている人なんて見たことなかったから。大抵の人は入学しても結局ちゃんと勉強せずにフェードアウトしていく。でも、Sさんはこの勉強を結局1年間続けて、ライティングだけでなく、スピーキングも格段にうまくなっていた。彼が海外のお客さんと、日本語訛りながら前より断然と流暢に英語を話す姿はちょっと感動的だった。

では、こんなSさんはその後課長になれただろうか?なれなかった。その新規事業は急速に成長したものの、競合も一気に参入し価格競争が激化。結局その関連事業と共に他社に売却されてしまった。Sさんもそのまま他部門へ異動になっていたが、彼はそこである決断を下す。25年近く勤めたそのメーカーを退職して、非上場の小さなメーカーに転職したのだ。昔同じ部門で上司だった人に誘われたらしかった。

もといたメーカーは曲がりなりにも大企業で、Sさんもその会社を愛していた。そこから、一般的には知られていない小さな会社に移ったと聞いて僕は正直心配した。実際のところ、新規事業の事業部長の定年を祝う会で久々に会ったSさんは、顔色も悪く本当に大変そうだった。「いやー、Tくん大変だよ。徹夜して資料作ることも多くてね。この歳できついよ。いやー大変だよ。」って、あの前と同じ真面目さのにじみ出る調子で話していた。

それから数年。Sさんが海外駐在が決まったと人づてに聞いた。アメリカのサンフランシスコらしく、待遇は事業部長とのこと。これを聞いて僕は震えた。Sさんは、いつも「課長になりたい」と言っていたと書いたけど、あともう一つ、「駐在したい」とも言っていた。新人だった僕は、正直言って、いい歳してなんでそんなこと言うんだろうと思っていた。でも、Sさんは、決して諦めずに、誠実に仕事をし続けて、英語も独学で学び続け、そして50歳を間近にしたところで長く勤めた大企業を辞めるというリスクも取った。その結果として、彼は自分が人生で欲しいと望んだものを、彼のやり方で掴みとったのだ。

去年SさんとFacebookで繋がった。メッセージを送るとすぐ返事があった。

「 Tくん、メッセージありがとうございます。そうなんです。今度の3月でカリフォルニア在住丸6年になります。今や日本より暮らしやすいと感じます。」
僕がシリコンバレーの会社に転職して本社がサンノゼにあると伝えると、こんな返信がまたすぐ返ってきた。
「それはそれは!すばらしい!シリコンバレーは私たちの生活圏内です。その節は是非私のメールに連絡ください。Tくんのことだから、そのうち本社に転勤になって、アメリカの永住権も取ったらいいよ。良い年になりそうですね!」
 真面目で、人のことをいつも気遣っていて、笑顔を絶やさないSさんには、サンフランシスコの太陽はよく似合う。彼のことを思い出すたびに、僕の人生はまだまだこれから楽しくできるよなと改めて思う。

経営における「コミュ力」を考える

このツイートがかなりバズった。「コミュ障」という言葉を出したせいで、「死ね」みたいなリツイート貰ったり楽しいことになりましたが、そこは本意ではなく、、

もともとは、今の会社のシニアマネージャーのコミュニケーション力の高さとそのチーム運営が、最近関心を持っている「コミュニケーションの科学」や「チーミングの科学」を実証しているようで面白いと思って書いたのだった。

このHBRの論文にあるように、組織内および組織外といかに有機的な繋がり(コミュニケーション)が構築できるかが、組織全体の生産性に優位に影響する、というのは経営において非常に重要なポイントになってきているように思う。なぜ重要か。

1点目はメンバー間のコミュニケーションが深まると、それぞれの組織に対する関与(エンゲージメント)も深まり、結果さらに繋がりも強まっていき、組織全体のパフォーマンスを高めていく、という好循環がある点。バンカメのコールセンターの事例はまさにそれで、休憩時間のコミュニケーションが全体の生産性向上に繋がったというのは面白い。ツイートもしたけど、タバコ部屋というのはまさにこういった機能を持っていると言える。

2点目はデジタル化の進展と情報量の大幅な増大というトレンドへの対応の文脈。経営において、その膨大な情報にいかに意味を見出し活用していくかが鍵になるのは衆目の一致するところ。一方で、その膨大な情報が結局専門家しか読み解けない「タコツボ」的なものだったり、その情報が経営陣やマネージャー、そして現場にとって「使える」形として流通しないと、いくら情報に高度な分析を施しても経営の改善には繋がらない(この点は「マネーボール」を題材に記事を書いたので参照のほど)。

そこで、必要となってくるのが「コミュニケーション」の存在。特に対人コミュニケーションが鍵となる。「職場の人間科学」でも、対人コミュニケーションは、メールなど最近主流のデジタルのコミュニケーションに比べて効果が高いことが再三強調されている。膨大な情報を高度に分析・モデル化し、それを経営の意思決定に使う。これは自分が「知的」であると考える人にとっては理想だろうけれど、実際の経営はそれだけではうまくいかない。対人コミュニケーションによって、相手の表情や反応を見ながら、情報の持つ経営上の洞察を丁寧に紐解いていく。「マネーボール」でデータサイエンティストのピートが、それぞれの選手にデータの持つ意味を丁寧に説明し、どうプレイすべきかを示唆していたようなコミュニケーションが求められるのだと思う。

職場の人間科学

職場の人間科学

 

 

マネーボール (字幕版)

マネーボール (字幕版)

 

 

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

アメリカの法人税は日本より高い、はずなのに、、、

グローバル企業による「租税回避」が問題になっている。直近ではGoogleが2005年以降の税金滞納分1億3千万ポンドを追加納税することで英税務当局と合意した。少し前になるがスターバックスも同様の批判にさらされ、「自主的に」2000万ポンドを納税している。多国籍企業では、例えば欧州では、アイルランドの低い法人税率を利用したスキームを構築して実際の納税額を抑える(例えばアクセンチュアの登記上の本社はダブリンにある)というのは常套手段となってきたが、これに対してEUを中心に批判が高まり、上記の事例のように多国籍企業も対応せざるを得ない状況になってきている。

一方で、日本企業でこうした「節税」スキームを構築している企業は少ない印象がある。そのため日本企業からは日本の高い法人税率に対する不平があがり、法人税率引き下げが検討されている。

では、実際日本の法人税は高いのだろうか。その辺を改めて概観してみたい。

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出典: 財務省「国・地方合わせた法人税比較」

上の表は財務省が作成した法人税の国際比較。実効税率、つまり国・地方の税率を足し合わせたものを比較しており、日本はアメリカと並び40%近い税率だった。しかし、段階的に引き下げが行われており、平成27年度の改正では32%程度まで下がってきている。

一方で、戦略的に法人税を下げて投資を呼び込んでいるイギリスやシンガポールはそれぞれ20%, 17%と低い。このグラフにはないが、ダブリンのあるアイルランドは12.5%ときわめて低く、グローバル企業が租税回避のために統括子会社をダブリンに作っているのもむべなるかなというところ。

日本が法人税を引き下げてきているものの、やはり国際水準から見ても高い法人税率なのは事実。これは多くの人の実感とあう。一方で、アメリカが世界最高レベルの税率であることは意外なところ。そこで、法定の実効税率と実際企業が支払っている実効税率についてのデータを調べたところ、いいものを見つけた。

以下はPwCが2006年から2009年にかけて「フォーブス・グローバル2000」に含まれる上場企業を対象にした調査。日本の法定実効税率が39.54%に対し実際の税負担率も38.8%とわずか0.74%としか低くないのに対し、アメリカは法定実効税率39.1%に対し実際の税負担率は27.7%と11.4%も乖離がある。

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出典:坂本恒夫 日本企業の実効税率についての一考察  http://www.b.kobe-u.ac.jp/~keieizaimu/uploads/files/zenkokutaikai/38/21.pdf?wapr=548e3aff

では、アメリカの個別企業で見てみるとどうだろうか。上に引用したのと同じ小論から引くと、以下のようになる。

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出典:同上

これを見ると明らかなように、Google, Apple, MicrosoftというIT企業を代表する企業の実際の税負担率は、法定実効税率より10%以上低い。「うち、海外差」とあるのは、海外子会社の法定税率の差を示しており、これらの企業が海外子会社を低い法人税率の国に設立し、その子会社を利用した節税スキームを構築していることが伺える。

一方で、日本企業はどうだろうか。

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出典:同上

こちらは逆に法定実効税率と実際に支払った税負担率は大きく変わらない企業が多い。唯一、日本電算とHOYAは米企業と同様に実際の税率との差が大きく、これも海外子会社との法定税率の差を活用していることが伺える。

以上、世界の法人税の状況と、グローバル企業が海外子会社との税率の差を活用した節税スキームを構築しているのを見てきた。では、今後この問題はどうなっていくであろうか。欧州をはじめとして、グローバル企業に対する「租税回避」への締め付けは今後はもっと厳しくなっていくだろう。一方で、スターバックスの例のように節税自体が「違法」なわけではなく、どう規制していくかというのは難しい問題。

ただ、欧米においても「格差」の解消は大きな議論の的になっており、「分配」という観点から見ても、大きな利益を生み出しているグローバル企業が、「租税回避」スキームによって著しく低い税負担率で済ませることは、今後さらに難しくなるだろうと思う。

 

今週のおすすめ本 - 1/22~29 「最強の業務改革」「外国語学習の科学」「なぜ人と組織は変われないのか」「How Google Works」他

今週からTwitterで紹介した書籍を中心に毎週ブログでおすすめ本をまとめていきたいと思います。皆さんの備忘録的に使って頂ければ嬉しいです。 

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

最強の業務改革―利益と競争力を確保し続ける統合的改革モデル

 

 コンサルタントが書いた本はいまや大量にあるけれど、全体の内容が構造化されており、しかも実務への落とし込みの部分まで書かれている本は非常に少ない。この本はその点がきちんとカバーされており、業務改革全体の構造を俯瞰した上で、個別のテーマについて実務上の変革を進める上でのヒントに満ちていて有益。

最強の営業戦略―企業成長をドライブするマーケティング理論と実践の仕掛け

最強の営業戦略―企業成長をドライブするマーケティング理論と実践の仕掛け

 

 こちらもATカーニーの栗谷氏による「営業戦略」についての本。「業務変革」と同様に、よく構造化されているし、セグメンテーション、営業体制構築、価格戦略、営業ケイパビリティ構築、パイプライン管理、など標準的な営業モデル構築に役立つ示唆に富んでいて有益。

外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か (岩波新書)

 

 スポーツと同じように英語の習得にも「科学的」アプローチを取り入れた方が必ずうまくいく。ただ一般向けに書かれた良書は少ない。その点でこの本はとてもよい。第二言語習得の理論を概観しながら、それをどう実践していけば良いか、という皆が一番関心あるところも事例を踏まえて紹介されていく。折にふれて読み返して自分の学習法が合理的か確かめたくなる本。

なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践

なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践

  • 作者: ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2014/09/01
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログを見る
 

 こちらは未読だが前から気になっており、しかもKindleセール対象だったので購入。著者はハーバード大学の発達心理学と教育学の教授で、人が変化を拒むのは「意志」の弱さに起因するのでなく、変化から自分を守ろうとする「防衛機制」に起因することを描き出す本。非常に面白そう。

How Google Works

How Google Works

  • 作者: エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ,アラン・イーグル,ラリー・ペイジ
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2014/10/17
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログ (6件) を見る
 

 これは別途記事を起こしたい最も読むべき経営本。IT企業にとどまらず、ここに示された経営モデルの要素をどう取り入れるかは経営の鍵になってきている。「ユーザーを中心に考えること」「従業員に自由を与え大切に扱うこと」「計画でなく実行を重んずること」「オープンであることの価値を信じること」など、頭で理解するだけでなく、それを日々の実務でどう実現していくか考えながら読みたいところ。

ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール

ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール

 

 図解表現を指南する本は多くあるけれど、なかなかよい本は少ない。僕が見てきた中ではこの本がベスト。WSJで実際に図表を作成する際のガイドラインやルールが整理されているので、「実践」で使う上での心配がない。ロジカルかつシンプルに図表を作れるか、というのはビジネスにおける核となるスキルの一つなので、この本はデスクに置いて折にふれて読み返したいところ。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

 

 既に経営学の古典と言えるこの本。自分がいるIT業界においても、AWSが10年前には誰も想像できなかったレベルでエンタープライズIT産業の構造を変えており、IBM/Oracle/HPといったIT産業の巨人達は、まさにこの「イノベーションのジレンマ」に陥ることで、AWSの脅威をなかなか本気で捉えられなかったと言える。その観点から丁寧に読み返し始めているのだが、非常に学びの多い本だと改めて痛感。顧客にきちんと向かい合い、製品・サービスの向上に努めるが故に「破壊的」プレイヤーにうまく対応できない、というジレンマはデジタル化が全産業に影響しはじめている今だからこそ考える必要のある課題。

アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)

アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)

 

 こちらも前から読みたいと思っていた本でKindleでなんと301円!83%オフは嬉しい。早速冒頭から面白い感じで読むのが楽しみ。

ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版

ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版

 

 マネージャーの意思決定を支援する、と冒頭に書かれているように、ファイナンス部門に所属する人だけでなく、経営の意思決定を担う人向けに書かれている点が長所。財務諸表の捉え方、KPI管理の手法、財務計画の立て方、資金調達、DCFなどの投資評価法、など基本が一通り網羅されており、ファイナンス部門に属していないが経営企画、管理を担っている自分にとっては非常に勉強になった。厚めの本なのでKindle版が出ているのも嬉しい。

日本市場って重要なの?: 「外資系企業動向調査」を読み解く

日本における「外資系」企業の動向はなかなか掴みにくいけれど、面白い調査を見つけた。まずは帝国データバンクの「外資系企業動向調査」(概要:企業概要データベース「COSMOS2」に収録されている 144 万社のデータ を基に、外国資本が発行済み株式の 25%以上を所有する外資系企業の動向を調査)

まず企業数について。2013年で3,189社。リーマン後の不景気がまだ尾を引いている2009年に急増してるのが本当かなと思うのだけれど、一応「2008 年は前年までの円安進行にともない海外企業による日本企業への投資環境が改善し、7 兆円を超える対内投資が行われた」という説明がなされている。

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次に売上高別の構成比。1000億円以上は72社とわずか2.3%のみ。500億円以上を入れても4.3%と5%に満たない。最も多いのは50億円未満で全体の76.4%を占める。外資系日本法人は社員数100名いかないところが殆どという印象なので、これも頷ける。

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次に外資系の主要企業の日本法人の売上高。これはとても面白い。本体の決算では地域ごと、特に国ごとの売上を開示するところは殆どないので貴重なデータ。

日産、昭和シェルはちょっと特殊なので置いておくと、一番大きいのはやはり日本IBMで約8,500億円。ただ、最盛期はこの2倍の1兆7千億円近くあったはずなので、この10年くらいは本当に厳しい状況だった。IT系だとマイクロソフトが3,767億円、HPが3,687億円、インテルが3,615億円と続く。サムスンが4,263億円と大きいのは半導体売上かと思われる。

それ以外だと製薬がやはり大きい。ファイザー5,242億円、MSDが3,560億円、サノフィが2,845億円、GSKが2,729億円と世界のトッププレイヤーが軒並み大きな売上を上げている。

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次にこの日本法人の売上高の、全社売上高に占める比率を見てみた。個人的な経験だと外資系は日本法人の売上比率が10%近くなると、かなり「うまくいっている」という感じになる。その基準で言うと、ファイザー(11%)、GSK(8%)、日本IBM(9%)、MSD(8%)、インテル(7%)、マイクロソフト(6%)あたりのITと製薬の巨人達は合格点で、本社から見てもかなり重要な市場になってくる。

一方で、予想通りサムスンは2%と非常に低いし、P&Gも3%とやはり低い。サムスンはスマートフォンはじめとして日本市場では全くプレゼンスを示せてこなかったし、P&Gはこの売上比率だとやはりうまくいってきたとは言いがたい。日本法人にあったマーケティングやR&D機能がシンガポールに移管されていることが最近ニュースになっていたが、むべなるかなという気もする。

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*各社全社売上高はYahoo Financeを参照。日本法人売上高は$=¥100で計算。

ちなみに、経済産業省は継続して毎年同様の外資系企業動向調査を実施しており、そちらにも触れておこう。こちらは最新は2014年度についての調査がある。

まず、集計企業数は3,151社。このうちヨーロッパ系企業が最多の1,399社で全体の44.4%。前年比プラス0.3%。次にアメリカ系企業で843社、全体の26.8%。比率は下がってきていて26.8%と前年比マイナス0.9%。アジア系企業は700社で22.2%前年比0.7%プラス。ヨーロッパ系企業が全体の半数近くを占めるというのは意外なところ。

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次に従業者数。金融・保険、不動産を入れると13年度で61万人。前年度比 14.1%増加(前年・当年とも回答のあった 企業のみの比較では同 3.9%増加)となっている。ちなみに帝国データバンクの調査だと外資系企業は70%が東京にあり、東京都の民間従業者数が約900万人なので、ざっくり計算すると約5%くらいが外資系に勤めていることになる。

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最後に最近よく話題になるアジア・オセアニアの地域統括拠点がどこにあるかについて。予想通りシンガポールが多く339拠点とダントツ、次いで中国の283拠点。日本は95拠点とやはり少ない。シンガポールの税制、中国の市場としての重要性を考えれば妥当と言えるがやや寂しい結果。

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*拠点数は複数回答のため延べ数

これ以外にも売上高、経常利益、設備投資額といった計数値と共に、日本の市場としての魅力と阻害要因についてのアンケートなど面白いデータが並んでいる。興味がある方は是非一読をおすすめする。

誰もが「自分」株式会社のオーナーである

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人生を、自分の労働力を「商品」とする「事業」と捉えて、自分はその「自分」株式会社のオーナーであると考える。これで人生に対する捉え方はだいぶ変わってくる。この考えを持てるようになってから、個人的には不毛な悩みを抱えることがだいぶ減った。

持ち家か賃貸か、サラリーマンか起業、フリーか、みたいな人生の選択は、事業と同じで単一の答えがあるわけではない。自分はどんな事業を推進したいのか、その時の事業環境はどうなのか。ビジネスを回す上で不可欠な検討を「人生」に持ち込むことで、過剰な思い込みで空回りしたり、逆に全てにシニカルになってしまうことを防いでくれると思う。

例えば、年収は売上、持ち家は資産、住宅ローンは負債と改めて認識すれば目が覚めるし、現金がどれだけ強くてキャッシュフローがいかに大事かも身にしみて分かる。

自分自身の人生が「事業」だから、例えば、サラリーマンか起業か、という話も2者択一でなくて、どの事業から「売上」をあげるか(収入を得るか)、という事業セグメントの話になってくる。繰り返すが自分は労働市場における「商品」である。なので、売上、つまり自分にとっての収入を最大化(最適化)する市場を探すことが最も重要なのであり、その手段としてサラリーマン、フリーランス、起業などからどれを選択するのは、「人生」というビジネスの事業戦略に拠る。

さらに、企業価値が「その企業から将来生み出されるキャッシュフロー」によって決まってくるように、人生という事業もこの観点から考えると色々整理される。Cash is Kingなのであり、毎月現金で安定的にキャッシュが入ってくること(=給与)はなにより事業の価値を高めてくれる。一方で、現在だけに拘泥していては将来のアップサイドは望めない。これもまた事業と同じように、現在は投資フェーズなのか刈り取りフェーズなのか、ときちんと考えて、教育などの投資を自分にも惜しみなく行わなければ、人生という事業は将来にわたってしぼんでいく。

また、自分の人生も経営と同じように、常にリソース(資源)制約があり、その制約のもとで意思決定をし続けなければならない。やたらと事業の多角化を図り、結果として稀少なリソースをうまく集中できずに事業を失速させてしまう起業家のように、人生においても色々な可能性を模索して結局どれも中途半端になる人は多い。限られたリソースのもとでいかに適切に意思決定するか。人生という事業でもこれが決定的に重要になってくる。

仕事でも疲れてるんだから、なんで人生をそんなビジネスみたいに捉えなくちゃならないのよ、と思うかもしれない。ただ、人生においては自分が「社長」として決断、実行できる。個人的にはこれほど面白いことはないといつも思っている。

「伝統」の持つ合理性と面妖さ~おっさんをバカにするだけでは世の中変わらない

安倍政権の保守傾向に対する批判の意図もあり、最近こういった言説が主にリベラル系の論者から出てくる。

みんなが「伝統」と思っているものは、実は最近作られた常識にすぎない、というのは社会科学において頻繁に使われるロジック。例えばフーコーは「狂気の歴史」において、ルネサンス期には社会に肯定的に包摂されていた「狂人」が、近代に入り、社会から排除、隔離されていった様子を描き出した。また、フェミニズムは、家父長制度が近代産業社会に入り強固となった「制度」に過ぎないことを示し、それを絶対的価値観とする男達を激しく批判した。また、網野善彦は日本が「伝統的」に農業国家であるという常識を批判し、中世の商人や手工業者、さらには遊女やアジールなど共同体の外で生きる人たちを活き活きと描き出した。

個人的にも大学時代これらの言説に触れて、「伝統」や「常識」を鮮やかに批判する手さばきに感動し、喝采を上げたのを覚えている。

一方で、職業人として15年ほど経験を積んだ今はこうも思う。

 例えば、夫婦別姓に反対する年長世代。日本企業において終身雇用、年功序列をやはり良しとする50代。これらの人たちを今の若い人やリベラル的立場から社会批判する論者は揶揄するだろう。しかし、ある集団に属する人たちが何かの「信念」や「常識」を持っているとき、それを外から虚構だと批判しても多くの場合なにも変わらない。

なぜなら、以下のツイートで書いたような理由があるから。

例えば、青木昌彦がその制度論で描き出したように、日本企業の「終身雇用制度」は戦後復興から高度経済成長期において競争力の源泉だった。もちろん、今は競争環境が大きく変化を遂げており、「終身雇用制度」が必ずしも合理的な制度と言えない。一方で、全ての産業において非合理とは言い切れず、例えば、日本の部品、素材メーカーが長期に渡りR&Dに投資し、依然として世界でも競争優位を保っているのは、間違いなく長期雇用という制度が支えている。

日本の伝統の名の下に、安倍政権下で危険な動きがあるのは事実。それに対する批判は必要だろう。一方で、「伝統」を信じている人たちにも、それを支える固有の「論理」や「合理」は必ず存在する。進歩的、と思われる見解の「論理」が必ずしも絶対でなく、あくまで限定的な仮定を置いたモデルに過ぎない、という冷徹な見極めが求められると思う。青木昌彦がその著作で「終身雇用制度が日本で「常識」でなくなるには3世代くらいかかるのでは」と述べていたように。

 

狂気の歴史―古典主義時代における

狂気の歴史―古典主義時代における

 

 

家父長制と資本制―マルクス主義フェミニズムの地平 (岩波現代文庫)

家父長制と資本制―マルクス主義フェミニズムの地平 (岩波現代文庫)

 

 

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社ライブラリー (150))

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社ライブラリー (150))

 

 

青木昌彦の経済学入門: 制度論の地平を拡げる (ちくま新書)

青木昌彦の経済学入門: 制度論の地平を拡げる (ちくま新書)

 

 

フルタイム2馬力がなかなか実現しない日本~世帯年収の引き上げをもっと意識すべきでは

 こんなツイートをした。

これに対して2馬力でなく1.5馬力が現実的ではとのリプライを貰った。

 ただ、1.5馬力というのは既にかなり実現している。以下の統計を見ると共働き世帯数は専業主婦世帯数を1996年に抜き、その後も順調に伸びて2014年度で1,077万世帯に達している。一方専業主婦世帯は減り続け14年度で720万世帯となっている。

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出典: 専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移  http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/qa/a07-1.html

 しかし、共働きが増えたといっても、女性の多くはフルタイム(正規)の雇用でなく、パートタイムが依然多い。以下は平成23年度のデータだが、どの年代を見ても妻の就業率のうち正規雇用率は14-16%に留まる。つまり、2馬力でなく、1.5馬力が主流と言える。

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出典: http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2013/201312/201312_08.html

 

この結果として、共働き世帯比率は増えているにも関わらず、1世帯あたりの平均所得は以下のグラフのように、児童のいる世帯でも平成8年の781.6万円をピークに一貫して減少を続け、平成25年では696.3万円となっている。日本で不況が状態化し夫の年収が上がらない、もしくは下がっていく、という状況となり、妻がパートタイムでそれを支えるという構図が見て取れる。

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出典: http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa14/dl/03.pdf

共働き世帯がこれだけ増えながらも、扶養控除の103万円の上限といったインセンティブ設計の課題、保育園の未整備、妻に偏りがちな家事・育児、依然残る終身雇用制を前提とした人事評価制度、など様々な要因を背景にして、日本ではフルタイム共働きはまだ少数派の状況。安倍政権および日銀は企業への賃上げを促しているが、フルタイム共働きを増やし「世帯年収」を上げていく方向に制度設計することを是非検討して欲しいと個人的には思う。

この問題については、「仕事と家族」が国際比較なども交えて日本の労働市場の問題点に触れており参考になる。

 

仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書)

仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書)

 

 

世界中の名門大学の講義を無料で受講できる素晴らしいCourseraの世界

Courseraは無料でアメリカをはじめとした世界中の有名大学の講義を受講できる素晴らしいサービス。いい講義を見つけると登録して、つまみ食い的に空いた時間に講義ビデオを見ている。どれも実際に大学で実施されている授業をもとにしているので、講義内容はよく構造化されており、その分野について一通り学ぶことが可能。いくつか気に入ったものをご紹介。

まずはMBAランキングでも常にトップレベルを争うペンシルバニア大学ウォートンスクールの基礎(Introduction to)講義について。MBAでまず習うマーケティング、ファイナンス、オペレーションそれぞれについてコースがある。

Introduction to Marketing by Barbara E. KahnPeter Fader

マーケティングの基礎。5週間の講義でBranding, Customer Centricity, Go To Market Strategy, Applied Marketingについて。

Introduction to Financial Accounting  by Brian J Bushee

財務会計の基礎。4週間の講義でBalance Sheet, Income Statement, Cash Flows, Ratio Analysisについて。簿記の基礎レベルから始まるので初学者にはいいかも。

 Introduction to Operations Management by Christian Terwiesch

オペレーションの基礎。4週間の講義でProcess, Productivty, Qualityについて。いかにも「オペレーション」といった感じの教授。

Introduction to Corporate Finance by Michael R Roberts

コーポレートファイナンスの基礎。4週間の講義でTime Value of Money, Interest Rates, Discounted Cash Flow Analysis, Return on Investmentについて。私は未受講だけど、さっと見た感じでは他科目と同様よく練られていそう。

ちなみに、Courseraも有料モデルを模索していて、いくつかの講義をカテゴリーで整理して課金するモデルもある。このウォートンの4講義をバンドルしたものは、Solve Real Problemsというタイトルで提供されている。

ウォートンと並びMBAトップ校のノースウェスタン大学ケロッグスクールのオペレーションについての講義もある。

Scaling operations: Linking strategy and execution by Gad Allon, Jan A. Van Mieghern

これはとてもオススメ。オペレーションのフレームワークが紹介され、それをもとに、例えばシャープの堺工場への1兆円投資など具体的な事例を分析しながら、オペレーションにおける戦略と実行のモデルを学べるようになっている。オペレーションは経営の上で基礎となる部分なので、広く経営に携わる人にとって有益かと。

次に経営戦略について。

Foundations of Business Strategy by Michael J. Lenox

このヴァージニア大学の講義は良かった。7週間の講義。ポーターのFive Forceからはじまり、Firm Capabilities, Competitive Positioning, Firm Scopeと続く。それぞれの経営戦略モデルの概観を事例を使いながらうまく説明していて分かりやすい。

 このヴァージニア大学の経営戦略に関する講義もBusiness Strategy Specializationとしてまとめられている。

Steer Your Business to Success by University of Virginia 

このバンドルは、上記で紹介したFouncations of Business Strategy以外にAdvanced Business Strategy, Business Growth Strategy, Strategic Planning and Executionの合計5講義をバンドルしている。なお、このバンドルのページからだと有料講義しか選べないので、それぞれの講義を検索すると無料講義を受講可能。

次は経済学。

経済学については私は受講したものがないのだけれど、こちらについてもイリノイ大学アーバナシャンペーン校の講義がバンドルされたものがあるのでご紹介。ちなみにこの大学は私が交換留学した大学でとても懐かしい。ど田舎にあって周りにはなにもないけれど、授業の質は高くとてもいい大学。

Business Tools for Successful Execution by University of Illinois at Urbana-Champaign

ミクロ経済学とマクロ経済学の講義をカバーしており、ミクロはConsumer and Producer Behavior, Markets and Allocations, マクロはMacroeconomic Variables and Markets, Policies, Institutions, and Macroeconomic Performanceの各講義。あとは統計の講義もある。

次にデータサイエンス。

今注目の領域なので充実している。これもData Science Specificationとしてバンドルされたジョンズホプキンス大学の講義がある。

Launch Your Career in Data Science by Johns Hopkins University

こちらは充実の9講義。The Data Scientist’s Toolbox, R Programming, Getting and Cleaning Data, Exploratory Data Analysis, Reproducible Research, Statistical Inference, Regression Models, Practical Machine Learning, Developing Data Products。この中でRの講義をさらっと見たけれど、基礎からきちんと教えてくれる感じで有益だった。

これ以外にもたくさんあるけれど、名門スタンフォード大学の機械学習の授業もある。未受講だけれど是非きちんと受講したい講義。

Machine Learning by Andrew Ng, Stanford University 

MBAや経済学に比べるとロースクールの授業は少ないのだけれど、Twitterで紹介したネゴシエーションの授業はとてもよい。

Successful Negotiation: Essential Strategies and Skills by George Siedel

ミシガン大学ロースクールの教授によるもので、非常によく練られた構成で交渉の基礎から理論、実践まで学べる授業。教授の説明も簡潔で分かりやすく、また癖のないゆっくりした英語で講義してくれているので、語学の勉強の意味でもよい。自分の仕事ではネゴシエーションのスキルは鍵なので、その点においても実践的でとても参考になっている。

以上主にビジネス、経済、データサイエンス系についてのご紹介。これ以外にも、自然科学、社会科学、人文科学全ての領域でどんどん講義が追加されているので本当に素晴らしい。きっちり講義のビデオを全て見たり、テストを受けたりしようとすると、社会人は時間の制約もあり難しいけれど、シラバスを眺めて、面白そうな講義ビデオを見るだけでも参考になる。

 

「内発的動機」の強さがパフォーマンスを決める~ストレスといかに対峙するか

社会人経験を積めば、内発的動機の強さがパフォーマンスを決める、というのは誰もが気づくこと。学歴が高くても、この部分が弱いが故に、大事なところで逃げたり粘れずに成果が出せない人は多い。

なぜ内発的動機の形成が大事かといえば、なぜ仕事をするかなんて実は自明じゃないから。目の前の仕事に向かい合う動機を自分の中にきちんと作れなければ、例えば修羅場で逃げずに立ち向かえるわけがない。その動機は、金だろうとプライドだろうとなんでも良いけど、内側から自分を支えてくれる「コア」の信念がないと厳しい。

特に、椅子取りゲームの様相を呈しつつある今のビジネスでは、仕事において強いストレスを受けることは避けられず、ストレスをいかにマネジメントできるかが生き残る上で非常に重要。このストレスマネジメントの観点からも、内発的動機づけの形成が鍵になる。理不尽な状況に置かれてもそれをうまく内面で捌いていけるか。学生時代に部活動などでこのスキルを身につける機会がなかった場合は、社会人になってから仕事を通じて身につけていく必要がある。ただストレスマネジメントの方法論は一般にはよく知られていないし、体系的に習得する機会もなかなかない。

例えば、親から言われるがままに育ってしまうと、社会人で潰れるリスクは格段に高まる。仕事は他者からの圧力やストレスをどうこなすかが肝なので、それに打ち勝つための内発的動機がきちんと形成されていて、その使い方に習熟していないとすぐ潰される。

一方で、この内発的動機づけの形成、それによるストレスマネジメント、というスキル獲得を難しくしているのは、できる人から見たらなぜ他の人ができないのかよくわからないところ。できる人は手法として自覚していなくても、うまくストレスをさばくことができる。で、できない人を潰したりする。

メンタルヘルスを壊す可能性は今や職業人にとって最大のリスク。抗鬱剤の投薬は対処療法に過ぎず、認知療法などのカウンセリング的手法を取り入れて、ストレスマネジメントを身につけないと、仕事で必ず発生する高ストレス状況のたびに逆戻りとなる。経営の観点からも、せっかくスキルや経験を身につけた社員が潰れていくのは大きな損害。今までの能力育成は主に業務に関するハードスキルが主眼だったが、今後はストレスマネジメントの能力育成、といったソフトスキルの育成が長期的な人材活用のキーになってくるのでは。

 

ストレスマネジメントには「認知療法」の手法は役に立つ。その関連書も多く出ているが、以下ご紹介。

 

ストレスマネジメント入門 (日経文庫)

ストレスマネジメント入門 (日経文庫)

 

 

はじめての認知療法 (講談社現代新書)

はじめての認知療法 (講談社現代新書)

 

 

「怒り」のマネジメント術 できる人ほどイライラしない (朝日新書)

「怒り」のマネジメント術 できる人ほどイライラしない (朝日新書)

 

 

「IBMグローバル経営層スタディ」からの示唆~テクノロジーが変える現代の経営(1)

昨年11月に公開されたものだけれど、IBMが定期的に実施している経営者層へのインタビュー調査の2015年版についてのご紹介。2003年から実施されている調査で、過去はCEO Study, CFO Studyなど役割に応じた調査だった。2013年からは全ての経営者層(CEO, CFO, CHRO, CIO, CMO, COO)に対して同時に実施する形になっている。今回の2015年のものは、70カ国以上、21業界にわたる5,247名の経営者を対象に実施された。ここまで大規模な経営層へのインタビュー調査というのは他になかなか存在せず、IBMの幅広い業種と経営レイヤーに対するリーチの深さを示している調査といえる。

全体を見渡すと、「破壊的企業」の脅威、デジタルによる顧客接点の強化、クラウド、アナリティクス、IoTといった新技術による事業変革、経営の意思決定におけるデータ(コグニティブ)の活用、パートナーシップやプラットフォーム構築の重要性、など現代の経営においてキーとなるテーマについて経営者層の回答が整理され、それに対するIBMによる適切な分析、まとめ、提言がなされており、以前の調査に比べても見通しのよいものになっていると感じた。

各テーマについて調査結果をもとに見ていくことにする。まずは、「「破壊的企業」の脅威」について。

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この結果が示すように「他業界」からテクノロジーをレバレッジする形で既存の産業のルールを変更し、既存企業を脅かす「破壊的」存在に対して経営層の警戒感は増している。「ウーバー症候群」という言葉も紹介されているが、まさにUberがタクシー業界の構造を劇的に変えていったように、今やどの産業も、同じ産業内の競合だけを見ていればよい時代は終わり、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」で素描された「破壊的」プレイヤーの存在に注視する必要がある。

「破壊的テクノロジーが、事業の
ファンダメンタルを変える
可能性がある。それがオープンな
形で普及すれば予測できない
影響がでる」
平井 一夫, 社長兼CEO, ソニー株式会社, 日本

 次に「デジタルによる顧客接点の変化」

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アメリカやイギリスでは既にデジタルマーケティング市場はかなりの規模に達しており、デジタルチャネルにおける顧客接点の再設計および強化は着々と進んでいる。特に重要なのはここにもあるように「個客」への対応で、データの蓄積とその活用によるパーソナイラゼーションは、顧客体験の向上とそれに伴うロイヤリティの向上を可能にする。データサイエンスとマーケティングが交接し、そこにデザインやクリエイティブという要素が加わることで、新しいマーケティングの形が生み出されてきており、今後もここは経営における最重要課題の一つと認識されるだろう。

下図はアメリカのデジタルマーケティング支出の実績(14年)と15-19年の成長予測。既に6兆円を越える規模になっており、19年には10兆円以上まで拡大すると予測されている。

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Source:  http://www.statista.com/statistics/275229/us-interactive-marketing-spending-growth-from-2011-to-2016/

この巨大な市場を狙ってソフトウェアベンダーも激しい戦いを繰り広げている。Gartnerから発表された最新のMagic Quadrant for Digital Marketing Hubは以下の通り。Adobe, Oracle, Salesforce, Marketoが「リーダー」として位置づけられている。一方で、どのベンダーも、データベースのOracle, ERPのSAP, CRMのSalesforceのようにカテゴリーの代名詞となるところまで突き抜けてはおらず、その市場規模の大きさを考えると、今後数年は各社つばぜり合いが続くと思われる。

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少し長くなったので、残りは次回としたい。